47 / 71
第47話 激変(エル視点)
しおりを挟む
──サラと子供達を離宮に迎え入れてしばらく経った頃。
彼女が王宮から姿を消したと報告を受けた僕は、使える人員全てを動員してサラの捜索を行った。
だけど、サラのいた形跡は全く無く、それが逆に何者かの介入で、巧妙に仕組まれた誘拐なのではないかと思い至る。
サラを心配して泣く子供達を見た部下や使用人達が、犯人達に激しい怒りを募らせていく。
すっかり子供達に絆され、可愛がる様になった者達を、誘拐犯は完璧に敵に回した様だ。
王宮から出た様子が無いのに、姿を消したサラの手掛かりが見付からず、困っている僕のもとへ、神殿本部に潜入中のヴィクトルから通信用の魔導具に連絡が入る。
それは、サラが神殿本部に連れ去られ、司教達が彼女を正式な巫女にするために叙階しようとしている、という報告だった。
どうやら神殿側が僕の弱点であるサラの存在に気付き、取り込もうとしてるのだと予想する。
そして奴らはサラの育ての親である司祭を盾に、彼女を言いなりにさせようとするに違いない──そう考え付くと同時に、身体が勝手に動き出していた。
手遅れになる前に、何とかサラを神殿から連れ出さなければ、きっともう二度と彼女に会えなくなる──! そう思うと、僕の胸が張り裂けそうに痛む。
──僕から彼女を奪おうとする存在を、僕は絶対に許さない。僕の持ちうる全てのものを使ってでも、完膚なきまでに叩きのめす──!
……などと意気込みながら、修道士達を振り切って駆けつけてみれば、すでに彼女は司祭に助けられた後だった。
だけどそんな事を知らなかった僕は、彼女の髪の色を見付け、彼女の名前を叫んだ。
「サラッ!!」
「えっ!? エル!?」
彼女の無事な姿にホッとしたのも束の間、見知らぬ美丈夫と抱き合うサラの姿に驚愕する。
(彼は一体……!? どうしてサラは彼に……?)
「……えっとね、この人が私を育ててくれたお爺ちゃんだよ! エルも心配してくれてたよね! お陰様で無事に再会出来たんだ! 本当に有難う!」
僕の不穏な空気を察したサラが、慌てて彼の説明をしてくれたので、最大限に高めていた警戒を解除する。
そして改めてサラが紹介してくれた人物──サラが「お爺ちゃん」と呼んで慕う人を見るけれど、何もかもが予想から大きく外れていて驚いた。
まず見た目が若すぎる。どう見てもお爺ちゃんと呼ばれる年齢に見えない。そして目を瞠るような整った顔立ちに、不自然なほど洗練された魔力の波動……。
確かに、サラが言っていた通り、彼女の「お爺ちゃん」は何もかもが規格外であった。その外見は勿論、その行動までもだ。
「──私と子供達の恩人である王太子殿下に──エデルトルート・ダールクヴィスト・サロライネン様に、不肖シュルヴェステル・ラディム・セーデルフェルトは一生の忠誠を誓います」
何を考えてそのような行動に至ったのかは分からないけれど、司祭──シス殿は、突然僕に忠誠を誓ったのだ。
そうして無事、サラを助け出した後、僕は日を改めてシス殿と対面する。
彼から忠誠を示され、それを受けたは良いけれど、まずは彼の処遇を決めなければならないのだ。
「シス殿にはサラと共に、児童養護施設運営のお手伝いをお願いしようと思っているのですが、何か希望はありますか?」
「そうですね……。では、一度騎士団を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
僕は今まで通り、シス殿に孤児達の面倒を見て貰おうと思っていたのだけれど、意外なことに彼は騎士団に興味があるという。
ヴィクトルから貴賓室での一件を聞き、シス殿がどれほどの実力者なのか知りたかった事もあり、僕は彼の希望を聞くことにする。
それからシス殿を騎士団に案内したのは良いけれど、その後何故か模擬戦が行われることになり、僕はヴィクトルが言っていた──まるで次元が違う──という言葉を理解した。
我が王国が誇る騎士団員と団長を瞬殺したシス殿に、力の差を実感したらしい団員達が、彼に師事したいと言い出したのだ。
「俺に師事したいって? じゃあ、俺が騎士団長になってもいいって言うなら考えるわ」
「本当ですか! 是非お願いします!!」
団員達のみならず、騎士団長が大喜びで了承したのには驚いた。
「……マジか。まさか即答されるとは思わなかったわ」
団員達のものすごい食い付きに、提案したシス殿がドン引きしている。そんなすぐに認められるとは予想しなかったのだろう。
それでもヴィクトルが認め、団員達が心酔する程の実力を、シス殿は一体どこで身に付けたのか……。僕は彼の経歴が気になっていた。
そうして、謎めいていたシス殿の経歴は意外と早く判明する。
元老院議員達が揃う定例会議に、シス殿がサラを連れて登場したのだ。
シス殿には予め、騎士団長を引き受ける決心がついたら、定例会議のある日に会議室まで来るように伝えていた。それは元老議員達に、騎士団長の変更を発表しなければならないからだ。
案の定、神殿派議員達がシス殿の就任を否定する。特にベズボロドフ公爵の反発が酷い。
肝心の騎士団員達は、シス殿の騎士団長就任をまだかまだかと待っていると言うのに。
だけど、神殿派議員達のまとめ役である、ベズボロドフ公爵はかなり厄介な相手だ。
彼を納得させるにはかなり手を焼きそうだと覚悟していたのに、それすらもシス殿が呆気なく、たったの一言で終わらせてしまう。
「どうしても何も、俺がその大聖アムレアン騎士団の騎士団長だったからだよ」
その一言に、議員達だけでなく僕自身も驚いた。そしてサラでさえも。
──それからの展開は凄かった。
僕にとって目の上の瘤だった神殿派議員達は、手のひらを返して僕にすり寄ってきた。このまま神殿に媚びを売るより、僕側に着いた方が安泰だと気付いたのだ。
それに加え、王宮中の人間や国民からも、尊敬の目を向けられるようになってしまった。そんな急激な周りの変化に、僕だけが取り残されたような気分になる。
シス殿が凄すぎるだけで、僕自身は何も凄くないし、何も成していない。ただ、シス殿の忠誠を受け入れた、それだけなのだ。
でも、それでも。降って湧いたようなこの好機を、逃がすなんて愚かなことはしない。
近々行われる叙任の儀式で、シス殿に侯爵の爵位が与えられることが決定した。それはどうしても欲しかった彼女を──サラを、身分を気にすること無く手に入れられるということなのだ。……といっても、彼女の気持ち次第だけれど。
叙任の儀式の後の祝賀会で、いつもは僕を遠巻きに見ていた貴族や令嬢達が、ここぞとばかりに目をギラつかせながら僕を取り囲む。
僕は遠目にサラを捉えると、貴族達の相手をしながら、その動向を追いかける。
子供達の面倒を見ていたサラが、エリアナ女官長と言葉を交わした後、庭園へ向かうのを目にしたので、僕は貴族達に断りを入れてから庭園へと向かった。
見事に手入れされた庭園の中、月明かりに照らされた白いガゼボにいるサラを見つけたけれど、僕は声を掛けるのを忘れてしばらくの間立ち尽くす。
何故なら、ガゼボの周りに咲いている満開の薔薇が、サラの美しさを引き立てていて、あまりの浮世離れした光景に、思わず魅入ってしまったからだ。
「──サラ?」
「ぎゃっ!?」
僕が声をかけると、ひどく驚いたサラが慌てて僕の方へと振り返る。
驚いた声も表情も、何もかもが可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られるけれど、僕は理性を総動員して、今はまだ我慢だと自分を戒めた。
それからサラとしばらく話をして、僕は彼女が自分の髪の色を好きじゃないという意外な一面を知る。
詳しく話を聞けば、昔孤児院にいた悪ガキに容姿を馬鹿にされたというではないか。
だからサラは、自分の容姿に無頓着だったのだと、やっと理解できた。
僕はサラが持ちうるもの全てが愛おしくて堪らないのに、肝心の彼女はそう思っていないなんて。
これは彼女に、いかに自分が魅力的なのか自覚して貰わないといけない。
僕は彼女の心根のように、素直なままに流れる長い髪を一房掬い上げると、想いを込めて口づけた。
「──はい。髪の色も瞳の色も──貴女の全てが好きです」
一度口にすると、あれだけ悩んでいた告白の言葉が、自然と口から衝いて出てきた。
まさか告白されるとは思わなかったらしいサラが驚くのも構わず、僕はそのままの勢いで彼女への想いを力説した。
熱弁する僕の横でサラが笑う気配がして、熱くなり過ぎてしまったことを後悔する。
「ごめんごめん。エルも私と同じ気持ちだった事が嬉しくて……教えてくれてありがとうね」
引かれてもおかしくなかったのに、サラはそんな僕の気持ちを嬉しいと言ってくれる。
「それって──」
「うん。私もエルのことが好きだよ」
──ただ一つ、欲しかったその言葉に、今までの苦労全てが報われた気がした。
こうしてサラと想いが通じ合えたのは、間違いなくシス殿が僕に機会を与えてくれたからだと感謝する。
サラも僕と同じ考えだったらしく、二人でシス殿にお礼を言いに行こうと約束する。
「では、そろそろ広間に戻りましょうか」
僕がサラへと手を伸ばすと、彼女は「うん!」と笑顔で僕の手を取ってくれた。
こんなやり取りがこれからも出来るのだと思うと、僕の心が喜びに打ち震える。
だけど、喜びを感じたのも一瞬で、立ち上がろうとしたサラの身体が、何の前触れもなく突然崩れ落ちる。
「っ!? サラっ!?」
慌ててサラを抱きとめ、声をかけるけれど、彼女から反応が返って来ない。
ただならぬ彼女の様子に、とにかく安静にさせなければと魔法を展開する。
『我が力の源よ 深淵の闇への扉となり 我を安息の地へと導け テネブラエ・オスティウム』
これは最上位の闇魔法<影移動>の応用技で、予め固定していた座標へ移動出来る転移魔法だ。固有魔法と言われている空間魔法に近いもので、使える人間はほとんどいない。
とりあえず、固定した座標の中から僕の寝室へと移動し、サラをそっとベッドに横たえる。それから外に控える衛兵に、シス殿と王宮医を内密に呼んで貰うように手配する。
意識を失ったまま、目覚めないサラを心配しながら見ていると、急いでくれたのだろう、シス殿が予想より早く部屋に来てくれた。
「殿下、お呼びでしょう……っ!? サラっ!?」
僕のベッドで眠るサラを見たシス殿が、驚いた様子でサラのもとへ駆けつける。
そしてサラの状態を見ると、「くそっ……! 始まったか……!!」と呟いた。
彼女が王宮から姿を消したと報告を受けた僕は、使える人員全てを動員してサラの捜索を行った。
だけど、サラのいた形跡は全く無く、それが逆に何者かの介入で、巧妙に仕組まれた誘拐なのではないかと思い至る。
サラを心配して泣く子供達を見た部下や使用人達が、犯人達に激しい怒りを募らせていく。
すっかり子供達に絆され、可愛がる様になった者達を、誘拐犯は完璧に敵に回した様だ。
王宮から出た様子が無いのに、姿を消したサラの手掛かりが見付からず、困っている僕のもとへ、神殿本部に潜入中のヴィクトルから通信用の魔導具に連絡が入る。
それは、サラが神殿本部に連れ去られ、司教達が彼女を正式な巫女にするために叙階しようとしている、という報告だった。
どうやら神殿側が僕の弱点であるサラの存在に気付き、取り込もうとしてるのだと予想する。
そして奴らはサラの育ての親である司祭を盾に、彼女を言いなりにさせようとするに違いない──そう考え付くと同時に、身体が勝手に動き出していた。
手遅れになる前に、何とかサラを神殿から連れ出さなければ、きっともう二度と彼女に会えなくなる──! そう思うと、僕の胸が張り裂けそうに痛む。
──僕から彼女を奪おうとする存在を、僕は絶対に許さない。僕の持ちうる全てのものを使ってでも、完膚なきまでに叩きのめす──!
……などと意気込みながら、修道士達を振り切って駆けつけてみれば、すでに彼女は司祭に助けられた後だった。
だけどそんな事を知らなかった僕は、彼女の髪の色を見付け、彼女の名前を叫んだ。
「サラッ!!」
「えっ!? エル!?」
彼女の無事な姿にホッとしたのも束の間、見知らぬ美丈夫と抱き合うサラの姿に驚愕する。
(彼は一体……!? どうしてサラは彼に……?)
「……えっとね、この人が私を育ててくれたお爺ちゃんだよ! エルも心配してくれてたよね! お陰様で無事に再会出来たんだ! 本当に有難う!」
僕の不穏な空気を察したサラが、慌てて彼の説明をしてくれたので、最大限に高めていた警戒を解除する。
そして改めてサラが紹介してくれた人物──サラが「お爺ちゃん」と呼んで慕う人を見るけれど、何もかもが予想から大きく外れていて驚いた。
まず見た目が若すぎる。どう見てもお爺ちゃんと呼ばれる年齢に見えない。そして目を瞠るような整った顔立ちに、不自然なほど洗練された魔力の波動……。
確かに、サラが言っていた通り、彼女の「お爺ちゃん」は何もかもが規格外であった。その外見は勿論、その行動までもだ。
「──私と子供達の恩人である王太子殿下に──エデルトルート・ダールクヴィスト・サロライネン様に、不肖シュルヴェステル・ラディム・セーデルフェルトは一生の忠誠を誓います」
何を考えてそのような行動に至ったのかは分からないけれど、司祭──シス殿は、突然僕に忠誠を誓ったのだ。
そうして無事、サラを助け出した後、僕は日を改めてシス殿と対面する。
彼から忠誠を示され、それを受けたは良いけれど、まずは彼の処遇を決めなければならないのだ。
「シス殿にはサラと共に、児童養護施設運営のお手伝いをお願いしようと思っているのですが、何か希望はありますか?」
「そうですね……。では、一度騎士団を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
僕は今まで通り、シス殿に孤児達の面倒を見て貰おうと思っていたのだけれど、意外なことに彼は騎士団に興味があるという。
ヴィクトルから貴賓室での一件を聞き、シス殿がどれほどの実力者なのか知りたかった事もあり、僕は彼の希望を聞くことにする。
それからシス殿を騎士団に案内したのは良いけれど、その後何故か模擬戦が行われることになり、僕はヴィクトルが言っていた──まるで次元が違う──という言葉を理解した。
我が王国が誇る騎士団員と団長を瞬殺したシス殿に、力の差を実感したらしい団員達が、彼に師事したいと言い出したのだ。
「俺に師事したいって? じゃあ、俺が騎士団長になってもいいって言うなら考えるわ」
「本当ですか! 是非お願いします!!」
団員達のみならず、騎士団長が大喜びで了承したのには驚いた。
「……マジか。まさか即答されるとは思わなかったわ」
団員達のものすごい食い付きに、提案したシス殿がドン引きしている。そんなすぐに認められるとは予想しなかったのだろう。
それでもヴィクトルが認め、団員達が心酔する程の実力を、シス殿は一体どこで身に付けたのか……。僕は彼の経歴が気になっていた。
そうして、謎めいていたシス殿の経歴は意外と早く判明する。
元老院議員達が揃う定例会議に、シス殿がサラを連れて登場したのだ。
シス殿には予め、騎士団長を引き受ける決心がついたら、定例会議のある日に会議室まで来るように伝えていた。それは元老議員達に、騎士団長の変更を発表しなければならないからだ。
案の定、神殿派議員達がシス殿の就任を否定する。特にベズボロドフ公爵の反発が酷い。
肝心の騎士団員達は、シス殿の騎士団長就任をまだかまだかと待っていると言うのに。
だけど、神殿派議員達のまとめ役である、ベズボロドフ公爵はかなり厄介な相手だ。
彼を納得させるにはかなり手を焼きそうだと覚悟していたのに、それすらもシス殿が呆気なく、たったの一言で終わらせてしまう。
「どうしても何も、俺がその大聖アムレアン騎士団の騎士団長だったからだよ」
その一言に、議員達だけでなく僕自身も驚いた。そしてサラでさえも。
──それからの展開は凄かった。
僕にとって目の上の瘤だった神殿派議員達は、手のひらを返して僕にすり寄ってきた。このまま神殿に媚びを売るより、僕側に着いた方が安泰だと気付いたのだ。
それに加え、王宮中の人間や国民からも、尊敬の目を向けられるようになってしまった。そんな急激な周りの変化に、僕だけが取り残されたような気分になる。
シス殿が凄すぎるだけで、僕自身は何も凄くないし、何も成していない。ただ、シス殿の忠誠を受け入れた、それだけなのだ。
でも、それでも。降って湧いたようなこの好機を、逃がすなんて愚かなことはしない。
近々行われる叙任の儀式で、シス殿に侯爵の爵位が与えられることが決定した。それはどうしても欲しかった彼女を──サラを、身分を気にすること無く手に入れられるということなのだ。……といっても、彼女の気持ち次第だけれど。
叙任の儀式の後の祝賀会で、いつもは僕を遠巻きに見ていた貴族や令嬢達が、ここぞとばかりに目をギラつかせながら僕を取り囲む。
僕は遠目にサラを捉えると、貴族達の相手をしながら、その動向を追いかける。
子供達の面倒を見ていたサラが、エリアナ女官長と言葉を交わした後、庭園へ向かうのを目にしたので、僕は貴族達に断りを入れてから庭園へと向かった。
見事に手入れされた庭園の中、月明かりに照らされた白いガゼボにいるサラを見つけたけれど、僕は声を掛けるのを忘れてしばらくの間立ち尽くす。
何故なら、ガゼボの周りに咲いている満開の薔薇が、サラの美しさを引き立てていて、あまりの浮世離れした光景に、思わず魅入ってしまったからだ。
「──サラ?」
「ぎゃっ!?」
僕が声をかけると、ひどく驚いたサラが慌てて僕の方へと振り返る。
驚いた声も表情も、何もかもが可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られるけれど、僕は理性を総動員して、今はまだ我慢だと自分を戒めた。
それからサラとしばらく話をして、僕は彼女が自分の髪の色を好きじゃないという意外な一面を知る。
詳しく話を聞けば、昔孤児院にいた悪ガキに容姿を馬鹿にされたというではないか。
だからサラは、自分の容姿に無頓着だったのだと、やっと理解できた。
僕はサラが持ちうるもの全てが愛おしくて堪らないのに、肝心の彼女はそう思っていないなんて。
これは彼女に、いかに自分が魅力的なのか自覚して貰わないといけない。
僕は彼女の心根のように、素直なままに流れる長い髪を一房掬い上げると、想いを込めて口づけた。
「──はい。髪の色も瞳の色も──貴女の全てが好きです」
一度口にすると、あれだけ悩んでいた告白の言葉が、自然と口から衝いて出てきた。
まさか告白されるとは思わなかったらしいサラが驚くのも構わず、僕はそのままの勢いで彼女への想いを力説した。
熱弁する僕の横でサラが笑う気配がして、熱くなり過ぎてしまったことを後悔する。
「ごめんごめん。エルも私と同じ気持ちだった事が嬉しくて……教えてくれてありがとうね」
引かれてもおかしくなかったのに、サラはそんな僕の気持ちを嬉しいと言ってくれる。
「それって──」
「うん。私もエルのことが好きだよ」
──ただ一つ、欲しかったその言葉に、今までの苦労全てが報われた気がした。
こうしてサラと想いが通じ合えたのは、間違いなくシス殿が僕に機会を与えてくれたからだと感謝する。
サラも僕と同じ考えだったらしく、二人でシス殿にお礼を言いに行こうと約束する。
「では、そろそろ広間に戻りましょうか」
僕がサラへと手を伸ばすと、彼女は「うん!」と笑顔で僕の手を取ってくれた。
こんなやり取りがこれからも出来るのだと思うと、僕の心が喜びに打ち震える。
だけど、喜びを感じたのも一瞬で、立ち上がろうとしたサラの身体が、何の前触れもなく突然崩れ落ちる。
「っ!? サラっ!?」
慌ててサラを抱きとめ、声をかけるけれど、彼女から反応が返って来ない。
ただならぬ彼女の様子に、とにかく安静にさせなければと魔法を展開する。
『我が力の源よ 深淵の闇への扉となり 我を安息の地へと導け テネブラエ・オスティウム』
これは最上位の闇魔法<影移動>の応用技で、予め固定していた座標へ移動出来る転移魔法だ。固有魔法と言われている空間魔法に近いもので、使える人間はほとんどいない。
とりあえず、固定した座標の中から僕の寝室へと移動し、サラをそっとベッドに横たえる。それから外に控える衛兵に、シス殿と王宮医を内密に呼んで貰うように手配する。
意識を失ったまま、目覚めないサラを心配しながら見ていると、急いでくれたのだろう、シス殿が予想より早く部屋に来てくれた。
「殿下、お呼びでしょう……っ!? サラっ!?」
僕のベッドで眠るサラを見たシス殿が、驚いた様子でサラのもとへ駆けつける。
そしてサラの状態を見ると、「くそっ……! 始まったか……!!」と呟いた。
0
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる