200 / 206
開花3
しおりを挟む
きつく抱きしめられる感覚と温もり、そして伝わってくる心臓の音に、ティナは夢や幻じゃない、本物のトールがここにいる、とようやく実感出来た。
「……え、トール……? 本当に……?」
きっと今頃、トールは煌びやかな王宮で美しい婚約者の令嬢と共に、優雅にダンスでも踊っているのだろう、とティナは思っていたのだ。
それなのに、目の前にいるトールは王子どころか貴族にも見えないぐらい、ボロボロになっている。
顔を隠すために敢えてボサボサにしていた髪は、強風に煽られたかのように乱れ、羽織っているコートもところどころ汚れていて、まるで戦闘後のようだ。
しばらくして、慌てたトールがティナを抱きしめていた腕を解いた。
「あっ! こんな格好でごめん! ずっとティナに会うことしか考えてなかったから……!」
我に返ったのだろう、トールが薄汚れた自分の服装に気付き、恥ずかしそうに言う。
そんなトールの様子に、自分と再会するために彼がなりふり構わず険しい道のりを移動して来たことがわかってしまう。
「……どうして……っ、私、トールに酷いことを言ったのに……!」
──あの時、ティナはトールに酷い言葉を投げつけただけでなく、彼の言葉に耳を傾けようとしなかった。そればかりか暗殺者ごと結界に閉じ込めてしまったのだ。
自分勝手な奴だと、トールに見限られても仕方がないことをしてしまった自覚がティナにはあった。
だから強がってはいたものの、本当はトールに嫌われたと思っていたし、彼に会いたくないと拒絶されるのが怖くて、月下草の栽培を言い訳に再会を先延ばしにしていた、それなのに──。
おそらく、トールはティナと別れてからすぐ追いかけて来てくれたのだろう。そうでなければこんなに早く再会出来るはずがない。
「それは俺が弱かったからだよ。いつまでも過去に囚われていて、これからのことを俺がちゃんと考えていなかったから……。ティナに怒られるまで気付かなかった俺が悪いんだ。だから気付かせてくれたティナには感謝してる……有難う」
やっぱりトールは優しくて、ティナに怒るどころか自分が悪かったのだと言う。それどころか、感謝の言葉まで言ってくれたのだ。
そんなトールの優しさと懐の広さに触れたティナは、如何に自分が狭量か思い知らされ、情けなくなる。
「ちがっ、違うの……っ!! トールは約束を守ってくれたのにっ、私が……っ! 全部忘れたくせに、トールの気持ちを考えずに責めた私が悪いのっ!!」
自分の不甲斐なさと、トールに申し訳ない気持ちが入り混じり、今までずっと溜め込んでいたティナの感情が爆発する。
泣かないように我慢していた涙がティナの頬を伝い、ぽたぽたと地面に吸い込まれていく。
トールと再会したことで箍が外れ、涙が溢れ出して止まってくれないのだ。
「ごめん、ごめんなさい……っ! 辛い記憶を押し付けて……っ、それなのに会いに来てなんて我儘を言ってごめんなさい……っ!」
真面目なトールは必ず約束を守ろうとしたはずだ。
だから自分が「会いに来て」と言わなければ、トールは過去を忘れて前向きに生きていたかもしれない。
結局、トールを”約束”で過去に縛り付けていたのは、自分自身だったのだ。
後悔と自責の念で泣きじゃくるティナを慰めるように、再びティナを抱きしめたトールが優しい声で言った。
「ティナが我儘を言ったんじゃない。それは俺の望みでもあったんだ。ティナと約束していなかったとしても、絶対に俺は君に会いに行ったよ」
「……っ!」
トールの言葉を聞いたティナが顔を上げると、優しい金色の瞳があった。
「だから自分を責めないで欲しい。それに辛い記憶だけじゃなかったよ。それ以上に、楽しい思い出もいっぱいあったから」
──そう言って優しく微笑むトールの笑顔は、今がとても幸せだと伝えてくるようで。
きっとトールは自分が幸せだと伝えることで、ティナの罪悪感を洗い流してくれているのだろう。
「……、うん……っ!」
トールの笑顔に応えるように、ティナも満面の笑みを浮かべた。
もう何度目かわからない涙がティナの頬をつたうけれど、それは今この瞬間を喜ぶ、幸せの涙だった。
「……え、トール……? 本当に……?」
きっと今頃、トールは煌びやかな王宮で美しい婚約者の令嬢と共に、優雅にダンスでも踊っているのだろう、とティナは思っていたのだ。
それなのに、目の前にいるトールは王子どころか貴族にも見えないぐらい、ボロボロになっている。
顔を隠すために敢えてボサボサにしていた髪は、強風に煽られたかのように乱れ、羽織っているコートもところどころ汚れていて、まるで戦闘後のようだ。
しばらくして、慌てたトールがティナを抱きしめていた腕を解いた。
「あっ! こんな格好でごめん! ずっとティナに会うことしか考えてなかったから……!」
我に返ったのだろう、トールが薄汚れた自分の服装に気付き、恥ずかしそうに言う。
そんなトールの様子に、自分と再会するために彼がなりふり構わず険しい道のりを移動して来たことがわかってしまう。
「……どうして……っ、私、トールに酷いことを言ったのに……!」
──あの時、ティナはトールに酷い言葉を投げつけただけでなく、彼の言葉に耳を傾けようとしなかった。そればかりか暗殺者ごと結界に閉じ込めてしまったのだ。
自分勝手な奴だと、トールに見限られても仕方がないことをしてしまった自覚がティナにはあった。
だから強がってはいたものの、本当はトールに嫌われたと思っていたし、彼に会いたくないと拒絶されるのが怖くて、月下草の栽培を言い訳に再会を先延ばしにしていた、それなのに──。
おそらく、トールはティナと別れてからすぐ追いかけて来てくれたのだろう。そうでなければこんなに早く再会出来るはずがない。
「それは俺が弱かったからだよ。いつまでも過去に囚われていて、これからのことを俺がちゃんと考えていなかったから……。ティナに怒られるまで気付かなかった俺が悪いんだ。だから気付かせてくれたティナには感謝してる……有難う」
やっぱりトールは優しくて、ティナに怒るどころか自分が悪かったのだと言う。それどころか、感謝の言葉まで言ってくれたのだ。
そんなトールの優しさと懐の広さに触れたティナは、如何に自分が狭量か思い知らされ、情けなくなる。
「ちがっ、違うの……っ!! トールは約束を守ってくれたのにっ、私が……っ! 全部忘れたくせに、トールの気持ちを考えずに責めた私が悪いのっ!!」
自分の不甲斐なさと、トールに申し訳ない気持ちが入り混じり、今までずっと溜め込んでいたティナの感情が爆発する。
泣かないように我慢していた涙がティナの頬を伝い、ぽたぽたと地面に吸い込まれていく。
トールと再会したことで箍が外れ、涙が溢れ出して止まってくれないのだ。
「ごめん、ごめんなさい……っ! 辛い記憶を押し付けて……っ、それなのに会いに来てなんて我儘を言ってごめんなさい……っ!」
真面目なトールは必ず約束を守ろうとしたはずだ。
だから自分が「会いに来て」と言わなければ、トールは過去を忘れて前向きに生きていたかもしれない。
結局、トールを”約束”で過去に縛り付けていたのは、自分自身だったのだ。
後悔と自責の念で泣きじゃくるティナを慰めるように、再びティナを抱きしめたトールが優しい声で言った。
「ティナが我儘を言ったんじゃない。それは俺の望みでもあったんだ。ティナと約束していなかったとしても、絶対に俺は君に会いに行ったよ」
「……っ!」
トールの言葉を聞いたティナが顔を上げると、優しい金色の瞳があった。
「だから自分を責めないで欲しい。それに辛い記憶だけじゃなかったよ。それ以上に、楽しい思い出もいっぱいあったから」
──そう言って優しく微笑むトールの笑顔は、今がとても幸せだと伝えてくるようで。
きっとトールは自分が幸せだと伝えることで、ティナの罪悪感を洗い流してくれているのだろう。
「……、うん……っ!」
トールの笑顔に応えるように、ティナも満面の笑みを浮かべた。
もう何度目かわからない涙がティナの頬をつたうけれど、それは今この瞬間を喜ぶ、幸せの涙だった。
185
お気に入りに追加
1,919
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる