133 / 206
夢2
しおりを挟む* * * * * *
ティナは気がつくと暗闇の中にいた。
不思議なことに闇の中にいるにも関わらず、恐怖心は全くない。
きっとこれは夢なのだと、ティナは何となく思う。
ティナがぼんやりと佇んでいると、どこからともなく小さな光が飛んできた。
その小さな光はとても弱々しく、今にも闇に溶けてしまいそうだった。
そんな小さな光を可哀想に思ったティナは、小さい光を助けてあげたくなった。
ティナは小さい光をそっと両手で包み込むと、自身の魔力を注ぎ込んだ。
すると、消えそうだった光は輝きを取り戻し、小さかった光も大きくなった。
ティナはそんな様子に、光が元通りになったのだと何故か理解した。
元気になった光は、嬉しそうにティナの周りをくるくる回ると、すうっと飛んでいって消えてしまった。
光を見送ったティナは、光が行きたかった場所へ向かって飛び立ったのだ、とわかり嬉しくなったのだった。
* * * * * *
『ティナー! 起きてー! ごはんよー!』
「……ふぇっ?! え? ご飯……?」
『そうだよー! 外に人がいるよー!』
「え? 人?」
アウルムの言葉の意味をティナが理解する前に、部屋の扉がノックされた。
「だ、誰っ……?!」
「あっ! あの、食事の用意が出来ましたけど……っ」
ティナが警戒しながら返事をすると、戸惑った女の子の声が聞こえてきた。どうやらルリが食事の用意が出来たと伝えに来てくれたようだ。
「え、あ、ごめんなさい! すぐ行きますね」
「はい、食堂に来られたらお声掛けくださいね」
「うん、有難う」
ルリが去って行く気配を感じながら、ティナは自分が寝ぼけていたことに気づく。
(あー、びっくりした。神殿から追っ手が来たのかと思ったよ……)
思わず出た鋭い声でルリを驚かせてしまい、申し訳なく思う。
アレクシスとトールと決闘した日から考えると、とっくに彼から自分の話が神殿に伝わっているはずだ。
大神官オスカリウスはティナの意を汲んでくれるだろうが、聖国の他の神官たちはティナを逃すまいと、追ってくる可能性が高い。
クロンクヴィストにいる間は彼らも手を出してこないだろうが、それもいつまで持つかわからない。
ティナは固まった身体をほぐすように、大きく伸びをするとアウルムに言った。
「アウルム、起こしてくれて有難うね。ご飯を食べに行こうか?」
『わーい! ごはんー! ぼくおなかすいてたのー!』
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶアウルムにほっこりしながら、ティナは何かを忘れているような違和感を覚える。
「うーん、何だろ? 何か不思議な夢を見たような……」
夢の内容は忘れてしまったみたいだったが、気分が良いのできっと、楽しい夢だったのだろう、とティナは思うことにした。
気を取り直したティナはアウルムと一緒に食堂へ向かい、チーズをふんだんに使った料理を堪能する。
とろけるチーズがたっぷりと乗ったステーキは絶品で、いくらでも食べられそうだ。
この村から出る時、チーズを大量に買っていこう、とティナは心に決める。
そうして、美味しい料理の余韻に浸り、まったりしているティナに、たくさん肉を食べて満足したアウルムが言った。
『ティナー。明日はどうするのー?』
「そうだよねぇ。明日は森の方へ行ってみようと思うんだけど……。アウルムはどう思う?」
もし今日も精霊を見ることが出来なかったら、その時は諦めてこの宿を出よう、とティナは考える。
とても居心地がいいし料理が美味しいから、正直しばらくこの宿に泊まりたいと思ってしまうけれど、今優先すべきは月下草の栽培地探しなのだ。
それに聖国からの追っ手にも注意しなければならないから、なるべく早くここを出発した方がいいだろう。
6
お気に入りに追加
1,919
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる