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夢2

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 * * * * * *




 ティナは気がつくと暗闇の中にいた。

 不思議なことに闇の中にいるにも関わらず、恐怖心は全くない。
 
 きっとこれは夢なのだと、ティナは何となく思う。

 ティナがぼんやりと佇んでいると、どこからともなく小さな光が飛んできた。

 その小さな光はとても弱々しく、今にも闇に溶けてしまいそうだった。

 そんな小さな光を可哀想に思ったティナは、小さい光を助けてあげたくなった。

 ティナは小さい光をそっと両手で包み込むと、自身の魔力を注ぎ込んだ。

 すると、消えそうだった光は輝きを取り戻し、小さかった光も大きくなった。

 ティナはそんな様子に、光が元通りになったのだと何故か理解した。

 元気になった光は、嬉しそうにティナの周りをくるくる回ると、すうっと飛んでいって消えてしまった。

 光を見送ったティナは、光が行きたかった場所へ向かって飛び立ったのだ、とわかり嬉しくなったのだった。




 * * * * * *




『ティナー! 起きてー! ごはんよー!』

「……ふぇっ?! え? ご飯……?」

『そうだよー! 外に人がいるよー!』

「え? 人?」

 アウルムの言葉の意味をティナが理解する前に、部屋の扉がノックされた。

「だ、誰っ……?!」

「あっ! あの、食事の用意が出来ましたけど……っ」

 ティナが警戒しながら返事をすると、戸惑った女の子の声が聞こえてきた。どうやらルリが食事の用意が出来たと伝えに来てくれたようだ。

「え、あ、ごめんなさい! すぐ行きますね」

「はい、食堂に来られたらお声掛けくださいね」

「うん、有難う」

 ルリが去って行く気配を感じながら、ティナは自分が寝ぼけていたことに気づく。

(あー、びっくりした。神殿から追っ手が来たのかと思ったよ……)

 思わず出た鋭い声でルリを驚かせてしまい、申し訳なく思う。

 アレクシスとトールと決闘した日から考えると、とっくに彼から自分の話が神殿に伝わっているはずだ。
 大神官オスカリウスはティナの意を汲んでくれるだろうが、聖国の他の神官たちはティナを逃すまいと、追ってくる可能性が高い。
 クロンクヴィストにいる間は彼らも手を出してこないだろうが、それもいつまで持つかわからない。

 ティナは固まった身体をほぐすように、大きく伸びをするとアウルムに言った。

「アウルム、起こしてくれて有難うね。ご飯を食べに行こうか?」

『わーい! ごはんー! ぼくおなかすいてたのー!』

 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶアウルムにほっこりしながら、ティナは何かを忘れているような違和感を覚える。

「うーん、何だろ? 何か不思議な夢を見たような……」

 夢の内容は忘れてしまったみたいだったが、気分が良いのできっと、楽しい夢だったのだろう、とティナは思うことにした。

 気を取り直したティナはアウルムと一緒に食堂へ向かい、チーズをふんだんに使った料理を堪能する。

 とろけるチーズがたっぷりと乗ったステーキは絶品で、いくらでも食べられそうだ。

 この村から出る時、チーズを大量に買っていこう、とティナは心に決める。

 そうして、美味しい料理の余韻に浸り、まったりしているティナに、たくさん肉を食べて満足したアウルムが言った。

『ティナー。明日はどうするのー?』

「そうだよねぇ。明日は森の方へ行ってみようと思うんだけど……。アウルムはどう思う?」

 もし今日も精霊を見ることが出来なかったら、その時は諦めてこの宿を出よう、とティナは考える。
 とても居心地がいいし料理が美味しいから、正直しばらくこの宿に泊まりたいと思ってしまうけれど、今優先すべきは月下草の栽培地探しなのだ。
 それに聖国からの追っ手にも注意しなければならないから、なるべく早くここを出発した方がいいだろう。
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