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野営1
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隣国クロンクヴィストへ続く街道の途中の開けた場所で、ティナたちモルガン一家一行は野営をすることにした。
トールとモルガンの活躍により、あっという間に設営が終わってしまい、野営を心待ちにしていたティナは、設営を手伝いたくても手も足も出せず、心の中で悔し涙を流していた。
設営を終えてすぐ、トールが「俺、薪を拾いに行ってきます」と言って立ち上がる。
「あ、私も行くよ!」
一人で薪拾いは大変だろうと思ったティナが、トールに同行を申し出るが、「ロープを持っていくし大丈夫だよ」と、トールにやんわりと断られてしまう。
設営も薪拾いも出来なかったティナが、ならば料理は自分が作ろうと思った時、「じゃあ、料理は私が作るわね。ティナちゃんはアネタを見ていてくれるかしら?」とイロナが申し出た。
「お! やった!! イロナの料理は美味いからな! 楽しみだ!!」
モルガンがイロナの料理を心待ちにしている様子を見て、ティナは料理作りを諦めることにした。
正直アネタと遊ぶのは楽しいし、イロナの料理はすごく楽しみだ。モルガンが大喜びしているぐらいだから、かなり美味しい料理なのだろう。
それにまだまだこれからも野営をするのだから、ティナが役に立つ時がきっと来るはずだ。
* * * * * *
ティナとアネタが遊んでいると、トールが大量の薪を持って帰ってきた。
「トールお疲れ様。重くなかった?」
「うん。これぐらいなら大丈夫」
ロープで器用に巻かれた薪は、朝まで焚き火しても十分足りるぐらいの量だった。設営の時の手際の良さといい、トールはかなり野営に慣れているようだ。
「はーい! おまたせ!」
タイミング良く料理が完成したようで、イロナが次々と料理をテーブルに並べていく。
テーブルに並べられた料理はティナが見たことがない料理で、全体的に赤いものの、野菜がたっぷりと使われ、とても色鮮やかだ。
見るからに辛そうな料理も中にはあるが、妙に食欲を掻き立てられる香りが漂っている。
「うわぁ……! すごく美味しそう!! どこの地方料理なんですか?」
「これは南の方にある小さな国の民族料理よ。どこの国かわかるかしら?」
「え? え? えーっと?」
「エヴェルス国の料理ですね。香辛料を多く使うと聞いたことがあります」
「あら、トールくんは物知りね。即答されるとは思わなかったわ……残念」
イロナが冗談めかして肩を竦める。ティナもトールが優秀なのは知っていたが、馴染みがない国の料理まで知っているとは思わなかったらしい。
エヴェルス国がある南の方は小さい国が多く、名前も似たような感じなので覚えるのが大変であった。学院の授業でも学生泣かせの地域だと揶揄されていた。
「おうおう、この料理は出来たてを食べなきゃ駄目なんだよ! ほら、食おう食おう!」
モルガンが促し、ティナたちをテーブルに着かせると、早々に夕食が始まった。
イロナが配膳し、皆んなに料理を配っていく。
「たくさん食べてね。お口に合ったら嬉しいわ」
「はい! いただきます!」
ティナは喜々として料理を口に運ぶ。
元聖女で王妃候補だったティナは、貴族並みの扱いを受けていたが、元々食べることが大好きなので、貴族が口にしないような料理でも平気で食べる。
好奇心旺盛な性格もあるが、食わず嫌いは損をすると知っているし、食べ物に対する感謝の気持ちもちゃんと持っているのだ。
「……! 美味しい……っ!!」
トールが言っていたように、イロナの料理には香辛料がふんだんに使用されていた。しかし、ただ辛いだけではなく、甘味が上手く調和されている。
そんなスパイシーでありながらまろやかな味わいの料理に、ティナはすっかりやみつきになっていた。
「俺も初めて食べましたけど、本当に美味しいですね」
「だろ? イロナの料理はうめーんだよ!!」
トールもイロナの作った料理を絶賛している。モルガンの喜びようにも納得だ。アネタも美味しそうにもぐもぐと食べている。
イロナの料理を思う存分楽しんだティナは、初めて食べたエヴェルス料理をすっかり気に入ってしまった。
そうして、モルガン一家と一緒に食事を楽しみ、片付けを終える頃にはすっかり夜も更け、アネタの就寝時間となっていた。
「火の見張り番はどうするよ? 俺も人数に入れてくれて良いんだぜ?」
本来なら護衛の役目である寝ずの番も、ティナを考慮してくれたのだろう、モルガンが申し出てくれた。
「お気持ちは有り難いのですが、モルガンさんは御者もしてくれていますし、ゆっくり休んで下さい。夜は俺が見張りますよ。徹夜には慣れていますから」
「でもよお……」
トールの提案をモルガンが渋る。彼に負担が掛かることを気に病んでいるのだろう。
「それなら大丈夫! 私に任せて!」
ティナがトールとモルガンに向かって、明るい声で言った。そんなティナを二人が不思議そうに見ている。
トールとモルガンの活躍により、あっという間に設営が終わってしまい、野営を心待ちにしていたティナは、設営を手伝いたくても手も足も出せず、心の中で悔し涙を流していた。
設営を終えてすぐ、トールが「俺、薪を拾いに行ってきます」と言って立ち上がる。
「あ、私も行くよ!」
一人で薪拾いは大変だろうと思ったティナが、トールに同行を申し出るが、「ロープを持っていくし大丈夫だよ」と、トールにやんわりと断られてしまう。
設営も薪拾いも出来なかったティナが、ならば料理は自分が作ろうと思った時、「じゃあ、料理は私が作るわね。ティナちゃんはアネタを見ていてくれるかしら?」とイロナが申し出た。
「お! やった!! イロナの料理は美味いからな! 楽しみだ!!」
モルガンがイロナの料理を心待ちにしている様子を見て、ティナは料理作りを諦めることにした。
正直アネタと遊ぶのは楽しいし、イロナの料理はすごく楽しみだ。モルガンが大喜びしているぐらいだから、かなり美味しい料理なのだろう。
それにまだまだこれからも野営をするのだから、ティナが役に立つ時がきっと来るはずだ。
* * * * * *
ティナとアネタが遊んでいると、トールが大量の薪を持って帰ってきた。
「トールお疲れ様。重くなかった?」
「うん。これぐらいなら大丈夫」
ロープで器用に巻かれた薪は、朝まで焚き火しても十分足りるぐらいの量だった。設営の時の手際の良さといい、トールはかなり野営に慣れているようだ。
「はーい! おまたせ!」
タイミング良く料理が完成したようで、イロナが次々と料理をテーブルに並べていく。
テーブルに並べられた料理はティナが見たことがない料理で、全体的に赤いものの、野菜がたっぷりと使われ、とても色鮮やかだ。
見るからに辛そうな料理も中にはあるが、妙に食欲を掻き立てられる香りが漂っている。
「うわぁ……! すごく美味しそう!! どこの地方料理なんですか?」
「これは南の方にある小さな国の民族料理よ。どこの国かわかるかしら?」
「え? え? えーっと?」
「エヴェルス国の料理ですね。香辛料を多く使うと聞いたことがあります」
「あら、トールくんは物知りね。即答されるとは思わなかったわ……残念」
イロナが冗談めかして肩を竦める。ティナもトールが優秀なのは知っていたが、馴染みがない国の料理まで知っているとは思わなかったらしい。
エヴェルス国がある南の方は小さい国が多く、名前も似たような感じなので覚えるのが大変であった。学院の授業でも学生泣かせの地域だと揶揄されていた。
「おうおう、この料理は出来たてを食べなきゃ駄目なんだよ! ほら、食おう食おう!」
モルガンが促し、ティナたちをテーブルに着かせると、早々に夕食が始まった。
イロナが配膳し、皆んなに料理を配っていく。
「たくさん食べてね。お口に合ったら嬉しいわ」
「はい! いただきます!」
ティナは喜々として料理を口に運ぶ。
元聖女で王妃候補だったティナは、貴族並みの扱いを受けていたが、元々食べることが大好きなので、貴族が口にしないような料理でも平気で食べる。
好奇心旺盛な性格もあるが、食わず嫌いは損をすると知っているし、食べ物に対する感謝の気持ちもちゃんと持っているのだ。
「……! 美味しい……っ!!」
トールが言っていたように、イロナの料理には香辛料がふんだんに使用されていた。しかし、ただ辛いだけではなく、甘味が上手く調和されている。
そんなスパイシーでありながらまろやかな味わいの料理に、ティナはすっかりやみつきになっていた。
「俺も初めて食べましたけど、本当に美味しいですね」
「だろ? イロナの料理はうめーんだよ!!」
トールもイロナの作った料理を絶賛している。モルガンの喜びようにも納得だ。アネタも美味しそうにもぐもぐと食べている。
イロナの料理を思う存分楽しんだティナは、初めて食べたエヴェルス料理をすっかり気に入ってしまった。
そうして、モルガン一家と一緒に食事を楽しみ、片付けを終える頃にはすっかり夜も更け、アネタの就寝時間となっていた。
「火の見張り番はどうするよ? 俺も人数に入れてくれて良いんだぜ?」
本来なら護衛の役目である寝ずの番も、ティナを考慮してくれたのだろう、モルガンが申し出てくれた。
「お気持ちは有り難いのですが、モルガンさんは御者もしてくれていますし、ゆっくり休んで下さい。夜は俺が見張りますよ。徹夜には慣れていますから」
「でもよお……」
トールの提案をモルガンが渋る。彼に負担が掛かることを気に病んでいるのだろう。
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