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6-1 アマリリスは夢を見た
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目が覚めると外は真っ暗だった。時計を見ると午前4時を回ったばかりだ。王宮騎士の朝は随分早いらしい。
アタシは起きて早々、大きな欠伸をした。
『かわいいって言ってくれた! 私のことをかわいいって言ってくれたよ!!』
リコリスは大喜びしている。きっと身体が自由に動かせたら飛び跳ねていただろう。
「あったりまえよ! あなたのかわいらしい見た目とアタシプロデュースの可憐な女の子の振る舞いがあれば誰だってかわいいと言うに決まってるわ」
そう言っている途中で、また欠伸が出た。サキュバスの能力があっても、身体はしょせん人間らしい。
「一回寝るわ」
そう言ってアタシはベッドに寝転んだ。
※
気がついたらアタシは椅子に座っていた。そして、目の前にはジャスパーがいて彼は本を読みながらお茶を飲んでいる。
ーー夢?
サキュバスは、眠りはすれども夢を見ない。だからこれは夢であるはずがない。
でも、これが現実かと問われたら、「絶対にあり得ない」と答える。アタシは今、異世界でリコリスの身体の中にいるはずだから。ジャスパーが私の目の前にいるこの状況が現実である得なかった。
本を読んでいたジャスパーが不意に顔をあげた。彼は私に気がつくと目を見開いた。
「アマリリス!」
彼はアタシの手を取った。
「ああ、良かった。生きていたんだね」
ジャスパーはアタシの手を額に当てて俯き、涙を流した。
「あの、落ち着いて下さい」
アタシの唇が突如として勝手に動いた。
「落ち着けないよ! アダムが勝手なことをして君を殺そうとしたって聞いた時に、俺は。俺は・・・・・・。ごめん、君を守ってあげられなくて」
「ちょっと待って下さい。私はアマリリスさんじゃないです」
ーーもしかして、リコリス?
アタシそう思った途端、頭の中から『そうです』とリコリスの声がした。
「アマリリス、何を言ってるんだ?」
ジャスパーは信じられないと言いたげな顔でアタシを見ている。
「落ち着いて下さい。そしてどうか私の話を聞いて下さい」
「おかしいよ。君がアマリリスじゃないなんて、そんなはずはないじゃないか」
ジャスパーはアタシが嘘を吐いていると思っていそうだ。とりあえず、話をできる状態にしないと。
ーーリコリス、彼の両手を包んで言うのよ。話を聞いて欲しいって。
アタシはジャスパーに聞いて欲しい話がある時はいつもそうしていた。
ーーそれで話を聞いてくれるようになったらいいんだけど。
リコリスはアタシの指示に従った。彼女がジャスパーの手を包み込むと、彼はようやく話を聞く姿勢になった。
「信じられない話だとは思うんですけど」
リコリスはそう言って、アタシ達の身に起こったことを話し始めた。そして、ジャスパーは終始怪訝そうな顔で、リコリスの話を聞いていた。
「君の話は信じられないよ」
リコリスの話を聞き終えたジャスパーはそう呟いた。
「ですよね、こんな突拍子もない話」
ーーリコリス、認めないで。本当のことだって言いなさいよ。
『でも、そんな風に言ったって余計怪しまれるだけだと思いますよ?』
ーーまあ、たしかに。それもそうね。
「あの、私からも質問をしたいんですけど。多分、ここって私の夢なんですよね?」
「アマリリスの夢だ」
ジャスパーはそう言った。
ーーサキュバスは夢を見ないわ。夢を見ないからこそ、他人の夢に入れるの。
アタシの言葉をリコリスは代弁してくれた。
「アマリリスさんはそう言ってるんですけど」
「"アマリリスは夢を見ている"と君の仲間たちが言っていたんだ」
"君"っていうのは、アタシのことを言っているのだろう。すごくややこしい。
「ごめんなさい。ややこしくなるんで今この時だけでも、私はリコリスということにしておいてくれませんか? アマリリスさんも困ってます」
リコリスがそう言うとジャスパーはしぶしぶ頷いた。
ーーアタシの仲間たちは何でそんなことを言ったの?
リコリスが代弁すると、ジャスパーはアタシが塔から落ちた後から今に至るまでの話をしてくれた。
アタシの身体は塔から落ちると、木々に何度もぶつかって地面に着地したらしい。だから、大怪我を負ったものの何とか生きていたそうだ。
仲間のサキュバスたちに保護されたアタシは長いこと目を覚ますことなく、彼女たちに看病をされていた。でもある日、どういうわけか、アタシは夢を見ていた。
にわかには信じられない話だけど、サキュバスであるアタシの仲間たちが言うのだから本当なんだろう。
彼女たちはアタシの夢に潜り込んでアタシと会えば事態が好転するのではないかと考えた。つまり、そうすることで、アタシの意識が戻るきっかけになることを期待したらしい。
でも、彼女たちの思い通りには行かなかった。アタシの夢はひどく不安定で、潜り込んでも何にもならなかったそうだ。
それで彼女たちは、ただ潜り込んでも意味がないと言う結論に至った。そして、どういうわけか知らないけど、ジャスパーの夢を経由すればいいということになった。それで、ジャスパーに協力を仰いで、アタシの夢に潜り込むことにしたそうだ。そして、今、ようやくアタシとの接触に成功したらしい。
「えっと、それならアマリリスさんの仲間の方はどこにいるんでしょう」
リコリスは周りをキョロキョロと見たけど、それらしき人や物はいない。
「それは俺にも分からない」
ーーこの場所を安定させているだけで精一杯なのかしら?
潜り込んだ先の夢が不安定な場合、アタシたちは姿を表すことができない。そういう時はとりあえず夢を安定させることに集中するはずだ。彼女たちが現れないのは、そうしているのかもしれない。
アタシは起きて早々、大きな欠伸をした。
『かわいいって言ってくれた! 私のことをかわいいって言ってくれたよ!!』
リコリスは大喜びしている。きっと身体が自由に動かせたら飛び跳ねていただろう。
「あったりまえよ! あなたのかわいらしい見た目とアタシプロデュースの可憐な女の子の振る舞いがあれば誰だってかわいいと言うに決まってるわ」
そう言っている途中で、また欠伸が出た。サキュバスの能力があっても、身体はしょせん人間らしい。
「一回寝るわ」
そう言ってアタシはベッドに寝転んだ。
※
気がついたらアタシは椅子に座っていた。そして、目の前にはジャスパーがいて彼は本を読みながらお茶を飲んでいる。
ーー夢?
サキュバスは、眠りはすれども夢を見ない。だからこれは夢であるはずがない。
でも、これが現実かと問われたら、「絶対にあり得ない」と答える。アタシは今、異世界でリコリスの身体の中にいるはずだから。ジャスパーが私の目の前にいるこの状況が現実である得なかった。
本を読んでいたジャスパーが不意に顔をあげた。彼は私に気がつくと目を見開いた。
「アマリリス!」
彼はアタシの手を取った。
「ああ、良かった。生きていたんだね」
ジャスパーはアタシの手を額に当てて俯き、涙を流した。
「あの、落ち着いて下さい」
アタシの唇が突如として勝手に動いた。
「落ち着けないよ! アダムが勝手なことをして君を殺そうとしたって聞いた時に、俺は。俺は・・・・・・。ごめん、君を守ってあげられなくて」
「ちょっと待って下さい。私はアマリリスさんじゃないです」
ーーもしかして、リコリス?
アタシそう思った途端、頭の中から『そうです』とリコリスの声がした。
「アマリリス、何を言ってるんだ?」
ジャスパーは信じられないと言いたげな顔でアタシを見ている。
「落ち着いて下さい。そしてどうか私の話を聞いて下さい」
「おかしいよ。君がアマリリスじゃないなんて、そんなはずはないじゃないか」
ジャスパーはアタシが嘘を吐いていると思っていそうだ。とりあえず、話をできる状態にしないと。
ーーリコリス、彼の両手を包んで言うのよ。話を聞いて欲しいって。
アタシはジャスパーに聞いて欲しい話がある時はいつもそうしていた。
ーーそれで話を聞いてくれるようになったらいいんだけど。
リコリスはアタシの指示に従った。彼女がジャスパーの手を包み込むと、彼はようやく話を聞く姿勢になった。
「信じられない話だとは思うんですけど」
リコリスはそう言って、アタシ達の身に起こったことを話し始めた。そして、ジャスパーは終始怪訝そうな顔で、リコリスの話を聞いていた。
「君の話は信じられないよ」
リコリスの話を聞き終えたジャスパーはそう呟いた。
「ですよね、こんな突拍子もない話」
ーーリコリス、認めないで。本当のことだって言いなさいよ。
『でも、そんな風に言ったって余計怪しまれるだけだと思いますよ?』
ーーまあ、たしかに。それもそうね。
「あの、私からも質問をしたいんですけど。多分、ここって私の夢なんですよね?」
「アマリリスの夢だ」
ジャスパーはそう言った。
ーーサキュバスは夢を見ないわ。夢を見ないからこそ、他人の夢に入れるの。
アタシの言葉をリコリスは代弁してくれた。
「アマリリスさんはそう言ってるんですけど」
「"アマリリスは夢を見ている"と君の仲間たちが言っていたんだ」
"君"っていうのは、アタシのことを言っているのだろう。すごくややこしい。
「ごめんなさい。ややこしくなるんで今この時だけでも、私はリコリスということにしておいてくれませんか? アマリリスさんも困ってます」
リコリスがそう言うとジャスパーはしぶしぶ頷いた。
ーーアタシの仲間たちは何でそんなことを言ったの?
リコリスが代弁すると、ジャスパーはアタシが塔から落ちた後から今に至るまでの話をしてくれた。
アタシの身体は塔から落ちると、木々に何度もぶつかって地面に着地したらしい。だから、大怪我を負ったものの何とか生きていたそうだ。
仲間のサキュバスたちに保護されたアタシは長いこと目を覚ますことなく、彼女たちに看病をされていた。でもある日、どういうわけか、アタシは夢を見ていた。
にわかには信じられない話だけど、サキュバスであるアタシの仲間たちが言うのだから本当なんだろう。
彼女たちはアタシの夢に潜り込んでアタシと会えば事態が好転するのではないかと考えた。つまり、そうすることで、アタシの意識が戻るきっかけになることを期待したらしい。
でも、彼女たちの思い通りには行かなかった。アタシの夢はひどく不安定で、潜り込んでも何にもならなかったそうだ。
それで彼女たちは、ただ潜り込んでも意味がないと言う結論に至った。そして、どういうわけか知らないけど、ジャスパーの夢を経由すればいいということになった。それで、ジャスパーに協力を仰いで、アタシの夢に潜り込むことにしたそうだ。そして、今、ようやくアタシとの接触に成功したらしい。
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リコリスは周りをキョロキョロと見たけど、それらしき人や物はいない。
「それは俺にも分からない」
ーーこの場所を安定させているだけで精一杯なのかしら?
潜り込んだ先の夢が不安定な場合、アタシたちは姿を表すことができない。そういう時はとりあえず夢を安定させることに集中するはずだ。彼女たちが現れないのは、そうしているのかもしれない。
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