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3-1 パトリシアという女

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 パトリシアは男と並んで歩いていた。あの男はグレゴリー・ハミルトンだ。彼はリコリスの幼なじみで彼女の初恋の相手でもある。

『隠れて!』
 リコリスが叫んだ。
 ーー嫌よ。
『アマリリスさん!』
 ーー嫌。
『お願い! 見られちゃうから!』
 ーー見られたらいいのよ。だって、彼、あなたの初恋の人なんでしょ?
『だからこそ、嫌なんですっ!』

 パトリシアはアタシに気がつくと、鬼の形相で近づいて来た。
「お義姉さま? 汚らしい恰好で屋敷の中を歩かないでもらえます? お客様が不愉快になられるでしょう?」
 パトリシアはアタシを蔑むとちらりとグレゴリーを見た。
「俺は大丈夫だよ。それより、身だしなみには気をつけた方がいい」
 グレゴリーにそう言われた途端、リコリスは声をあげて泣き喚いた。

 ーーああ。うるさい、うるさい! 静かにして。今、大事なところなんだから!
『アマリリスさん、ひどいですっ。グレッグに、グレッグに、汚らしいって思われた!』
 そう言って、リコリスはうわぁんと慟哭をあげた。

「グレッグったら。優しいのね」
 そんなリコリスのことなど知る由もなく、パトリシアはグレゴリーに笑いかけた。
「パトリシアほどじゃないよ。義姉にマナーを教えるなんてなかなかできないからね」
 グレゴリーがそう言って微笑むと、パトリシアは勝ち誇ったような笑みを浮かべてアタシを見てきた。
「お義姉さま、いつまで突っ立っているの? そんな暇があるならトイレ掃除でもしてきなさいよ」
 "あんたにはそれが似合ってるから"
 パトリシアの言葉にはそういう悪意が含まれていた。
「分かりました」
 そう言ってアタシはトイレに向かうふりをした。
 ーーあ。これ、いい演出になるかも。

 そう思ったから、振り返った。 
「グレッグ! その。・・・・・・今度はちゃんと綺麗な服を着てくるから。だから、その。・・・・・・また会いましょう」
 哀れっぽい口調で。でも、顔はとても明るくて可愛らしい笑みを浮かべた。

 グレゴリーに特別な反応はないけど、今は構わない。
「お義姉ったら」
 パトリシアが嘲笑を浮かべた。
「綺麗な服なんて持ってないでしょう? お義姉さまには服選びのセンスがないもの」
 パトリシアは嫌味ったらしく言った。

 アタシはパトリシアの言葉を無視してその場を後にした。
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