上 下
6 / 52

5 噂を広める悪人は誰?

しおりを挟む
 家に帰ると、私は次のデートに着ていくためのコートを借りようとお母様の部屋に向かった。
 ドアをノックして部屋の中に入ると、お母様は読んでいた新聞を机の上に置いた。その見出しには「イザベラ嬢、婚約解消から日を開けずにデートか!?」と書かれているのが見えた。
 私の視線に気づいたのだろう。お母様は慌てて新聞を折りたたんだ。

「どうしたの?」
「今度エドワード殿下と自然公園に行くことになりました。ですので、コートを借りたいのですが」
「秋口にあなた用のコートを新調していたはずよ。後でメイドに持ってくるように伝えておくわ」
「ありがとうございます」
「次のデートは自然公園なのね?」
「はい」
「いいわね。運がよければ可愛らしい小動物に会えるかもしれないわ」
 そう言って、お母様はにこりと笑った。

「それにしても、ゴシップ紙にどこから情報が漏れているんでしょうね」
 ゴシップ紙の話題を出した途端に、お母様の表情が険しくなった。
「ベラはエドワード殿下と今日会うことを私とお父様以外の誰かに言ったかしら?」
「支度を手伝ってくれたメイド数人と馬車の御者に言いました」
「うちの使用人以外には話していないのね?」
 お母様の言葉に私は頷いた。
「この屋敷の中に、おしゃべりな人間がいるのね。見つけて追い出さないといけないわ」
「私が話をした人達は、長い事我が家に仕えてくれています。信用のできる者と思っていたのに・・・・・・」
 人間は分からないものだ。そう思ったら、何だか悲しくなってきた。
「そんなに落ち込まないで。もしかしたら、誰かに脅されたり騙されてベラの情報を流してしまったのかもしれないじゃない」
「誰かって?」
 そんな都合よく黒幕のような人物がいるのかしら。
「これはあくまでも私の勘だけど。私はフィリップ子息の愛人の仕業だと思うの」
 お母様は真剣な顔で言った。
 エリナが犯人だとは、到底思えない。私とフィリップ様の婚約が解消されたなら、あの子が私に嫌がらせをしたところで何になるわけでもないのに。
「どうしてです? 何のメリットがあるんですか?」
「メリットなんてないわ。嫉妬にかられてやってるだけよ」
「嫉妬? エリナにあって私にないものなんて、家柄と財産くらいですよ?」
 エリナは見た目がかわいらしいのは勿論のこと、明るい性格で社交界でも人気者だった。普段は天真爛漫なところもあるけれど、ここぞというところでは、落ち着いた振る舞いのできる。だから、子爵家に生まれながらにして、高位の貴族達の集まりに呼ばれることもあった。

「彼女が私を恨む理由なんて見つかりません」
「ベラと婚約解消させたのはいいけど、フィリップ子息との結婚が叶わないから、逆恨みでってことはないかしら?」
「私に何かをするくらいなら、マシュー公爵に何かしらのアクションをした方が良くないですか」
「うーん。そう言われればそうね」
 お母様はそう言って黙り込んだ。
「単純に、お金が欲しい人か噂話が好きな人が記事にしているだけだと思うんです」
 私が言うとお母様は首をひねった。
「でも、何かが引っかかるのよね・・・・・・」
 お母様はそう言って腕を組んだ。

「まあ、ゴシップ紙の方は私とお父様の方で何とかするわ。ベラはこれからも念の為に気をつけてね」
「分かりました」
 そう言うと、私は部屋を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【完結】身代わりの人質花嫁は敵国の王弟から愛を知る

夕香里
恋愛
不義の子としてこれまで虐げられてきたエヴェリ。 戦争回避のため、異母妹シェイラの身代わりとして自国では野蛮な国と呼ばれていた敵国の王弟セルゲイに嫁ぐことになった。 身代わりが露見しないよう、ひっそり大人しく暮らそうと決意していたのだが……。 「君を愛することはない」と初日に宣言し、これまで無関心だった夫がとある出来事によって何故か積極的に迫って来て──? 優しい夫を騙していると心苦しくなりつつも、セルゲイに甘やかされて徐々に惹かれていくエヴェリが敵国で幸せになる話。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

らんか
恋愛
 あれ?    何で私が悪役令嬢に転生してるの?  えっ!   しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!  国外追放かぁ。  娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。  そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。  愛し子って、私が!?  普通はヒロインの役目じゃないの!?  

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

処理中です...