上 下
18 / 57

15 旅程の遅れ

しおりを挟む
 旅程が私のせいで遅れているのに、アンドリュー卿は私のために休憩を何度も挟んだ。
 そんなに休まなくても大丈夫だと言いたかったけれど、また前みたいに険悪な雰囲気になるのが嫌で私は何も言えなかった。

 ある休憩時間の最中、アンドリュー卿は私を散歩に誘った。
「尻は痛くないか」
 本音を言えば少し痛い。でも正直に答えたら休憩時間がまた伸びるかもしれない。だから、大丈夫だと言った。
「嘘は良くないな」
 そう言ってアンドリュー卿は私の肩を抱いた。
「無理をしたら後々もっと痛くなるかもしれない。それこそ、移動を中断せざるを得ない程にな」
 アンドリュー卿は真剣な顔で言った。

 ━━どうして嘘を吐いたのがバレたんだろう。

「分かったか」
「はい」
「それで、実際のところはどうなんだ?」
「少し痛むけど、少し休めば治ると思う」
「そうか。それならもう少し休憩時間を伸ばそう」
 やっぱり思った通りの事になった。

 ━━どうしよう。また、旅程が伸びてしまうわ。

「シア、そんなに気にしなくていい」
「・・・・・・はい」
「元々、旅程は3ヶ月半と長めに取ってあるんだ。それなのにあいつらときたらもっと早く行けるだの遅れてるだの、適当なことばかり言いやがって」
 アンドリュー卿はうんざりだと言わんばかりに溜め息を吐いた。
「でも、私がいなかったら彼らの言うようにもっと早く目的地まで着けるんでしょ?」
「そりゃあな。俺もあいつらも長旅には慣れているから。でも、俺はシアを迎えに行ったんだ。シアの事を蔑ろにして予定を組むなんて有り得ない。だから、このペースで何も問題ないんだ」
 アンドリュー卿はそう言ったけれど、それでもみんなに申し訳ないと思った。



 散歩を終えて馬車のある所まで戻った。みんな退屈そうにしていて、私達の帰りを待っていたことは一目瞭然だった。
「すみません、遅くなってしまって」
 近くの人にそう声をかけても返事をしてもらえなかった。

 ━━きっと、トロい私に対して苛ついているのよね。

「シア、先に馬車に戻ってろ」
 アンドリュー卿に言われて、私は一人で馬車に入った。扉を閉めて溜め息を吐く。

「こら! 幸せが逃げるから止めなさい!」
 耳元で声がして、私は驚きのあまり身体をのけぞらせた。
「そんなに驚かないでよ」
「フェイ・・・・・・、びっくりさせないで」
「それより、久しぶりに会った私に言うことはないの?」
「言うことって?」
「寂しかったとか、会えて嬉しいとか、ね?」
 正直に言ってフェイのことをすっかり忘れていた。最近はアンドリュー卿のことで頭がいっぱいで他のことを考えている余裕がなかったからだ。
 でも、そんなことを正直に話したらフェイに失礼だ。だから私は「会えて嬉しい」と言った。
「シアの嘘つき。私のことなんて忘れていたくせに」
 図星を突かれて一瞬、怯みそうになったけれど、「そんなことはないよ」とまた嘘を吐いた。
「うふふっ。一生懸命嘘を吐くシアもかわいいわね。でも、私にまで気を使わなくてもいいわ」
 フェイはそう言って私の頬をつついた。

「それより、最近はアンドリューと上手くいってるの?」
「どうだろう。表面的な話をすれば前よりは良くなったのかも。本物の夫婦になったから」
「"本物の夫婦"に? それはおめでたいことだわ」
 フェイは本当に嬉しそうに笑った。
「私達夫婦のことをこんなに喜んでくれるのはあなたくらいだわ。ありがとう」
「友達のことを喜ぶのは当然でしょう? お礼なんかいらない」
 そうフェイが答えた時だった。

「モンスターが出たぞ!」
 アンドリュー卿の部下がそう叫び、皆が一斉に武器を構えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

処理中です...