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12 面倒な女
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それから3日間、私達はまともに口を聞かなかった。アンドリュー卿は私と一緒にいるのも不愉快に思っているらしく、あれ以来、一緒に寝ることはおろか馬車に乗ることさえなかった。
そんな状態だから、私達が本物の夫婦になったと教会へ報告に行くことはなかった。教会の前を通っても、アンドリュー卿は立ち寄るどころか見向きもしない。
きっとアンドリュー卿は私と関係を持ったことを後悔しているのだろう。だから、報告をせずにいつでも離婚できるようにしているんだ。
━━どうしたら許してくれるのかしら。
あれから何度か謝ろうとしたけれど、アンドリュー卿は謝罪の言葉を聞き入れてくれない。鬱陶しそうに話を聞いて、話が終わらないうちに立ち去っていく。そんな状態が3日も続いているから、もう離婚は避けられないのかもしれない。
はあと溜め息を吐いた時、馬車が止まった。馬から降りてきたアンドリュー卿は馬車の扉を開けて休憩の時間を告げに来た。
「休憩だ」
「はい」
その一言で会話はおしまいだった。アンドリュー卿はそそくさと部下達の下に行ってしまう。
私は馬車から降りて軽く歩いた。本当は出歩きたくないのだけれど、ずっと座りっぱなしだとお尻や足が痛くなるから仕方がない。
「アンドリューのやつ、ジョルネスの娘とずっと喧嘩してるぞ」
アンドリュー卿の部下が私達のことを話しているのが聞こえた。
「だな。もう何日もまともに喋ってないだろ」
「もう愛想が尽きたのかよ」
「あの調子だとすぐにでも離婚しそうだ」
呆れたと言わんばかりに部下の男は言った。
━━やっぱり、他の人から見てもそう思うのね。
落ち込んでいる私をよそに男達の話は続いていく。
「勘弁して欲しいよな。わざわざ遠路はるばる迎えに来たっていうのにすぐに離婚だなんて。損した気分になるよ」
「損って・・・・・・、お前なあ」
「俺はこいつの気持ち分かるぜ? 2ヶ月の旅程を彼女に合わせて3ヶ月のもたもたしたペースで行ってるんだ。それなのに離婚なんかされちまったらさ」
━━私に合わせている?
一日の大半を移動で費やしているからそんなことを思ってもみなかった。
でも、よくよく考えたら彼らの言う通りなのかもしれない。彼らとアンドリュー卿だけならもっと速く馬を飛ばして移動できるのかもしれない。それに馬車を通るための道を迂回しているのだとしたら・・・・・・。
━━私って、面倒な女だ。
アンドリュー卿が面倒くさそうに私の相手をしていた理由がようやく分かった。
私を連れての旅が思ったよりも面倒で苦痛に感じているのだろう。
不意に話をしていた部下の一人と目が合った。彼は顔を引きつらせたから、私は彼らを困らせないように、黙って馬車へと戻った。
馬車の椅子に座って出発の時を待っているとアンドリュー卿が再びやって来た。
「休めたか」
「はい」
「それじゃあ出発だ」
「待って」
私が静止すると、アンドリュー卿は怪訝そうな顔で私を見た。
「何だ?」
「休憩の回数と時間をもっと減らしてもらっても大丈夫だから」
「は?」
「もうそんなに面倒をみなくてもいいのよ。そうしてくれたらアンドリュー卿の領地にもすぐに着くでしょう?」
「なぜそんなことを気にする?」
不機嫌そうにアンドリュー卿が聞いてきた。
「早く到着した方がみなさんに不便をかけずに済むじゃない」
「不便って」
アンドリュー卿が話をしている途中で、部下の人が出発の準備が整ったことを伝えに来た。
「これからの移動は馬車にする」
アンドリュー卿は部下にそう言い放つと馬車に乗り込み扉を閉めた。
そんな状態だから、私達が本物の夫婦になったと教会へ報告に行くことはなかった。教会の前を通っても、アンドリュー卿は立ち寄るどころか見向きもしない。
きっとアンドリュー卿は私と関係を持ったことを後悔しているのだろう。だから、報告をせずにいつでも離婚できるようにしているんだ。
━━どうしたら許してくれるのかしら。
あれから何度か謝ろうとしたけれど、アンドリュー卿は謝罪の言葉を聞き入れてくれない。鬱陶しそうに話を聞いて、話が終わらないうちに立ち去っていく。そんな状態が3日も続いているから、もう離婚は避けられないのかもしれない。
はあと溜め息を吐いた時、馬車が止まった。馬から降りてきたアンドリュー卿は馬車の扉を開けて休憩の時間を告げに来た。
「休憩だ」
「はい」
その一言で会話はおしまいだった。アンドリュー卿はそそくさと部下達の下に行ってしまう。
私は馬車から降りて軽く歩いた。本当は出歩きたくないのだけれど、ずっと座りっぱなしだとお尻や足が痛くなるから仕方がない。
「アンドリューのやつ、ジョルネスの娘とずっと喧嘩してるぞ」
アンドリュー卿の部下が私達のことを話しているのが聞こえた。
「だな。もう何日もまともに喋ってないだろ」
「もう愛想が尽きたのかよ」
「あの調子だとすぐにでも離婚しそうだ」
呆れたと言わんばかりに部下の男は言った。
━━やっぱり、他の人から見てもそう思うのね。
落ち込んでいる私をよそに男達の話は続いていく。
「勘弁して欲しいよな。わざわざ遠路はるばる迎えに来たっていうのにすぐに離婚だなんて。損した気分になるよ」
「損って・・・・・・、お前なあ」
「俺はこいつの気持ち分かるぜ? 2ヶ月の旅程を彼女に合わせて3ヶ月のもたもたしたペースで行ってるんだ。それなのに離婚なんかされちまったらさ」
━━私に合わせている?
一日の大半を移動で費やしているからそんなことを思ってもみなかった。
でも、よくよく考えたら彼らの言う通りなのかもしれない。彼らとアンドリュー卿だけならもっと速く馬を飛ばして移動できるのかもしれない。それに馬車を通るための道を迂回しているのだとしたら・・・・・・。
━━私って、面倒な女だ。
アンドリュー卿が面倒くさそうに私の相手をしていた理由がようやく分かった。
私を連れての旅が思ったよりも面倒で苦痛に感じているのだろう。
不意に話をしていた部下の一人と目が合った。彼は顔を引きつらせたから、私は彼らを困らせないように、黙って馬車へと戻った。
馬車の椅子に座って出発の時を待っているとアンドリュー卿が再びやって来た。
「休めたか」
「はい」
「それじゃあ出発だ」
「待って」
私が静止すると、アンドリュー卿は怪訝そうな顔で私を見た。
「何だ?」
「休憩の回数と時間をもっと減らしてもらっても大丈夫だから」
「は?」
「もうそんなに面倒をみなくてもいいのよ。そうしてくれたらアンドリュー卿の領地にもすぐに着くでしょう?」
「なぜそんなことを気にする?」
不機嫌そうにアンドリュー卿が聞いてきた。
「早く到着した方がみなさんに不便をかけずに済むじゃない」
「不便って」
アンドリュー卿が話をしている途中で、部下の人が出発の準備が整ったことを伝えに来た。
「これからの移動は馬車にする」
アンドリュー卿は部下にそう言い放つと馬車に乗り込み扉を閉めた。
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