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5 後悔

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 そして、勢いで城を飛び出し、そのままアンドリュー卿の馬車に乗った。一息を吐く間もなく、馬車は動き始める。
「お前の荷物は後で送ってもらう」
「はい」
 そのやり取りの後、長い沈黙が訪れた。

 ━━気まずい。

 アンドリュー卿は何も言ってくれない。今まで何をしていたのか。どうして私を今になって私を迎えに来たのか。愛人の噂は本当なのか。アンドリュー卿の領地とはどんな場所なのか。話すことはたくさんあるはずなのに。

 彼は不機嫌そうに目の前に座る私を見ている。私は気まずさに耐えかねて窓の外を見た。

 ━━綺麗。

 私達がさっきまでいた城はまるでおとぎ話に出てくる城のように綺麗で大きくかった。今までそこに自分が住んでいたなんて信じられない。
「城を離れるのが嫌なのか」
 アンドリュー卿に声をかけられてびくっとした。彼を見たら私の顔を睨んでいた。城を見つめていたのが気に障ったらしい。
「どうなんだ?」
 問い詰めるような口調に私の身体はすくんでしまう。
「いいえ。城の外に出たのが初めてだったので」
「初めて?」
 怪訝そうな顔でアンドリュー卿は私を見ていた。成人をしてもなお、領地どころか城の外にすら出たことがないことをおかしいと思っているのだろう。

 お父様はいつまで経っても聖女になれない私を人目につかないようにした。能力もなく、美しくもない娘を持ったことを恥と考えていたからだろう。私は城の庭を除いては、外に出ることを禁じられていた。
 もし、アンドリュー卿が連れ出してくれなかったら、私は今でもあの城に居続けただろう。

「アンドリュー卿の領地は、どんな所ですか」
「田舎だ」
 彼はやはり不機嫌そうに答えた。城の外に出たことがないとはいえ、本で得た知識は多少なりとはある。もう少しくらい教えてくれてもいいのに。そう思っていたら、アンドリュー卿は溜め息を吐いた。
「西部地方のアイネ山の麓だ。領地とは言っても山の麓に小さな村が3つあるくらいのものでね。後は山と森だよ」
 アイネ山は聞いたことがある。たしか、ドルト山脈に連なる山の一つで、そこにブラックドラゴンが住んでいたそうだ。
 だから、アンドリュー卿はドラゴンを倒すことになったのかと、合点がいった。

「ようやく俺に興味を持ったのか」

 ━━そんな風に非難をしなくてもいいじゃない。

 あなただって、今になってやっと私を引き取りに来たくせに。それに、これから暮らしていく場所のことを知ることの何が悪いのだろう。
 私は再び窓の外を見た。アンドリュー卿の質問に対して率直に答えても彼の気を悪くさせるだけだ。かといって、彼の機嫌を取るための弁明の言葉も思いつかない。だからこうして窓の外を見て誤魔化すしかなかった。

 ジョルネス公爵領からアイネ山までは地図で見る限り相当の距離があった。中間地点にある王都であっても、馬車で1ヶ月半はかかるはずだ。だから、アイネ山に着くまでに、単純計算で約3ヶ月かかるわけだ。
 こんな調子だと、これから3ヶ月近く彼と旅路を共にすると思うと気が重くなる。私はお父様に叱られることを恐れて勢いで城を飛び出したことを後悔し始めた。
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