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お人形に恋をした

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 ティアは多少の自我を取り戻したとはいえ、かなり不安定だ。自我を持って動き続けるには身体を流れる4属性の力が足りないのだろう。だから、こうして定期的に意識を失ってしまう。
 濡れたティアの身体をタオルで拭いてから彼女を部屋に運ぶ。その途中でシトレディスの信徒たちに会うのが嫌だったからわざわざ移動魔法を使った。
 ティアをベッドに寝かせて私もその隣に寝転んだ。

 ━━次はいつ目を覚ますかな。

 ティアは一度意識を失うといつ目を覚ますのか分からない。眠る時間は1日の時もあれば10日に及ぶこともある。
 それに、次に目覚めた時、ティアは今日のことをどこまで覚えているだろうか。意識を失う前後は記憶がなくなったり混濁したりすることが多い。

 ━━今日のことは全部忘れて欲しい。

 私が浴室でいじめたことも、複数の男とやったことも、イレトとかいう男に好意を持たれていたことも。全部忘れてしまえばいいのに。
 






 ティアが意識を失ってからは後処理が面倒だった。
 聖女は相変わらず纏わりついてこようとするし、消した調査団の連中について何か知らないかと問い詰められるし。その中でも、アルとかいう男がティアそっくりの泥人形を観察しようとしてきたのは鬱陶しかった。
 アルは泥人形のティアが偽物だと多分気がついている。普通の人間なら気が付かないはずだけど。あの男はシトレディスから厚い加護を受けているから。

 ━━穢れきった魂だ。

 複数の魂がアルの中で絡み合っている。キメラのように歪で醜い魂をしていた。もはや人間とは呼べないほどの代物だ。
 だが、救えないわけでもない。時間と労力はいるだろうがその気になれば治せるはずだ。だから今回は壊さずに、もう少し様子を見ていようと思う。
 それにしても、シトレディスはひどいやつだ。自分の愛した男以外なら、人間を玩具のように弄り回すんだから。

「ノア、待って」
 聖女は今日も私に纏わりついてくる。私の物に隠れて傷をつけていた醜い女だ。これからは誰かに痛めつけられたら報告するようティアに命令をしないと。
「待ってってば」
 彼女は私の腕を掴んだ。振り返って聖女を見たら、彼女は顔を強張らせた。
「どうしてそんな冷たい目で見るの?」
「もう優しいふりをする必要がないから」
 そうはっきりと言ったら聖女は私を睨みつけた。
「騙してたのね」
「そうだよ」
「最低!! あなたの正体をみんなにバラすわよ!」
「どうぞ。ご勝手に」

 おそらく、アルは私がエルドノアだと気がついている。その上で何も言わず、私を監視しているに違いない。
 シトレディスから厚い加護を受けたアルなら、時間が巻き戻っても過去のことを覚えていられるだろう。あの男はシトレディスに何を報告するのやら。別に大した情報は見つけ出せていないだろうから放っておいているけど。

 私は聖女の手を振り払った。聖女はまた何かを喚いていたけど、無視する。私は足早にティアの眠る部屋へと向かった。







 部屋の扉を開けると、全裸のティアが目の前に立っていた。私がいない間に目覚めたらしい。
「エルドノアさまっ」 
 ティアは私を見るなり抱きついてきて、私は慌てて扉を閉めた。
 ティアの身体ががくがくと震えているのが伝わってくる。
「おはようティア。どうしたの?」
「部屋の外に・・・・・・、屋敷の中に誰かいるの。フィアロン公爵たちがもどってきたの?」

 何度世界の時間が巻き戻ろうとも、あの薄汚い男は永久にこの世界に戻ってくることはない。あんな醜い魂をした欲の深い加虐趣味のブサイクは生きている価値がない。
 だから、生命の神としての権能であの男の魂をバラして封印し、二度と生まれでないようにした。
 ティアにもそのことを説明したのに、彼女はそのことを理解しない。だから、時折、こうやってあの薄汚い男が帰ってくるのではないかと怯えてしまう。

「ちがうよ」
 そう言うとティアの表情が和らいだ。
「それじゃあ、あの人たちはなに?」
「あれは調査団の奴らだ」
「チョウサダン?」

 ティアはまた忘れていた。

「それはどんな人なの?」
「私の邪魔をする悪い奴らだ。だから、関わってはいけないよ」
 ティアを抱き上げるとベッドまで連れて行って座らせた。
「眠る前のことはどこまで覚えている?」
 ティアは顎に手を当てて少し俯いた。
「誰かが、王都はとてもいいところだって言っていたの」
「他には?」
「えっと・・・・・・。女の人が、私に痛いことをしてきたの」
「その女とはもう会わせないようにするから安心して。他には何か思い出せない?」
「エルドノアさまと星を見てた。北の星の名前が・・・・・・」
 それは調査団がやってくる前のことだった。ティアは顔をしかめながら必死になって思い出そうとしている。
「忘れたんだね。いいよ、また教えてあげるから」
 そう言ったらティアはとても嬉しそうに笑った。

「お腹はすいた?」
 ティアは首を横に振った。
「そう。なら、もう少しお眠り」
 ティアを抱きしめて横になる。
「まだ日が出てる」
「たまには構わないよ」
「夜におきちゃうかも」
「そうなったら庭を軽く散歩してまた眠ればいいさ」
「それくらいですぐに眠れるかしら」
「お前は小さいことを気にしすぎだよ」
 ティアはムッとした顔をして私の胸に頭をのせた。
「エルドノアさまがテキトウなの」
「生意気なことを言ってないで早く眠りなよ」
 ティアはふんっと言って目を閉じた。
「おやすみ、ティア」
 背中をぽんぽんと優しく叩いてあげたら、ティアはすぐに眠りに落ちた。

 ━━忘れていてくれてよかった。

 私が後ろめたい気持ちでいることにティアが気づくことはなかった。
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