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第307話 集合、そして

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「えっ?母さん?えっ?」

少年の言葉に、戸惑うマリー。
ウェロムに子供は居ない筈。
隠し子……?
それもおかしい。
少年の姿は、明らかに王家の者とは違う。
黒のローブの下から見える、茶色のベスト。
履いている茶色のズボンの丈は、やや長く。
動物の皮で出来ているらしい、靴の上に掛かっている。
いて言うなら、錬金術師か。
こんな子供が、ここを指定し訪れるなんて。
普通では考えられない。
頭がこんがらがるマリー。
対してエリーは、少年に対しても警戒心を抱く。
何方どちらを見張るか迷って。
結果、ウェロムの背中越しに少年を見やる構図へ。
そこへ、聞いた事の有る声が近付いて来る。

『こっちよ!こっちから、兄様の魔力の気配が……!』

『本当なんだろうな!こんな森の奥に居るとは思えないんだけど!』

『私が兄様を間違える訳無いでしょ!そもそもあなたが……!』

『そうだよ!言い出しっぺは俺だよ!だから真偽が気になるんじゃないか!』

『良いから、少し黙って……あっ!ひらけてる場所が有る!』

『本当だ!何か炎みたいな物も見えるぞ!』

『複数人居る様ね……この懐かしい雰囲気は……!』

『敵じゃ無いんだろう!なら、突撃するまで!』

『だから!先走らないで!』

そう言いながら、ドンッと飛び出し。
ゴロゴロゴロ。
森から転げて入って来る人間。
それ等は。



「アン!ロッシェ!どうしてここに!」



「お!お前達だったのか!……ええと、隣に居る女性は?」

姿を見て、思わず声を上げるマリー。
それに反応するロッシェ。
マリーの隣に、デカい態度で座っている女性。
会った事が無いので、ロッシェは少々困惑。
そっちに気を取られ、少年の姿は目に入らなかった様だ。
マリー達やアン達が入って来たのは、東側から。
対して少年は、北側から。
立ち位置が違うので、少しリアクションが遅れるロッシェ達。
少年に対し、驚きの声を上げるアン。

「兄様!兄様なのね!でもどうして、子供に戻って……!」

「流石、我が妹。一発で分かるとは。マリー達とは違うな。」

「や、やっぱりクライスなの?」

「『やっぱり』って何だよ。疑ってたのか?」

マリーの疑問めいた言葉に、不満気な少年。
確信が持てなかっただけなのだが。
ようやく納得する。
クライスだ。
間違い無い。
その悪態づいた言葉遣いは、本人だ。
そう思ったマリーの目には、涙。
ポロポロと落ちて来る。
意外な出来事に、『えっ?』と驚いた顔になるクライス。
すかさずウェロムが、突っ込みを入れる。

「女の子を泣かしてんじゃないわよ。そんな風に育てた覚えは無いけど?」

「どさくさまぎれに、変な事言うな!ややこしくなるだろ!」

両者は親し気な様で、微妙な距離感がある。
そう感じるアン。
その目線に反応し。
『私とした事が、自己紹介がまだだったわね』と、立ち上がり。
アンとロッシェに一礼して、名を名乗る。

「私は〔ウェロム・S・アウラル〕。現国王、アウラル2世の第2夫人よ。」

「『今は』、だろ?」

「そうね。今はね。」

自己紹介を受けるが。
クライスとのやり取りで、何者か分からなくなるアン。
聡明なアンが、混乱するのだ。
ロッシェの頭は、既にパンクしそうだった。
こんな短い言葉の中に、意味不明がてんこ盛り。
アンは、はっきりさせたくて。
直球で尋ねる。

「あなたは一体、何者ですか?」

「何者、とは?」

とぼけるウェロム。
代わりに、クライスが答える。



「【全ての元凶】だよ。一連のな。」



「兄様、御存じなので?」

兄の言葉に、意外性を感じ取るアン。
まるで古くからの知り合いの様。
そんな語り口。
不思議で仕方が無い。
同じ感情を、エリーも抱いていた。
せっつく様に、クライスへ尋ねる。

「クライス様。もし宜しければ、私達にも説明して頂けませんか?このままでは釈然としないのです。」

「もっともだ。お前達は当事者。だから当然、聞く権利が有る。答えよう。」

マリーとエリーは立ち上がる。
座っていた3人共靴を履くと、ウェロムは敷物に手を触れる。
すると、一瞬で敷物が消える。
そして代わりに、地面からニョキッと。
金属の柱が等間隔で、人数分生えたかと思うと。
シュルッ!
あっと言う間に、立派な装飾の付いた椅子の形へと整えられる。
脚は頑丈な形状で、龍の飾りが添えられている。
背もたれもしなやかで、長時間背中を預けても疲れない作り。
そこへ腰掛ける、その場の一同。
北側に、クライス。
その対面、南側にウェロム。
クライスから半時計回りに、アンとマリー。
時計回りに、ロッシェとエリー。
ストンとクライスが座ったので、罠等は無いと考え。
あっさりと、他の面子も椅子へ座る。
地面に正六角形を描く形で、座する一同。
一呼吸置いた後、ウェロムをジッと見たまま。
クライスが話し出す。
その出だしは。

「エリー。幻の湖を離れる際の俺達へ、メグが言った言葉を覚えてるか?」

「え、ええ。確か、《終わりは始まりにある》でしたっけ。」

「そう。」

クライスが、軽く返事をする。
エリーの言葉を聞いて、ポツリと漏らすウェロム。

「メグルめ、余計な事を……。」

「1つの真理だろ?みんな【本当の意味】に気付かなかったんだ、別に良いじゃないか。」

クライスがいさめる様に言う。
マリーが尋ねる。

「本当の意味って?『争いを終わらせれば、野望が叶って平和が訪れる』って事じゃ無いの?」

「それはお前の解釈だ。主観が思い切り反映された、な。」

「違うの?」

「違うね。それじゃあ《終わり【が】始まりに【なる】》、じゃないか。」

マリーの発言を、即座に否定するクライス。
そして、こう続ける。

「マリー。お前の『野望を叶える旅』が始まったのは、何が切っ掛けだ?」

「そりゃあ。ここに居るおば様が中心になって、政略結婚を無理やり推し進めて……。」

そこまで言って、自分の言葉にギョッとするマリー。
頭をフル回転しているロッシェだが、まだ理解が追い付いていない。
一方、飲み込みが早いアンとエリーは。
顔が青ざめ始めていた。
今座っている、この椅子。
すぐに座ったので、クライスが生み出したとばかり思っていた。
しかし、地面に突き刺さったままの木の枝が。
薄明りで照らしている、その材質は。
金では無い。
何かの金属。
アンの方を見るエリー。
首を振るアン。
アンが作り出したのでも無い。
だとすると、該当者は……。
そこまで理解して。
冷や汗がダラダラ垂れて来る、アンとエリー。
クライスは、ウェロムを指差しながら。
静かに告げる。
その一言に、ウェロムは満足気な顔をし。
マリー達は、この場に居合わせた事を後悔する。
それは。



「【全てはこいつが始めた】んだ。《始まりの錬金術師》である、こいつがな。」
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