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第274話 宿場町にて

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一方、帝国軍の分隊と言えば。
金属製の橋を渡った後、〔キョウセン〕へと到着。
ジェーンが『疲れた』とごねるので、キョウセンで1泊。
翌日、再び進軍開始。
2日掛けて、〔アイリス〕の本拠地が在る森を抜けた。
更に南進して、スコンティに在る十字路へと到着。
それは丁度、本隊がサーゴに達する頃だった。



「あーあ、そろそろお風呂に入りたいわぁ。」

愚痴るジェーン。
ずっと馬車で移動しているくせに、歩きの兵士達よりも文句が多い。
女だから仕方無いか。
ティスもモーリアも、そう考えている。
先頭を進んでいたハヤヒは、思考を巡らせる。
文句を言い続けられて、兵の士気が下がるのは困る。
それに無理な行軍を続けて、兵の疲労も溜まっているだろう。
キョウセンで泊まってしまった分を、強引に取り返そうとした結果。
ここら辺りで休んだ方が、寧ろ良いのかも知れない。
ハヤヒは、軍の中心辺りに居るティスへ伝令を出す。
報告を受けて、軍は一旦停止。
ティスとモーリアが協議する。
まずはティスが。

「確かに、何処かで兵に休息を取らせた方が良さそうだな。」

「しかしどうする?軍は2,000近くまで膨れ上がっているぞ?」

モーリアが答える。
キョウセンで泊まった、次の日。
いきなりジェーンが、『この者達も合流させましたので』と。
ティス達の許可も取らず勝手に、この町に居た傭兵達約200を雇い入れてしまったのだ。
ようやく職に有り付けた』と喜ぶ傭兵達。
ここで『実は違うのだ』なんて切り出せば、奴等は不満を爆発させて暴れかねない。
それは少なからず、分隊にも被害を及ぼすだろう。
悩みに悩んだ結果、仕方無く同行を許した。
なので、出立時からブクブクと。
軍の総数が膨れ上がってしまった。
こうなるともう、小回りが利かない。
統制が取れるかどうかも怪しい。
更に、傭兵は勝手気まま。
戦場いくさばまで進む時は大人しいが。
一旦戦闘が始まると、こちらの言う事を聞くかどうか分からない。
手柄を多く立て報酬をがっぽり貰おうと、暴走する奴も出かねない。
それ等の動きを量る必要もある。
話し合いの結果、この辺りで休む事にした。



兵達は街道の端に座り、食事を取っている。
傭兵達は案の定、酒を酌み交わし騒ぎ出す。
その横をしかめっ面になりながら通る、旅人達。
迷惑を掛けている事に心苦しく思いながら、この場をハヤヒに任せ。
12貴族の3人は、ここから一番近い町。
南方の宿場町〔マキレス〕へと向かった。



宿屋の風呂で綺麗さっぱりとなり、満足した顔のジェーン。
今は、カウンターの前に在る広間でゆっくりしている。
その間、手持無沙汰に宿屋の周りを巡る2人。
ふと、何やら人だかりが。
『ちょっと失礼』と、群衆の中へ分け入る。
そしてそこを抜けると、目の前には馬小屋が。
それは特段、珍しくも無い。
観衆が皆視線を下へ落としているので、同じ方を向くと。
何故か地下倉庫がある。
その壁には、奇妙な模様が。
何かの歯車の様に見える。
モーリアは不思議に思い、眺めている群衆の1人に尋ねる。

「あれは何だろうか?」

「ああ、あれはな……き、騎士様!」

モーリアの格好を見て驚く見物人。
ティスもモーリアも、煌びやかな鎧を纏ったままだった。
恐縮する見物人に、『構わず、話してくれ』と続けるモーリア。
少し躊躇ためらった後、見物人が言う。



「何でも、『この町がダイツェン軍に襲われた時』の事。軍から守って下さった《錬金術師様》が、残して行った物らしいですよ。」



「何と!」

びっくりするモーリア。
隣で話を聞いていたティスも、同じ表情。
錬金術師が生み出したと言う、奇妙な物もそうだが。
ダイツェン軍がここまで侵攻したとな!
そんな話、全く聞いていないぞ!

「詳しく!聞かせてくれないか!」

見物人に詰め寄るモーリア。
『ちょっとちょっと!揉め事は困るよ!』と、宿主が割って入る。
『それならば』と今度は、宿主へ尋ねる。

「お主!事情を知っているなら聞かせて欲しい!」

「おや?あんた方も騎士さんかい?」

「ば、馬鹿!」

鎧に描かれている紋章、それに気付いた見物人の1人が。
ひそひそと宿主へ耳打ちする。
一瞬ギョッとなったが、構わず宿主は話す。
都合が良いと言わんばかりに。

「あんた達、12貴族の人らしいね。だったら、アストレル家を何とかして貰いたいんだけど。」

「どう言う事だ?」

ティスが眉をひそめる。
図々しいお願いをする以上、説明するのが筋か。
そう考えた宿主は、前に起こった《ダイツェン軍侵攻》の件を事細かに話す。
全てを聞き終えて、呆れ返る2人。
そんな事をしておきながら、堂々とここを通過しようとしているのか!
あの女は!
『ありがとう、心に留めて置く』と、宿主へ礼を言うティス。
そしてモーリアと共に、素早く群衆から離脱。
何とかしてくれると、宿主も思ってはいない。
ただ。
12貴族の間で情報が行き渡っていないらしい現状を、不服に思い。
一言言いたかった。
あんた等の勢力争いに巻き込まれるのは、真っ平御免だ。
上の方で、勝手にやってくれ。
争いを、下の者まで持って来るな。
そう言う主張。
痛い程その意図を感じながら、宿の中へと入り。
ジェーンに告げるティス。

「おい、もう良いだろう?出発するぞ。」

「えーっ、もうですかぁ?」

軍を進める度に、態度が大きくなって行くジェーン。
本性を現し始めているのだろうか。
ジェーンに対する警戒心を強めながら、その右腕を掴もうとするモーリア。
『嫌っ!』と手を振り払いながら、ジェーンが文句を垂れる。

「そんな強引に扱わなくても、従いますよ。もう、男って誰も彼も……。」

ラフな格好から、近くの部屋へ入って着替えると。
宿屋の前に待たせている馬車へと、すぐさま乗り込む。
ジェーンが乗り込むと同時に、馬車が走り出す。
その中から群衆の方を見つめ、苦々しい表情を浮かべる。
まるで敵でも見付けたかの様に。
ティスとモーリアも馬にまたがり、十字路へと戻る。
その目には、覚悟に近い闘志の炎が揺らめいていた。



この休息が吉と出るか、凶と出るか。
今は分からないまま、分隊が西へと十字路を折れる。
そしてスコンティの中心都市、〔ウイム〕へと向かうのだった。
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