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第222話 作戦、発動
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翌日。
良くは眠れなかったが、休息を取るには十分だった。
今日も今日とて、ウタレドのあちこちで建物修繕の音が響く。
半ばやけくその様に。
解放されたとは言え、まだ安息と呼ぶには程遠い。
そうやってもがいている人々の姿を見て、申し訳無く思うテノだが。
止まるつもりは無い。
今こそ。
町の中央付近。
魔力放出の大きなアンテナが立っていた場所。
憎しみを以てぶっ壊された跡が残る、その地点で。
右手拳を高く掲げ。
テノが叫ぶ。
「我《シルベスタ3世》が、ここに宣言する!勢力よ、集え!」
何を言ってるんだ、あいつ?
そう言う目をしている人達。
当然。
相変わらず行商人の格好をしているからだ。
大声を上げるテノを見つけ、駆け寄って来るソイン。
「困るよ、唐突に変な事を言い出して貰っては……。」
そう言いながら近付くソインを。
ギロッと睨み付けて。
テノがソインを罵る。
「我は皇帝ぞ!知らぬと申すのか!無礼者め!」
テノの気迫に、畏れ慄くソイン。
初めて会った時と、迫力がまるで違う。
こっちの方が、本来の姿だと言うのか……!
困惑する司令官。
その姿を見て、ざわつき出すギャラリー。
そこへ、1人の男が馬で乗り付ける。
そして馬から降りると、静かにかしづく。
「お待ちしておりました、【陛下】。」
膝間付いた男は。
クライスから金の鳩での連絡を受け、参上したツレイム。
作戦を発動させるから、駆け付けて欲しい。
これが恐らく、最終局面。
クライスからそう連絡されれば、行かない訳には。
ツレイムに向かい、テノは語り掛ける。
「忠誠の厚い騎士よ、真に嬉しいぞ。」
「勿体無きお言葉。」
ツレイムの右肩へ、労うかの様に手を置くテノ。
そのやり取りを見て、『本物の皇帝なのか?』と思い直すギャラリーは。
その場で推移をジッと見守る。
テノは続ける。
「弟アリューセントを取り戻す為!そして長年の因縁に決着を付ける為!今こそグスターキュへ攻め入る時!見よ!」
そう言って、用意しておいた封筒の束を懐から取り出し。
空へ向けて放り投げる。
それ等は風に舞い、空高く上がって行く。
その途中で。
上空から封筒の渦へ飛び込む影が。
白く輝くカラス。
それも12羽。
その数が何を意味するのか、考える為に。
ギャラリーの時が止まる。
そしてすぐに動き出す。
テノが叫ぶ。
「知らせよ!【魔法使いの下僕】よ!ここへ集結する様、12貴族へ!」
その言葉が終わると同時に、封筒を携えたカラスは四方八方へ飛び去った。
ドキッとするギャラリー。
魔法使いだと!
とうとう陛下側へ付いたと言うのか!
これは大変だ!
ここが戦場になる!
『わああっ』と、歓声にも悲鳴にも取れる声が町に響く。
混乱する民衆。
何とか抑えようとするプレズン軍。
そこへ。
「ご安心を。」
周りを煌めかせながら、テノの方へ歩み寄る。
クライス。
そしてツレイムと同様に、テノの前でかしづくと。
こう言った。
「共に歩みましょうぞ。」
その最中も、周りがキラキラ輝いている。
ふと木の葉が3枚程、クライスの方へ飛んで行く。
しかし、クライスまであと2メートルと言う所で。
皆瞬時に金へと変わり、ストンと地面へ落ちた。
呆気に取られる民衆、そしてプレズン軍。
テノは周りへ向かって叫ぶ。
「我の元へ、力強い従者が駆け付けた!この者こそ、《幻の錬金術師》よ!」
そして挨拶とばかりに、クライスは。
地面に手を置き、ジュンッと力を込めると。
蜘蛛の巣の様に、網目状の金の糸が『ズアアアアッ!』と広がり。
瞬く間に、町の境目が金へと染まった。
スクッと立ち上がるクライス。
続いてツレイムも立つ。
そして周りへ向かって、笑顔で手を振ると。
ドッと歓声が上がる。
それは完全に歓迎の声。
あの噂の者まで、陛下の元へ集うとは!
これはやるしか無い!
疲弊していた心に、やる気の炎が灯る。
テノはツレイムとクライスを伴い、ソインの元へ来ると。
拠点へ案内する様命ずる。
既に感服していたソインは、慌てて案内する。
4人と、ツレイムが乗って来た馬を引く者は。
プレズン軍の拠点が置かれている建物へと入って行った。
建物の中へ入り、奥へ進む。
そして大きな部屋へ出る。
そこは、作戦や指示を束ねる部屋。
そこに置かれた、司令官用の椅子をテノへ譲ると。
3歩下がって平伏すソイン。
低姿勢を保ったまま、ソインがテノに言う。
「素性を存じ上げませんで!数々の御無礼、申し訳ありませんでした!」
小汚い行商人と思っていたのは、仮の姿だった。
皇帝自らこんな所まで来るとは、思いもしなかった。
だから尚更、動揺している。
『うむ』と頷きながら、部屋から下がる様テノが命ずると。
無言でススーッと、ソインは下がる。
テノの座る椅子の前には、長方形のテーブル。
脇にはそれぞれ4つ椅子が並んでいる。
テノに近い側へ。
テーブルに向かって、テノの右側にはツレイムが着席。
左側には、クライスともう1人。
早速文句を付ける、ツレイムの馬を引いていた男は。
「クライスよー。ちょっと演出が派手過ぎじゃねえのか?」
「あれ位やった方が、効果覿面なんだよ。いい加減、理解してくれよ。」
「カッコ付け過ぎだって言ってんだよ、俺は。」
「まあまあ。そう言うな、ロッシェよ。」
テノがそう説得する。
そう、馬引き係のロッシェは不満だった。
俺だけ、特に役無し。
偶には派手に登場したいのに。
クライスばっかり。
そりゃあ、俺が現れた位で説得力が無いのは認めるけど。
それが悔しかった。
同時に、クライスの異質性を痛感する。
このまま丸く、事が収まるとすると。
こいつは何処へ行くのだろう?
この世界に、居場所など有るのだろうか?
そんなロッシェの考えを察してか。
クライスはロッシェに言う。
「俺なりの主張なんだよ。『ここに居るぞ』ってな。」
それは『この世界に殺されないぞ』と言う決意にも取れた。
そこまで言うなら。
ロッシェは文句を言わなくなった。
代わりに。
騒がしい物音を伴って、現れた者が。
「ああ!いらっしゃったなら、お声を掛けて下されば……!」
クライスの信奉者と化したロイスだった。
彼の願いは叶わず、余計に神格化を拗らせた様だ。
隣に座るロッシェをやっかみながら、クライスの背後に回ると。
クライスの首に、自身の腕を当てる。
大胆にも誑し込もうとするその姿は、騎士が嫌悪すべき物。
仮にも騎士を名乗っていたなら、そう言った事は慎まねばならぬ。
そう主張する、ツレイムとロッシェの目線。
厳しい目線に晒されながらも、止めそうにないロイスの態度。
しかしテーブルを挟んで、テノの対面にある椅子の方から。
声が聞こえる。
「そいつは幻を見ているだけだ。〔救世主〕と言う偶像を。」
いつの間にか移動していたクライス。
クライスの幻を通過する、ロイスの腕。
そのまま前のめりに倒れる。
ロッシェが慌てて起こそうとするが。
クライスに止められる。
「次はお前が纏わり付かれるぞ?」
そんなの御免だ。
ギョッとした顔で、ストンと椅子に座るロッシェ。
ロイスは自力で立ち上がり、そのまま着席。
さっきまで彼が座っていた椅子に。
自分も座っている。
何と言う喜び。
ロイスの意識は、何処かへ飛んで行ってしまったらしい。
ボーッとしているので、そのまま放置。
クライスは椅子から立ち上がり、ロッシェへ促す。
「さて、俺達も行くか。もうここでやる事は無いし。」
「そ、そうか?なら……。」
立ち上がるロッシェの腕を、ガシッと掴むロイス。
自分も連れて行け。
そう言いた気。
尚もロッシェへ縋るロイスに対し、活を入れるクライス。
「今のお前を、俺は認めない。態度を改めないなら、俺の意識からお前を消す。完全にな。」
『好き』の反対は『嫌い』では無く。
『嫌い』の反対は『好き』では無い。
両方とも、反対は『無関心』。
相手に意識を向けているから。
存在を認めているから。
好き嫌いの感情が生まれる。
無関心とは即ち、『どうでも良い』。
熱心な信者程、それは心理的ダメージとなる。
『どうなっても良い』と言う考えでは無い。
最初から最後まで存在を認識しないから、どうなったか感知しない。
元から無かったのと同じ。
ちょっかいを掛け続け、意識をこちらに向けようとしても。
そんな行為すら知覚しないのだ。
遣り切れない思いとなるロイス。
そこへクライスが続ける。
「陛下に尽くし功績が認められれば、俺も考えを改めよう。」
そう言い残し、部屋を後にするクライス。
『じゃ、じゃあ』とテノに挨拶して、ロッシェも出て行く。
残されたロイスは、ジッとテノを見つめる。
静かに頷くテノ。
尽くせ。
今のお前に出来る事は、それだけだ。
目でそう訴えている。
漸く自分の役目を自覚するロイス。
必ずあの人に認めさせる。
私の存在を。
不気味な存在に、思わずテノへ囁くツレイム。
『あ奴、大丈夫でしょうか?』
『まあ何とかするしか無いな。それが、皇帝である自分の役目だ。』
『感服致しました。ならば私も、同じく尽くしましょう。』
決意を新たにする、テノとツレイム。
2人が出て行った部屋の入り口を、暫く見つめていた。
『もう宜しいので?』と、ソインに声を掛けられるが。
『後は陛下の指示に従って下さい』と言い残して、足早に建物を出るクライス。
『そうですか』と一礼し、テノの方へ向かうソイン。
ロッシェが、建物の外で漸くクライスに追い付く。
スタスタと振り返らずに歩いて行くクライスを。
『様子が変だ』と感じ、肩を掴んで止めるロッシェ。
その手から伝わって来る。
クライスの身体の震えを。
ロッシェには、その理由がとんと分からなかった。
しかしクライスは、一刻もそこから離れたかった。
【あの女】と同じ。
熱狂的に迫って来た、あの女と。
忌々しいあいつと。
悍ましい光景を思い出し、ロイスとその女の影を重ねてしまった。
でももう、過ちは繰り返さない。
そう思い直す頃には、クライスの震えは止まっていた。
クライスがそこまで嫌悪する《女》とは……?
良くは眠れなかったが、休息を取るには十分だった。
今日も今日とて、ウタレドのあちこちで建物修繕の音が響く。
半ばやけくその様に。
解放されたとは言え、まだ安息と呼ぶには程遠い。
そうやってもがいている人々の姿を見て、申し訳無く思うテノだが。
止まるつもりは無い。
今こそ。
町の中央付近。
魔力放出の大きなアンテナが立っていた場所。
憎しみを以てぶっ壊された跡が残る、その地点で。
右手拳を高く掲げ。
テノが叫ぶ。
「我《シルベスタ3世》が、ここに宣言する!勢力よ、集え!」
何を言ってるんだ、あいつ?
そう言う目をしている人達。
当然。
相変わらず行商人の格好をしているからだ。
大声を上げるテノを見つけ、駆け寄って来るソイン。
「困るよ、唐突に変な事を言い出して貰っては……。」
そう言いながら近付くソインを。
ギロッと睨み付けて。
テノがソインを罵る。
「我は皇帝ぞ!知らぬと申すのか!無礼者め!」
テノの気迫に、畏れ慄くソイン。
初めて会った時と、迫力がまるで違う。
こっちの方が、本来の姿だと言うのか……!
困惑する司令官。
その姿を見て、ざわつき出すギャラリー。
そこへ、1人の男が馬で乗り付ける。
そして馬から降りると、静かにかしづく。
「お待ちしておりました、【陛下】。」
膝間付いた男は。
クライスから金の鳩での連絡を受け、参上したツレイム。
作戦を発動させるから、駆け付けて欲しい。
これが恐らく、最終局面。
クライスからそう連絡されれば、行かない訳には。
ツレイムに向かい、テノは語り掛ける。
「忠誠の厚い騎士よ、真に嬉しいぞ。」
「勿体無きお言葉。」
ツレイムの右肩へ、労うかの様に手を置くテノ。
そのやり取りを見て、『本物の皇帝なのか?』と思い直すギャラリーは。
その場で推移をジッと見守る。
テノは続ける。
「弟アリューセントを取り戻す為!そして長年の因縁に決着を付ける為!今こそグスターキュへ攻め入る時!見よ!」
そう言って、用意しておいた封筒の束を懐から取り出し。
空へ向けて放り投げる。
それ等は風に舞い、空高く上がって行く。
その途中で。
上空から封筒の渦へ飛び込む影が。
白く輝くカラス。
それも12羽。
その数が何を意味するのか、考える為に。
ギャラリーの時が止まる。
そしてすぐに動き出す。
テノが叫ぶ。
「知らせよ!【魔法使いの下僕】よ!ここへ集結する様、12貴族へ!」
その言葉が終わると同時に、封筒を携えたカラスは四方八方へ飛び去った。
ドキッとするギャラリー。
魔法使いだと!
とうとう陛下側へ付いたと言うのか!
これは大変だ!
ここが戦場になる!
『わああっ』と、歓声にも悲鳴にも取れる声が町に響く。
混乱する民衆。
何とか抑えようとするプレズン軍。
そこへ。
「ご安心を。」
周りを煌めかせながら、テノの方へ歩み寄る。
クライス。
そしてツレイムと同様に、テノの前でかしづくと。
こう言った。
「共に歩みましょうぞ。」
その最中も、周りがキラキラ輝いている。
ふと木の葉が3枚程、クライスの方へ飛んで行く。
しかし、クライスまであと2メートルと言う所で。
皆瞬時に金へと変わり、ストンと地面へ落ちた。
呆気に取られる民衆、そしてプレズン軍。
テノは周りへ向かって叫ぶ。
「我の元へ、力強い従者が駆け付けた!この者こそ、《幻の錬金術師》よ!」
そして挨拶とばかりに、クライスは。
地面に手を置き、ジュンッと力を込めると。
蜘蛛の巣の様に、網目状の金の糸が『ズアアアアッ!』と広がり。
瞬く間に、町の境目が金へと染まった。
スクッと立ち上がるクライス。
続いてツレイムも立つ。
そして周りへ向かって、笑顔で手を振ると。
ドッと歓声が上がる。
それは完全に歓迎の声。
あの噂の者まで、陛下の元へ集うとは!
これはやるしか無い!
疲弊していた心に、やる気の炎が灯る。
テノはツレイムとクライスを伴い、ソインの元へ来ると。
拠点へ案内する様命ずる。
既に感服していたソインは、慌てて案内する。
4人と、ツレイムが乗って来た馬を引く者は。
プレズン軍の拠点が置かれている建物へと入って行った。
建物の中へ入り、奥へ進む。
そして大きな部屋へ出る。
そこは、作戦や指示を束ねる部屋。
そこに置かれた、司令官用の椅子をテノへ譲ると。
3歩下がって平伏すソイン。
低姿勢を保ったまま、ソインがテノに言う。
「素性を存じ上げませんで!数々の御無礼、申し訳ありませんでした!」
小汚い行商人と思っていたのは、仮の姿だった。
皇帝自らこんな所まで来るとは、思いもしなかった。
だから尚更、動揺している。
『うむ』と頷きながら、部屋から下がる様テノが命ずると。
無言でススーッと、ソインは下がる。
テノの座る椅子の前には、長方形のテーブル。
脇にはそれぞれ4つ椅子が並んでいる。
テノに近い側へ。
テーブルに向かって、テノの右側にはツレイムが着席。
左側には、クライスともう1人。
早速文句を付ける、ツレイムの馬を引いていた男は。
「クライスよー。ちょっと演出が派手過ぎじゃねえのか?」
「あれ位やった方が、効果覿面なんだよ。いい加減、理解してくれよ。」
「カッコ付け過ぎだって言ってんだよ、俺は。」
「まあまあ。そう言うな、ロッシェよ。」
テノがそう説得する。
そう、馬引き係のロッシェは不満だった。
俺だけ、特に役無し。
偶には派手に登場したいのに。
クライスばっかり。
そりゃあ、俺が現れた位で説得力が無いのは認めるけど。
それが悔しかった。
同時に、クライスの異質性を痛感する。
このまま丸く、事が収まるとすると。
こいつは何処へ行くのだろう?
この世界に、居場所など有るのだろうか?
そんなロッシェの考えを察してか。
クライスはロッシェに言う。
「俺なりの主張なんだよ。『ここに居るぞ』ってな。」
それは『この世界に殺されないぞ』と言う決意にも取れた。
そこまで言うなら。
ロッシェは文句を言わなくなった。
代わりに。
騒がしい物音を伴って、現れた者が。
「ああ!いらっしゃったなら、お声を掛けて下されば……!」
クライスの信奉者と化したロイスだった。
彼の願いは叶わず、余計に神格化を拗らせた様だ。
隣に座るロッシェをやっかみながら、クライスの背後に回ると。
クライスの首に、自身の腕を当てる。
大胆にも誑し込もうとするその姿は、騎士が嫌悪すべき物。
仮にも騎士を名乗っていたなら、そう言った事は慎まねばならぬ。
そう主張する、ツレイムとロッシェの目線。
厳しい目線に晒されながらも、止めそうにないロイスの態度。
しかしテーブルを挟んで、テノの対面にある椅子の方から。
声が聞こえる。
「そいつは幻を見ているだけだ。〔救世主〕と言う偶像を。」
いつの間にか移動していたクライス。
クライスの幻を通過する、ロイスの腕。
そのまま前のめりに倒れる。
ロッシェが慌てて起こそうとするが。
クライスに止められる。
「次はお前が纏わり付かれるぞ?」
そんなの御免だ。
ギョッとした顔で、ストンと椅子に座るロッシェ。
ロイスは自力で立ち上がり、そのまま着席。
さっきまで彼が座っていた椅子に。
自分も座っている。
何と言う喜び。
ロイスの意識は、何処かへ飛んで行ってしまったらしい。
ボーッとしているので、そのまま放置。
クライスは椅子から立ち上がり、ロッシェへ促す。
「さて、俺達も行くか。もうここでやる事は無いし。」
「そ、そうか?なら……。」
立ち上がるロッシェの腕を、ガシッと掴むロイス。
自分も連れて行け。
そう言いた気。
尚もロッシェへ縋るロイスに対し、活を入れるクライス。
「今のお前を、俺は認めない。態度を改めないなら、俺の意識からお前を消す。完全にな。」
『好き』の反対は『嫌い』では無く。
『嫌い』の反対は『好き』では無い。
両方とも、反対は『無関心』。
相手に意識を向けているから。
存在を認めているから。
好き嫌いの感情が生まれる。
無関心とは即ち、『どうでも良い』。
熱心な信者程、それは心理的ダメージとなる。
『どうなっても良い』と言う考えでは無い。
最初から最後まで存在を認識しないから、どうなったか感知しない。
元から無かったのと同じ。
ちょっかいを掛け続け、意識をこちらに向けようとしても。
そんな行為すら知覚しないのだ。
遣り切れない思いとなるロイス。
そこへクライスが続ける。
「陛下に尽くし功績が認められれば、俺も考えを改めよう。」
そう言い残し、部屋を後にするクライス。
『じゃ、じゃあ』とテノに挨拶して、ロッシェも出て行く。
残されたロイスは、ジッとテノを見つめる。
静かに頷くテノ。
尽くせ。
今のお前に出来る事は、それだけだ。
目でそう訴えている。
漸く自分の役目を自覚するロイス。
必ずあの人に認めさせる。
私の存在を。
不気味な存在に、思わずテノへ囁くツレイム。
『あ奴、大丈夫でしょうか?』
『まあ何とかするしか無いな。それが、皇帝である自分の役目だ。』
『感服致しました。ならば私も、同じく尽くしましょう。』
決意を新たにする、テノとツレイム。
2人が出て行った部屋の入り口を、暫く見つめていた。
『もう宜しいので?』と、ソインに声を掛けられるが。
『後は陛下の指示に従って下さい』と言い残して、足早に建物を出るクライス。
『そうですか』と一礼し、テノの方へ向かうソイン。
ロッシェが、建物の外で漸くクライスに追い付く。
スタスタと振り返らずに歩いて行くクライスを。
『様子が変だ』と感じ、肩を掴んで止めるロッシェ。
その手から伝わって来る。
クライスの身体の震えを。
ロッシェには、その理由がとんと分からなかった。
しかしクライスは、一刻もそこから離れたかった。
【あの女】と同じ。
熱狂的に迫って来た、あの女と。
忌々しいあいつと。
悍ましい光景を思い出し、ロイスとその女の影を重ねてしまった。
でももう、過ちは繰り返さない。
そう思い直す頃には、クライスの震えは止まっていた。
クライスがそこまで嫌悪する《女》とは……?
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