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第220話 改めて、これからを

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幻の湖からはまず、ラヴィ達が抜ける事に。
空間を繋げる先は、ダイツェンに在る〔闇の戯れ〕。
そこから森の中を突っ切って、リゼの仕切る諜報組織アイリスの本拠地へ向かう。
それは、『業を煮やしたシルベスタ3世が、戦争を仕掛けるらしい』と言う噂を国内に流して貰う為。
緊張を国民に植え付け、兵士達が通っても動揺しない様に。
軍に志願する一般民は、恐らく居ないだろう。
軍人だけで、規律正しく組織立って行動させる。
そこがミソ。
スムーズに国内を通り抜けて貰わなければ、作戦に支障が出ると考えたのだ。
リゼと別れてからは、更に森を突っ切ってフサエンの居る〔ウイム〕へ。
コンセンス家とは、テノの従者を通じて話が通っている筈。
それの確認に、わざわざ寄る。
ラヴィ達が敵では無い証として。
そこから更に南へ。
新しく整備された街道を辿り、トンネルの入り口へ。
メインダリーの首都〔パラウンド〕へ通じる、例の忌々しい通路。
残しておいて良かった。
こうして移動時間が短縮出来るのだから。
まさか、ここまで見通して残す決断を……?
クライスの意図を勘繰りながら、ラヴィ達は通過する事となるだろう。
パラウンドに出たら。
ソーティとオズは、セントリアの首都〔テュオ〕へ。
幽閉と言う事になっているアリュースの屋敷を目指す。
ラヴィ達は、〔サファイ〕を経由して〔シルフェニア〕へ。
女王エフィリアと面会し、協力を取り付ける。
ここでエミルは離脱。
妖精は一緒に行動しない方が良い。
クライスの判断だった。
この戦いに妖精は関知しない。
そう言うスタンスを取ると、敵側に明示させる為。
戦場に妖精が居れば、万が一加わるかも知れないケミーヤ教の手の者に発見されてしまう。
それは、余計な憎悪を煽り立てる事に繋がる。
火事場の馬鹿力の様な馬力を、いざと言う時に発揮されては困るのだ。
可能性を出来るだけ排除する。
その代わり、シルフェニアの境界で。
どさくさに紛れて敵が侵攻しない様、抑止力を発揮して貰う。
この時点でまだ、クライスは。
グスターキュ側に潜り込んでいる、ケミーヤ教の手先の存在を否定しなかった。
だからこそ、そこでエミルに頑張って貰う。
作戦の成就の為に。
エミルと別れたラヴィ達は、シルフェニアの西の端から〔ネシル〕へと入って貰う。
領主【ナキド卿】と合流後、メグからの知らせを待つ事になる。



一方、残りの3人は。
来た道を逆に。
ハウの村を経由して、〔ウタレド〕へ。
まだ町の中は、救護体制で混乱しているだろう。
それを平定すると言う名目で、《テノ》が《ユーメント》へと戻り。
皇帝として、近隣諸地域へ指示を出す。
町民の救護の為と、敵へ攻め入る軍を結成する為。
勿論、それは建前。
真の狙いは、反目する王族反対派をおびき寄せる餌に。
皇帝自ら成る事にある。
本物の皇帝が前線に現れれば、暗殺する好機と捉え必ず参加するだろう。
ある程度の戦力を率いて。
テノも覚悟は出来ていた。
最悪の場合、刺し違えても消し去るつもり。
後は、アリュースにでも任せよう。
あいつなら、フレンツの様な過ちは犯さないだろう。
未来を託すに値する。
そう言う腹積もり。
無論クライスは、皇帝を失う様な事態にする考えは一切無い。
その為の援軍、その為の情報の罠。
反対派だったアストレル家は、何方どちらにも付かない。
クライスは、そう確信している。
支配者であるエルスは、小心者で意気地無し。
それは、クライス達を首都〔ナイジン〕で素通りさせた事から明らか。
関与を徹底的に嫌うだろう。
それも想定済み。
リゼに噂を流させるのは、それを加速させる意味合いもあった。
その間に、テノの従者だった3人の騎士も動き出す。
王族賛成派である、『スラード家とイレイズ家』の率いる軍は。
砂漠からダイツェン、スコンティを通って。
東から〔ワインデュー〕へと入る。
いずれかの軍に、何らかの形でムヒス家当主のメルドも参加。
娘のハリーを守り、支配地域〔シゴラ〕を取り戻す為。
『裏切者を演じている』と、ケミーヤ教へアピールさせる狙い。
それが効いている限り、メルドの身は安心だろう。
そこまでクライスは考えている。
砂漠で土地の魔力の回復を図っているワイリーには、既に連絡済み。
一気に回復を加速させ、砂漠を森まで戻す。
幻の湖から魔力を供給して。
この時の為に駐留させていたと言っても、過言では無い。
ワイリーには、長い間苦労を掛けた。
作戦が済んだその時は、盛大にねぎらってやろう。
無事にその時が来たら、の話だが。



テノが作戦を発動させる前後に。
クライスとロッシェは、ウタレドから北西にある〔ネンタリ〕を通り。
その北にあるウォベリへと進む。
エッジスで一仕事した後、一転東へ向け進み。
ナラム家の支配する〔ヅオウ〕へ侵入し、ケミーヤ教の本拠地である〔妖精の暮らしていた場所〕を襲撃する。
奴等は、気配を消している可能性もある。
しかし、ヅオウからは最早出られない。
エッジスに錬金術師が集結している以上。
不穏な動きを見せれば立ち所に、本拠地を特定されてしまうからだ。
テューアを攻め始めた時点で、その辺りのリスクは覚悟の上だろう。
ケミーヤ教も、相当追い詰められている筈。
気を引き締めて掛からないと、逆にやられる。
慎重に、そして大胆に。
それがクライスの信条。
手を抜くつもりは無い。
全力を尽くす。
それが相手に対する敬意と言わんばかりに。
一切の容赦も無い方が、敵も諦めが付く。
相手が悪かった。
そう思わせれば十分。
プライドが高い分、一旦それが折られれば暫くは立ち上がれまい。
あいつ等はそう言う連中だ。
まるでかつての自分がそうだったかの様に、クライスは思っていた。



それぞれが配置に付き、時期が来ると。
メグが合図を送る。
作戦の本格始動、その切っ掛けを与える。
テノは皇帝として軍を率い。
予定通り、ワインデューに作られたダミーのキャンプ地へ進軍。
駐留している時に。
南からグスターキュ軍が。
東から正規軍が。
チンパレ家やナラム家の軍で構成された駐留軍をを襲う。
その混乱に乗じて、皇帝は姿を消し。
反乱軍として、チンパレ家とナラム家が裁かれる。
そして終息。
その頃には、クライス率いる錬金術師達がケミーヤ教を壊滅させているだろう。
それで幕引き。



概要は、以上。
一同、認識を再確認した後。
メグが湖のほとりに立ち、直径1メートル程の円を空中に描く。
すると囲われた部分が輝き、見た事の有る景色が。
ミレイジュと繋がった。
そう実感するには十分。
『さあ、行くわよ!』と、ラヴィの右肩に乗り直したメイが叫ぶ。
『おう!』と勝鬨かちどきを上げながら、次々と入って行く。
メグは手を振りながら、『またねー』と声を掛ける。
全員通った後。
輝く空間を、メグがツンッと右人差し指でつつく。
シュンッ!
途端に輝きは消え、普段の湖の景色が目の前に取り戻される。
ラヴィ達は旅立った。
次は自分達の番。
テノとロッシェは身構える。
するとメグが『ドンッ!』と。
2人の胸を突き飛ばした。
後ろへ倒れる2人。
シュンッ!
2人の姿も消えた。
最後にクライスは、自ら後ろへ飛ぶ。
彼の姿も、空間から消えた。
それを見送るメグが一言。

「成る様に成るよ。まあ、頑張れ。」

それはエールなのか皮肉なのか。
本当の意味は、メグの心中しんちゅうにのみ。



ドサッ!
流石のクライスも、尻餅は防げなかった。
先んじていたテノとロッシェが、まだ尻餅を付いていて。
2人を回避出来無かったのだ。
『いててて……』と言いながら、立ち上がるロッシェ。
テノも、尻の土埃つちぼこりを払いながら立ち上がる。
『勘弁してくれよ』と、さっさと退かなかった2人に文句を言いながら。
クライスも立つ。
そして3人は。
『またねー、またねー』と言う、来た時とは真逆な事を。
森の中から言われながら。
ハウの村へと向かった。
漸く、作戦発動の時。
不謹慎ながらも、テノの胸は高鳴っていた。
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