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第201話 哀れな錬金剣術師

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クライスへ向かって、ロイスが剣を水平に振る。
シュッ!
パパパパッ!
たまが複数飛ぶ。
しゃがんでクライスが弾をかわすと。
すねを目がけて、また剣を水平に斬り返す。
今度は小ジャンプで、クライスは躱す。
その間にロイスは急接近して。
弾を発射しながら、頭の上から振り下ろす。
クライスは咄嗟とっさに地面へ右手を着け、グッと力を入れ左へ押し出す。
ロイスは横っ飛びの身体目がけ、追撃の水平斬り。
地面に着いていた右手がそれをそこない、手首下5センチの所に傷を負う。
傷口から侵入する水銀は、剣の刃から生み出された物。
少量でも中毒を起こす、劇薬。
それを苦にもせず動き回るクライスは、やはり化け物か。
大方、体内で中和しているのだろう。
なら、その許容量超を叩き込むまで。
クライスは両手両足を使い、ロイスの剣撃を避けて行く。
まるで全身で跳ね回るかえるの様。
ピョンピョンと捉えどころの無い動き。
規則性を生むと、先を読まれ捕まってしまう。
時にはビョーンと大きく。
時にはタタタと小さく小刻みに。
縦横無尽に駆け回る。
クライスの機動力に感心しながらも。
中々一撃を加えられないロイスは、内心焦っている。
そこで、今度は下から上へ斬り上げる。
サッと躱すクライス。
それを囲む様に、天井から土が落ちて来る。
視界が一瞬無くなると。
片手剣だった物を2つに分割し。
双剣と変え、両手を横に突き出す。
そして錬金術で目一杯、剣の刃を伸ばす。
『ズシュッ!』と、刃先が土壁に突き刺さる。
手応えを感じると。
その刹那、『シュッ!』と剣を前で交差。
『ジュバッ!』と言う音と共に、壁がスパッと切れる。
しかし、人間を斬った感触が無い。
その時、上から突撃するものが。
奴か!
スッとロイスは避けるが、それはただの金の棒。
直径3センチ程、長さ2メートル程もあるその棒は。
純金であるが故に重量がとんでもなく、それを示すかの様に地面へザクッと突き刺さる。
背中に悪寒が走るロイス。
続けざまに、天井から金の棒が無数に降り注ぐ。
双剣の刃を頭の上でクロスさせ、円形でドーム状の盾へと変形させる。
金の棒を受け流すには、しっかり足を固定しなければならない。
その隙を付いて。
踏ん張るロイスの足へ向かって、横から飛んで来る金の棒。
ドーム状の盾を更に広げ、かまくらの様に周囲を覆うロイス。
その曲面で弾かれる金の棒達。
突き刺さる音が止むと。
ロイスはドームを無数の針へ変換。
全方位に向けて発射。
その内何本かは、人の身体を貫通する音がした。
やったか?
針を打ち終わると、手元に金属製のだけが残る。
2つに分けた柄を1つに束ね、右手で前に構える。
周りは突き刺さった針の巻き起こした土煙で、視界が悪い。
それが晴れるまでには、数秒を要した。
そこでロイスが見た光景は。



土があちこち、こんもりと山を作っている。
人が埋もれているか確認出来ない。
柄から、1メートルは有る針をシュルリと出し。
フェンシングの剣の様に形作る。
それを土の山に突き刺し、1つ1つ確認する。
自分を中心にし剣の刃を伸縮しながら、半径50メートルを万遍無く差し尽くすと。
左手を掲げる。
勝利を確信した様に。
満面の笑みのロイス。
その時。
壁の崩落個所から、勢い良く飛び出す影。
クライス。
ロイスがドームを形成した瞬間、崩落個所へ向かって金の縄を伸ばし。
一気に縮めて土砂の中へ隠れる。
ロイスからは100メートル近く離れていた為、確認の範囲外だった。
あの一瞬で、そこまで飛べるとは考えていなかった為。
虚を突かれた格好のロイス。
刃を扇状に、それぞれ10本へ分割。
飛んで来るクライス目がけ、剣を突き出す。
勢いを殺して避けようとするが。
済んでの所で、端の1本を食らってしまう。
丸々1本分、奴の体中に入れる事が出来た。
それだけの水銀の量を、果たしてしのげるかな?
今度こそ『勝った』と思ったロイス。
しかし。



クライスのタフさ加減は、ロイスの顔に段々焦りの色を生み出す。
クライスはゴロゴロ横に転がると、刺さった右手の甲を横にブンッと振り。
体内から水銀をバッと、傷口から吐き出す。
体内のコントロールも出来るのか?
やはり宗主家は化け物か!
要らぬ雑念が湧き出すロイス。
その時。

「隙有りっ!」

『ブウンッ!』と金の縄を、ロイス目がけて投げ付ける。
易々とそれを切り落とすが。
その破片が細い蛇へと変わり、ロイスに迫って来る。
刃を完全に扇状と化し、全てを壊す様に上から叩き付ける。
金の蛇は、のたうち回った後全て消滅した。
このままでは、破れてしまう。
そうなれば、今までの苦労が……!
切り札を使うしか無い。
その術を使えば、自分の身体に過度な負担を掛けてしまう。
やむを得まい。
寧ろ、ここまで追い込んだ相手を褒めるべきだ。
覚悟したロイスは。
扇状の刃を、再び針状へと戻し。
クライスに大声で話し掛ける。
わざと虚勢を張る様に。

「どうやったら、そんな強大な力を手に出来るんだ?」

「何だ、急に?」

とどめを刺す前に、聞いておきたくてな。」

「強がりを……。」

「違うね!確信が有るからさ。勝つと言う結果が得られる、な!」

「あいつもそんな事を言っていたな。」

「フレンツの事かい?あいつは駄目だ。力を量る事も出来ない、落ちこぼれだ。」

「あんたもだろ。錬金術でも、剣術でも、中途半端じゃないか。」

「私の編み出した剣さばきをけなすのは止めろ!」

「編み出した?そうじゃ無いね。『誰もが考え付いたが、敢えてしていない事』だろ?」

「うるさい!」

「それを得意気に語るとは。やはり中途半端だよ、お前は。」

「うるさいうるさい!」

「どうせこれも時間稼ぎなんだろ?何を企んでいるかは知らないが。」

「もう良い!黙れ!」

「ついでに、あんた自慢のその技の欠点を言ってやろう。」

「黙れって言ってるだろうが!」

「それは……。」

クライスが語ろうとするが。
言われなくても分かっている。
ロイスは優れた錬金術師では無い。
賢者の石を使う事は出来るが、金属を変質させる程度。
例えば、金属製の剣の刃を伸縮する事は出来る。
材質を、他の金属に変える事も出来る。
しかし、土を金属に変換は出来ない。
切り離した破片を、元に戻す事も出来ない。
つまり、剣を水銀や針に変えて放出したら最後。
吸収して刃の形を戻す事は、ロイスには不可能なのだ。
使い捨ての技、故に刀身が減って行く。
最後に針の様な刃にしたのも。
その形にしたかったのでは無く、材料不足で針状にしか変形出来なかったのだ。
クライスに指摘された通り、錬金術師としては中途半端。
故に剣術を磨き、その複合技でケミーヤ教の中でも評価を受けるレベルにまでなった。
役立たずのレッテルを張られると、容赦なく消されてしまう。
祖母の様に。
そんなの御免だ。
だから、この戦いで証明してみせる。
私が歩んで来た、この30年余り。
無駄では無かったと言う事を!
ケミーヤ教で、必要不可欠な存在だと言う事を!
ロイスは叫んだ。



「さらばだ!」



体を覆っていた鎧。
それが腹の前で金属の塊となり。
ボトッとロイスの前に落ちると。
バッと網目状に広がる。
細かなその目は、クライスの足元を過ぎ。
地下空間を掌握する程に広がる。
降ろしていた左腕に力を込め。
左人差し指をクイッと上げると。
網目から、細い金属の板が上にズズーッと伸び。
ザクザクッと天井に達する。
話に聞き入っていたのか、その間クライスは動かず。
いや動けなかったのだろうか、硬直していた。
血を吹き出しながら、ミンチ状になっていく。
その光景は、上から見れば蜂の巣の様に見えただろう。
天井は轟音を轟かせ。
崩れ落ちて行く。
落ちた土砂は50センチ程の高さまで堆積し。
術の発動が終わると、金属板群は消滅。
ロイスの足元へ、多少の土砂が流れて来る。
しかし、クライスの姿は見当たらない。
そいつからの魔力も、一切感じられない。
完全に消え失せた。
歓喜の声を上げるロイス。
やった!
やったぞ!
宗主家の人間を、見事打ち倒した!
嬉しさの余り、涙が込み上げて来る。
それをグッと堪えて。
地上へ戻る為に、積もった土砂の上へと昇る。
この辺りの天井は削り取ってしまったが。
哀れな王子達の居た場所に、まだ縄梯子が残っている筈。
そこへ向かって。
ロイスは戻って行く。
そして、かつて妖精が暮らした地下の空間には。
天井や壁から崩された土砂だけが、置き去りにされた。
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