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第187話 追った先には

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クライス達が入った、食糧庫の様な小屋。
中はやはり薄暗く、部屋の広さも対策本部がある小屋と同等。
あそこも宿屋に関係する施設だったのか?
そう思わせる、部屋の中。
壁には棚がズラリと並び、粉の入った袋らしき物が多数置かれている。
その他には、野菜の入った籠。
竹で編まれている様に見えるそれは、寝転がった子供がすっぽり入れる程の大きさ。
それも幾つか棚に置かれている。
そして部屋の左隅に、影が3つ。
目が暗さに慣れて来ると、正体が明確となる。
震えているらしき、それ等は。

「……子供?」

セレナが声を出すと。
影の前に立ち塞がる者が。



「正解。」



「あっ!」

驚くセレナ。
アンの言った通り、モグラ。
でも何かおかしい。
良く観察すると。
分かった!
足だ!
足がウサギみたいなんだ!
同じ事をロッシェも思っていた。
そして喋ると言う事は、新しい魔物か?
ギロッと睨み、そいつに威嚇するロッシェ。

「おい、モグラビット!子供に何をした!」

「『モグラビット』って。面白い表現ね。」

アハハと笑うメイ。
少し困った顔をして、モグラビット呼ばわりされた魔物が言う。

「兄ちゃん、口の利き方に気を付けなよ。これでもおいらは使い魔なんだぜ?」

「え?そうなのか?」

目を丸くするロッシェ。
メイは追い駆ける間、そんな事一言も言わなかった。
セレナの方を見るロッシェ。
初耳と言った表情をするセレナ。
まさか、こいつは気付いてたんじゃないだろうな?
クライスの方を見ると。
魔物を前にして、顔色一つ変えていない。
やはり正体に気付いていた様だ。
だから慌てて後を……。
まあ良いさ。
こうして、とっ捕まえる事が出来るんだからな。
ロッシェは魔物を尋問しようとする。

「お前!」

「お前じゃねえ!おいらには【モヅ】って言う、ちゃんとした名前が……!」

「どうでも良い!野菜泥棒はお前だな!」

「やたら確信的に断言するんだな。」

ロッシェの口調が気に入らないのか。
文句を垂れるモヅ。
それはメイにも向けられる。

「折角呼んだのに、余計な奴まで連れて来るんじゃねえよ。」

「それはこの男に言いなさいな。ご主人のお気に入りにさ。」

メイはクライスの方を見る。
『じゃあ』と、クライスに矛先を向ける。



「あんたが良く話に出て来る【懐かしい奴】かい。こんな野郎だったとはね。」



懐かしい奴。
言ってはいけない言葉。
うっかり喋ってしまうモヅ。
気付いた時には、金の網籠に入れられていた。
しまった!
ご主人にも口止めされてたんだった!
急に冷や汗がダラダラ。
網の目からクライスの顔を覗くと。
今まで見た事の無い表情。
上手い事、セレナとロッシェには見えない立ち位置に居るが。
親の仇を睨む様な形相に、生きた心地がしないモヅ。
すぐにその場で土下座する。
呆れるメイ。
フンと横を向いて、クライスが金の籠を消す。
見事な土下座の姿を、皆に晒すモヅ。
声が掛かるまで微動だにしない。
幸いにも、ロッシェとセレナにはその単語が届いていなかった様だ。
クライスがやったであろう行為に、不思議がるばかり。
それよりも。
クライスが籠を消したのは。
その表情を見たであろう、子供達の体の震えが加速したからだ。
クライスは子供達に、優しく声を掛ける。

おびえさせてごめん。君達には何もしないよ。」

信じられないと言った顔で、まだ震えている子供達。
その中の1人が、絞り出す様に言う。

「モ、モヅをいじめないで!」

見た目7、8才位の少年。
それを皮切りに、モヅを庇う様な発言をする残りの2人。

「私達のせいなの!」
「そ、そうだ!怒るなら俺達を……!」

先に発言した少年と同い年位の、少女と少年。
どうせクライスが尋ねても、答えはしないだろう。
こんなに怯えているんだから。
なら、あたしが。
子供達の前にトコトコとメイが進み出て、声を掛ける。

「別に何もしないわよ。『あんた達がこれから何を言うか』によってはね。」

「どう言う事?」

話すネコに動じない子供達。
モヅの仲間だと思っているのだろう。
しっかり反応する子供達に、メイが問い掛ける。

「畑の野菜を食べたのは、あんた達ね?」

メイの言葉に俯く子供達。
そしてボソッと呟く。

「……しょうが無かったんだ。」
「腹ペコで……。」
「分けて食べたの。悪い事だとは思ってたんだけど……。」

「ふうん。」

一応言い分は聞いた。
今度はモヅへ。

「魔力を増幅させてまであたしに知らせたのは、この子達の件ね?」

メイの毛が逆立ったのは、増幅させたモヅの魔力に反応したから。
使い魔同士が居場所を知らせ合うのに、良く使われる手法。
もっとも、クライスの様に魔力を探知出来る者が居る場合は逆効果となるが。
敵に居場所がバレてしまう。
この町に魔法使いの敵が居るかも知れないのに。
そこまでした訳は。
ようやく土下座を止め、座り直して話すモヅ。

「か、可哀想だったんだ。それで……。」

「それで?」

「代わりにおいらが調達したんだ。」

「穴を掘って?」

「そ、そうだよ。おいらには、それしか取り柄が無いからな。」

畑に空いていた穴。
対策本部の小屋に空いていた穴。
どちらもモヅの仕業。
子供達の為に野菜を盗み、自警団が創設されるとその動向を探る為に小屋を出入り。
理屈は分かるが。
窃盗は立派な犯罪。
子供とは言え、そこまでしてやる義理は無い。
ロッシェは、モヅをジッと見つめる。
更なる説明を求める視線。
それはセレナからも飛んで来る。
クライスは無言。
モヅからはそっぽを向いたまま。
仕方無いと言った風に、メイがモヅに尋ねる。

「どうしてそこまでして、この子達を助けようとしたの?」

「そ、それは……。」

チラッと子供達の方を向くモヅ。
静かに頷く子供達。
喋っても良いよ。
許可が下りたので、フウと一息付いた後モヅは言った。



「この子達は、着の身着のままで逃げて来たんだ。【クェンド】の町から命からがら、な。」
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