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第164話 方便、罷(まか)り通る

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「おい、そこの!止まれ!」

テント付近の係員が制止する。
その隊列は縦長。
先頭を歩くのは……騎士?

「何処の者だ!」

偉そうな口の利き方をする係員。
バックに付いているのが12貴族だからなのだろう。
安心しきっていた。
そこへ、馬車から降りて来る老紳士。
係員に声を掛ける。

「控えよ!12貴族ムヒス家の娘、ハリス・エル・ムヒス様の御前であるぞ!」

馬車の方を見ると、少女が立ち上がって胸を張っている。
権威を見せつける様に、ドヤ顔で。
うたぐり深い係員。
『証拠は?』と老紳士に迫る。
老紳士は馬車の方へ合図を送ると、ストっと少女が降りて来て駆け寄る。

「どうしたの、じいや?急いでいるのは、分かってるでしょう?」

「それが、この者が『ムヒス家である証拠を見せろ』と申すもので……。」

「フン。無知がこれ程に恥ずかしいとはね。」

少女と老紳士のやり取り。
後ろに控え、黙って聞いている騎士。
『仕方無いわね』と言いながら、少女は首に下げているブローチを係員に見せる。

「どう?本物でしょ?」

顔を近付けてマジマジと見る係員。
自分では真偽を見分け難い。
そう判断したのか、誰かに責任転嫁しようとしたのか。
他の係員を呼びつける。
ぞろぞろ集まって来る係員達。
良く見ると。
皆胸に、チンパレ家の家紋が入ったバッジを付けている。
ああだこうだと言い始めたと思ったら、皆頭を抱えて悩み出す。
そして出した結論は。



「分かりました。お通り下さい。」



「当然でしょ。」

すまし顔で応える少女。
『先にお通りなさい』と、騎士を先陣に列を進ませる。
慌てて門を開く係員。
そこを騎士がまず通過。
老紳士は馬車に乗り込み、門を通過させた後再び戻って来る。
次にボロボロの衣服を着た集団が通ろうとした時。

「待った!こいつ等は通す訳には参りません!」

係員が異議を唱える。
すかさず尋ねる少女。

「何故?」

「何故って……当たり前でしょう!こんな身分の低い奴等を……。」

「そう。」

抵抗する係員に、少女が言い放つ。

「身分が低くて当然よ。だって《奴隷》だもの。」

「ど、奴隷!」

驚く係員。
確かに、召使いとして奴隷を連れている貴族は居る。
使い捨て同然の扱いをするので、それ等の貴族は嫌悪の対象になっているが。
それにしたって、こんな少女がこれだけの人間を奴隷として連れて行くのか?
疑問に思うのも無理は無い。
構わず少女が続ける。

「ただの奴隷じゃ無いわよ。《献上品》なの。」

「け、献上ですと!」

「そう。これから嫁ぐ陛下の弟君、ワンズ・ムース・シルベスタ様へのよ。」

「何と!」

嫁ぎ先の王族へ。
それならこの規模も分かる。
納得しかけるが、まだ何かを感じる。
『怪しむだけ怪しめ』、それが係員の極意。
そこで係員の1人が思い出す。

「確かに、婚約の噂は聞いた事が有るな。」

その発言に呼応する様に、色々な言葉が。

「チンパレ家のめいだっけ?」
「政略結婚だろ、どうせ。」
「こんな年端も行かない子供が、ねえ。」

同情なのか、哀れみなのか。
変な感情が、係員達の間を駆け巡る。
でも、それには関与したく無い。
結局、そう言う結論に至った様だ。

「お前達、さっさと通ってくれ。立ち止まるとこっちが迷惑だ。」

係員が誘導し、次々と門を通り抜ける。
全員が向こうに渡ったのを確認し、老紳士に連れられて少女が通る。
去り際に、不気味な笑みを浮かべて。

「ご苦労様。」

そう言って消えて行く少女を係員達は気味悪がり、さっさと門を閉じるのだった。



「上手く行ったあ……。」

胸を撫で下ろし。
一気に張り詰めていた緊張の糸が切れ、フラフラになるハリー。
リンツに抱きかかえられると、再び奮起し元スラッジ民へと駆け寄る。
そして皆に小声で『ごめんなさい』と謝って回る。
切り抜ける為とは言え、奴隷扱いしてしまった。
申し訳無い気持ちで一杯。
しかし事前に作戦内容をアンから聞かされていたので、文句を言う者は一人も居なかった。
彼等に混じっていたロッシェが、『もう良いかな?』とラヴィに聞いて来る。
『良いんじゃない?』と言う返事に、いそいそと着替え出すロッシェとセレナ。
ラヴィ自身も着替える。
と言っても、脱いでいた鎧や防具を付けるだけだが。
先に着替えたアンが、トクシーの鎧に触れる。
すると、隠れていたアリュースの紋章が再び現れた。



婚約を解消したくて逃げ出したハリー。
それを逆に利用した。
王族に輿入れする為、奴隷を伴って門を潜る。
考えられる最上手さいじょうて
トクシーがアリュースの使いだとバレない様、アンが錬金術で一時的に紋章を隠した。
敵国の者と悟られない様、ラヴィ達は鎧や防具を荷車に隠し。
元スラッジ民に紛れて侵入。
正式な使者であるのに、そこまでしなくてはならない訳。
スラッジでの出来事が向こうに伝わっている、だからテントを張って阻止しようとした。
堂々と通過しようとしたら、間違い無く追い返される。
最悪の場合。
親書などを取り上げられ、敵に捕まるかも知れない。
そこまで狙っている様に、アンには思えた。
巻物を見せ衛兵を退かせたのは、恐らくスラッジでクライスと対峙した人間。
奴なら有り得る。
正体を隠して侵入するしか無かった。
幸いにもカモフラージュとして、紛れる人間の集団が傍にあった。
奴隷として通すと言うハリーの提案は、理に適っていた。
思惑通り、易々と通過出来た。
後は、兄様達と合流しないと。
アンは先を見据えていた。



検問所を通過し、内周の内側へと到達した一行。
ここは12貴族の別邸が立ち並ぶだけなので、人通りはまばら。
警備兵が巡回する位。
そして町並みの向こう、この町の中心に在る王宮の姿が大きくなって来た。
王宮へ入るには、今度は北側に回らなけらばならない。
賑やかな南側からすんなりと攻め込ませない為、真逆の位置に王宮への入り口が在るのだ。
クライス達と合流し易いのは。
反時計回りに、内周内側に沿った道を進む事。
恐らく、その先で待機している筈。
皇帝との謁見は近い。
気持ちを今一度引き締める、ラヴィ達だった。
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