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第117話 ソウヤ、囮になる

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再び目を覚ますと。
ソウヤは、街道のど真ん中で寝そべっていた。
渓谷からナイジンへ向かう途中の場所。
ん?
俺は確かにナイジンへ着いた筈。
ここまで戻されたのか?
それより《囮になる》とは一体……。
考え込むソウヤ。
しかし、向こうから人の声が聞こえる。
不味まずい!
このままでは俺の身が……。
そこで一計を案じるソウヤ。
町へ向かえば、またあのヘンテコ空間へ放り込まれるに違いない。
ならば。



「何だ、これは?」

先頭を行くトクシーが何かに気付く。
荷車の中から顔を出すデュレイ。
付いて行く事にはなったが。
監禁されていた身なので、ダイツェンを抜けるまで姿を隠す事にしたのだ。
ラヴィがデュレイに話し掛ける。

「道の真ん中に何か置いてあるみたいだけど?」

「いや。俺が連行される時には、こんな物ありませんでした。」

デュレイは即答する。
素振りで嘘では無いと分かる。
ラヴィはクライスに相談する。

「何だろうね、あれ。」

「さあ?自分の目で確かめた方が良いんじゃないか?」

あっけらかんと答えるクライス。

「時々、冷めた事言うわよねえ。」

ブツブツ言いながら馬車を下りるラヴィ。

「ごめんね。ちょっと見て来るわ。」

セレナにそう声を掛け、前の群衆の中へ入ろうとするラヴィ。
『それでは私も』と続こうとするトクシーの腕を掴むクライス。
『俺が付いて行くから』と、スタスタ歩いて行った。
その姿に安心するも、何か嫌な予感がするトクシー。
その意図を知るのは、メイだけだった。



「なにー?何が置いてあるのー?」

うんしょと人を掻き分けながら前に進んで行くラヴィ。
ようやく抜けると、そこには出来立てのバリケードが。

「え?何これ?」

「よお、お嬢ちゃん。見ての通り、進路妨害だよ。」

行商人がため息。
やっと街道の穴が塞がったと思ったら、新たな嫌がらせ。

「誰がこんな事を……。」
「そんなにナイジンへ近付けたく無い訳でもあるのか?」

足止めされた面々は、口々に言い合う。
すると、バリケードの向こう側から歩いて来る人間が。

「おいおい、ここは通行止めだぞ!」

焦った表情でそう言うソウヤ。
とにかく理由が知りたい。
説明を迫る面々。

「何で通さないんだ!」
「こっちは急いでるんだぞ!」

それに精一杯の抵抗とでも言わんばかりに、身振り手振りで危なさをアピールするソウヤ。

「この先は通れないんだ!俺も町に向かってたが、いつの間にかここへ戻されたんだ!」

「だからこんな物を築いたってのか!ふざけんな!」

いかる面々。
そんな説明では納得が行かない。
そのタイミングで、ソウヤが言う。

「なら、確かめて来ると良い。俺が案内してやるから。こっちは親切心で言ってるんだぞ!」

そう言われて、急に尻込みする面々。
誰が行くか、なすり合いが始まる。

「お前行けよ!」
「お前が言い出したんだろ!お前こそ行けよ!」

云々かんぬん。
討論するが、まとまらない。
思った通り。
通れないなら通りたくなるのが人の心理。
確かめたくなる奴が、きっと出て来る。
ソウヤが大声を出す。

「誰か居ないのか!それとも、本心ではここが塞がれてて安心してるんじゃないのか!」

「うーん。」

考え込むラヴィ。
自分みたいな弱そうな人間が見に行って、通れる事を立証出来れば。
みんな安心して動けるんだろうけど。
どうしようかなあ。
確かめてみたい気持ちと、怖い気持ち。
揺れ動く思いのラヴィに、クライスがそっと囁く。

『俺に考えがある。行くと良い。』

そ、そう?
クライスが言うなら……。
付いて行く事にしたラヴィ。

「私が行くわ。文句無いわよね?」

右手を上げて立候補する。
勇気のある少女の行動に、『済まねえな』と面々が謝る。
気にしないで、すぐ戻るから。
そう返事して、前へ進み出るラヴィ。
後ろにクライスが付く。

「さあ、何処へでも連れて行きなさい!」



かかった!
ソウヤは内心そう思った。
群衆の中に、見覚えのある顔があった。
クライス。
親父に変な事を言っていた奴。
そいつが傍に付いている女なら、旅の連れだろう。
人質には持って来いだ。
こいつを、あの変な奴の居る空間に放り込めば。
どうせ、これが《囮にする》の真意だろう。
不本意だが、乗ってやる。
俺が生き残る為に。
やってやるさ。



「じゃあ、こっちに来て貰おうか。」

バリケードに、人ひとりがやっと通れる隙間を作るソウヤ。
それに体を潜り込ませ、何とか通るラヴィ。
『こっちだ』と手招きするソウヤに、歩調を合わせるラヴィ。
小さくなる姿に、『頼んだぞ、嬢ちゃん』と祈る思いの旅人達。
離れた所で心配そうに見つめるセレナ。

「あんたも行く?馬車はあたいが見とくけど。」

メイにそう言われて、首を横に振るセレナ。

「ここは私が任されたから。離れる訳には行かない。」

たくましい言葉にうんうん頷くロッシェ。
感心するトクシーとデュレイ。
ボーっとしているエミル。
アンだけは、兄達の企みに漸く気付いて苦笑い。
どうよ!
言葉だけで、ここに釘付けにして。
邪魔しない様にしてやったたわよ。
メイは内心、クライスへ対抗心を燃やしていた。



「まだ進むの?大分だいぶ来た筈だけど……。」

少し戸惑うラヴィ。
後ろに居た筈のクライスは、いつの間にか居なくなっている。
心細い気持ち。
名乗り出るんじゃなかったかなあ。
そう思い始めた時。
ソウヤが叫んだ。

「ここだ!この辺だ!」

街道を指差すソウヤ。
じっと見ると、空間に変な揺らぎが。
近寄って、じっと見ようとするラヴィ。
そこを、不意をいて。



ドンッ!



「きゃああっ!」

揺らぐ境目に触るラヴィ。
身体が支えられない!
倒れる!
良く見ると、自分の体が境目でスウッと消えて行く。
どう言う事?
混乱する間も、境目に飲み込まれて行く。

「ちょっと!助けなさいよ!ク……!」

そこまで言って、ラヴィが消えた。

「やった!やってやったぞ!」

女は消した!
あの変な空間へ!
ざまあみろ!
俺をあなどるからだ!
あっはっは!



「何笑ってるんだ。お前も行くんだ、っよっ!」



「な、なにいぃぃぃぃ!」

ガンッとクライスに背中を思い切り蹴られ、空間にまた吸い込まれるソウヤ。

「行ってらっしゃーい。」

笑顔で手を振るクライス。
くっ!
やられた!
でも女はこっち側だ!
どうする事も出来まい!
ガハハハハ!
クライスの笑顔にムカつきながら、そう言い返すので精一杯のソウヤ。
最大限の強がり。
ソウヤもすっかり消えてしまった。
涼しい顔でその場に立っているクライス。
様子をこっそり見に来たメイ。

「上手く行った様ね。」

「ああ。後は《あいつ等》に任せよう。」

ジッと境界面を見つめるクライス。
その場に座り込むメイ。
果たして、ラヴィはどうなるのか?
ソウヤの身は?
予想外の、そしてちょっとした冒険が始まった。
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