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第110話 救出への暗雲と光明

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渓谷から北上して来る〔第1ルート〕と、ぐるっと遠回りし東進して来る〔第2ルート〕の。
2つの街道が交わる場所。
一行がその交差路に近付いて行くと。
何やら行列が出来ている。
トクシーが異様な気配を感じ、クライスに報告。
念の為、クライスはエミルに様子を見て来る様頼んだ。
丁度退屈していたので、刺激が無いかとすっ飛んで行くエミル。
その間、一行は街道から少しずれた位置で待機。
程無く、エミルが帰って来た。
大声を上げながら。

「ひえーーーっ!」

「どうしたの?滅多に出さない驚きの顔して。」

ラヴィが尋ねる。
あせあせ。
エミルが身振り手振りで伝えようとする。

「あのね、あれが、あれで、それで……。」

「落ち着いて。はいこれ。」

アンが水入りのコップを差し出す。
一気に飲み干し、プハーッと言う声を出した後、エミルが話し出した。

「大変な事になってるよー!道路がボコッてなってて……。」

「ボコッ?」

「そうそう!凹んでるんだ。こーんの位。」

そう言って、ここからここまでと言う風にクルクル飛び回るエミル。
ざっと直径5メートル程。
かなり大きい。
街道の幅に近い。

「深さは?」

アンが聞く。
『うんとね、アンの背の半分位』と返事するエミル。
と言う事は7、80センチ位か。
人はともかく、馬車は通れないな。
クライスは考える。
ラヴィがクライスに聞いた。

「これも妨害かしら?」

「だろうな。向こうはかなり焦ってる。形振なりふり構っていられない状況の様だな。」

交差路はすぐそこ。
そんな箇所に大穴を開ける。
そこまでして進路を阻みたいか。
デュレイ救出は、余程都合が悪いらしい。
そうなると、逆に燃えるのがクライス。
もう少し様子を知りたい。
クライスはエミルに尋ねる。

「それで、並んでる人達の様子は?」

うんとね、うんとね。
エミルが話す。

「何人かは穴を覗いて、向こうへ渡ろうとしたんだ。そしたら……。」

「そしたら?」

セレナも聞いている。

「向こう側から人がやって来て、登ろうとする人を棒でつつくんだ。」

「まあ、酷い!」

呆れるセレナ。

「大声で『こっち来んな!』って怒鳴ってたよ。それで言い争いが始まって……。」

「ごたごたが起こったから、慌てて戻って来たと?」

「そう、そうなんだよ。うちにはどうしようも無くてさ。」

少ししょんぼりするエミル。
『やめようよー』と双方に言ったらしいのだが。
妖精なので声が届かず、空しくなったらしい。
それをセレナから伝え聞いて、ロッシェはうんうん頷く。
自分が話し掛けているのに、聞き入ってくれないのは悲しい。
共感する部分がある。
『それは的外れな事を言ってるからでしょ』とラヴィに突っ込まれるが、こればかりは反論する。

「そうやって俺の話を聞かないだろ?同じ事だよ。」

『ちったあ反省して欲しいね』と、ロッシェは文句を付ける。
今回はクライスも同意。

「ラヴィは話を聞かない時がある。特にロッシェのはな。」

「あんただって流す時があるでしょ!人の事言えないじゃない!」

「まあまあ、ここで我等が言い争いを始めても……。」

トクシーが止めに入る。
『確かに』と、クライスはあっさり引っ込む。
ムキーッとなって気持ちが収まらないラヴィ。
セレナが流れを変えようと話し出す。

「とにかく、このままでは目的地の洞窟に近付けません。別ルートを探さないと……。」

デュレイが幽閉されているともくされる洞窟は、交差路から渓谷の方へ戻ってすぐの脇道から入って行かなければならない。
どうしても交差路までは進む必要がある。
しかし進路は穴で塞がれている。
どうするか……。
一同が悩んでいる時。



ガサッ!
ガサガサッ!



近くの草から何かが通る音がした。
突然の事に、全員が臨戦体制を取る。
ガサッと言う音は段々近付いて来た。
そして。



「プハーッ。やっと出れたー。」



現れたのは、緑の服に緑のズボン。
緑の靴に、緑の帽子。
全身が緑尽くめの、まだあどけない10才位の少年。
良く見ると、髪の毛まで緑色。
うん?
ラヴィは少年から何かを感じ取る。
何処かで、同じ様な雰囲気の人に会った事が……。
……。
…………。
あっ!

「君、名前は?」

怪しさが拭えない中、ラヴィは思い切って尋ねてみる。
見当が当たりだとすると……。
少年からは、意外な答えが帰って来た。

「お姉さん、僕が見えるの?」

やっぱり。
エミルだ。
妖精に雰囲気が似ているんだ。
他の人の反応は……?
周りを見ると。
やはり、見える人と見えない人が。
トクシーとロッシェは見えないらしい。
動いている草の動きを追い駆けるだけ。
他は少年を見据えている。
ラヴィは前屈みになって、改めて少年に話し掛ける。

「見えるよー。私はラヴィ。旅をしてるの。あなたは?」

「僕はねー、【リド】。あれ、これ言って良かったんだっけ……。」

「うちは見える?」

そう言って、スーッとリドに近付くエミル。
あっさり『うん』と返事した。
ラヴィがエミルに聞く。

「この子って、妖精?」

「感じる魔力がうちに似てるけど、違うかなあ。」

「ふうん。」

またリドに尋ねるラヴィ。

「君って、もしかして妖精さん?」

リドは返事をするが、理解が少し難しい答えだった。

「そうでも有り、そうでも無い。そんな存在かな。」

『それより』と、リドが或る提案をする。

「何か分かんないけどここで止まってるんならさ、ちょっと手伝ってくれないかな?旅の仲間が捕まって困ってるんだ。」

「仲間が捕まってる?」

セレナの返事を聞いて、姿声が分からないトクシーが反応する。

「それはひょっとして、デュレイの事では……?」

「うん?このおっちゃん、デュレイの事知ってんの?」

リドの返事に、声を出すセレナ。

「デュレイさんが旅仲間なの?」

「そうだよ。」

「私達、その人を助ける為にここへ来たのよ。」

「え?ほんとに?やったあ。」

ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶリド。
そして、草むらの中へ手招きする。

「じゃあ早速付いて来てよ。大丈夫、馬車も通れる様にするから。」

そうりドが言うと、景色がバサアッと開いて道が開けた。
何故か、木も草むらも横にずれている。
何か特殊な力を働かせた様だ。
しかし、デュレイ救出にはまたと無い援軍。
『行きましょう』とトクシーは皆を促し、率先して入って行った。
『先生が行くなら』と、ロッシェも続く。
セレナとラヴィも馬車に乗り込み、馬を走らせた。
アンが入り、辺りを伺いながらクライスとメイが入る。
最後にエミルとリドが入ると、景色は元通りになった。



その光景を、たま々見ていた者が居た。
早くナイジンの町に行って、支配者であるアストレル家へ届け物を渡さねばならぬのに。
こんな所で足止めを食らう訳には行かない。
そうやって辺りを見回していると。
馬車が森の中へ入って行くではないか。
『通り抜けられる道があるのか』と思い、一行に続こうとするも道が見当たらない。
『おかしい』と辺りをうろうろする行商人。
すると。
変な動きをするから目立ったのか、続々と人が集まって来た。
そして通れる通れないの押し問答が続いた後、結局通れないと判明し皆諦めた。
旅人達の様子を、つつき用の棒を持ちながら見ていた親父の手下。
そう、親父の差し金が邪魔をしていたのだ。
1人が向こう側へ乗り越え、聞き耳を立てて会話をそっと観察する。
怪しい事が起こった。
その事実を知ると、すぐに仲間の所へ戻り相談。
親父に知らせる事となった。
『どんな些細な事でも見聞き漏らすな』と言明が下っていたのだ。
代表がすぐに、親父の元へ飛んで行った。



と言う訳で、あれこれアクションが起こったが。
どちらが有利か、この時点では確定していない。
そんな波乱要素を含み、事態は進行していった。
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