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第102話 或る洞窟にて
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ここは、とある洞窟。
鍾乳洞と化したその奥行きは50メートル程。
幅も15メートル程あり、何かが住めそうだ。
その突き当り、窪んだ箇所に鉄格子が嵌めてある。
天然を利用した檻。
その中に人影が。
見ると、フンフン筋力トレーニングをしている。
何時迎えが来ても良い様に。
身体を衰えさせる事無く。
その様子を、黙ってボーッと見ている監視役。
そこへ、顎髭をたくわえた偉そうな奴がやって来た。
身体はいかつく、板切れも殴り割れそうな筋肉を湛える。
首を回しながら、監視役に話し掛ける。
「どうだ、様子は?」
「あ、親父!それがピンピンしていやして……。」
「ちゃんとやってるんだろうな?『生きぬ様に、死なぬ様に』。食事は最低限にしとけと言った筈だが?」
「わ、分かってまさあ。でもいつの間にか、中に置かれてるんですよ。」
そう言って、監視役が檻の中を指差す。
そこには、明らかに栄養がありそうな野菜が山盛り。
しかも、生でそのまま食べられる物ばかり。
「不審な奴は近付いているか?」
「いえ。こいつと2人で四六時中見張ってますが、特に怪しい奴は……。なあ!」
監視役は。
座っている椅子の傍に設置された、仮眠用のベッドの方へ声を掛ける。
「何だ、まだ交代の時間じゃ……お、親父!」
「不審な奴は……。」
「見てません!断じて!」
「……そうか。」
慌てて答えるもう1人の様子を見て、誰かが差し入れにこっそり訪れている可能性を排除した親父。
俺の前で嘘を付いたらどうなるか、こいつ等は知っている筈。
だから、その発言は本当だろう。
なら、一体誰が……。
「おい!お前!」
檻の中に話しかける親父。
動きを止めないまま返事する人影。
「また、あんた、かい!何か、用か、俺は、忙、しいん、だ!」
「随分余裕だな。食事も満足に取れていない筈なのに。」
「それは、そこの、山盛りを、見れば、分かる、だろ!元気、そのもの、さ!」
そう言うと。
トレーニングが一通り終わったのか、山盛り野菜をモグモグ食べ始める。
「お前、本当に貴族か?」
「それはお互い様だろ?あんたも人の上に立つのは性分じゃ無い、違うか?」
「どう言う意味だ?」
「もっと好き勝手したいが、仕方無く纏め役をやってる。そう見えるって事だ。」
野菜をすっかり平らげる。
満足の表情。
そう、それは。
捕らわれの身のエメロー・デュレイ、その人。
ラピが身代わりを務めている将軍、本人。
「俺もあちこち回ったんでな、いろんな奴を見て来た。見る目はあるつもりだ。」
「そうか、それは過大評価だな。」
「ほう?じゃあ好きでやっていると?」
「答える義務は無い。」
余計な情報は与えるつもりなど無かった。
だから親父は、さっさと会話を終わらせた。
仕方が無いので、監視役に愚痴を言うデュレイ。
「お前の親父とやらは、つれないな。少し位は、話し相手になってくれても良かろうに。」
無視する監視役。
『お前はジッと見ているだけで良い、喋るんじゃないぞ』と言われていたのだ。
しかし、時々監視役達はボソボソ話をする。
デュレイはそこから情報を得、状況を判断しているのだ。
真実を追い求めている内に、諜報に関してプロとなっていたデュレイ。
掴んだ情報だけでも、信頼出来る相手に流したいと考えていた。
そして可能ならば、ここから脱出したいとも。
そこへ飛び込んで来る、見た事も無い影。
かなり焦っている。
これは何か、変化の兆しか?
デュレイは静かに目を閉じ、耳に神経を集中させる。
すると聞こえて来た。
親父と影のやり取りが。
『親父、大変だ!変な奴らがこっちに来てる!』
『お前はソウヤ!ドズの元で待機していろと言った筈だが……。』
『そのドズが知らせろって言ったんだ!』
『どう言う事だ?順序立ててきちんと説明しろ。』
『あ、ああ。実は……。』
耳元でひそひそ。
途端に、ギョッとした表情へと変わる親父。
『それは不味いな……。』
『だろ!ベルズが動いちゃあいるが、遅くても……。』
『よし、お前はこいつの見張りに加われ。お前の腕が要る様になるかも知れん。』
『合点でえ!』
『親父はどうするんで?』
監視役が聞いた。
親父は静かに答えた。
『俺が勝手しても構わん様、許可を貰いに行く。』
『そんなの必要なんですかい?俺達、盗賊なのに……。』
『それは森だけで通用するルールだ。ここには別の支配者が居る。下手をすれば、そこに付け込まれて俺達の命が危ない。』
『なるほど!』
監視役がポンと手を叩く。
『本当に分かってんのか?』
もう1人が突っ込む。
それを無視して、親父が洞窟を後にする。
檻の方へ振り向き、親父がデュレイに大声で言った。
「またな!」
その言葉からデュレイは推測。
何か不測の事態が起きたらしい。
そのお陰で、俺の処分が延びる様だ。
あいつは『またな!』と言った。
もう一度訪れる、それまで俺は生かされると言う事。
牢屋暮らしは、まだ続きそうだ。
何時になったら、肉をたらふく食える様になるのやら。
……いや、感謝してる!感謝してるとも!
《お前さん》の協力が無かったら、今頃……。
そう言って。
デュレイは疲れを取る為、横になった。
最後の方のボヤきは、監視役の耳まで届かなかった様だが。
デュレイの言った《お前さん》とは?
確かに協力者が居る様だが……。
そしてそっと、また野菜の束がデュレイの元に置かれた。
鍾乳洞と化したその奥行きは50メートル程。
幅も15メートル程あり、何かが住めそうだ。
その突き当り、窪んだ箇所に鉄格子が嵌めてある。
天然を利用した檻。
その中に人影が。
見ると、フンフン筋力トレーニングをしている。
何時迎えが来ても良い様に。
身体を衰えさせる事無く。
その様子を、黙ってボーッと見ている監視役。
そこへ、顎髭をたくわえた偉そうな奴がやって来た。
身体はいかつく、板切れも殴り割れそうな筋肉を湛える。
首を回しながら、監視役に話し掛ける。
「どうだ、様子は?」
「あ、親父!それがピンピンしていやして……。」
「ちゃんとやってるんだろうな?『生きぬ様に、死なぬ様に』。食事は最低限にしとけと言った筈だが?」
「わ、分かってまさあ。でもいつの間にか、中に置かれてるんですよ。」
そう言って、監視役が檻の中を指差す。
そこには、明らかに栄養がありそうな野菜が山盛り。
しかも、生でそのまま食べられる物ばかり。
「不審な奴は近付いているか?」
「いえ。こいつと2人で四六時中見張ってますが、特に怪しい奴は……。なあ!」
監視役は。
座っている椅子の傍に設置された、仮眠用のベッドの方へ声を掛ける。
「何だ、まだ交代の時間じゃ……お、親父!」
「不審な奴は……。」
「見てません!断じて!」
「……そうか。」
慌てて答えるもう1人の様子を見て、誰かが差し入れにこっそり訪れている可能性を排除した親父。
俺の前で嘘を付いたらどうなるか、こいつ等は知っている筈。
だから、その発言は本当だろう。
なら、一体誰が……。
「おい!お前!」
檻の中に話しかける親父。
動きを止めないまま返事する人影。
「また、あんた、かい!何か、用か、俺は、忙、しいん、だ!」
「随分余裕だな。食事も満足に取れていない筈なのに。」
「それは、そこの、山盛りを、見れば、分かる、だろ!元気、そのもの、さ!」
そう言うと。
トレーニングが一通り終わったのか、山盛り野菜をモグモグ食べ始める。
「お前、本当に貴族か?」
「それはお互い様だろ?あんたも人の上に立つのは性分じゃ無い、違うか?」
「どう言う意味だ?」
「もっと好き勝手したいが、仕方無く纏め役をやってる。そう見えるって事だ。」
野菜をすっかり平らげる。
満足の表情。
そう、それは。
捕らわれの身のエメロー・デュレイ、その人。
ラピが身代わりを務めている将軍、本人。
「俺もあちこち回ったんでな、いろんな奴を見て来た。見る目はあるつもりだ。」
「そうか、それは過大評価だな。」
「ほう?じゃあ好きでやっていると?」
「答える義務は無い。」
余計な情報は与えるつもりなど無かった。
だから親父は、さっさと会話を終わらせた。
仕方が無いので、監視役に愚痴を言うデュレイ。
「お前の親父とやらは、つれないな。少し位は、話し相手になってくれても良かろうに。」
無視する監視役。
『お前はジッと見ているだけで良い、喋るんじゃないぞ』と言われていたのだ。
しかし、時々監視役達はボソボソ話をする。
デュレイはそこから情報を得、状況を判断しているのだ。
真実を追い求めている内に、諜報に関してプロとなっていたデュレイ。
掴んだ情報だけでも、信頼出来る相手に流したいと考えていた。
そして可能ならば、ここから脱出したいとも。
そこへ飛び込んで来る、見た事も無い影。
かなり焦っている。
これは何か、変化の兆しか?
デュレイは静かに目を閉じ、耳に神経を集中させる。
すると聞こえて来た。
親父と影のやり取りが。
『親父、大変だ!変な奴らがこっちに来てる!』
『お前はソウヤ!ドズの元で待機していろと言った筈だが……。』
『そのドズが知らせろって言ったんだ!』
『どう言う事だ?順序立ててきちんと説明しろ。』
『あ、ああ。実は……。』
耳元でひそひそ。
途端に、ギョッとした表情へと変わる親父。
『それは不味いな……。』
『だろ!ベルズが動いちゃあいるが、遅くても……。』
『よし、お前はこいつの見張りに加われ。お前の腕が要る様になるかも知れん。』
『合点でえ!』
『親父はどうするんで?』
監視役が聞いた。
親父は静かに答えた。
『俺が勝手しても構わん様、許可を貰いに行く。』
『そんなの必要なんですかい?俺達、盗賊なのに……。』
『それは森だけで通用するルールだ。ここには別の支配者が居る。下手をすれば、そこに付け込まれて俺達の命が危ない。』
『なるほど!』
監視役がポンと手を叩く。
『本当に分かってんのか?』
もう1人が突っ込む。
それを無視して、親父が洞窟を後にする。
檻の方へ振り向き、親父がデュレイに大声で言った。
「またな!」
その言葉からデュレイは推測。
何か不測の事態が起きたらしい。
そのお陰で、俺の処分が延びる様だ。
あいつは『またな!』と言った。
もう一度訪れる、それまで俺は生かされると言う事。
牢屋暮らしは、まだ続きそうだ。
何時になったら、肉をたらふく食える様になるのやら。
……いや、感謝してる!感謝してるとも!
《お前さん》の協力が無かったら、今頃……。
そう言って。
デュレイは疲れを取る為、横になった。
最後の方のボヤきは、監視役の耳まで届かなかった様だが。
デュレイの言った《お前さん》とは?
確かに協力者が居る様だが……。
そしてそっと、また野菜の束がデュレイの元に置かれた。
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