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第91話 探し者、それは

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ウイムでの騒動の頃。
宿場町マキレスでは、ダイツェン軍が荒らし回っていた。

「探せー!探せー!」

怒鳴り声があちこちで響く。
騒乱の来襲に、町の人達は家に閉じこもってしまった。
閑散とする町内。
その中をドドドドッと駆け巡るひづめの音。
兵士達の足音もうるさかった。
問答無用で家のドアを開け、中を掻きむしっては出て行く。
ブルブル震える子供。
それに覆い被さり、必死に守ろうとする親。
そんな光景があちこちで見られた。



一通り回ったのか、軍は町の入り口に一旦集合。
馬上の騎士、10人。
総勢500のダイツェン軍。
騎士の内の1人が叫んだ。

「まだ!まだ見つからんのか、《奴》は!」

「も、申し訳有りません。この町に居る筈なのですが……。」

「もう一度!手分けして探せい!」

「ははーーーっ!」

騎士の命令に、散って行く兵士達。
それをこっそり陰から見ている者達が居た。



「兄様からの連絡が無かったら、私達も巻き込まれてたわね。」

アンがそう呟く。
街道の交差路。
そこに立つ看板へ仕込んだ、金の釘。
それが異常を感知し、アンへ知らせた。
余りに多い足音。
何かが攻めて来る?
そう判断したアンは、皆に荷車を動かす様指示。
ある地面の地下に格納庫を生み出し、そこに馬ごと隠した。
換気口もある、万全の態勢。
そこに潜み、町の様子を伺っていた。
案の定、大軍が押し寄せた。
しかも、必死になって何かを探している。
目的は何?
更に観察する。
そして騎士から出て来た『奴』と言う言葉。
人?
もっと情報が欲しい。
さて、どうする?
ここに適任が居るではないか。
アン、セレナ、そしてメイは。
ある方向を向いていた。
薄暗い格納庫の中で。
ロッシェには、相変わらずぼんやりとしか見えなかったが。

「しょうが無いなあ。うちが行けば良いんでしょ?」

「頼りにしてるわよ、エミル。」

そうセレナに声を掛けられ、えへへと照れながら外へ飛び出して行くエミル。
ロッシェがセレナに声を掛ける。

「妖精が見に行くのは良いけどさあ。俺達は何してれば良いんだ、師匠?」

「だからその呼び名は止めてって!いい?待つのも大事なのよ。これは我慢比べよ。」

「そうそう。男はやーねえ。すぐに結論を急いで。」

「兄様は違うわよ?一括りにしないでくれる?」

「あんた、ほんっとに兄貴に似てるわね。使い魔であるこのあたいに、物おじしない所が。」

「まあまあ、押さえろって。」

いつの間にかアンとメイの言い争いにすり替わったので、慌てて止めるロッシェ。
ロッシェの肩をポンと叩いて、うんうん頷くセレナ。
私の気持ちが、少しは分かるでしょ?
そう言いた気な顔をされたので、隅でじっとしている事にした。
待機ってのは性に合わないんだがなあ。
そう考えながら、時が来るのを静かに待つのだった。



「取り敢えず、何処に行けば良いかなあ。」

地上に出たは良いが、対象物を持たずに飛ぶのは詰まらない。
何か良い的は……あ!
あの兵士達、様子がおかしいぞ?
或る宿舎の傍で、うずくまっている兵士達を発見。
急いで飛んで行くエミル。
そこで見たのは、何とも珍妙な者だった。



「こ、こっちに来るな!」

宿舎の傍らにある牛小屋。
中に敷かれている藁の中に、ひそむ子供。
その前に立ちはだかる、板状の炎。
何故か周りに火は燃え移らない。
不思議に思うエミル。
火傷やけどに苦しんでいる様子の兵士達を横目に、エミルが飛んで近付く。
子供に声を掛けようとするが、炎が妨害して近付けない。

「何とかして欲しいなあ。」

エミルがぼやく。
すると。

「僕を逃がしてくれるなら、良いよ。」

子供が反応。

「え?うちの声が聞こえるの?」

「うん。君、妖精でしょ?本物は初めて見るけど……。」

「うーん。」

どうしようか、少し考えるエミル。
でも、これしか思い付かなかった。

「うちの仲間が隠れてる場所が有るんだけど、そこならやり過ごせるかも。」

「え?人間の仲間が居るの?」

驚く子供。

「今、旅の途中で。他の仲間の帰りをこの町で待ってるんだ。」

「そうかあ。人間と一緒、でも君の姿が見えてるって事は悪い人達じゃ無いそうだね。」

「勿論!良い奴ばっかりだよ。困ってるなら、力を貸してくれると思うよ。」

「君が言うんなら、そうなんだろうね。」

そして子供は、炎とひそひそ話し込む。
決めたらしく、子供は言う。

「よし、その人達の所へ連れてって!お願い!」

「分かった!うちはエミル。宜しくね。」

「僕は【フサエン・トル・コンセンス】。こう見えて、当主なんだ。」

「あ!クライス達が会いに行ったのって君かなあ?この辺で一番偉い人の所へ行くって言ってたから。」

「多分僕だね。あっちも大変な事になってるんだけど……。」

そう言うと、顔を曇らせるフサエン少年。
寄り添う様に、炎が体を覆う。
エミルは聞いた。

「燃えないの?」

「友達だからね。」

「そうなんだー。」

「平気なの?僕みたいな人間を見て?」

「仲間にも似た様なのが居るからね。全然。」

それを聞いて安心するフサエン。
自分が特別と思って育って来たらしい。
同類が居るなら、心強い。

「じゃあ、行こっか。」

そう声を掛けるエミルに手を差し出され、そっと掴むフサエン。
『ごめんなさい』と火傷で転げまわる兵士達に謝って、牛小屋を抜け出す。
フサエンの足元を取り囲む様に、炎の形が変わる。
そして空気を熱し、陽炎を生み出してフサエンの姿を隠す。
見えないエミルと、見えなくなったフサエン。
2人は一目散に、アン達のいる格納庫へ向かった。



「どうした!何があった!」

騎士の1人が、漸く苦しむ兵士達を発見。
急いで救護班を呼ぶ。
兵士は、飛んで来た医師に火傷を負っている箇所へ薬を塗られる。
処置を受けながら、ゼエゼエ言いながら何とか質問に答える。

「居ま……した……。でも、逃……げられま……した……。」

別の兵士も応える。

「まだ、遠くには行って……ないは……ずです……。」

「もう良い。ゆっくり休め。」

優しく声を掛けると。
『後は頼んだぞ』と医師にその場を託し、馬で駆けて触れ回った。

「まだこの辺に居るぞ!良く探せ!」

騎士の触れにビクッとなるフサエン。
ぎゅっと握る手に力を入れて、エミルは言った。

「うちが付いてる。」

きっと、大丈夫。
心にそう言い聞かせて、町中まちなかを走るフサエンだった。
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