上 下
61 / 320

第61話 ヴェードの狂気、オズの本領

しおりを挟む
ワハハハハハ!
私をたたえよ!
私を崇めよ!
ワハハハハハ!
ヴェードは叫んだ。



「ギャハハハハ!」

しかし、オズは泣いていた。
《泣き笑い》していた。

「そんなもん掴んで、きったねー。近付きたくないわ!ぎゃはははは!」

何!
ヴェードが掴んでいた物。
バッと見返ると、それは汚い馬糞だった。
はわわわわわわ!
ブンブン手を振り回して、馬糞を払おうとする。
しかしその汚物は、ヴェードの性格の様にしつこかった。
このっ!このっ!
サーボの服になすり付ける。
『ぎゃああああ!』と叫びながら汚れていくサーボ。
それでも完全には落としきれない。
『これをどうぞ』と布を差し出されて、『済まんな』と拭き拭き。
瞬間、バッと退く。

「何だよ。折角、布巾を渡してやったのに。」

唖然とするヴェード。
そこには、ケロッとした顔のクライスが立っていた。

「な、な……。」

クライスを指差したまま、それ以上言葉が続かないヴェード。
同じく、目が飛び出る程驚くサーボ。
確かに!
めった刺しした!
殺した!
確実に!
死んだ!
ちゃんと確かめた!
じゃあ、あれは誰だ!
誰なんだ!


それに構わず、クライスに話し掛けるオズ。

「あちこち行ってたら、有ったんだよ。隠し部屋が。そこには何と……。」

紙切れの束をクライスに渡す。
パラパラとめくるクライス。
そして、『やっぱりな』と言った顔をする。
漸く事を理解し、クライスの手元にある束を見て〔あっ!〕と叫ぶヴェード。

「返せ!それは!」

「実験データと策謀の数々。本国への報告書。多種多彩だな。」

このヴェードと言う男。
アリュース暗殺と敵国の混乱を請け負っていた。
錬金術の実験はその延長。
その手順やら何やらを、事細かく記していた。

「几帳面な性格、錬金術師に向いているかもな。しかし……。」

詰めが甘い。
騙す事ばかりに気が行って、自分が騙された時の事を想定していなかった。
自信が過ぎる。

「失格だな。国家機密レベルをこう易々と盗まれると。」

「返せ!返せ!」

クライスに掴み掛かろうとするヴェード。
それをひらりとかわすクライス。
そこで思い出した。
こいつは錬金術が効かない。
何故かは分からないが。
でも物理攻撃なら。
それも特大の。

「これは最後の秘策だったんだがな。」

賢者の石を握り締め、叫んだ。

「契約に応え、出でよ!」



「ぐわあああぁぁぁぁぁ!」



急にサーボが苦しみ出す。

「な、何を……。」

サーボの絞り出した声。
それも空しく。

「最後に私の為に死ねるんだ。有り難く思え。」

死ぬ?
儂が?
俺が?
何故……?
気が遠のいて行った。



「クライス!あれ!」

オズが大声。
それと同時に。
ガオオオオォォォォンッ!
サーボの成れの果て。
怪物と化した元人間の叫び声。
部屋中に響き渡った。

「やれ!あいつをぶん殴れ!」

「本当にド畜生だな、お前は!」

「何を言っている!これは人間の本能だろ!強者が弱者を駆逐し支配する!征服欲だ!」

叫ぶヴェードの声がクライスに届いたかは分からない。
その時、クライスは怪物に殴られ壁へ吹っ飛ばされていた。
ドコン!ドコン!
次々壁をぶち破りながら、奥へと消えて行くクライス。
今度こそやった!
ヴェードは確信した。
そして、もうどうでも良くなっていた。
国の命令?
暗殺?
そんなの、最早関係無いわ!
崩してやる!
徹底的に!
未来なんてくそくらえだ!



同じ頃。
門の外に出たラヴィ達は、町のあちこちから立ち上る光を見た。

「何?何が起こってるの?」

ラヴィは困惑する。

「まさか……。」

「アン、心当たりがあるの?」

心配そうにセレナが聞く。
ユシやノウも耳を傾ける。
アンは震えた声で言った。

「人間、やってはいけない事があるのよ……それを簡単に踏みにじるなんて……。」

悔しさを滲ませて、アンは続ける。

「魔力を暴走させたのよ。わざとね。」

「え?それはどう言う……?」

ノウが尋ねようとした時。
町のあちこちから、獣の剛咆ごうほうが上がった。
光の柱が見えた箇所と一致。
ロッシェは不安になる。
トワは無事か……?



轟音が響いて、医者と共に外へ飛び出すトワ。
町は大混乱。
見た事もない怪物が数体、あちこちで暴れ回る。
逃げ惑う人々。
瞬間、トワの頭にはロッシェの顔が。

「あっ!危ないぞ!戻りなさい!」

医者が止めるのも聞かずに、トワは走り出す。
屋敷に続く参道の方へ。
もう誰も失いたく無い。
ロッシェ!
どうか、無事で居て……!



「【ワルス様】!暗殺の代わりに残虐なショーをお届けしよう!そして私はあなたをも倒す!」

そう宣言するヴェード。
しかし。



「漸く喋ったか。ワルス、そいつが上官だな?」



「!」

壊れた壁の方を見ると、またも涼しい顔のクライス。
ほこりすら被っていない。
クライスは右手を天に掲げて叫ぶ。

「出番だぞ、オズ!」

『おうよ!』

天井を通して聞こえる声。
それは町中に響き渡った。
オズは光の膜となって町の空を覆う。
クライスは、小さな笛を再度吹いた。
すると、町中に漂っていた魔力の渦が一定方向に流れ出した。
規則正しくなる事で、嫌な雰囲気が町から除去されて行く。
まただ!
あいつが笛を吹いてからおかしな事が!
ヴェードが唇を噛んで悔しがる。
自分が理解出来ない事に、一番腹を立てていた。
再びクライスが叫ぶ。

「大地から奪った魔力全部、返してもらうぞ!やれ、オズ!」



『ドレイン!』



ギュウウウウウーーーーーン!
町中の魔力が粒になって上昇し、光の膜に雪崩なだれ込んだ。
そして全ての余剰魔力を吸い尽くすと、膜は巨大な狼の姿になった。
体長500メートルはあろうか。
そのスケールに、町の人々は皆驚愕した。

「在るべき所へ帰れ!」

叫ぶクライス。

『アオーーーーン!』

オズが、山脈とは反対の山へ向かって吼える。
口から太い光線が発射される。
山の斜面に当たると、光はギュウウウンと蜘蛛の巣状に這い広がった。
照射は何秒か続き、地面が揺れ続けた。
照射を終えると、オズはまた手乗りキツネ犬の姿へと戻った。



「……収まった?」

牢から逃げて来た人々の中で。
地揺れで座り込んでいたラヴィが一言。
『おーい!』と参道の下から聞こえる声。
姿が大きくなる。

「……トワ?」

ロッシェがポツリ。

「お嬢様!」

ユシが感嘆の声。
涙を流し、駆け付けたトワと抱き合う。
未だにぐったりするヘン。
その傍で座り込んでいるノウの体が。



急に。
光り始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。  行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー! ※他サイトにて重複掲載しています

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...