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第61話 ヴェードの狂気、オズの本領
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ワハハハハハ!
私を讃えよ!
私を崇めよ!
ワハハハハハ!
ヴェードは叫んだ。
「ギャハハハハ!」
しかし、オズは泣いていた。
《泣き笑い》していた。
「そんなもん掴んで、きったねー。近付きたくないわ!ぎゃはははは!」
何!
ヴェードが掴んでいた物。
バッと見返ると、それは汚い馬糞だった。
はわわわわわわ!
ブンブン手を振り回して、馬糞を払おうとする。
しかしその汚物は、ヴェードの性格の様にしつこかった。
このっ!このっ!
サーボの服になすり付ける。
『ぎゃああああ!』と叫びながら汚れていくサーボ。
それでも完全には落としきれない。
『これをどうぞ』と布を差し出されて、『済まんな』と拭き拭き。
瞬間、バッと退く。
「何だよ。折角、布巾を渡してやったのに。」
唖然とするヴェード。
そこには、ケロッとした顔のクライスが立っていた。
「な、な……。」
クライスを指差したまま、それ以上言葉が続かないヴェード。
同じく、目が飛び出る程驚くサーボ。
確かに!
めった刺しした!
殺した!
確実に!
死んだ!
ちゃんと確かめた!
じゃあ、あれは誰だ!
誰なんだ!
それに構わず、クライスに話し掛けるオズ。
「あちこち行ってたら、有ったんだよ。隠し部屋が。そこには何と……。」
紙切れの束をクライスに渡す。
パラパラと捲るクライス。
そして、『やっぱりな』と言った顔をする。
漸く事を理解し、クライスの手元にある束を見て〔あっ!〕と叫ぶヴェード。
「返せ!それは!」
「実験データと策謀の数々。本国への報告書。多種多彩だな。」
このヴェードと言う男。
アリュース暗殺と敵国の混乱を請け負っていた。
錬金術の実験はその延長。
その手順やら何やらを、事細かく記していた。
「几帳面な性格、錬金術師に向いているかもな。しかし……。」
詰めが甘い。
騙す事ばかりに気が行って、自分が騙された時の事を想定していなかった。
自信が過ぎる。
「失格だな。国家機密レベルをこう易々と盗まれると。」
「返せ!返せ!」
クライスに掴み掛かろうとするヴェード。
それをひらりと躱すクライス。
そこで思い出した。
こいつは錬金術が効かない。
何故かは分からないが。
でも物理攻撃なら。
それも特大の。
「これは最後の秘策だったんだがな。」
賢者の石を握り締め、叫んだ。
「契約に応え、出でよ!」
「ぐわあああぁぁぁぁぁ!」
急にサーボが苦しみ出す。
「な、何を……。」
サーボの絞り出した声。
それも空しく。
「最後に私の為に死ねるんだ。有り難く思え。」
死ぬ?
儂が?
俺が?
何故……?
気が遠のいて行った。
「クライス!あれ!」
オズが大声。
それと同時に。
ガオオオオォォォォンッ!
サーボの成れの果て。
怪物と化した元人間の叫び声。
部屋中に響き渡った。
「やれ!あいつをぶん殴れ!」
「本当にド畜生だな、お前は!」
「何を言っている!これは人間の本能だろ!強者が弱者を駆逐し支配する!征服欲だ!」
叫ぶヴェードの声がクライスに届いたかは分からない。
その時、クライスは怪物に殴られ壁へ吹っ飛ばされていた。
ドコン!ドコン!
次々壁をぶち破りながら、奥へと消えて行くクライス。
今度こそやった!
ヴェードは確信した。
そして、もうどうでも良くなっていた。
国の命令?
暗殺?
そんなの、最早関係無いわ!
崩してやる!
徹底的に!
未来なんてくそくらえだ!
同じ頃。
門の外に出たラヴィ達は、町のあちこちから立ち上る光を見た。
「何?何が起こってるの?」
ラヴィは困惑する。
「まさか……。」
「アン、心当たりがあるの?」
心配そうにセレナが聞く。
ユシやノウも耳を傾ける。
アンは震えた声で言った。
「人間、やってはいけない事があるのよ……それを簡単に踏みにじるなんて……。」
悔しさを滲ませて、アンは続ける。
「魔力を暴走させたのよ。わざとね。」
「え?それはどう言う……?」
ノウが尋ねようとした時。
町のあちこちから、獣の剛咆が上がった。
光の柱が見えた箇所と一致。
ロッシェは不安になる。
トワは無事か……?
轟音が響いて、医者と共に外へ飛び出すトワ。
町は大混乱。
見た事もない怪物が数体、あちこちで暴れ回る。
逃げ惑う人々。
瞬間、トワの頭にはロッシェの顔が。
「あっ!危ないぞ!戻りなさい!」
医者が止めるのも聞かずに、トワは走り出す。
屋敷に続く参道の方へ。
もう誰も失いたく無い。
ロッシェ!
どうか、無事で居て……!
「【ワルス様】!暗殺の代わりに残虐なショーをお届けしよう!そして私はあなたをも倒す!」
そう宣言するヴェード。
しかし。
「漸く喋ったか。ワルス、そいつが上官だな?」
「!」
壊れた壁の方を見ると、またも涼しい顔のクライス。
埃すら被っていない。
クライスは右手を天に掲げて叫ぶ。
「出番だぞ、オズ!」
『おうよ!』
天井を通して聞こえる声。
それは町中に響き渡った。
オズは光の膜となって町の空を覆う。
クライスは、小さな笛を再度吹いた。
すると、町中に漂っていた魔力の渦が一定方向に流れ出した。
規則正しくなる事で、嫌な雰囲気が町から除去されて行く。
まただ!
あいつが笛を吹いてからおかしな事が!
ヴェードが唇を噛んで悔しがる。
自分が理解出来ない事に、一番腹を立てていた。
再びクライスが叫ぶ。
「大地から奪った魔力全部、返してもらうぞ!やれ、オズ!」
『ドレイン!』
ギュウウウウウーーーーーン!
町中の魔力が粒になって上昇し、光の膜に雪崩れ込んだ。
そして全ての余剰魔力を吸い尽くすと、膜は巨大な狼の姿になった。
体長500メートルはあろうか。
そのスケールに、町の人々は皆驚愕した。
「在るべき所へ帰れ!」
叫ぶクライス。
『アオーーーーン!』
オズが、山脈とは反対の山へ向かって吼える。
口から太い光線が発射される。
山の斜面に当たると、光はギュウウウンと蜘蛛の巣状に這い広がった。
照射は何秒か続き、地面が揺れ続けた。
照射を終えると、オズはまた手乗りキツネ犬の姿へと戻った。
「……収まった?」
牢から逃げて来た人々の中で。
地揺れで座り込んでいたラヴィが一言。
『おーい!』と参道の下から聞こえる声。
姿が大きくなる。
「……トワ?」
ロッシェがポツリ。
「お嬢様!」
ユシが感嘆の声。
涙を流し、駆け付けたトワと抱き合う。
未だにぐったりするヘン。
その傍で座り込んでいるノウの体が。
急に。
光り始めた。
私を讃えよ!
私を崇めよ!
ワハハハハハ!
ヴェードは叫んだ。
「ギャハハハハ!」
しかし、オズは泣いていた。
《泣き笑い》していた。
「そんなもん掴んで、きったねー。近付きたくないわ!ぎゃはははは!」
何!
ヴェードが掴んでいた物。
バッと見返ると、それは汚い馬糞だった。
はわわわわわわ!
ブンブン手を振り回して、馬糞を払おうとする。
しかしその汚物は、ヴェードの性格の様にしつこかった。
このっ!このっ!
サーボの服になすり付ける。
『ぎゃああああ!』と叫びながら汚れていくサーボ。
それでも完全には落としきれない。
『これをどうぞ』と布を差し出されて、『済まんな』と拭き拭き。
瞬間、バッと退く。
「何だよ。折角、布巾を渡してやったのに。」
唖然とするヴェード。
そこには、ケロッとした顔のクライスが立っていた。
「な、な……。」
クライスを指差したまま、それ以上言葉が続かないヴェード。
同じく、目が飛び出る程驚くサーボ。
確かに!
めった刺しした!
殺した!
確実に!
死んだ!
ちゃんと確かめた!
じゃあ、あれは誰だ!
誰なんだ!
それに構わず、クライスに話し掛けるオズ。
「あちこち行ってたら、有ったんだよ。隠し部屋が。そこには何と……。」
紙切れの束をクライスに渡す。
パラパラと捲るクライス。
そして、『やっぱりな』と言った顔をする。
漸く事を理解し、クライスの手元にある束を見て〔あっ!〕と叫ぶヴェード。
「返せ!それは!」
「実験データと策謀の数々。本国への報告書。多種多彩だな。」
このヴェードと言う男。
アリュース暗殺と敵国の混乱を請け負っていた。
錬金術の実験はその延長。
その手順やら何やらを、事細かく記していた。
「几帳面な性格、錬金術師に向いているかもな。しかし……。」
詰めが甘い。
騙す事ばかりに気が行って、自分が騙された時の事を想定していなかった。
自信が過ぎる。
「失格だな。国家機密レベルをこう易々と盗まれると。」
「返せ!返せ!」
クライスに掴み掛かろうとするヴェード。
それをひらりと躱すクライス。
そこで思い出した。
こいつは錬金術が効かない。
何故かは分からないが。
でも物理攻撃なら。
それも特大の。
「これは最後の秘策だったんだがな。」
賢者の石を握り締め、叫んだ。
「契約に応え、出でよ!」
「ぐわあああぁぁぁぁぁ!」
急にサーボが苦しみ出す。
「な、何を……。」
サーボの絞り出した声。
それも空しく。
「最後に私の為に死ねるんだ。有り難く思え。」
死ぬ?
儂が?
俺が?
何故……?
気が遠のいて行った。
「クライス!あれ!」
オズが大声。
それと同時に。
ガオオオオォォォォンッ!
サーボの成れの果て。
怪物と化した元人間の叫び声。
部屋中に響き渡った。
「やれ!あいつをぶん殴れ!」
「本当にド畜生だな、お前は!」
「何を言っている!これは人間の本能だろ!強者が弱者を駆逐し支配する!征服欲だ!」
叫ぶヴェードの声がクライスに届いたかは分からない。
その時、クライスは怪物に殴られ壁へ吹っ飛ばされていた。
ドコン!ドコン!
次々壁をぶち破りながら、奥へと消えて行くクライス。
今度こそやった!
ヴェードは確信した。
そして、もうどうでも良くなっていた。
国の命令?
暗殺?
そんなの、最早関係無いわ!
崩してやる!
徹底的に!
未来なんてくそくらえだ!
同じ頃。
門の外に出たラヴィ達は、町のあちこちから立ち上る光を見た。
「何?何が起こってるの?」
ラヴィは困惑する。
「まさか……。」
「アン、心当たりがあるの?」
心配そうにセレナが聞く。
ユシやノウも耳を傾ける。
アンは震えた声で言った。
「人間、やってはいけない事があるのよ……それを簡単に踏みにじるなんて……。」
悔しさを滲ませて、アンは続ける。
「魔力を暴走させたのよ。わざとね。」
「え?それはどう言う……?」
ノウが尋ねようとした時。
町のあちこちから、獣の剛咆が上がった。
光の柱が見えた箇所と一致。
ロッシェは不安になる。
トワは無事か……?
轟音が響いて、医者と共に外へ飛び出すトワ。
町は大混乱。
見た事もない怪物が数体、あちこちで暴れ回る。
逃げ惑う人々。
瞬間、トワの頭にはロッシェの顔が。
「あっ!危ないぞ!戻りなさい!」
医者が止めるのも聞かずに、トワは走り出す。
屋敷に続く参道の方へ。
もう誰も失いたく無い。
ロッシェ!
どうか、無事で居て……!
「【ワルス様】!暗殺の代わりに残虐なショーをお届けしよう!そして私はあなたをも倒す!」
そう宣言するヴェード。
しかし。
「漸く喋ったか。ワルス、そいつが上官だな?」
「!」
壊れた壁の方を見ると、またも涼しい顔のクライス。
埃すら被っていない。
クライスは右手を天に掲げて叫ぶ。
「出番だぞ、オズ!」
『おうよ!』
天井を通して聞こえる声。
それは町中に響き渡った。
オズは光の膜となって町の空を覆う。
クライスは、小さな笛を再度吹いた。
すると、町中に漂っていた魔力の渦が一定方向に流れ出した。
規則正しくなる事で、嫌な雰囲気が町から除去されて行く。
まただ!
あいつが笛を吹いてからおかしな事が!
ヴェードが唇を噛んで悔しがる。
自分が理解出来ない事に、一番腹を立てていた。
再びクライスが叫ぶ。
「大地から奪った魔力全部、返してもらうぞ!やれ、オズ!」
『ドレイン!』
ギュウウウウウーーーーーン!
町中の魔力が粒になって上昇し、光の膜に雪崩れ込んだ。
そして全ての余剰魔力を吸い尽くすと、膜は巨大な狼の姿になった。
体長500メートルはあろうか。
そのスケールに、町の人々は皆驚愕した。
「在るべき所へ帰れ!」
叫ぶクライス。
『アオーーーーン!』
オズが、山脈とは反対の山へ向かって吼える。
口から太い光線が発射される。
山の斜面に当たると、光はギュウウウンと蜘蛛の巣状に這い広がった。
照射は何秒か続き、地面が揺れ続けた。
照射を終えると、オズはまた手乗りキツネ犬の姿へと戻った。
「……収まった?」
牢から逃げて来た人々の中で。
地揺れで座り込んでいたラヴィが一言。
『おーい!』と参道の下から聞こえる声。
姿が大きくなる。
「……トワ?」
ロッシェがポツリ。
「お嬢様!」
ユシが感嘆の声。
涙を流し、駆け付けたトワと抱き合う。
未だにぐったりするヘン。
その傍で座り込んでいるノウの体が。
急に。
光り始めた。
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