57 / 320
第57話 ノウの期待は……
しおりを挟む
「そこで暫く待たれよ。」
領主の召使いに足止めされるノウ。
『大丈夫』と肩に手を置くヘン。
その手をぎゅっと握り締め、ノウは時を待つ。
取り次ぎが終わったらしい、召使いが戻って来る。
「こちらへ。」
奥へと案内されるノウ。
付き添うヘン。
屋敷と言っても、石造りの城の様だった。
『城のミニチュア』とも言える。
風雪に耐える造りとなれば、材料は限定される。
その代わり、増改築はしにくい。
筈。
なのにヘンには、来る度に部屋が増えている様に思われた。
大きな廊下を進んで突き当り。
そこに領主の大部屋があった。
ドアをノックして開ける召使い。
そそくさと下がる。
何かに怯える様に。
「近う寄れ。」
豪華な椅子に座る人物が、手招きする。
まずヘンが進み出る。
「申し上げます。領土境におきまして異変が発生致しました。その報告に伺った次第です。」
「うむ。早うせい。儂はこう見えて忙しいのじゃ。」
明らかにイライラしていた。
何か隠している?
そう感じたが、話を進める。
「はい。実はサファイ側から関所が閉ざされたと、この者が申しておりまして。」
そう言って、ノウを紹介する。
しずしずと前へ出て、跪き名乗る。
「サファイに接する町ケンヅから参りました、ノウと申します。」
そして陳情書を差し出した。
それをヘンが受け取り、領主へと渡す。
「領主であるこのサーボ、確かに受け取った。何々……。」
そこには。
関所が突然閉ざされた事。
よって、サファイから物資が一切入って来なくなった事。
事細かに記されてあった。
「読んだが、内容は本当か?」
ヘンに問い質す。
「首都での物資不足は、それで説明出来ます。合理性があるかと。」
「実際に確かめておらんのか?」
「申し訳ございません。」
「まあ良い。善処しよう。して、《あの件》はどうなった?」
「魔物退治ですか?無事完了致しました。」
あの禍々しい姿を思い出して、顔色が悪くなるノウ。
「部外者の前で内容を告げるな!まさか……!」
慌ててひれ伏すヘン。
「退治の際に偶々居合わせただけでございます!他に意図はございません!」
「……見たのか?」
ノウに問うサーボ。
その顔付きは強張っていた。
「は、はい……。陳情書は急ぎの様に付き、近道として森を……。」
「もう良い!相分かった!」
言い放つサーボの言葉には棘があった。
嫌な予感がするヘン。
「おい!居るか!」
召使いを呼ぶサーボ。
飛んで来る召使い。
「オースタンよ、お前は下がれ。」
「ははっ。」
頭を下げながら返事するが。
次のサーボの言葉に、頭が沸騰する。
「この娘を地下牢に放り込め!生かしてはおけん!」
ガッと腕を掴まれ、召使いに引き摺られるノウ。
「お待ち下さい!他意は無いと申し上げ……。」
「それが余計に駄目なのですよ。」
入り口から現れるヴェード。
「罪の意識が無いからこそ、ペラペラ喋るのです。隠密に処理しようとしたのに、それでは意味が無いでしょう?」
言い返せないヘン。
「し、しかし!」
「黙らっしゃい!領地を混乱させるおつもりですか!」
そう言われては何も出来無い。
「せ、せめて国外追放で……。」
何とかノウの命を救おうとするヘン。
対してヴェードは首を横に振る。
「ですよね?」
サーボの顔を見るヴェード。
当然と言う表情のサーボ。
「連れて行けい!」
ずるずる引き摺られるノウ。
両手で顔を塞ぎ泣いていた。
その場にガクッと崩れ落ちるヘン。
ヘンに対し、ヴェードが冷たく言い放つ。
「あの娘、どう《処理》してくれよう……。」
処理!
処理だと!
あの子は人間だ!
物じゃない!
気が付くとヘンは。
ヴェードの胸ぐらを掴んで揺すっていた。
「撤回しろ!その言葉!」
「サーボ様の御前ですよ!」
「知るか!撤回しろ!」
「頭を冷やせ!お前も牢に入りたいか!」
怒鳴るサーボ。
前からこの無能領主にはムカついていた。
仕えるべき領主とは言え、言動が人の上に立つ者として相応しく無い。
大体領主が変わり、ヴェードの様な素性のはっきりしない者を傍に置く様になってから。
このメインダリーはおかしくなったのだ。
敵軍の兵を招き入れるなど、元から反対だったのに。
いつの間にか侵入だけで無く、素通りさえも許していた。
自分は近衛隊隊長に相応しく無いのかも知れない。
だったらこの手で幕引きを……!
「うおおぉぉぉーーーーっ!」
サーボに襲い掛かるヘン。
しかし、すぐに力が抜ける。
背中をヴェードに取られていた。
触れられたその手から、何かが流れ込んで来る感覚。
それで体が麻痺したらしい。
そこまでは理解出来た。
その原理までは分からず。
ただ無念。
無念。
「こいつは反逆者だ!同じく牢へぶち込め!」
ぐったりするヘンも、召使いに引き摺られていった。
『やっと切り抜けた』と安堵するサーボ。
「事前に用意しておいて正解でしたな。」
「全くだ。あれが『報告にあった者』か?」
「いえ、違う様ですが……。」
話をするヴェードの元へ、門の守衛から伝達が。
「何?また使者だと?」
『どんな姿だ?』と問い質すが、取り次ぎなので容姿までは把握していなかった。
しかし感じる。
向こうから不審な気配。
恐らく向こうも感じている筈。
考えるヴェード。
そしてサーボに言った。
「報告にあった者が、使者として来た模様です。如何なされますか?」
「対処せねば、疑われるだろうな。通すしかあるまいに。」
「宜しいですね?くれぐれも……。」
「分かっておる!それ以上は言うな!言わないでくれ……。」
次々と問題が降って来て、疲れたと言わんばかりにシッシッと手を振るサーボ。
そして頭を抱える。
『次は同席しましょう』と残るヴェード。
彼等の、恐らく《人生で一番長い日》の始まりだった。
領主の召使いに足止めされるノウ。
『大丈夫』と肩に手を置くヘン。
その手をぎゅっと握り締め、ノウは時を待つ。
取り次ぎが終わったらしい、召使いが戻って来る。
「こちらへ。」
奥へと案内されるノウ。
付き添うヘン。
屋敷と言っても、石造りの城の様だった。
『城のミニチュア』とも言える。
風雪に耐える造りとなれば、材料は限定される。
その代わり、増改築はしにくい。
筈。
なのにヘンには、来る度に部屋が増えている様に思われた。
大きな廊下を進んで突き当り。
そこに領主の大部屋があった。
ドアをノックして開ける召使い。
そそくさと下がる。
何かに怯える様に。
「近う寄れ。」
豪華な椅子に座る人物が、手招きする。
まずヘンが進み出る。
「申し上げます。領土境におきまして異変が発生致しました。その報告に伺った次第です。」
「うむ。早うせい。儂はこう見えて忙しいのじゃ。」
明らかにイライラしていた。
何か隠している?
そう感じたが、話を進める。
「はい。実はサファイ側から関所が閉ざされたと、この者が申しておりまして。」
そう言って、ノウを紹介する。
しずしずと前へ出て、跪き名乗る。
「サファイに接する町ケンヅから参りました、ノウと申します。」
そして陳情書を差し出した。
それをヘンが受け取り、領主へと渡す。
「領主であるこのサーボ、確かに受け取った。何々……。」
そこには。
関所が突然閉ざされた事。
よって、サファイから物資が一切入って来なくなった事。
事細かに記されてあった。
「読んだが、内容は本当か?」
ヘンに問い質す。
「首都での物資不足は、それで説明出来ます。合理性があるかと。」
「実際に確かめておらんのか?」
「申し訳ございません。」
「まあ良い。善処しよう。して、《あの件》はどうなった?」
「魔物退治ですか?無事完了致しました。」
あの禍々しい姿を思い出して、顔色が悪くなるノウ。
「部外者の前で内容を告げるな!まさか……!」
慌ててひれ伏すヘン。
「退治の際に偶々居合わせただけでございます!他に意図はございません!」
「……見たのか?」
ノウに問うサーボ。
その顔付きは強張っていた。
「は、はい……。陳情書は急ぎの様に付き、近道として森を……。」
「もう良い!相分かった!」
言い放つサーボの言葉には棘があった。
嫌な予感がするヘン。
「おい!居るか!」
召使いを呼ぶサーボ。
飛んで来る召使い。
「オースタンよ、お前は下がれ。」
「ははっ。」
頭を下げながら返事するが。
次のサーボの言葉に、頭が沸騰する。
「この娘を地下牢に放り込め!生かしてはおけん!」
ガッと腕を掴まれ、召使いに引き摺られるノウ。
「お待ち下さい!他意は無いと申し上げ……。」
「それが余計に駄目なのですよ。」
入り口から現れるヴェード。
「罪の意識が無いからこそ、ペラペラ喋るのです。隠密に処理しようとしたのに、それでは意味が無いでしょう?」
言い返せないヘン。
「し、しかし!」
「黙らっしゃい!領地を混乱させるおつもりですか!」
そう言われては何も出来無い。
「せ、せめて国外追放で……。」
何とかノウの命を救おうとするヘン。
対してヴェードは首を横に振る。
「ですよね?」
サーボの顔を見るヴェード。
当然と言う表情のサーボ。
「連れて行けい!」
ずるずる引き摺られるノウ。
両手で顔を塞ぎ泣いていた。
その場にガクッと崩れ落ちるヘン。
ヘンに対し、ヴェードが冷たく言い放つ。
「あの娘、どう《処理》してくれよう……。」
処理!
処理だと!
あの子は人間だ!
物じゃない!
気が付くとヘンは。
ヴェードの胸ぐらを掴んで揺すっていた。
「撤回しろ!その言葉!」
「サーボ様の御前ですよ!」
「知るか!撤回しろ!」
「頭を冷やせ!お前も牢に入りたいか!」
怒鳴るサーボ。
前からこの無能領主にはムカついていた。
仕えるべき領主とは言え、言動が人の上に立つ者として相応しく無い。
大体領主が変わり、ヴェードの様な素性のはっきりしない者を傍に置く様になってから。
このメインダリーはおかしくなったのだ。
敵軍の兵を招き入れるなど、元から反対だったのに。
いつの間にか侵入だけで無く、素通りさえも許していた。
自分は近衛隊隊長に相応しく無いのかも知れない。
だったらこの手で幕引きを……!
「うおおぉぉぉーーーーっ!」
サーボに襲い掛かるヘン。
しかし、すぐに力が抜ける。
背中をヴェードに取られていた。
触れられたその手から、何かが流れ込んで来る感覚。
それで体が麻痺したらしい。
そこまでは理解出来た。
その原理までは分からず。
ただ無念。
無念。
「こいつは反逆者だ!同じく牢へぶち込め!」
ぐったりするヘンも、召使いに引き摺られていった。
『やっと切り抜けた』と安堵するサーボ。
「事前に用意しておいて正解でしたな。」
「全くだ。あれが『報告にあった者』か?」
「いえ、違う様ですが……。」
話をするヴェードの元へ、門の守衛から伝達が。
「何?また使者だと?」
『どんな姿だ?』と問い質すが、取り次ぎなので容姿までは把握していなかった。
しかし感じる。
向こうから不審な気配。
恐らく向こうも感じている筈。
考えるヴェード。
そしてサーボに言った。
「報告にあった者が、使者として来た模様です。如何なされますか?」
「対処せねば、疑われるだろうな。通すしかあるまいに。」
「宜しいですね?くれぐれも……。」
「分かっておる!それ以上は言うな!言わないでくれ……。」
次々と問題が降って来て、疲れたと言わんばかりにシッシッと手を振るサーボ。
そして頭を抱える。
『次は同席しましょう』と残るヴェード。
彼等の、恐らく《人生で一番長い日》の始まりだった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
転生しても侍 〜この父に任せておけ、そう呟いたカシロウは〜
ハマハマ
ファンタジー
ファンタジー×お侍×父と子の物語。
戦国時代を生きた侍、山尾甲士郎《ヤマオ・カシロウ》は生まれ変わった。
そして転生先において、不思議な力に目覚めた幼い我が子。
「この父に任せておけ」
そう呟いたカシロウは、父の責務を果たすべくその愛刀と、さらに自らにも目覚めた不思議な力とともに二度目の生を斬り開いてゆく。
※表紙絵はみやこのじょう様に頂きました!
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる