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第56話 屋敷への参道は多少険しく
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宿に泊まった翌日。
朝食を取ってゆっくりするノウの元へ、約束通りヘンが迎えに来た。
「済まない、待たせたかな。」
「いえ、丁度良い時間です。ありがとうございます。」
お辞儀するノウ。
「さあ、出発だ。」
ヘンが差し出した手を取るノウ。
いよいよ領主とのご対面だ。
『あれは、これは』と町を歩きながら説明してくれるヘン。
しかし、ノウは町の雰囲気が昨日と少し違う事に気が付く。
「何かあったんですか?」
ヘンに尋ねてみる。
「あ、ああ。」
それ以上ヘンは言わなかった。
防衛の作戦上言えない様だった。
自分に関係する事だろうか。
それとも。
領主の屋敷は、山脈に連なる山の中腹にある。
町よりも高度が高い。
これも防衛上の理由。
上からの方が守り易いし、見通しが利く。
それに後ろは、勾配がキツい山の斜面。
余程の事が無い限り、ここを越えて来るのは難しい。
だからトンネルという手段に出たのだが。
なので、領主は滅多に町へ降りて来ない。
来客も少なく、物資を運ぶのにも一苦労。
急勾配なので、大抵の者は息切れする。
ヘンは鍛えられているので、難無く登っているが。
それにしても、ノウのタフさよ。
ヘンに楽々付いて行っている。
これも境遇の成せる業か、とヘンは思った。
かなりの仕打ちをされて来たのだろう。
だからこんなに体力が……。
しかし本当は、ノウも知らない事実があった。
クライス達も宿を出た。
わざわざ宿主が見送ってくれた。
『大層気に入られたものだな』とロッシェは思った。
しかしクライスの考えは、そうでは無かった。
相変わらず肩に乗っているオズが、気になる事を言う。
「昨日より魔力が濃くなってるぜ。」
「そうだな。どちらかと言うと、淀んでる様な。」
「誰かが故意に乱してるとか。」
「だろうな。」
文鳥に向かってブツブツ喋るクライスを見て、ロッシェは不思議がる。
それを察知したセレナが、フォローを入れる。
「彼は鳥が好きなんですよ。気になさらないで下さい。」
『そうか?』と返事するロッシェに、ホッとするセレナ。
セレナはラヴィを守るという立場上、周りが良く見える。
だからクライスも、それ程辺りを警戒せずにいられるのだ。
「それにしても遠いわね。やっと山のすそ野って所かしら。」
暫く歩いて来たみたいな事を言うラヴィ。
実際はそんなに歩いていないのだが。
「町が広いのと山が大き過ぎなのが重なって、遠近感が狂ってるのよ。」
アンが言葉を添える。
「そんなものかしら?」
結構旅をしてきたつもりだが、やはりまだまだアン達に経験値が及ばない。
この旅も平地だったり森だったり、アクセントが効いた景色ばかりだったからかもしれない。
やっと、屋敷に続く参道へ差し掛かる。
「うねってるわね。」
「そうね。」
顔を見合わせ、ため息を付くラヴィとアン。
こんな坂道を登らないといけないとは。
ここの領主は退屈しないのかしら?
隠遁生活の様で辟易するラヴィ。
それでも足取りしっかりと歩むロッシェ。
やらなくてはいけない事がある。
余計な事を考えるな。
そんな雰囲気。
気持ちは分かるけど、もっと気を楽にしないとめげるわよ。
声を掛けたくなるセレナだったが、敢えて止めた。
やる気を削ぐ様な言葉は、今は相応しく無い。
どうせなら、激励に近い言葉の方が良いかも。
でも何も浮かばず、黙って登るのだった。
これは……?
クライスは、参道に満ちる魔力の中に異質な感じの物を見つけた。
確証はないが、まさか……。
それは領主の屋敷へと通じていた。
その頃。
領主の屋敷では、《出迎え》の準備が行われていた。
近衛隊隊長から重要な話があると言う。
それも緊急の。
ならば会うしかあるまい。
普段は病人以外なるべく人を遠ざけて来たが、流石に地位のある者を邪険には出来ない。
領主サーボは相談する。
「どうしたら良い?」
傍に居た怪しい影は答える。
「なるべく早く、話を切り上げた方が宜しいかと。」
「そうか。面会は何とか凌ごう。後は頼むぞ、【ヴェード】。」
「かしこまりました。」
サーボの元から下がると、ある部屋に籠り何やら作業をし出すヴェード。
怪しい影の正体、ヴェードとは何者か?
その頃、ノウとヘンが屋敷の門の前に到着。
今こそ役目を果たす時。
ノウは気を引き締めて、門の守衛に領主へ取り次いでくれる様声を掛けた。
ヘンが取りなしてくれたお陰で、すんなり敷地に入る。
敷地に踏み込んだその時、背筋がゾッとした。
得体の知れない存在を感じた様に。
不安に感じるノウの背中をポンと叩き、『俺が付いている』と後押しするヘン。
少し安堵し、歩いて行くノウ。
当然、ここからすんなり話が運ぶ訳が無かった。
これから起こる事のせいで。
朝食を取ってゆっくりするノウの元へ、約束通りヘンが迎えに来た。
「済まない、待たせたかな。」
「いえ、丁度良い時間です。ありがとうございます。」
お辞儀するノウ。
「さあ、出発だ。」
ヘンが差し出した手を取るノウ。
いよいよ領主とのご対面だ。
『あれは、これは』と町を歩きながら説明してくれるヘン。
しかし、ノウは町の雰囲気が昨日と少し違う事に気が付く。
「何かあったんですか?」
ヘンに尋ねてみる。
「あ、ああ。」
それ以上ヘンは言わなかった。
防衛の作戦上言えない様だった。
自分に関係する事だろうか。
それとも。
領主の屋敷は、山脈に連なる山の中腹にある。
町よりも高度が高い。
これも防衛上の理由。
上からの方が守り易いし、見通しが利く。
それに後ろは、勾配がキツい山の斜面。
余程の事が無い限り、ここを越えて来るのは難しい。
だからトンネルという手段に出たのだが。
なので、領主は滅多に町へ降りて来ない。
来客も少なく、物資を運ぶのにも一苦労。
急勾配なので、大抵の者は息切れする。
ヘンは鍛えられているので、難無く登っているが。
それにしても、ノウのタフさよ。
ヘンに楽々付いて行っている。
これも境遇の成せる業か、とヘンは思った。
かなりの仕打ちをされて来たのだろう。
だからこんなに体力が……。
しかし本当は、ノウも知らない事実があった。
クライス達も宿を出た。
わざわざ宿主が見送ってくれた。
『大層気に入られたものだな』とロッシェは思った。
しかしクライスの考えは、そうでは無かった。
相変わらず肩に乗っているオズが、気になる事を言う。
「昨日より魔力が濃くなってるぜ。」
「そうだな。どちらかと言うと、淀んでる様な。」
「誰かが故意に乱してるとか。」
「だろうな。」
文鳥に向かってブツブツ喋るクライスを見て、ロッシェは不思議がる。
それを察知したセレナが、フォローを入れる。
「彼は鳥が好きなんですよ。気になさらないで下さい。」
『そうか?』と返事するロッシェに、ホッとするセレナ。
セレナはラヴィを守るという立場上、周りが良く見える。
だからクライスも、それ程辺りを警戒せずにいられるのだ。
「それにしても遠いわね。やっと山のすそ野って所かしら。」
暫く歩いて来たみたいな事を言うラヴィ。
実際はそんなに歩いていないのだが。
「町が広いのと山が大き過ぎなのが重なって、遠近感が狂ってるのよ。」
アンが言葉を添える。
「そんなものかしら?」
結構旅をしてきたつもりだが、やはりまだまだアン達に経験値が及ばない。
この旅も平地だったり森だったり、アクセントが効いた景色ばかりだったからかもしれない。
やっと、屋敷に続く参道へ差し掛かる。
「うねってるわね。」
「そうね。」
顔を見合わせ、ため息を付くラヴィとアン。
こんな坂道を登らないといけないとは。
ここの領主は退屈しないのかしら?
隠遁生活の様で辟易するラヴィ。
それでも足取りしっかりと歩むロッシェ。
やらなくてはいけない事がある。
余計な事を考えるな。
そんな雰囲気。
気持ちは分かるけど、もっと気を楽にしないとめげるわよ。
声を掛けたくなるセレナだったが、敢えて止めた。
やる気を削ぐ様な言葉は、今は相応しく無い。
どうせなら、激励に近い言葉の方が良いかも。
でも何も浮かばず、黙って登るのだった。
これは……?
クライスは、参道に満ちる魔力の中に異質な感じの物を見つけた。
確証はないが、まさか……。
それは領主の屋敷へと通じていた。
その頃。
領主の屋敷では、《出迎え》の準備が行われていた。
近衛隊隊長から重要な話があると言う。
それも緊急の。
ならば会うしかあるまい。
普段は病人以外なるべく人を遠ざけて来たが、流石に地位のある者を邪険には出来ない。
領主サーボは相談する。
「どうしたら良い?」
傍に居た怪しい影は答える。
「なるべく早く、話を切り上げた方が宜しいかと。」
「そうか。面会は何とか凌ごう。後は頼むぞ、【ヴェード】。」
「かしこまりました。」
サーボの元から下がると、ある部屋に籠り何やら作業をし出すヴェード。
怪しい影の正体、ヴェードとは何者か?
その頃、ノウとヘンが屋敷の門の前に到着。
今こそ役目を果たす時。
ノウは気を引き締めて、門の守衛に領主へ取り次いでくれる様声を掛けた。
ヘンが取りなしてくれたお陰で、すんなり敷地に入る。
敷地に踏み込んだその時、背筋がゾッとした。
得体の知れない存在を感じた様に。
不安に感じるノウの背中をポンと叩き、『俺が付いている』と後押しするヘン。
少し安堵し、歩いて行くノウ。
当然、ここからすんなり話が運ぶ訳が無かった。
これから起こる事のせいで。
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