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第52話 もうすぐパラウンド
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ノウに付き添うヘン。
トワを連れて歩くロッシェ。
クライス達と付き纏う盗賊団。
三者三様、目指すのは。
国境沿いの町、首都パラウンド。
ここは、天然の要塞と呼ばれる条件を幾つか備えていた。
まずは、背に位置する山脈。
モッタの傍にある物より、規模が大きい。
片側を山で包み込む様な構造。
扇状地に近いが、それとは違う。
寧ろ『カルデラの峰半分が切り取られた』との言い方が、適しているのかも知れない。
それが城壁の代わりになっている。
その対面には川があり、これも堀の代わりを成す。
橋は架けられているが、ルートによってそれぞれ特徴がある。
ケンヅに続く橋は、木製の跳ね橋構造。
ライは、頑丈な石橋。
イーソは、攻められた時崩し易い様に簡単な構造。
袂にはそれぞれ検問所が設置され、怪しい輩が通らない様に目を光らせていた。
それが衛士の役目。
近衛隊はそれ等軍隊とは別。
あくまで領主を守る為の役職。
だから、ヘンが魔物退治に出かけるのは秘密だった。
行動が世に知れると。
『何故軍では無く近衛隊なのか』と言う疑問から、不味い方向へ推測が傾きかねないからだ。
ヘンは領主の使いでちょっと留守にするだけ。
そう言う事になっていた。
このままノウを連れて行くと、〔領主の使いとは何ぞや〕と言う問いを投げ掛けられる事は必至。
ヘンは悩んでいた。
どう言い訳をするか。
そこへノウが助け船を出す。
「領主様の命で周辺の視察をしていた所、領地境付近で異変発見。それを証言させる為に私を連れて来ている。これなら自然なのでは?」
「なるほど、それなら堂々と連れて行ける。済まない、学は余り得意では無いのでな。」
「ただの悪知恵です。ふふっ。」
後ろ手に体を右へ傾けて笑う姿は、高尚な何かを彷彿させた。
ノウは何者なんだろうか……。
ヘンをそんな気にさせた。
柔らかいノウの笑顔は、ヘンの心をときめかせるのに十分だった。
対照的に、ボロボロの服に身を包んだトワ。
ロッシェを風避けにして進むのは良いが、風が弱くなり進み易くなると逆に速度を落とした。
まるで町に近付きたく無い様な姿勢。
これまでの事をポツポツ話してくれるが、いまいち統一性が無い。
訳有りなのは分かるが、これ以上遅れる訳にはいかない。
途中でどしっと腰を下ろすと、指でそこに座る様促す。
食べ物の件があるので、渋々従うトワ。
「何があった?きちんと話してくれないか?勿論出来る範囲で良い。」
「……。」
「黙ってたら、何も動かんぞ?そのままで良いのか?」
「……良くない。」
「だったら……。」
「捕まってたの。」
「何処に?」
「領主の屋敷。地下で。」
「何でまた……!」
「それは言えない。」
「……分かった。でも良く逃げ出せたな。」
「協力者が居たの。今どうなってるか……。」
「『自分の身代わりになった』と言う事か?」
パラウンドの方角をジッと見るトワに問い掛けるが、返事は無かった。
余程慕っていたのだろう。
それでこんなに心配を……。
「トワ、ここまで来ればもう大丈夫だろう。パラウンドでは無い別の町へ行くと良い。」
ロッシェはそう言って。
荷物から食料の残りを半分に分け、トワに渡す。
しかし、トワはそれを断る。
「外に出るまでは、逃げる事しか考えてなかった。でも……。」
「?」
「あんたみたいな人に出会った。見ず知らずの私に、親切に。そんな人をこれ以上……。」
そう言って黙るトワ。
首都でも何か一騒動が……?
「良いのか?やっと逃げて来たんだろ?」
黙って頷くトワ。
それなら。
「よし。じゃあ、捕まってる人も助けるか。」
「え!」
そんなつもりで言ったんじゃ無いのに。
そう言う顔付きのトワ。
「良いんだ。どうせ乗り掛かった舟。何人助けようが一緒さ。」
何たって、騎士を目指してるからな。
偉そうに威張るロッシェ。
『任せろ』とトワの頭を撫でる。
力一杯なので、振り解こうとするトワ。
でも顔は笑っていた。
ロッシェも笑っていた。
トワに、助けられなかった姉の姿をやはり重ねている様だ。
今度は守る。
絶対。
「何時までくっ付いて来るのかしら。」
変なストーカーに呆れるラヴィ。
大声で『目印を置いて行こう』とわざわざ宣言して、金に変換した石を置いて行くクライス。
それを辿って、ついでに石を拾って行くリゼ達スティーラーズ。
リゼはわざとクライスに乗っていた。
意図に感付くのは、流石盗賊だけあって早い。
何せ、人を殺す事も厭わない盗賊団。
このまま引き連れては、通り過ぎる人達から金品を巻き上げかねない。
だから、これをやるから人を襲うな。
そう言う、クライスからのメッセージだった。
こちらに損は無いので、黙っているのだ。
納得行かないヘリックとボーンズ。
『恵んで貰っている情けない盗人』と、同業者から見られかねない。
まあ人を傷付けずに懐を潤す事が出来れば、勿論良いのだが。
プライドの狭間で格闘する2人。
それを横見で見ぬ振りをするリゼ。
気持ちは分かるけど、我慢をし。
このまま付いて行けば、その内大きなヤマが来る。
あたいの感がそう言ってる。
その時は、絶対ものにするよ。
見てな。
不敵な笑みを浮かべるリゼだった。
使者達がそろそろ到着しそうだ。
彼等を待ち受けるのは。
希望か。
絶望か。
トワを連れて歩くロッシェ。
クライス達と付き纏う盗賊団。
三者三様、目指すのは。
国境沿いの町、首都パラウンド。
ここは、天然の要塞と呼ばれる条件を幾つか備えていた。
まずは、背に位置する山脈。
モッタの傍にある物より、規模が大きい。
片側を山で包み込む様な構造。
扇状地に近いが、それとは違う。
寧ろ『カルデラの峰半分が切り取られた』との言い方が、適しているのかも知れない。
それが城壁の代わりになっている。
その対面には川があり、これも堀の代わりを成す。
橋は架けられているが、ルートによってそれぞれ特徴がある。
ケンヅに続く橋は、木製の跳ね橋構造。
ライは、頑丈な石橋。
イーソは、攻められた時崩し易い様に簡単な構造。
袂にはそれぞれ検問所が設置され、怪しい輩が通らない様に目を光らせていた。
それが衛士の役目。
近衛隊はそれ等軍隊とは別。
あくまで領主を守る為の役職。
だから、ヘンが魔物退治に出かけるのは秘密だった。
行動が世に知れると。
『何故軍では無く近衛隊なのか』と言う疑問から、不味い方向へ推測が傾きかねないからだ。
ヘンは領主の使いでちょっと留守にするだけ。
そう言う事になっていた。
このままノウを連れて行くと、〔領主の使いとは何ぞや〕と言う問いを投げ掛けられる事は必至。
ヘンは悩んでいた。
どう言い訳をするか。
そこへノウが助け船を出す。
「領主様の命で周辺の視察をしていた所、領地境付近で異変発見。それを証言させる為に私を連れて来ている。これなら自然なのでは?」
「なるほど、それなら堂々と連れて行ける。済まない、学は余り得意では無いのでな。」
「ただの悪知恵です。ふふっ。」
後ろ手に体を右へ傾けて笑う姿は、高尚な何かを彷彿させた。
ノウは何者なんだろうか……。
ヘンをそんな気にさせた。
柔らかいノウの笑顔は、ヘンの心をときめかせるのに十分だった。
対照的に、ボロボロの服に身を包んだトワ。
ロッシェを風避けにして進むのは良いが、風が弱くなり進み易くなると逆に速度を落とした。
まるで町に近付きたく無い様な姿勢。
これまでの事をポツポツ話してくれるが、いまいち統一性が無い。
訳有りなのは分かるが、これ以上遅れる訳にはいかない。
途中でどしっと腰を下ろすと、指でそこに座る様促す。
食べ物の件があるので、渋々従うトワ。
「何があった?きちんと話してくれないか?勿論出来る範囲で良い。」
「……。」
「黙ってたら、何も動かんぞ?そのままで良いのか?」
「……良くない。」
「だったら……。」
「捕まってたの。」
「何処に?」
「領主の屋敷。地下で。」
「何でまた……!」
「それは言えない。」
「……分かった。でも良く逃げ出せたな。」
「協力者が居たの。今どうなってるか……。」
「『自分の身代わりになった』と言う事か?」
パラウンドの方角をジッと見るトワに問い掛けるが、返事は無かった。
余程慕っていたのだろう。
それでこんなに心配を……。
「トワ、ここまで来ればもう大丈夫だろう。パラウンドでは無い別の町へ行くと良い。」
ロッシェはそう言って。
荷物から食料の残りを半分に分け、トワに渡す。
しかし、トワはそれを断る。
「外に出るまでは、逃げる事しか考えてなかった。でも……。」
「?」
「あんたみたいな人に出会った。見ず知らずの私に、親切に。そんな人をこれ以上……。」
そう言って黙るトワ。
首都でも何か一騒動が……?
「良いのか?やっと逃げて来たんだろ?」
黙って頷くトワ。
それなら。
「よし。じゃあ、捕まってる人も助けるか。」
「え!」
そんなつもりで言ったんじゃ無いのに。
そう言う顔付きのトワ。
「良いんだ。どうせ乗り掛かった舟。何人助けようが一緒さ。」
何たって、騎士を目指してるからな。
偉そうに威張るロッシェ。
『任せろ』とトワの頭を撫でる。
力一杯なので、振り解こうとするトワ。
でも顔は笑っていた。
ロッシェも笑っていた。
トワに、助けられなかった姉の姿をやはり重ねている様だ。
今度は守る。
絶対。
「何時までくっ付いて来るのかしら。」
変なストーカーに呆れるラヴィ。
大声で『目印を置いて行こう』とわざわざ宣言して、金に変換した石を置いて行くクライス。
それを辿って、ついでに石を拾って行くリゼ達スティーラーズ。
リゼはわざとクライスに乗っていた。
意図に感付くのは、流石盗賊だけあって早い。
何せ、人を殺す事も厭わない盗賊団。
このまま引き連れては、通り過ぎる人達から金品を巻き上げかねない。
だから、これをやるから人を襲うな。
そう言う、クライスからのメッセージだった。
こちらに損は無いので、黙っているのだ。
納得行かないヘリックとボーンズ。
『恵んで貰っている情けない盗人』と、同業者から見られかねない。
まあ人を傷付けずに懐を潤す事が出来れば、勿論良いのだが。
プライドの狭間で格闘する2人。
それを横見で見ぬ振りをするリゼ。
気持ちは分かるけど、我慢をし。
このまま付いて行けば、その内大きなヤマが来る。
あたいの感がそう言ってる。
その時は、絶対ものにするよ。
見てな。
不敵な笑みを浮かべるリゼだった。
使者達がそろそろ到着しそうだ。
彼等を待ち受けるのは。
希望か。
絶望か。
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