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第35話 騎士、人それぞれ

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門番からバトンタッチした騎士が、クライスを案内する。
それに付いて行こうとした時、後ろからドンッと突き飛ばされた。
不格好に転ぶクライス。
そこに、わあっと人が群がる。
あっと言う間に、クライスの手足を縛りあげた。
その中でも体格の大きい男が、クライスを肩に担ぐ。
そして傍に在る、地下への階段を降りて行った。

「手荒い歓迎ですね。」

クライスは悔しそうに言う。

「悪く思うな。これも領地の為。」

「本当ですか?」

『グギギ』と言った表情でクライスは尋ねるが、返答は無かった。
恐らくそれが答えだろう。



地下には牢が幾つか有り、その1つにクライスは放り込まれた。
男も一緒に入り、後から到着した男が牢の鍵を閉めた。

『済まんな。』

男はそう呟くと、クライスの衣服・荷物を徹底的に調べる。
そして、牢の外にいる男に向かって首を振る。

「何処に隠した?素直に白状した方が身の為だぞ。」

男はいかつい顔をクライスに近付けて、わざと大声で言う。

「それはどう言った事で?」

クライスはすっ呆ける。

「決まってるだろう。例の物を出せ、いや何処に隠した?」

男は更に大声を上げる。

「有りませんよ、ここにはね。商人は狡賢ずるがしこくないと。」

クライスはニヤリとする。
男は察した。
そして、牢の外の男へ告げる。

「おい、こいつ何処かに隠したってよ。ここに入れておいても、らちが明かねえ。こいつを連れ回して屋敷内を探すぞ。」

そして。
準備しろと言った合図なのか、くいっと顎を上げる。
牢の外の男は鍵を開け、人を呼びに行った。
その後。



「申し訳無い。こうするしか無かったのだ。」

意外にも、男は謝った。

「あんたを巻き込んじまった。エプドモ様が居られれば、こんな事には……。」

「主様はいらっしゃらないので?」

クライスは、足の縄を解かれながら聞く。

「ああ、今は出払っている。壁の向こうの偵察にな。」

『ほれ、立てるか』と言った感じで、クライスの背中をポンと叩く男。
キツく縛られていたお陰で少しふらついたが、すぐに直る。

「隙を見てあんたを逃がす。だから従っている振りをしてくれ。」

「良いんですか?」

「こんなやり方は騎士道に反する。《あ奴》さえ居なければ……。」

「あ奴?」

黒幕は、今はエプドモ側に居るらしい。

「あ奴が来てから、この領地はおかしくなってしまった。しかし素性の分からん者が騎士に紛れて数人居るから、変な事が言えんのだ。恐らくあ奴の家来だろう。」

「俺も素性は分かりませんが?」

「あんたは違う。そう感じるんだ。」

この男、人を見る目は有る様だ。
クライスは思った。



男は、これからの行動予定をクライスに伝える。
地下への階段は、玄関のすぐ傍に在る。
怪しい奴を放り込み易くする為らしい。
だから、階段を上がったらすぐに俺が騒ぐ。
理由は何でも良い。
虫かネズミのせいとでもしておこう。
その隙に逃げてくれ。
俺は大丈夫。
頑丈だけが取り柄だからな。
見知らぬ人間にそこまでする理由?
『あんたが、故郷に置いて来た息子と年恰好が似ているから』、だったら納得するか?
そう言う事だ、気にするな。

「お名前をお伺いしても宜しいですか?」

「もう会う事は無いだろうが、良いだろう。【ネイク・クリスハート】。エプドモ様に仕えし一番槍だ。」



打ち合わせ通りに、ネイクがクライスを連れて階段を上がる。
そこには騎士の格好をした数人と、異様に目つきの悪い痩せた小男がいた。

『こいつがさっき話したあ奴、【ヒューイ】だ。』

見た目から分かる。
この領地・国の人間では無いな。
かと言って流れ者でも無いらしい。
騎士の鎧をちゃんと着こなしている。
位の高い者の様だ。
クライスはそう判断した。
しかしこいつは……。
その時。

「うわあああーーーっ!」

ネイクが大声で暴れ始めた。
何だ!何事か!
慌てる周り。
ネイクはクライスを、ドンッと玄関の方へ突き飛ばす。
『早く逃げろ』と、目で合図するネイク。
ふらふらっと玄関へ向かうクライス。
それをヒューイは見逃さなかった。

「逃げるぞ!捕まえろ!」

ヒューイが怒鳴る。
それを邪魔しようとするネイク。
ネイクに加担する者、ヒューイに従う者。
明らかに両者へと分かれた。
それでもスウッとくぐり抜けて、玄関のドアを開けようとするクライス。
しかし。



「騒がしいな。」

ドアがバンッと開いて。
立派な装飾で飾られた鎧を纏った、凛々しい男が現れた。
紳士的な雰囲気。
途端にバタバタしていた者の動きが止まる。
ヒューイの命に従った者は、クライスへ飛び付こうとするが。
ギロッと睨まれ、すごすごと奥へ引っ込んだ。
代わりにすかさず、ヒューイが男の前に出る。

「これはこれは、エプドモ様。お早いお帰りで。」

手を擦り擦り。
何と言う変わり身の早さ。
何と言う小物感。
そこへネイクが膝間付く。

「エプドモ様!これはですね……。」

「良い。話は後で聞く。ところでそのほうは……。」

クライスを見るエプドモ。
こうべを垂れるクライス。

「初めまして。あなたにお会いしたく参りました、業突く張りの行商人でございます。」

可笑おかしな自己紹介だな。面白い。どうせこの騒ぎの元はお主であろう?」

「そのお目利き、感服致します。その通りでございます。」

ヒューイが否定する間も無く、答えるクライス。
エプドモはクライスに興味を持った。
そして騒ぎの元が自分と認める事で、ここで追い出されるのを回避出来た。
これは運が向いている。
クライスはチャンスと考えた。

「エプドモ様にお見せしたい物がございまして。これなのですが……。」

そう言って、服のポケットから金銀のリンゴを取り出す。
流石のエプドモも、これには食い付いた。
フチルベと同じ。
信じていなかった物、存在を否定していた物。
それがここに有る。
驚くには十分。
すっかりクライスの話を聞く気になった。

「な、なるほど。それでは奥で詳しい話を。」

エプドモに促され、付いて行くクライス。
歯ぎしりするヒューイとすれ違うその時に、わざとフッと笑う。
馬鹿にする様に。
逆に、ネイクに対しては頭を下げた。
これでこの場の格付けは、ネイクの方がヒューイより上となった。



交渉の場は整った。
しかしネイクには疑問がある。
牢で探った時には、金銀のリンゴは何処にも無かった。
それが服のポケットから出て来た。
手品か何かか?
その疑問は、後に晴れる事となる。
特大の驚きと共に。
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