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第31話 1つの町、それを分かつ”もの”達

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エミルとアリュースが話をしている頃。
クライス達はモッテジンの入り口まで来ていた。
来てはいたのだが……。



何故か、ゲートが2つある。
真ん中に高さ3メートル程、幅50センチ程のレンガ壁を挟んで。
ゲートの上には。
それぞれ右が〔フチルベ領〕、左が〔エプドモ領〕と書かれた旗が掲げられている。
どうやら町は完全に分断されていて、もう片方に行くには一度町の外に出る必要が有るらしい。
何と七面倒な事か。

「どうする?どっちから行く?」

両方を見比べながら悩むラヴィ。
息子と面識が有る分、フチルベの方が話を通し易そうだが……。

「行商人を装ってるから、まあ右が妥当だろうな。」

クライスは考える。
同じ商人の方へ挨拶に行く方が自然だろう。
しかし……。

「恐らく、同時に攻略する必要が有るな。」

ゲートから何かがチラッと見える。
一同が中を覗き込むと、レンガ壁に張り紙がしてあるのを見つけた。
それには。
〔選択せよ!相応しき主を!〕
デカデカと書いてある文字を見て、アンとセレナは呆れ返る。
ここまで酷いとは。
この様な事態が発生している以上、確かに同時攻略の必要性がある。
となると……。



「本当に大丈夫かしら?」

「クライス様なら、何とかして下さるでしょう。」

「そうそう、もう少し兄様を信頼して貰いたいわね。」

「じゃなくて、向こう側の情勢よ。クライスの心配なんかして無いわ。」

話しながら町中を進む3人。
結局。
クライスが、まだ関わりの無いエプドモサイド。
息子と面識のある残り3人が、フチルベサイドへと行く事に。
エプドモサイドは騎士団を相手にするので。
クライス1人の方が、いざと言う時に動き易いだろうとの判断だった。

「私も結構、鍛錬を積んでいるつもりですが……。」

役不足と判断された様で、納得が行かないセレナ。

「兄様は戦いに行くんじゃないわよ。それにあなたは、守るべき人が居るでしょう?」

アンに諭されるセレナ。
それは重々承知している。
でも、もう少し頼ってくれても……。
ブツブツ小言を言いながら歩く。

「あなたがそんな事言うなんて、珍しいわね。」

意外な面を見たラヴィ。
もしかして、自分も姫様の様に守られたいとか……?
そう思うと、ふふっと微笑まずにはいられなかった。

「そうそう、《あれ》は持ってるわよね?」

無理やり話をそらそうと、アンに振るセレナ。

「勿論。ここに。」

服の左ポケットをポンと叩くアン。
二手に分かれる前に、例の金銀のリンゴを複製しておいたのだ。
まあ2つ作っただけなので、両方本物だが。
これを利用して相手の関心を引く作戦だった。
それが上手く行くかどうか。
今から緊張するラヴィだった。



「うーん、何か活気が無いなあ。」

エプドモ領を掲げる方に来たクライスは、閑散とする町内を歩いていた。
人が居る事には居るが、緊張感が漂っている。
店も在るが、ぽつぽつと最低限存在するだけ。
商店街は元々こちら側では無かった様だ。

「それもそうか。」

『フチルベはまず商店街を押さえた』と考えるのが妥当。
食料の供給元を牛耳れば、自ずと人がそちらに流れる。
商売人らしい発想だと思った。
それに比べて、こちらのリーダーは民の心を読み違えている様だった。

「力で抑え込んでも、人は動かない。分かっている筈だがな。」

仮にも騎士長を名乗る男。
信義に熱いと思っていたが、見当外れか……?
それとも、この様な状況にするのを急ぐ理由でも有ったのか……?
それも、本人に聞けば分かる事。
町中を見てヒントを探りながら、エプドモの元へ進むクライスだった。



「それにしても賑やかね。」

「解放感が有りますね。」

「と言うより、無理に元気を出してるみたいにも見えるけど。」

ラヴィ達3人は、町を見た感想を出し合いながらフチルベの元へと歩んでいた。
あちら側には無い自由でもあるのか。
はたまた、空元気でも出さないとやっていけないのか。
商店街には品物がずらっと並んでいるが、買い物客があまり居ない。

「客が来なければ、店は繁盛しない。考えたわね。」

ラヴィはそう漏らす。
エプドモは、町を守るのがそもそもの役目。
だから、住民が多く住む地域を先に抑えたのだろう。
そうすれば店の売り上げは落ち込み、向こう側に店を出そうとする者も出て来る。
金を稼ぎ、店主として生き残っていく為に。
守護者としては、まあ真っ当な理由だ。
それに比べ、こちらの主はそこを見抜けなかった様だった。

「物流を押さえても、裏切り者が出たら元も子も無いのにね。」

商売人として甘い部分があると感じた。
しかし、本当にそうだろうか?
ここまでしてリンゴの販売権を何としても握ろうとする理由が、別に有るのではないか?
そう思えてならないラヴィだった。



両サイドに別れて向かった一行。
それぞれの思惑を想像しながら、ごたごたを起こしている張本人に近付く。
そこに待ち受けるのは、ドロドロの泥仕合か?
はたまた……?
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