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49祝福と束縛② ※
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寝台がきしむ。淫らな音から逃げることはできない。
あの手この手で、足まで使ってレオポルドの腕を引きはがそうとする。後ろ手でからめ捕られたルイの腕では、まったく動きがない。
「祝いの言葉がほしい」
安直な頼みだなとルイはレオポルドに言ってやりたかった。彼は子どもみたいだ。まるで駄々をこねる、あの幼い頃みたいな。
目の前の王子のことだから、褒められることなんて日常茶飯事であろう。巷では、人付き合いをすればするほど、レオポルドへの激賞はよく耳にすることになる。彼は良くも悪くも、シオン王国ではカリスマみたく扱われているのだから。
「そんな……のっ、わたしは」
ルイはくたびれた顔を布団に強く埋めて、尻にかかる刺激を紛らわそうとする。彼なりの抵抗だった。
「俺はルイからの言葉がほしいんだ」
「なんで」
なんでそんなに執着するの。ルイはぱくぱくと口を開けたものの、快感が脳を焼き、声が出せなかった。
ルイは願う。レオポルドの兄マルクスが示したとおり、もっと豊かな人生をレオポルドには送ってほしいと。頑張って、努力して、よき妻を持って子に恵まれて、家族に囲まれること。なんの取り組みも活躍もしていない貴族とは訳が違う。権力に胡坐をかいている若者ともこれまた違う。
レオポルドはひたむきに自分を磨くことができる、実直な人間だ。ずっと見てきた。ルイからすれば、レオポルドは豊かな人生を送るにふさわしい男だと胸を張って言える。
「死ぬほど好きだからだ」
「だれ……が」
うつ伏せだった身を起こされたため、ルイは布団とお別れした。性器が孔口から抜けていく感じで全身が凍りつく。ひりついた尻に手をあてがうと、ぽたぽたと液体が垂れていることに気づかされる。
寝台の上でわずかに浮かび上がった後、レオポルドの腕にすっぽり収まった。夫の顔と、ルイは対面を果たすことになる。
「俺は、ルイのことが死ぬほど好きだ」
軽々持ち上げて、この一言を放ってくる。まだ耐性のないルイは、ぶんぶんと激しく首を振った。
性交中。こんなさわやかな顔をしていたのかとレオポルドを気味悪がった。頭や背中を撫でてきて、左手の甲に口づけしてくる。無理、無理だ彼があのやんちゃな王子なんて納得がいかない。
「むりぃ……」
ぐずぐずとルイが尻込みしているのも、あちらは構うことはない。
「俺のこと嫌いか」
「いぃ……ちがうすきなの。すきだから」
「だから?」
「うぅん!!からだ触るなっ、まって」
顔を上げたり下げたり、レオポルドの髪先がルイの肌をくすぐっていく。その間にもルイの下半身は爆ぜるか爆ぜないかの瀬戸際だった。玉のように転がされる性器。我慢が緩めば、いつでも快楽が精液を噴き出してしまう。
「好きなのに拒むのはどうして?」
「それは……それが」
「わからない、もっと声に出して言ってくれ」
鬼なのか。レオポルドのぐいぐいと迫る勢いに、ルイは追い詰められていった。ここで本音を言ってしまっていいのだろうか。気持ち悪い奴だと思われないだろうか。眩暈がするほどに頭を働かせる。
「俺を子ども扱いしたいから?」
「ちがう!!そうじゃなくて」
「でもそう見えるよ。俺はお前に認められていないんじゃないか」
子ども扱い、確かに言われてみればそうだ。ルイは自分を繋ぎ止めてくれる存在として、レオポルドに期待していたのだから。そうやって感じさせる振る舞いをしていると言われたら、否定もできない。
「私はすきです、レオポ……レオ様のこと。でも、私はいまのレオ様がこわいだけで」
「怖い?」
「はなれていく気がして。ずっと、そばに……いるのに、いつか遠のいていく気が」
ルイの顔を包みこむ手のひらが、静かにすき間を縮めていく。太く根強い腕に、ルイも自らの手を巻き込んでいった。もどかしい気持ちを吐き出すのに、なんだか手持ち無沙汰な気がしたのだった。
「わたしの存在理由は」とルイはひっそりと呟いた。これを明け透けに聞き返すことは、上に乗っかる相手もしない。
「俺がお前を見捨てるわけないだろ」
「でも、でも……。また何年も会えなかったら私。どうにかなってしまいそうなんです。もう、なんか……」
苦しい、と痛烈な本音をルイは相手にぶつけようとする。6年の孤独を、打ち消すのにどれだけ苦労したか。レオポルドのいない王宮を、どれほど空虚だと思ったことか。懐かしい記憶を大事にしているだけでも、気持ちは和らぐけど。それも一時しのぎに過ぎない。ルイの溜まっていく想いを、理解してくれる人はどこにもいない。
王子を無理にでも突き放したい自分と、素直に迎え入れたい自分が同居している。大人の節度と、子どものような独占欲。どちらが本当の自分自身の本音かわからない。ただこの場で確かなことは、どちらもルイが大事にしたい想いだった。
「すごく寂しかったんです、レオ様」
「ルイ」
「でも私は、あなたを受け入れるのが怖い。いつか終わりが来ると思うと、関係が深くなるのがあまりにつらすぎる……」
手と手が触れて、夫婦は互いの指先を握り合った。
「あなたの手を握るのが怖いんです」
「うん……うん」
「6年前、湖であなたに名前をよんでもらった時。私はすごく嬉しかった、でもあの時に私たち、きっとおかしくなってしまったんです」
「おかしいことなんて無い」
「いいえ。私はずっとずっとずっとあなたに依存しているんです。あの日から。私は、レオ様無しでは生きられないんです。だっておかしいじゃないですか、たったひとりを、こんなに求めてしまうなんて」
現実を越えて、夢を見るほどまでに。
レオは静かに話を聴いている。ルイはその彫刻のような顔を見て、はっとした。
相手のことばかり考えていたから、度外視していたこと。自分がレオポルドをどれほど慮ってきたことか。一度だって言葉にしたことがなかったのである。
「私はあなたが居なかったら、愛の意味さえ知らなかったんですよ」
これが人を求める感情だというなら、きっとそうだ。男どうしでも。夫婦として歪な関係だとしても、これこそがルイの魂の叫びだといえる。
あの手この手で、足まで使ってレオポルドの腕を引きはがそうとする。後ろ手でからめ捕られたルイの腕では、まったく動きがない。
「祝いの言葉がほしい」
安直な頼みだなとルイはレオポルドに言ってやりたかった。彼は子どもみたいだ。まるで駄々をこねる、あの幼い頃みたいな。
目の前の王子のことだから、褒められることなんて日常茶飯事であろう。巷では、人付き合いをすればするほど、レオポルドへの激賞はよく耳にすることになる。彼は良くも悪くも、シオン王国ではカリスマみたく扱われているのだから。
「そんな……のっ、わたしは」
ルイはくたびれた顔を布団に強く埋めて、尻にかかる刺激を紛らわそうとする。彼なりの抵抗だった。
「俺はルイからの言葉がほしいんだ」
「なんで」
なんでそんなに執着するの。ルイはぱくぱくと口を開けたものの、快感が脳を焼き、声が出せなかった。
ルイは願う。レオポルドの兄マルクスが示したとおり、もっと豊かな人生をレオポルドには送ってほしいと。頑張って、努力して、よき妻を持って子に恵まれて、家族に囲まれること。なんの取り組みも活躍もしていない貴族とは訳が違う。権力に胡坐をかいている若者ともこれまた違う。
レオポルドはひたむきに自分を磨くことができる、実直な人間だ。ずっと見てきた。ルイからすれば、レオポルドは豊かな人生を送るにふさわしい男だと胸を張って言える。
「死ぬほど好きだからだ」
「だれ……が」
うつ伏せだった身を起こされたため、ルイは布団とお別れした。性器が孔口から抜けていく感じで全身が凍りつく。ひりついた尻に手をあてがうと、ぽたぽたと液体が垂れていることに気づかされる。
寝台の上でわずかに浮かび上がった後、レオポルドの腕にすっぽり収まった。夫の顔と、ルイは対面を果たすことになる。
「俺は、ルイのことが死ぬほど好きだ」
軽々持ち上げて、この一言を放ってくる。まだ耐性のないルイは、ぶんぶんと激しく首を振った。
性交中。こんなさわやかな顔をしていたのかとレオポルドを気味悪がった。頭や背中を撫でてきて、左手の甲に口づけしてくる。無理、無理だ彼があのやんちゃな王子なんて納得がいかない。
「むりぃ……」
ぐずぐずとルイが尻込みしているのも、あちらは構うことはない。
「俺のこと嫌いか」
「いぃ……ちがうすきなの。すきだから」
「だから?」
「うぅん!!からだ触るなっ、まって」
顔を上げたり下げたり、レオポルドの髪先がルイの肌をくすぐっていく。その間にもルイの下半身は爆ぜるか爆ぜないかの瀬戸際だった。玉のように転がされる性器。我慢が緩めば、いつでも快楽が精液を噴き出してしまう。
「好きなのに拒むのはどうして?」
「それは……それが」
「わからない、もっと声に出して言ってくれ」
鬼なのか。レオポルドのぐいぐいと迫る勢いに、ルイは追い詰められていった。ここで本音を言ってしまっていいのだろうか。気持ち悪い奴だと思われないだろうか。眩暈がするほどに頭を働かせる。
「俺を子ども扱いしたいから?」
「ちがう!!そうじゃなくて」
「でもそう見えるよ。俺はお前に認められていないんじゃないか」
子ども扱い、確かに言われてみればそうだ。ルイは自分を繋ぎ止めてくれる存在として、レオポルドに期待していたのだから。そうやって感じさせる振る舞いをしていると言われたら、否定もできない。
「私はすきです、レオポ……レオ様のこと。でも、私はいまのレオ様がこわいだけで」
「怖い?」
「はなれていく気がして。ずっと、そばに……いるのに、いつか遠のいていく気が」
ルイの顔を包みこむ手のひらが、静かにすき間を縮めていく。太く根強い腕に、ルイも自らの手を巻き込んでいった。もどかしい気持ちを吐き出すのに、なんだか手持ち無沙汰な気がしたのだった。
「わたしの存在理由は」とルイはひっそりと呟いた。これを明け透けに聞き返すことは、上に乗っかる相手もしない。
「俺がお前を見捨てるわけないだろ」
「でも、でも……。また何年も会えなかったら私。どうにかなってしまいそうなんです。もう、なんか……」
苦しい、と痛烈な本音をルイは相手にぶつけようとする。6年の孤独を、打ち消すのにどれだけ苦労したか。レオポルドのいない王宮を、どれほど空虚だと思ったことか。懐かしい記憶を大事にしているだけでも、気持ちは和らぐけど。それも一時しのぎに過ぎない。ルイの溜まっていく想いを、理解してくれる人はどこにもいない。
王子を無理にでも突き放したい自分と、素直に迎え入れたい自分が同居している。大人の節度と、子どものような独占欲。どちらが本当の自分自身の本音かわからない。ただこの場で確かなことは、どちらもルイが大事にしたい想いだった。
「すごく寂しかったんです、レオ様」
「ルイ」
「でも私は、あなたを受け入れるのが怖い。いつか終わりが来ると思うと、関係が深くなるのがあまりにつらすぎる……」
手と手が触れて、夫婦は互いの指先を握り合った。
「あなたの手を握るのが怖いんです」
「うん……うん」
「6年前、湖であなたに名前をよんでもらった時。私はすごく嬉しかった、でもあの時に私たち、きっとおかしくなってしまったんです」
「おかしいことなんて無い」
「いいえ。私はずっとずっとずっとあなたに依存しているんです。あの日から。私は、レオ様無しでは生きられないんです。だっておかしいじゃないですか、たったひとりを、こんなに求めてしまうなんて」
現実を越えて、夢を見るほどまでに。
レオは静かに話を聴いている。ルイはその彫刻のような顔を見て、はっとした。
相手のことばかり考えていたから、度外視していたこと。自分がレオポルドをどれほど慮ってきたことか。一度だって言葉にしたことがなかったのである。
「私はあなたが居なかったら、愛の意味さえ知らなかったんですよ」
これが人を求める感情だというなら、きっとそうだ。男どうしでも。夫婦として歪な関係だとしても、これこそがルイの魂の叫びだといえる。
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