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 認めたくない。レオポルドが自分に敬愛以外の愛情を抱いていることに。男どうしであればありえないその感情を、頭にもいれたくない。

 ルイは王宮の中心部で、王子の姿を目にした。ガルシア司令官の隣を行く彼は、熱をいれて何かを話し合っているようだった。軍人の男性たちを横に置いても高さが目立っている。見ないようにしていたのに、彼のことを執拗に目で追ってしまう。

「あ……」

 ガルシア閣下が王子に呼び掛け、ルイの方を指した。普段と同じ切れ長の眼光をした彼がこちらを向くと、その表情はいつもより柔和であった。

「ルイ……ここにいたのか」

「これはレオポルド様」

 挨拶と礼を尽くし、さっさと横を通り過ぎようとしたルイ。その行く手を、レオポルドが遠慮がちに阻んでいった。

「待って、ルイ頼むから」

 王子は手を取って、害がないことを必死に訴えかけてくる。ゴツゴツとした手の温もりは熱いくらいで、ルイはのけ反ってしまう。大きな手、分厚い皮膚の感覚を初めて知る。少年のころに握った質感とかけ離れていて、自分の手が覆い包まれているようだった。

「すまなかった。言葉だけでは許されないことはわかっている、でも、ちゃんと伝えたくて」

「なにを……」

「俺のしたことを許してほしい。お前に劣情を抱いて、あの場で、気持ちが抑えられなかった俺の身勝手な行動を」

 ルイはひっそりと相手を眺めていた。本人から言われたことは紛れもない、真実なのだろう。花で部屋が飾られたことも、湖での出来事もルイは直視したくない、否定したかった。

「どうか許してほしい。ルイ」

「……」

 彼を許す、許さないの問題ではない。夫婦として、妻としての自分の覚悟の足りなさが露呈したのだ。いたらない自分がレオポルドを受け入れることを拒んでしまう。何度も、同じように。

 可愛いレオポルド。あの子からもらったものは、数えきれない。婚礼では花の残骸をもらって、今も劣化を止めながら大切に保管している。決闘大会の夜には紋章入りの刺繍をもらった。彼がどうしてそれを渡したかといえば、「レオ」と呼んでほしいという切なる願いがあったからだった。
震えるほど嬉しかったことをルイは覚えている。少年が心を開いていき、自分をまっすぐに受け入れてくれたことが幸せだった。

「あなたは多くのことが変わってしまいました」

「ルイ……」

「嬉しい気もするし、とても寂しい気もどこかでします。レオポルド様を見ているといろいろな気持ちに襲われてしまうのです」

童心を失くした目の前の王子には、あのころのように感情は持てない。手紙をあれだけ交わしても、互いの知らないことだらけで歩み寄りができていなかったのだ。自分の気持ちを落ち着かせるため、現実を受け入れるための時間がまだ足りていない。

「さきほど、レオポルド様の成人に先立ち、閨での務めを仰せつかりました。王子からも推挙してくださったと王妃殿下からうかがっております」

「あ、あぁ……そうだ。俺がルイ以外にありえないと言った」

「無理をされているのではないですか?後悔はありませんか?」

振る舞いを整えながら、ルイは彼と真正面から向かい合った。異存はないかと尋ねられただけなのに、相手は顔を赤くして口を引き結んでいる。ルイのこととなると、レオポルドは気が動転したようにおぼつかない態度になる。

「後悔は、ない。俺はずっとお前とそういう関係になりたいと望んでいたからな」

「レオポルド様……」

「お前は俺の妻で、大切な相手だから。こういうことはお前以外に頼みたくないんだよ」

「けれど。私など相手にせずに女性との関係を持たれるほうが」

「いいんだ。もう決めたことだから、お前にしか俺は興味がないんだ」

言葉を切り返す余裕がルイにはない。年下の夫に、なんとか踏みとどまってほしいと願うだけ。自分が想い人だとわかったとしても、軟弱な心のせいで彼の気持ちを慮ることができない。


こんな廊下で、何を感情的になっているのかと言われてしまいそうだった。通り過ぎていく役人や従者からは、まず絶対に、気まずい空気を与えてしまったことだろう。
ルイは、迫ってくる王子の成人式が遠のいてほしいと思ってしまった。
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