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28任命

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 ルイの恐れが現実になったのは、それから数日後のことである。王妃ミランダに呼び出され、厳粛な場で彼女との面会が行われた。
 通常のお付きに加えて、女官らしい人が王妃の周りに多くいる。お付きと、ルイの侍女たちと、女官とが混在するややこしい雰囲気。会談するには少しばかり目線が忙しかった。

「調子はどう?」

 予想に反して穏やかな談話だった。心がこもっていないが、その素振りだけ見せてくる。ルイはにこやかに王妃へ対応していった。

「国王陛下はあなたに期待しているわ。レオポルドが奮励努力するようになったのは、あなたがそばに居たからだと」

「身に余るお言葉ですが、大げさにございます。私は運よく殿下の妻になれただけに過ぎません」

「謙遜するのね。いいわ、すごく模範的で」

 レオポルドの親も同然だと、王妃はとんでもない賛美を相手に言い放つ。とんでもないことだ。彼女は子の親といっても、王子にはすでに他人行儀な言い回しが多く、それもルイを驚嘆とさせた。

「野外授業で貴族の子どもたちを育てているそうじゃない。よほど働き者なのね」

「お褒めにあずかり光栄にございます。学校の真似事をしてたら、気づいたらあのような規模になってしまい」

「ふふ、継続は力なりとはよく言ったものね」

 児童が育てば、国にそれだけ貢献してくれる。ルイのことはともかくレオポルドの後ろ盾を作る意味でも、野外学校の影響力は計り知れない。王宮の者からしたら、ルイは無意識でもレオポルド傘下の貴族を日々増やしているといえた。

「でもあまり働き過ぎるのもいけないわ。王宮は変化に目ざといから、ほどほどにね」

「どういうことでしょう?」

 含み笑いの正体を、ルイは知らない。まさか自分がレオポルドのシンパを生み出しているなんてことすらも。

「そんな熱心なあなたに、一個だけ頼みごとがあるわ」

 王妃が姿勢を正す。のほほんとしていた表情が一瞬で切り替わり、ルイは瞬きした。

「レオポルドの閨教育を任せたいのだけど」

 ルイの目が点になる。前触れはほとんどなく、不意打ちのような頼みに辟易とする。他方で周りの従者たちは、口を綻ばせ、祝福したそうな空気をまとい出した。
 夫婦としては未成熟で、無二の友としても最近は疑わしい。

「私よりも適役がいるのでは」

 そうだ。男の自分よりも王子を満たすことのできる人がいるはず。乳母でも、女官の誰かでもいいではないか。レオポルドのことを懇切丁寧に相手できる人の方がはるかに良いだろう。

「いないわ。あなただけが求められているの」

「そんな。そんなことがあるわけ」

「王子たっての希望なの。申し訳ないけど、この件はどうしても受け入れてほしいわ」

 宮の儀礼なのよ、と強い声がかかり、ルイは厳しい顔つきをした。だからこそ男では役不足だと忠告したのだ。

 女性らしい豊かな身体つきも、男を誘える肢体も振る舞いも乏しい。顔が多少良くても、若くて初々しい美女には圧倒的に劣る。比べられる対象も、立つ土俵もおかしいこともルイは承知している。

 王妃は涼しげな顔で、相手が頷くのを待っていた。
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