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【番外編】君の名は
3.嫉妬と罪悪感
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雅治はその日も帰りが早かった。
晶が早い帰宅に驚くと、「一週間も出張行かされたんだ。しばらくは早めに帰してもらうよ」と笑いながら言った。
その表情も様子も、普段と変わりない。
いつもの晶だったら、なにも疑うことはなかっただろう。
けれど注意深く雅治を観察している晶の目には、僅かな雅治の内面の葛藤が見える気がした。
夕食の支度をしている雅治に近づいて「なに、作ってるの」と聞く。
「スープだよ。鳥の手羽先と香味野菜と、身体にいい生薬を入れた薬膳スープ。昨日、晶、食欲なさそうだったからさ、胃腸が疲れてるんじゃないかと思って」
まさかランチに覚と高級ステーキを食べたせいだとは言えない。
晶は、真剣な表情で鍋の中をかき混ぜる雅治の背中に、ピタッと額をつけて、両腕を雅治の腰にまわした。
「ん?どうした。なに、甘えてんの」
「…別に。料理してる雅治が、カッコいいなあと思って」
「マジで。そりゃあ、光栄。さあ、もう出来るから、食べよう」
晶の腕を解いて振り返り、額にキスしながら言う。
食器を並べに行った雅治の背中を見つめ、晶はそっとため息を吐いた。
食事の間も雅治は穏やかに笑いながら出張中の話を面白く聞かせて晶を楽しませ、留守中の晶の話も聞きたがった。
美味しい食事と、ユーモアと思いやりのある会話は、晶の寂しかった心を癒していく。
間違いなく、自分は雅治に愛されていると思う。
覚の言う通り、雅治が女装姿の自分に一目惚れしたなんて、自分の勘違いだったかもしれない。
食事が終わる頃には晶はそう思い始めていた。
その夜も、一緒にベッドに入ると雅治が晶のパジャマを脱がせるので、晶は驚いた。
「今日もするの?昨夜もしたのに」
「だめ?したいんだけど」
「いいけど、珍しいな」
晶がそう言うと、雅治はちょっと困った顔をした。
「男なら、こういうことあるじゃん。晶だって、わかるだろ」
年中発情期の晶は毎日だって抱かれたい。
けれど雅治は欲望よりも理性の方が勝っていて、翌日に仕事のあるような日には自制が出来るのだ。
晶がつい「珍しい」と言ってしまうのも無理はなかった。
雅治は晶の肩口に顔を埋めて、うなじに鼻先を押し付けてくる。
「抱きたい、晶。抱かせて」
戸惑いながらも、熱い吐息を首筋に感じて「あ…んっ」と声を出してしまう。
YESと答える代わりに、晶は雅治の背中に腕を回した。
パジャマのボタンを全部外しても、一気に脱がすのを惜しむように雅治は少しずつ晶の肌を露出させる。
肩、鎖骨、胸元と、見える部分に唇を押しつける。
どこに口づけられても、晶の心はときめく。
やっと腕からパジャマの上着が抜きとられたときには、晶の上半身には愛された痕跡が派手に残っていた。
「…雅治」
雅治は、晶のパジャマのズボンのゴムに手をかけ、もったいぶった様子で、ゆっくり脱がせた。
「…んっ」
下着を押し上げて勃ち上がっているのがはっきりわかって、恥ずかしさに身が縮む。
下着の上から、雅治が膨らみに触れてくる。
「ね、晶、足、開いて」
優しく撫でながら言われて、晶は膝を立てて、足を開いた。
「昨日もシタのに、今日もこんなにして。可愛いんだから」
撫でながら、そんなことを言われる。
「もうヤダ、雅治、パンツも脱がせて」
下着の膨らみは、直にペニスを見られるより恥ずかしい。
「まだ脱がせない」
雅治はそう言って、下着の上からペニスに噛みつくような愛撫をしてくる。
「ああん!」
晶の両脚は思わず閉じそうになるが、雅治に膝を押さえられて、閉じることを許されない。
下着の上から舐められたそこは、濡れてくっきりと形が透けて見える。
「やだ…雅治、恥ずかし…ああっ」
雅治はまだ下着を脱がそうとはしないで、脇から手を入れて直に触れてきた。
「ああ!…気持ち、いい…」
小さな布に阻まれて思うようには動かない手の、不自由な触り方が、焦らされているようで余計に感じる。
見た目にも、下着の下で蠢く手は卑猥だった。
晶は背中を浮かせて悶えた。
「晶、ここ、濡れてる。ヌルヌルしてる」
雅治の指が下着の中で先端を弄っている。
そこからはもう先走りの露が零れて、雅治の指に誘われるように次から次に溢れてくる。
「いやあ、もう出ちゃいそう」
「まだダメだよ、もっと愉しもう」
そう言うと、雅治はやっと下着を脱がせてくれた。
自分も全裸になって、晶の上に重なって深くて長い口づけを交わした。
髪を撫でながら、口の中を擽られるような優しくて甘いキスをされて、晶は夢見るように心まで溶けていく。
そうしながら雅治は昂ぶったペニスを押し付け、腰を揺らしてペニスとペニスを擦り合せる。
それだけで晶はイッてしまう、と根を上げた。
シックスナインの格好で、互いのペニスをたっぷり愛撫したあと、やっと、雅治は晶の中に入ってきた。
ペニスと一緒に充分に舐められ解された後孔は、悦んで雅治の欲望を飲みこんでいく。
「あっ…ん、あ…はぁ…、い…いい…まさはる…」
正上位で、両脚を折り曲げ腰を上げた格好で雅治を受け入れる。
じわりじわりと侵入してくる熱い肉塊を、自分の中がヒクついて絡みつくのがわかる。
根元までが納まると、晶は一際高い声を上げて身体を震わせた。
雅治と一つになる、繋がるこの瞬間は何度味わっても感極まる。
繋がっている状態で、雅治が真上から晶の顔を見つめる。
「晶の中、熱くて、柔らかい。ヤバイ、すげえ、気持ちいい」
形の良い眉を寄せて、唇を開いて息を吐く雅治の感じている顔に、晶は嬉しくてたまらなくなる。
「オレも…気持ち、いい」
「晶、動いていい?」
晶はうっとりと頷いた。
「動いて、突いて。オレのイイとこに」
どこがイイか、知ってるだろ?
そんな目で雅治を見つめると、心得ているというように微笑んでくれる。
何度も何度も身体を重ねた二人は、お互いの快楽のツボはよく知っている。
それなのに抱きあうたびに、まるではじめて味わう快感のように夢中になれるのは、よほど身体の相性がいいのか、それとも気持ちの問題か。
腰を振る雅治の首にしがみ付いて揺すられながら、晶は雅治に愛されていることを身体の隅々まで実感出来た。
***
身も心も満たされて眠りに落ちたが、珍しく真夜中に目が覚めた。
温もりを求めて手を伸ばすと、隣に寝ているはずの雅治がいない。
眠い目を擦りながら寝室を出てリビングに向かうと、リビングと廊下を仕切るドアのガラス窓から、雅治が一人でソファーに腰かけているのが見えた。
テーブルには滅多に飲まないウィスキーの瓶があった。
ドアを開けて声をかけようとして、晶は思いとどまった。
雅治の表情が、とても切なそうに見えたから。
「…雅治」
薄暗い部屋で、物憂げな表情をして一人で酒を飲む雅治は、外国映画の中の俳優のようにサマになっていて、そんな場合ではないのに、胸が高鳴る。
「カッコいい」
呟いた瞬間、ブンブンと首を振る。
他の女のことを想って(といっても正体は自分なのだが)切ない溜息を吐いている雅治は、心で自分を裏切っている。
自分のように身体だけの浮気ではすまない。
自分は怒ってもいいはずだ。
「浮気者!」と詰って、泣いて、雅治を責めればいい。
けれど晶には出来なかった。
雅治のあんな切ない顔を見て、責めることなんか出来ない。
声をかけずその場を離れ、一人きりの冷たいベッドに戻る。
愛しあっていても、想いの大きさには差が、ある。
自分と雅治の場合は、たぶん、いつだって自分の方がより雅治に夢中だった。
雅治に愛されていることを疑ったことはないけれど、一人を愛したら、他の誰も愛さないというわけでもないことも、晶は知っている。
自分で子を孕むことの出来ない男は、同時に複数を愛せる動物だ。
だけどもし雅治に、自分よりも想う相手が出来ても、晶は雅治と別れることなんて絶対に出来ない。
雅治と別れるくらいなら死んだ方がマシだ。
ただし今回はその心配はない。
雅治は想いが叶うことのない相手に恋をしてしまったのだから。
想う女はこの世に存在しない。
そのことを思うと、晶は嫉妬のような憐憫のような、そして雅治を騙している罪悪感のような、複雑な感情に胸が痛くなった。
人の想いはままならない。
晶が早い帰宅に驚くと、「一週間も出張行かされたんだ。しばらくは早めに帰してもらうよ」と笑いながら言った。
その表情も様子も、普段と変わりない。
いつもの晶だったら、なにも疑うことはなかっただろう。
けれど注意深く雅治を観察している晶の目には、僅かな雅治の内面の葛藤が見える気がした。
夕食の支度をしている雅治に近づいて「なに、作ってるの」と聞く。
「スープだよ。鳥の手羽先と香味野菜と、身体にいい生薬を入れた薬膳スープ。昨日、晶、食欲なさそうだったからさ、胃腸が疲れてるんじゃないかと思って」
まさかランチに覚と高級ステーキを食べたせいだとは言えない。
晶は、真剣な表情で鍋の中をかき混ぜる雅治の背中に、ピタッと額をつけて、両腕を雅治の腰にまわした。
「ん?どうした。なに、甘えてんの」
「…別に。料理してる雅治が、カッコいいなあと思って」
「マジで。そりゃあ、光栄。さあ、もう出来るから、食べよう」
晶の腕を解いて振り返り、額にキスしながら言う。
食器を並べに行った雅治の背中を見つめ、晶はそっとため息を吐いた。
食事の間も雅治は穏やかに笑いながら出張中の話を面白く聞かせて晶を楽しませ、留守中の晶の話も聞きたがった。
美味しい食事と、ユーモアと思いやりのある会話は、晶の寂しかった心を癒していく。
間違いなく、自分は雅治に愛されていると思う。
覚の言う通り、雅治が女装姿の自分に一目惚れしたなんて、自分の勘違いだったかもしれない。
食事が終わる頃には晶はそう思い始めていた。
その夜も、一緒にベッドに入ると雅治が晶のパジャマを脱がせるので、晶は驚いた。
「今日もするの?昨夜もしたのに」
「だめ?したいんだけど」
「いいけど、珍しいな」
晶がそう言うと、雅治はちょっと困った顔をした。
「男なら、こういうことあるじゃん。晶だって、わかるだろ」
年中発情期の晶は毎日だって抱かれたい。
けれど雅治は欲望よりも理性の方が勝っていて、翌日に仕事のあるような日には自制が出来るのだ。
晶がつい「珍しい」と言ってしまうのも無理はなかった。
雅治は晶の肩口に顔を埋めて、うなじに鼻先を押し付けてくる。
「抱きたい、晶。抱かせて」
戸惑いながらも、熱い吐息を首筋に感じて「あ…んっ」と声を出してしまう。
YESと答える代わりに、晶は雅治の背中に腕を回した。
パジャマのボタンを全部外しても、一気に脱がすのを惜しむように雅治は少しずつ晶の肌を露出させる。
肩、鎖骨、胸元と、見える部分に唇を押しつける。
どこに口づけられても、晶の心はときめく。
やっと腕からパジャマの上着が抜きとられたときには、晶の上半身には愛された痕跡が派手に残っていた。
「…雅治」
雅治は、晶のパジャマのズボンのゴムに手をかけ、もったいぶった様子で、ゆっくり脱がせた。
「…んっ」
下着を押し上げて勃ち上がっているのがはっきりわかって、恥ずかしさに身が縮む。
下着の上から、雅治が膨らみに触れてくる。
「ね、晶、足、開いて」
優しく撫でながら言われて、晶は膝を立てて、足を開いた。
「昨日もシタのに、今日もこんなにして。可愛いんだから」
撫でながら、そんなことを言われる。
「もうヤダ、雅治、パンツも脱がせて」
下着の膨らみは、直にペニスを見られるより恥ずかしい。
「まだ脱がせない」
雅治はそう言って、下着の上からペニスに噛みつくような愛撫をしてくる。
「ああん!」
晶の両脚は思わず閉じそうになるが、雅治に膝を押さえられて、閉じることを許されない。
下着の上から舐められたそこは、濡れてくっきりと形が透けて見える。
「やだ…雅治、恥ずかし…ああっ」
雅治はまだ下着を脱がそうとはしないで、脇から手を入れて直に触れてきた。
「ああ!…気持ち、いい…」
小さな布に阻まれて思うようには動かない手の、不自由な触り方が、焦らされているようで余計に感じる。
見た目にも、下着の下で蠢く手は卑猥だった。
晶は背中を浮かせて悶えた。
「晶、ここ、濡れてる。ヌルヌルしてる」
雅治の指が下着の中で先端を弄っている。
そこからはもう先走りの露が零れて、雅治の指に誘われるように次から次に溢れてくる。
「いやあ、もう出ちゃいそう」
「まだダメだよ、もっと愉しもう」
そう言うと、雅治はやっと下着を脱がせてくれた。
自分も全裸になって、晶の上に重なって深くて長い口づけを交わした。
髪を撫でながら、口の中を擽られるような優しくて甘いキスをされて、晶は夢見るように心まで溶けていく。
そうしながら雅治は昂ぶったペニスを押し付け、腰を揺らしてペニスとペニスを擦り合せる。
それだけで晶はイッてしまう、と根を上げた。
シックスナインの格好で、互いのペニスをたっぷり愛撫したあと、やっと、雅治は晶の中に入ってきた。
ペニスと一緒に充分に舐められ解された後孔は、悦んで雅治の欲望を飲みこんでいく。
「あっ…ん、あ…はぁ…、い…いい…まさはる…」
正上位で、両脚を折り曲げ腰を上げた格好で雅治を受け入れる。
じわりじわりと侵入してくる熱い肉塊を、自分の中がヒクついて絡みつくのがわかる。
根元までが納まると、晶は一際高い声を上げて身体を震わせた。
雅治と一つになる、繋がるこの瞬間は何度味わっても感極まる。
繋がっている状態で、雅治が真上から晶の顔を見つめる。
「晶の中、熱くて、柔らかい。ヤバイ、すげえ、気持ちいい」
形の良い眉を寄せて、唇を開いて息を吐く雅治の感じている顔に、晶は嬉しくてたまらなくなる。
「オレも…気持ち、いい」
「晶、動いていい?」
晶はうっとりと頷いた。
「動いて、突いて。オレのイイとこに」
どこがイイか、知ってるだろ?
そんな目で雅治を見つめると、心得ているというように微笑んでくれる。
何度も何度も身体を重ねた二人は、お互いの快楽のツボはよく知っている。
それなのに抱きあうたびに、まるではじめて味わう快感のように夢中になれるのは、よほど身体の相性がいいのか、それとも気持ちの問題か。
腰を振る雅治の首にしがみ付いて揺すられながら、晶は雅治に愛されていることを身体の隅々まで実感出来た。
***
身も心も満たされて眠りに落ちたが、珍しく真夜中に目が覚めた。
温もりを求めて手を伸ばすと、隣に寝ているはずの雅治がいない。
眠い目を擦りながら寝室を出てリビングに向かうと、リビングと廊下を仕切るドアのガラス窓から、雅治が一人でソファーに腰かけているのが見えた。
テーブルには滅多に飲まないウィスキーの瓶があった。
ドアを開けて声をかけようとして、晶は思いとどまった。
雅治の表情が、とても切なそうに見えたから。
「…雅治」
薄暗い部屋で、物憂げな表情をして一人で酒を飲む雅治は、外国映画の中の俳優のようにサマになっていて、そんな場合ではないのに、胸が高鳴る。
「カッコいい」
呟いた瞬間、ブンブンと首を振る。
他の女のことを想って(といっても正体は自分なのだが)切ない溜息を吐いている雅治は、心で自分を裏切っている。
自分のように身体だけの浮気ではすまない。
自分は怒ってもいいはずだ。
「浮気者!」と詰って、泣いて、雅治を責めればいい。
けれど晶には出来なかった。
雅治のあんな切ない顔を見て、責めることなんか出来ない。
声をかけずその場を離れ、一人きりの冷たいベッドに戻る。
愛しあっていても、想いの大きさには差が、ある。
自分と雅治の場合は、たぶん、いつだって自分の方がより雅治に夢中だった。
雅治に愛されていることを疑ったことはないけれど、一人を愛したら、他の誰も愛さないというわけでもないことも、晶は知っている。
自分で子を孕むことの出来ない男は、同時に複数を愛せる動物だ。
だけどもし雅治に、自分よりも想う相手が出来ても、晶は雅治と別れることなんて絶対に出来ない。
雅治と別れるくらいなら死んだ方がマシだ。
ただし今回はその心配はない。
雅治は想いが叶うことのない相手に恋をしてしまったのだから。
想う女はこの世に存在しない。
そのことを思うと、晶は嫉妬のような憐憫のような、そして雅治を騙している罪悪感のような、複雑な感情に胸が痛くなった。
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