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本編
22.【Jリーガー】水野光司再び
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そっと病室のドアを開けると、中から賑やかな話し声が聞こえてきた。
「あれ、晶君、来てくれたの?」
光司が、ベッドの上から笑いながら話しかけ、見舞いに来ていたチームの仲間たちは調度帰るところだった様子で、晶と入れ違うように出て行った。
豪勢な個室の部屋の中は色鮮やかな花で溢れ、お見舞いのフルーツの篭盛りやらデパートの包装紙に包まれた箱やらが積み上げられている。
深刻な怪我人が入院しているとは思えない様子だった。
「元気そうだな。心配して損した」
「心配してくれたの?」
軽口を返す光司に安心したが、包帯を巻かれた左足を目にすると、言葉が出ない。
晶が見た新聞には『靭帯損傷。再起は絶望的か』と書いてあった。
サッカー選手としての選手生命を失ったかもしれない光司を、どんな言葉で慰ていいか正直わからない。
結局、見舞いに来るのも随分遅くなってしまった。
聞けばもう来週退院するのだと言う。
「退院してから、どうすんだよ」
「どうしようかなあ、と思って。ありがたいことに声をかけてくれるところは多いんだよね」
そう言って、光司は見舞いの品と花の山を指差した。
よく見ると、丁寧にセロファンに包まれた花束には芸能プロダクションの担当者の名刺が貼り付けられていた。
「そうだ、慎太郎君も来てくれたよ」
「慎太郎が?あのバカ。あそこはやめた方がいいぞ、人遣いが荒いから」
光司はクスクス笑った後で「だけどオレ、テレビの仕事なんか出来ないよ。人前で喋るの苦手だもん」とぼやいた。
「サッカーは、やめるのか」
いくら聞き難いと言っても、聞かずにすますわけにはいかない。
「うーん、まだ決めてない。所属チームとも話をしてないし。でも、復帰は難しいと思うんだよね。この怪我で復帰した選手、殆どいないから」
「そうか…」
簡単に決断出来たことではないと思うが、すでに光司は決心を固めているような口調だった。
「そんな顔しないでよ。晶君、似合わないよ」
「どういう意味だよっ」
「ごめんごめん。でも、オレ、他人が思うほど悔しくないかもしれない。サッカーは子供の頃からなんとなくしててさ、スキとかキライとか、Jリーグに入りたいとかって、実はそんなに意識したことなかったんだ。結果的にサッカー選手になったような感じで。ただ、今までサッカーしかして来なかったからさ、ほかに何が出来るんだろうって心配はあるけど」
「仕事なんかしなくていいじゃん。一生暮らせるくらいの貯金あるんだろ」
「それがさ、マンション買っちゃって。そんなにないんだ」
「マジで?おまえ、結構な年俸貰ってたじゃん」
「んー、六本木で遊びすぎちゃったかなあ」
呑気に言う光司に、晶は呆れた顔をする。
「退院したあとはどうすんだよ。実家に戻るのか」
「うん、それなら大丈夫そう。彼女が一緒に住んでくれるって」
「彼女?おまえ、特定の子なんかいたか」
「いなかったけど、怪我したとき一緒に住んでくれるっていう女の子が5、6人いてさ、その中から選んだんだ」
さすがモテモテJリーガー水野光司だと晶は唸った。
「結婚するの?」
「まだそこまでは、ね。でも一緒に住んでみて、うまくいったら結婚してもいいかな。もうそろそろ年貢の納め時ってヤツかなあ」
典型的B型マイペースで楽天的な光司の物言いに晶は安心した。
しばらく病室にいたら、その一緒に住むという彼女が来て、紹介された。
目を瞠るほどの美人というわけではないが、清楚で頭の良さそうな女性だった。
即席彼女とは思えない仲の良い二人の会話を見せつけられて、晶は、ほっとしながら少し寂しい気分を味わった。
極上の浮気相手が一人減ってしまった。
でもな、W不倫というのも燃えるよな…などと不埒なことを考えながら病室を出た。
「あれ、晶君、来てくれたの?」
光司が、ベッドの上から笑いながら話しかけ、見舞いに来ていたチームの仲間たちは調度帰るところだった様子で、晶と入れ違うように出て行った。
豪勢な個室の部屋の中は色鮮やかな花で溢れ、お見舞いのフルーツの篭盛りやらデパートの包装紙に包まれた箱やらが積み上げられている。
深刻な怪我人が入院しているとは思えない様子だった。
「元気そうだな。心配して損した」
「心配してくれたの?」
軽口を返す光司に安心したが、包帯を巻かれた左足を目にすると、言葉が出ない。
晶が見た新聞には『靭帯損傷。再起は絶望的か』と書いてあった。
サッカー選手としての選手生命を失ったかもしれない光司を、どんな言葉で慰ていいか正直わからない。
結局、見舞いに来るのも随分遅くなってしまった。
聞けばもう来週退院するのだと言う。
「退院してから、どうすんだよ」
「どうしようかなあ、と思って。ありがたいことに声をかけてくれるところは多いんだよね」
そう言って、光司は見舞いの品と花の山を指差した。
よく見ると、丁寧にセロファンに包まれた花束には芸能プロダクションの担当者の名刺が貼り付けられていた。
「そうだ、慎太郎君も来てくれたよ」
「慎太郎が?あのバカ。あそこはやめた方がいいぞ、人遣いが荒いから」
光司はクスクス笑った後で「だけどオレ、テレビの仕事なんか出来ないよ。人前で喋るの苦手だもん」とぼやいた。
「サッカーは、やめるのか」
いくら聞き難いと言っても、聞かずにすますわけにはいかない。
「うーん、まだ決めてない。所属チームとも話をしてないし。でも、復帰は難しいと思うんだよね。この怪我で復帰した選手、殆どいないから」
「そうか…」
簡単に決断出来たことではないと思うが、すでに光司は決心を固めているような口調だった。
「そんな顔しないでよ。晶君、似合わないよ」
「どういう意味だよっ」
「ごめんごめん。でも、オレ、他人が思うほど悔しくないかもしれない。サッカーは子供の頃からなんとなくしててさ、スキとかキライとか、Jリーグに入りたいとかって、実はそんなに意識したことなかったんだ。結果的にサッカー選手になったような感じで。ただ、今までサッカーしかして来なかったからさ、ほかに何が出来るんだろうって心配はあるけど」
「仕事なんかしなくていいじゃん。一生暮らせるくらいの貯金あるんだろ」
「それがさ、マンション買っちゃって。そんなにないんだ」
「マジで?おまえ、結構な年俸貰ってたじゃん」
「んー、六本木で遊びすぎちゃったかなあ」
呑気に言う光司に、晶は呆れた顔をする。
「退院したあとはどうすんだよ。実家に戻るのか」
「うん、それなら大丈夫そう。彼女が一緒に住んでくれるって」
「彼女?おまえ、特定の子なんかいたか」
「いなかったけど、怪我したとき一緒に住んでくれるっていう女の子が5、6人いてさ、その中から選んだんだ」
さすがモテモテJリーガー水野光司だと晶は唸った。
「結婚するの?」
「まだそこまでは、ね。でも一緒に住んでみて、うまくいったら結婚してもいいかな。もうそろそろ年貢の納め時ってヤツかなあ」
典型的B型マイペースで楽天的な光司の物言いに晶は安心した。
しばらく病室にいたら、その一緒に住むという彼女が来て、紹介された。
目を瞠るほどの美人というわけではないが、清楚で頭の良さそうな女性だった。
即席彼女とは思えない仲の良い二人の会話を見せつけられて、晶は、ほっとしながら少し寂しい気分を味わった。
極上の浮気相手が一人減ってしまった。
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