47 / 105
【番外編】世界中で誰よりも
1.記憶喪失
しおりを挟む
「晶!」
慌てた様子で病室に駆け込んできた雅治は、ベッドの上の晶が起きて座っているのを見て、ほっと息を吐いた。
歩道橋の階段から滑り落ちて、救急車で病院に搬送されたと連絡を受けたときは、どんな状態なのかわからなかったが、意識もあり、見た目には怪我らしきものも見当たらない。
仕事で都内にいなかった雅治は、覚に連絡して先に病院に行って様子を見てくれと頼んでいたのだが、その覚は、なぜか神妙な表情をしている。
「悪かったな、面倒かけて」
覚に声をかけたあと、ベッドに歩みよって「晶、大丈夫か。怪我はしてない?」と聞いた。
ところが、晶は返事をせず、不思議そうな顔でキョトンとしている。
「晶?」
顔を覗きこんでもう一度呼びかけると、晶は雅治にではなく、雅治の後ろにいる覚に向かって言った。
「覚、これ、誰」
晶に"これ"と言われた雅治は呆然と晶を見て、説明を求めるように覚を振り返った。
覚は、ため息を吐きながら言った。
「どうも打ちどころが悪かったようで、記憶が混乱しているみたいだよ。自分の名前を"名取晶"だって言うし、もうすぐ雅治が着くよって言っても"それ誰"とか言うから、おかしいなと思ってたところ」
雅治にそう説明したあと、覚はベッドの真横に立つ雅治の横に並んで、今度は晶に向かって言った。
「あのね、晶。この人は、君のご主人だよ」
「ご、ご、ごしゅじん?!」
晶は素っ頓狂な声を上げる。
しばらく眉間に皺を寄せ、一生懸命何かを考えたあと「って、ことは、もしかしてオヤジの会社が倒産して多額の借金作って、その借金のカタにオレ、売られちゃった、とか?オレって、この人の奴隷なの?今時自分用の奴隷を持ってるなんて、日本人に見えるけど、アラブの石油王かなんか?」
覚と雅治は無言で顔を見合わせた。
「よくそんな馬鹿馬鹿しいこと思いつくね。ご主人っていうのは、そういう主従の意味じゃなくて、もっと一般的な意味でだよ。つまり、ダンナさん、夫、パートナー。わかる?君、この人と結婚したでしょ」
「けっ、けっこんーー?!」
そう叫んだあと、雅治の身体を上から下、下から上へジロジロと見る。
「男に見えるけど、もしかして女なの?」
「男だよ、決まってるだろ」
覚が答えた。
「おまえ、オレを騙そうとしてるだろ。なんで男と男が結婚出来るんだ!そこまでバカじゃねえぞ」
「だ・か・ら!正確には養子縁組だよ。君たちは愛し合って、男同士っていうハンデやリスクを乗り超えて、日本中のゲイたちに夢と希望を与える、勇気あるゲイ婚をしたんだろ。ああもう、なんで僕がこんなこと説明しなきゃなんないの」
そこまで言っても晶はまだ、疑い深い目で覚を見る。
「はあ?じゃあなにか、おまえは、オレがホモだって言うのか?!」
「ホモだろ!今さらなに言ってんだ」
「気色悪いこと言うなよ。オレがホモのハズがない。ありえない。あ!ってことは、この人って、ウソ、ホモなの?」
雅治のことを指で指して、覚に確認する。
それまで黙って二人のやり取りを聞いていた雅治の右手の拳が、ブルブルと震えた。
「あーきーら!いい加減にしろ!昨日の喧嘩のこと根にもって、ワザと言ってるだろ、おまえ!だいたい、覚のことはわかってるじゃないか!都合よく、オレのことだけ、忘れたのか!ええっ!?」
晶は急に怒り出した雅治にびっくりして、覚の腰にしがみついて言った。
「怖えー、なんだよ、こいつ。急に怒った。オレ、違うもん。こんな怖いやつと、しかも男と、結婚なんかしてねえもん!」
脳波の検査は異常なし、身体的にもどこも悪くないため、晶は病院を追い出された。
記憶喪失については担当した医者は「ほとんどのことは覚えているので、2、3日もすれば全部思い出しますよ」と無責任に太鼓判を押した。
ところが晶が雅治と暮らしている家に帰りたくないと言い張ったので、思い出すまで覚が預かることになった。
それから一週間、未だに晶の記憶は戻らない。
慌てた様子で病室に駆け込んできた雅治は、ベッドの上の晶が起きて座っているのを見て、ほっと息を吐いた。
歩道橋の階段から滑り落ちて、救急車で病院に搬送されたと連絡を受けたときは、どんな状態なのかわからなかったが、意識もあり、見た目には怪我らしきものも見当たらない。
仕事で都内にいなかった雅治は、覚に連絡して先に病院に行って様子を見てくれと頼んでいたのだが、その覚は、なぜか神妙な表情をしている。
「悪かったな、面倒かけて」
覚に声をかけたあと、ベッドに歩みよって「晶、大丈夫か。怪我はしてない?」と聞いた。
ところが、晶は返事をせず、不思議そうな顔でキョトンとしている。
「晶?」
顔を覗きこんでもう一度呼びかけると、晶は雅治にではなく、雅治の後ろにいる覚に向かって言った。
「覚、これ、誰」
晶に"これ"と言われた雅治は呆然と晶を見て、説明を求めるように覚を振り返った。
覚は、ため息を吐きながら言った。
「どうも打ちどころが悪かったようで、記憶が混乱しているみたいだよ。自分の名前を"名取晶"だって言うし、もうすぐ雅治が着くよって言っても"それ誰"とか言うから、おかしいなと思ってたところ」
雅治にそう説明したあと、覚はベッドの真横に立つ雅治の横に並んで、今度は晶に向かって言った。
「あのね、晶。この人は、君のご主人だよ」
「ご、ご、ごしゅじん?!」
晶は素っ頓狂な声を上げる。
しばらく眉間に皺を寄せ、一生懸命何かを考えたあと「って、ことは、もしかしてオヤジの会社が倒産して多額の借金作って、その借金のカタにオレ、売られちゃった、とか?オレって、この人の奴隷なの?今時自分用の奴隷を持ってるなんて、日本人に見えるけど、アラブの石油王かなんか?」
覚と雅治は無言で顔を見合わせた。
「よくそんな馬鹿馬鹿しいこと思いつくね。ご主人っていうのは、そういう主従の意味じゃなくて、もっと一般的な意味でだよ。つまり、ダンナさん、夫、パートナー。わかる?君、この人と結婚したでしょ」
「けっ、けっこんーー?!」
そう叫んだあと、雅治の身体を上から下、下から上へジロジロと見る。
「男に見えるけど、もしかして女なの?」
「男だよ、決まってるだろ」
覚が答えた。
「おまえ、オレを騙そうとしてるだろ。なんで男と男が結婚出来るんだ!そこまでバカじゃねえぞ」
「だ・か・ら!正確には養子縁組だよ。君たちは愛し合って、男同士っていうハンデやリスクを乗り超えて、日本中のゲイたちに夢と希望を与える、勇気あるゲイ婚をしたんだろ。ああもう、なんで僕がこんなこと説明しなきゃなんないの」
そこまで言っても晶はまだ、疑い深い目で覚を見る。
「はあ?じゃあなにか、おまえは、オレがホモだって言うのか?!」
「ホモだろ!今さらなに言ってんだ」
「気色悪いこと言うなよ。オレがホモのハズがない。ありえない。あ!ってことは、この人って、ウソ、ホモなの?」
雅治のことを指で指して、覚に確認する。
それまで黙って二人のやり取りを聞いていた雅治の右手の拳が、ブルブルと震えた。
「あーきーら!いい加減にしろ!昨日の喧嘩のこと根にもって、ワザと言ってるだろ、おまえ!だいたい、覚のことはわかってるじゃないか!都合よく、オレのことだけ、忘れたのか!ええっ!?」
晶は急に怒り出した雅治にびっくりして、覚の腰にしがみついて言った。
「怖えー、なんだよ、こいつ。急に怒った。オレ、違うもん。こんな怖いやつと、しかも男と、結婚なんかしてねえもん!」
脳波の検査は異常なし、身体的にもどこも悪くないため、晶は病院を追い出された。
記憶喪失については担当した医者は「ほとんどのことは覚えているので、2、3日もすれば全部思い出しますよ」と無責任に太鼓判を押した。
ところが晶が雅治と暮らしている家に帰りたくないと言い張ったので、思い出すまで覚が預かることになった。
それから一週間、未だに晶の記憶は戻らない。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる