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【番外編】結婚しようよ(独身編)
4.もう誰も愛さない
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「ねえ、晶。今日、僕の部屋に泊まりに来ない?」
カウンターに座った青山覚に言われて、晶はビールのグラスを置きながら答えた。
「無理だね。オレ、昨日、雅治と久しぶりに会って…」
そこまで言って、ニタニタ笑う。
「朝までいちゃいちゃしたから眠いし、もう空っぽだし」
「えー、つまんないなあ。でもね、晶、精子は1日に5000万個から1億個も作られるんだよ」
「マジでか?!なんか、無駄に多いな」
「まあ確かに君の場合は無駄だよねー。新しい生命にならないんだから」
晶を口説いているということは、自分の1億個の精子も無駄になるのだが、自分のことはきれいさっぱり棚にあげて、覚は皮肉を口にして笑った。
「じゃあ、おまえはこんなとこで男を口説いてないで、どっかで新しい生命を作ってこいよ」
晶に逆襲されて、「ごめん、ごめん」と心のこもってない謝罪をする。
覚は晶との、こんな軽口の応酬が楽しいのだ。
結局、覚の誘いを断りきれず、晶は覚が一人で暮らしているマンションの部屋に行って、5000万個だか1億個だかの精子を覚の手の中に、気持ちよく出した。
覚は去年、両親に援助してもらい港区白金に精神科のクリニックを開業し、クリニックからほど近いマンションで一人暮らしをはじめていた。
「おまえって、筋金入りのボンボンだよな」
広々としたダブルベッドに寝たまま、晶が言った。
「まあ、否定はしないけど」
「オレも、都内で一人暮らししたいなあ」
「だったらまず、就職しなよ。いつまでフリーターやってるつもり」
覚は、事が終わってシャワーをすませ、バスローブを羽織ってベッドに腰掛けて、ワインを飲んでいる。
まさに絵に描いたような「筋金入りのボンボン」だ。
「オレが、定職に就いたら、雅治と会う時間がなくなるだろ」
至極当然のことのように晶がそう言ったので、覚は驚いた。
「えっ!まさか、そのために、フリーターやってるの、君?」
「悪いか」
「悪いっていうか、びっくりした。晶って、ものすごく意外だけど、実は一途だよね。雅治と付き合って、もう9年くらいたつじゃない?男同士のカップルって、普通そんなに長く続かないんじゃないの」
「身体に飽きたら終わり、ってよく言うよな」
「飽きないの?」
「飽きるほど、シテねーし。昨日だって、1ヶ月ぶりだったんだぞ。何億個溜まってたんだか」
晶の発言に、覚は「あははははは」と、大笑いした。
「適当に出してるくせによく言うよ」
「じゃあ、雅治はどうなんだと思う?やっぱり、他の穴に出してるよな?」
「穴って、そんな露骨な…」
赤面して、覚は言葉を続けた。
「まあ、1ヶ月もしないとか考えにくいけど、雅治は仕事人間だから。こうなることは、わかっていたよね?」
「わかっていたし、わかってるよ。オレ、最近、雅治に会うたびに、別れようって言われるんじゃないかって身構えちゃうんだ」
「どうしたの?珍しく弱気だね」
「弱気っていうか、潮時がわからないっていうか」
「もし、雅治に別れようって言われたら、晶はどうするの?」
覚としては、晶が答えに窮するような意地悪な質問をしたつもりだったが、晶は即答した。
「そんなの決まってる。笑って、いいよって、言うよ。雅治はもともとゲイでもないんだし、その上有名人になって、男と付き合ってることがバレたら大変だろ」
「あ、晶…」
覚はうっかり感動してしまった。
自分本位で自己中心的で我が儘な晶が、好きな男のために潔く別れる覚悟を持っていたとは思ってもいなかった。
晶なら、たとえば自分で週刊誌にネタを流して、雅治と自分の禁じられた交際を世間に暴露し、雅治を窮地に追い込んで自分のものにするくらいの腹黒いことを画策していても不思議ではない、と思っていた。
けれどよく考えれば、晶は単純でシンプルな人間だ。
雅治と別れる準備があるというのは、本心だろう。
「大丈夫だよ、雅治と別れたときは、僕がいるからね」
覚は、精一杯慰めたつもりだったが、晶にはあまり響かなかったようだ。
晶は欠伸をしながらも、きっぱり言った。
「オレはもう誰も好きにならない。雅治以上に、好きになることはない」
晶にとって雅治との恋は、はじまったときも、そして今も特別なものだった。
換えられるものなんて、ないと知っていた。
カウンターに座った青山覚に言われて、晶はビールのグラスを置きながら答えた。
「無理だね。オレ、昨日、雅治と久しぶりに会って…」
そこまで言って、ニタニタ笑う。
「朝までいちゃいちゃしたから眠いし、もう空っぽだし」
「えー、つまんないなあ。でもね、晶、精子は1日に5000万個から1億個も作られるんだよ」
「マジでか?!なんか、無駄に多いな」
「まあ確かに君の場合は無駄だよねー。新しい生命にならないんだから」
晶を口説いているということは、自分の1億個の精子も無駄になるのだが、自分のことはきれいさっぱり棚にあげて、覚は皮肉を口にして笑った。
「じゃあ、おまえはこんなとこで男を口説いてないで、どっかで新しい生命を作ってこいよ」
晶に逆襲されて、「ごめん、ごめん」と心のこもってない謝罪をする。
覚は晶との、こんな軽口の応酬が楽しいのだ。
結局、覚の誘いを断りきれず、晶は覚が一人で暮らしているマンションの部屋に行って、5000万個だか1億個だかの精子を覚の手の中に、気持ちよく出した。
覚は去年、両親に援助してもらい港区白金に精神科のクリニックを開業し、クリニックからほど近いマンションで一人暮らしをはじめていた。
「おまえって、筋金入りのボンボンだよな」
広々としたダブルベッドに寝たまま、晶が言った。
「まあ、否定はしないけど」
「オレも、都内で一人暮らししたいなあ」
「だったらまず、就職しなよ。いつまでフリーターやってるつもり」
覚は、事が終わってシャワーをすませ、バスローブを羽織ってベッドに腰掛けて、ワインを飲んでいる。
まさに絵に描いたような「筋金入りのボンボン」だ。
「オレが、定職に就いたら、雅治と会う時間がなくなるだろ」
至極当然のことのように晶がそう言ったので、覚は驚いた。
「えっ!まさか、そのために、フリーターやってるの、君?」
「悪いか」
「悪いっていうか、びっくりした。晶って、ものすごく意外だけど、実は一途だよね。雅治と付き合って、もう9年くらいたつじゃない?男同士のカップルって、普通そんなに長く続かないんじゃないの」
「身体に飽きたら終わり、ってよく言うよな」
「飽きないの?」
「飽きるほど、シテねーし。昨日だって、1ヶ月ぶりだったんだぞ。何億個溜まってたんだか」
晶の発言に、覚は「あははははは」と、大笑いした。
「適当に出してるくせによく言うよ」
「じゃあ、雅治はどうなんだと思う?やっぱり、他の穴に出してるよな?」
「穴って、そんな露骨な…」
赤面して、覚は言葉を続けた。
「まあ、1ヶ月もしないとか考えにくいけど、雅治は仕事人間だから。こうなることは、わかっていたよね?」
「わかっていたし、わかってるよ。オレ、最近、雅治に会うたびに、別れようって言われるんじゃないかって身構えちゃうんだ」
「どうしたの?珍しく弱気だね」
「弱気っていうか、潮時がわからないっていうか」
「もし、雅治に別れようって言われたら、晶はどうするの?」
覚としては、晶が答えに窮するような意地悪な質問をしたつもりだったが、晶は即答した。
「そんなの決まってる。笑って、いいよって、言うよ。雅治はもともとゲイでもないんだし、その上有名人になって、男と付き合ってることがバレたら大変だろ」
「あ、晶…」
覚はうっかり感動してしまった。
自分本位で自己中心的で我が儘な晶が、好きな男のために潔く別れる覚悟を持っていたとは思ってもいなかった。
晶なら、たとえば自分で週刊誌にネタを流して、雅治と自分の禁じられた交際を世間に暴露し、雅治を窮地に追い込んで自分のものにするくらいの腹黒いことを画策していても不思議ではない、と思っていた。
けれどよく考えれば、晶は単純でシンプルな人間だ。
雅治と別れる準備があるというのは、本心だろう。
「大丈夫だよ、雅治と別れたときは、僕がいるからね」
覚は、精一杯慰めたつもりだったが、晶にはあまり響かなかったようだ。
晶は欠伸をしながらも、きっぱり言った。
「オレはもう誰も好きにならない。雅治以上に、好きになることはない」
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換えられるものなんて、ないと知っていた。
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