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続・東京シンデレラ
8.弁護士先生
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睦月の助言もあって、オレは弁護士に相談することにした。
弁護士も、睦月が探してきてくれた。
病院に来てくれた弁護士の先生は、高杉にも負けず劣らずのイケメンで、どこかで見たことがあると思ったらテレビでも人気のカリスマ弁護士だという。
弁護士先生は、別の病院に入院している三ノ宮と示談交渉をして、留置所にいる高杉にも面会してくれたりと、オレが病院のベッドで寝ている間に精力的に動いてくれた。
三ノ宮はオレが強姦罪を告訴しなければ、高杉の傷害罪の告訴を取り下げると言ってるらしい。
もともとオレは告訴なんかするつもりはないので了承したのだが、弁護士先生の話だと高杉が頑なに納得しないらしい。
オレは高杉の説得を弁護士先生に頼んだ。
だいたいオレの方は軽い怪我だけ(それでも検査だなんだと2日入院)なのに対し、三ノ宮は鼻の骨が折れ、歯が何本か欠けるという大惨事だったのだ、告訴しないですむなら妥当だと思う。
オレがそう言うと、弁護士先生は「心に受けた怪我の方が、見えない分、重いんですよ。訴えることで少しでもあなたが楽になるならそうした方がいいんです」と言った。
親身になってそう言ってくれたのがわかるから、オレはちょっと嬉しくなって、言わなくてもいいことを言ってしまった。
「でもオレ、ソープで働いていて、男とヤルことなんて仕事でいつもしてるし、そんなにダメージないんですよ」
「あなたが自分の意思でしていることと、自由を奪われて身体を勝手されることは全く、違いますよ。しかも性的な暴力は一番、キツイんです。それは最もプライベートな部分で、人の尊厳にかかわる」
オレは弁護士先生の言葉に、真剣に耳を傾けた。
「それに、レイプはあなただけの問題ではなく、パートナーの問題でもあります。彼も、心に傷を負ったでしょう。あなたを守れなかったことに自責の念もあるでしょうから」
「守るって言っても、高杉はその場にいなかったんだから仕方ないです」
「理屈ではわかっていても、です。もし、わたしのワイフが誰かにレイプされたら、わたしはきっと相手を殺してしまうでしょうね」
にっこり笑いながらそう言った弁護士先生は俳優顔負けの魅力的な笑顔だったけど、その言葉に嘘はないとわかるような凄みがあった。
弁護士先生はオレが後悔しないように、いろんな話をしてくれた。
そのうえでオレはやっぱり告訴しないと決めた。
その理由は単純で、高杉を罪人にしたくなかったから。
刑務所なんかに行かせない、これからも一緒にいたかったからだ。
話がまとまって、帰り際に、弁護士先生はオレの頭にぽんと手を置いて、屈んで、オレの顔を覗きこんで言った。
「大丈夫。二人でなら、乗り越えられるよ」
ずっと、弁護士と依頼人という体で、年下のオレにも丁寧な言葉遣いで話してくれたけど、そのときは弁護士というより、まるで兄貴のような感じだった。
まあ、オレの兄貴にしてはイケメン過ぎるけど。
多分オレの顔は真っ赤になっていたと思う。
弁護士先生が同性婚をしていることは、先生が帰ってから睦月に聞いた。
あんなにカッコ良くて、女に不自由しそうにない人が、男と結婚かあ。
なんとまあ、世の中には不思議なことがあるもんだ。
***
オレが退院して部屋に戻ってすぐ、高杉も勾留されていた警察署から戻って来た。
「お帰り」
玄関で出迎えると、高杉は涙目になって抱きついてきた。
「椎名…椎名…」
「バカだな…なんで、おまえが泣くんだよ…」
オレたちはしばらく玄関先で抱き合って、泣いた。
オレは高杉にずっと気になっていたこと、あの日、なんで早く帰って来たのか聞いた。
「駅前でマリちゃんに会ったんだよ」
「マリちゃん?」
「そう、マリちゃん。駅前の進学塾の前で。息子の進路相談してたんだって。あそこ、三ノ宮が講師してる塾だろ?何気に評判聞いたら、三ノ宮先生なら昨日辞めたわよ、って」
「辞めた?」
「三ノ宮、前の学校、男子生徒に睡眠薬飲ませていたずらしたのがバレてくびになったんだって。塾でもそのことが発覚したらしい。あと、その男子生徒の示談金で借金つくって、経済的にもヤバいらしいって教えてくれてさ。そのこと、おまえは知らないだろうと思って家に戻ったんだ」
「そんなこと、電話でも良かったのに」
「それ聞いて、なんか嫌な予感がしたんだ。結局、間に合わなかったけど」
そう言って、高杉はまた自分を責めるような表情をした。
こんな表情はもうさせたくない。
自分の心の傷より、心が痛い。
「高杉…記憶を上書きしよう。さっさと忘れるために、セックスしよう、今から」
「い、いまから?」
「うん、いまから。最高のセックスをしよう」
オレとおまえでしか出来ないセックスを。
弁護士も、睦月が探してきてくれた。
病院に来てくれた弁護士の先生は、高杉にも負けず劣らずのイケメンで、どこかで見たことがあると思ったらテレビでも人気のカリスマ弁護士だという。
弁護士先生は、別の病院に入院している三ノ宮と示談交渉をして、留置所にいる高杉にも面会してくれたりと、オレが病院のベッドで寝ている間に精力的に動いてくれた。
三ノ宮はオレが強姦罪を告訴しなければ、高杉の傷害罪の告訴を取り下げると言ってるらしい。
もともとオレは告訴なんかするつもりはないので了承したのだが、弁護士先生の話だと高杉が頑なに納得しないらしい。
オレは高杉の説得を弁護士先生に頼んだ。
だいたいオレの方は軽い怪我だけ(それでも検査だなんだと2日入院)なのに対し、三ノ宮は鼻の骨が折れ、歯が何本か欠けるという大惨事だったのだ、告訴しないですむなら妥当だと思う。
オレがそう言うと、弁護士先生は「心に受けた怪我の方が、見えない分、重いんですよ。訴えることで少しでもあなたが楽になるならそうした方がいいんです」と言った。
親身になってそう言ってくれたのがわかるから、オレはちょっと嬉しくなって、言わなくてもいいことを言ってしまった。
「でもオレ、ソープで働いていて、男とヤルことなんて仕事でいつもしてるし、そんなにダメージないんですよ」
「あなたが自分の意思でしていることと、自由を奪われて身体を勝手されることは全く、違いますよ。しかも性的な暴力は一番、キツイんです。それは最もプライベートな部分で、人の尊厳にかかわる」
オレは弁護士先生の言葉に、真剣に耳を傾けた。
「それに、レイプはあなただけの問題ではなく、パートナーの問題でもあります。彼も、心に傷を負ったでしょう。あなたを守れなかったことに自責の念もあるでしょうから」
「守るって言っても、高杉はその場にいなかったんだから仕方ないです」
「理屈ではわかっていても、です。もし、わたしのワイフが誰かにレイプされたら、わたしはきっと相手を殺してしまうでしょうね」
にっこり笑いながらそう言った弁護士先生は俳優顔負けの魅力的な笑顔だったけど、その言葉に嘘はないとわかるような凄みがあった。
弁護士先生はオレが後悔しないように、いろんな話をしてくれた。
そのうえでオレはやっぱり告訴しないと決めた。
その理由は単純で、高杉を罪人にしたくなかったから。
刑務所なんかに行かせない、これからも一緒にいたかったからだ。
話がまとまって、帰り際に、弁護士先生はオレの頭にぽんと手を置いて、屈んで、オレの顔を覗きこんで言った。
「大丈夫。二人でなら、乗り越えられるよ」
ずっと、弁護士と依頼人という体で、年下のオレにも丁寧な言葉遣いで話してくれたけど、そのときは弁護士というより、まるで兄貴のような感じだった。
まあ、オレの兄貴にしてはイケメン過ぎるけど。
多分オレの顔は真っ赤になっていたと思う。
弁護士先生が同性婚をしていることは、先生が帰ってから睦月に聞いた。
あんなにカッコ良くて、女に不自由しそうにない人が、男と結婚かあ。
なんとまあ、世の中には不思議なことがあるもんだ。
***
オレが退院して部屋に戻ってすぐ、高杉も勾留されていた警察署から戻って来た。
「お帰り」
玄関で出迎えると、高杉は涙目になって抱きついてきた。
「椎名…椎名…」
「バカだな…なんで、おまえが泣くんだよ…」
オレたちはしばらく玄関先で抱き合って、泣いた。
オレは高杉にずっと気になっていたこと、あの日、なんで早く帰って来たのか聞いた。
「駅前でマリちゃんに会ったんだよ」
「マリちゃん?」
「そう、マリちゃん。駅前の進学塾の前で。息子の進路相談してたんだって。あそこ、三ノ宮が講師してる塾だろ?何気に評判聞いたら、三ノ宮先生なら昨日辞めたわよ、って」
「辞めた?」
「三ノ宮、前の学校、男子生徒に睡眠薬飲ませていたずらしたのがバレてくびになったんだって。塾でもそのことが発覚したらしい。あと、その男子生徒の示談金で借金つくって、経済的にもヤバいらしいって教えてくれてさ。そのこと、おまえは知らないだろうと思って家に戻ったんだ」
「そんなこと、電話でも良かったのに」
「それ聞いて、なんか嫌な予感がしたんだ。結局、間に合わなかったけど」
そう言って、高杉はまた自分を責めるような表情をした。
こんな表情はもうさせたくない。
自分の心の傷より、心が痛い。
「高杉…記憶を上書きしよう。さっさと忘れるために、セックスしよう、今から」
「い、いまから?」
「うん、いまから。最高のセックスをしよう」
オレとおまえでしか出来ないセックスを。
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