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恋するチェリーボーイズ
12.君が好き(完)
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30分後、智哉と翔平は、ポルシェカイエンの後部座席に座っていた。
ポルシェを運転しているのは青山覚で、ナビシートには晶が座っている。
智哉が、晶に電話して、空港に連れて行って欲しいと頼んだせいだったが、偶然にも晶は出張から帰ってくる雅治を迎えに成田に向かっているところだった。
「もう、首都高乗ってたんだぞ」
晶はそう文句を言ったが、引き返して翔平の家まで来てくれた。
「オレ、ポルシェ乗るの初めてです。カッコいいですね!」
無邪気に喜んで翔平が言う。
「小さいベルサイユ宮殿みたいな君の家のほうが凄いけどね。僕の実家も、まあまあ金持ちだけど、やっぱり医者風情じゃ、経営者には勝てないよ」
「あの家、見掛け倒しですよ。なにしろ築二百年は経ってるんで。雨漏もするし。それにウチには外車なんか一台もないですよ。全部、国産車です」
「ははは、全部って、いったい何台あるのかなあ。国産車って言っても、センチュリーとかレクサスとか大層な車なんだろうね」
「よくわかりますね。あと、ホンダのNSXもあります」
「それ、二千万以上するやつじゃないか。まあ、僕も、セカンドカーはスカイラインだけどね。六百万程度のやつだけど」
車内では、覚と翔平が嫌味な金持ち自慢の会話を楽しんでいた。
ポルシェは渋滞に巻き込まれることもなく、成田国際空港に到着した。
夏休み直前の出発ロビーは、これからバカンスを海外で楽しもうという家族連れや若者で激しく混雑していたが、背の高い裕の姿を、智哉はすぐに見つけた。
派手な格好の浮かれた人間の中で、やっぱり裕はきちんと長袖のブレザーを着て、真面目な会社員が出張に行くような程だ。
「裕!」
大声で呼ぶと、裕は、驚いた顔で振り返った。
「智哉、翔平。どうしたんだよ」
どうしたんだよ、と呑気な口調で言われると、どうしたんだっけ?と、思ってしまう。
ここに、こんなに慌てて、なにをしに来たのか。
留学を決めて、すでにアメリカ行きの航空券を手にしている裕に、まさか「行くな」とは言えない。
ただ、黙って行くなんてひどいじゃないかと思う。
だって、オレは、裕と会えなくてすごく、寂しかった。
だって、オレは、多分。
「智哉」
裕を前に、仁王立ちしている智哉の肩に、翔平が手を置いた。
「自分の気持ちを、ちゃんと、自分の言葉で言ってみろよ」
翔平に背中を押されて、智哉は一歩前に出て、一歩分、裕に近づく。
そのまま駆け出して、裕に抱きついた。
「オレ、オレ、オレ、裕が好きだ!」
「ええっ?!」
行き交う人々が、少年たちの別れのシーンを微笑ましいと感じるのか、足を止めて見ている。
ヒューヒューという冷やかしの声がする。
「きゃあ、BLよ、ボーイズラブよ!」という女子の嬉しげな声も聞こえた。
裕は、しばらく、何が起きたのかわからないというように茫然としていたが、右手に持っていたキャスター付トランクから手を離して、智哉の背中に腕を回し、抱きしめかえした。
「オレも、智哉が好きだ。大好きだ」
「裕…」
裕を見上げる智哉の目から、涙が溢れていた。
鼻は赤く、鼻水が垂れている。
「おまえは、本当に可愛いな」
クスっと笑って裕は、智哉の背中に回した腕に力をこめて、勢いで、智哉の身体を持ちあげ、くるくる回った。
人目も憚らず恋の成就の喜びの舞を踊る二人を、少し離れて見ている翔平は、「恥ずかしいやつらめ」と毒づいた。
「おまえ、身を引いたのか。えらいな」
晶が、気の毒な翔平の肩を抱きながら言った。
「あ、晶さーん」
翔平は、甘えた声を出して自分より背の低い晶に抱きつく。
「よしよし」
晶は泣いている子供を慰めるように、翔平の背中を叩いた。
「晶さんって、智哉の言うとおり、ほんと、いい匂いがしますね。なんだろ、これ。フォロモンかなあ」
晶の頸に鼻を押しつけて、うっとりと翔平が言う。
「翔平!おまえ、なにしてんだよ!晶から離れろ!」
喜びの舞がいつのまにか終わったらしく、智哉に引き剥がされる。
「ケチ!いいだろ、おまえにはもう彼氏がいるんだから」
翔平が言う。
「か、か、か、彼氏?!」
「智哉、おまえ、いま、翔平にヤキモチ妬いたのか。それとも、晶さんにか」
裕は、なぜか、ムクれている。
「西園寺、妬くなよ。おまえがいない間は、智哉に手は出さないようにするし、変な虫がつかないように、オレが見張ってやるからさ。で、アメリカには何年行ってるんだ?高校3年間か?クリスマスには帰ってこれる?」
翔平が聞くと、裕は、解せない、という表情で首を傾げた。
「なに言ってんだ。オレは、留学なんかしない。夏休みの間だけホームステイして、語学学校に通う予定だ。新学期には間に合うように、帰る。そう言ったはずだが」
裕の言葉に、智哉と翔平は無言で顔を見合わせた。
どうやら翔平の早とちりだったらしい。
「おまえら、いったい、何をやってるんだ」
キャリーケースを引いた雅治が、その場に現れて呆れたように言った。
「雅治ー!」
晶は、少年たちを突き飛ばすようにかきわけて、夫のもとに走り寄ると、思い切り抱きついた。
「会いたかったよ~」
雅治は到着ロビーでずっと晶を待っていた。
晶に電話しても出ないので、一緒に来ると聞いていた覚に電話すると、「今、出発ロビーで青春恋物語を見てるんだ。胸キュンだよ」とわけのわからないことを言われて移動してくると、弟の智哉と幼馴染たちが、なにやら揉めていた。
事情は後でゆっくり聞けばいい。
とりあえず、雅治は晶を抱きしめた。
「オレも会いたかった。ただいま、晶」
少年たちは、熱烈抱擁を、ぽかーんと口を開けて見ていた。
「青山さん、雅兄ってずっと羊の国に行きっぱなしだったの?三か月ぶりの帰国?」
智哉が覚にそう聞いて、覚は冷ややかに答えた。
「違うよ、今回は上海だったかな。確か、三日ぶりくらいだよ」
「三日会わないだけで、あれってさ、大袈裟じゃね?恥ずかしいよ」
さっきまで自分も人目を気にせずイチャイチャしていたくせに、智哉は悔しそうに言った。
「いや、仲良きことは美しきかな、だ。素晴らしいじゃん」
翔平はそう言って、羨ましそうに、二人を見つめた。
「だな。あの二人は、お似合いだ。美しい」
と、裕も同意する。
愛する人がいること。
愛する人が、側にいること。
それ以上に、素晴らしいことはない。
「おい、西園寺、おまえ飛行機の時間大丈夫か」
「やばい、もう行かないと。じゃあな、智哉、翔平」
裕はあっさり言って、手を振って去っていった。
第二部 「華麗なる一族」に続きます
ポルシェを運転しているのは青山覚で、ナビシートには晶が座っている。
智哉が、晶に電話して、空港に連れて行って欲しいと頼んだせいだったが、偶然にも晶は出張から帰ってくる雅治を迎えに成田に向かっているところだった。
「もう、首都高乗ってたんだぞ」
晶はそう文句を言ったが、引き返して翔平の家まで来てくれた。
「オレ、ポルシェ乗るの初めてです。カッコいいですね!」
無邪気に喜んで翔平が言う。
「小さいベルサイユ宮殿みたいな君の家のほうが凄いけどね。僕の実家も、まあまあ金持ちだけど、やっぱり医者風情じゃ、経営者には勝てないよ」
「あの家、見掛け倒しですよ。なにしろ築二百年は経ってるんで。雨漏もするし。それにウチには外車なんか一台もないですよ。全部、国産車です」
「ははは、全部って、いったい何台あるのかなあ。国産車って言っても、センチュリーとかレクサスとか大層な車なんだろうね」
「よくわかりますね。あと、ホンダのNSXもあります」
「それ、二千万以上するやつじゃないか。まあ、僕も、セカンドカーはスカイラインだけどね。六百万程度のやつだけど」
車内では、覚と翔平が嫌味な金持ち自慢の会話を楽しんでいた。
ポルシェは渋滞に巻き込まれることもなく、成田国際空港に到着した。
夏休み直前の出発ロビーは、これからバカンスを海外で楽しもうという家族連れや若者で激しく混雑していたが、背の高い裕の姿を、智哉はすぐに見つけた。
派手な格好の浮かれた人間の中で、やっぱり裕はきちんと長袖のブレザーを着て、真面目な会社員が出張に行くような程だ。
「裕!」
大声で呼ぶと、裕は、驚いた顔で振り返った。
「智哉、翔平。どうしたんだよ」
どうしたんだよ、と呑気な口調で言われると、どうしたんだっけ?と、思ってしまう。
ここに、こんなに慌てて、なにをしに来たのか。
留学を決めて、すでにアメリカ行きの航空券を手にしている裕に、まさか「行くな」とは言えない。
ただ、黙って行くなんてひどいじゃないかと思う。
だって、オレは、裕と会えなくてすごく、寂しかった。
だって、オレは、多分。
「智哉」
裕を前に、仁王立ちしている智哉の肩に、翔平が手を置いた。
「自分の気持ちを、ちゃんと、自分の言葉で言ってみろよ」
翔平に背中を押されて、智哉は一歩前に出て、一歩分、裕に近づく。
そのまま駆け出して、裕に抱きついた。
「オレ、オレ、オレ、裕が好きだ!」
「ええっ?!」
行き交う人々が、少年たちの別れのシーンを微笑ましいと感じるのか、足を止めて見ている。
ヒューヒューという冷やかしの声がする。
「きゃあ、BLよ、ボーイズラブよ!」という女子の嬉しげな声も聞こえた。
裕は、しばらく、何が起きたのかわからないというように茫然としていたが、右手に持っていたキャスター付トランクから手を離して、智哉の背中に腕を回し、抱きしめかえした。
「オレも、智哉が好きだ。大好きだ」
「裕…」
裕を見上げる智哉の目から、涙が溢れていた。
鼻は赤く、鼻水が垂れている。
「おまえは、本当に可愛いな」
クスっと笑って裕は、智哉の背中に回した腕に力をこめて、勢いで、智哉の身体を持ちあげ、くるくる回った。
人目も憚らず恋の成就の喜びの舞を踊る二人を、少し離れて見ている翔平は、「恥ずかしいやつらめ」と毒づいた。
「おまえ、身を引いたのか。えらいな」
晶が、気の毒な翔平の肩を抱きながら言った。
「あ、晶さーん」
翔平は、甘えた声を出して自分より背の低い晶に抱きつく。
「よしよし」
晶は泣いている子供を慰めるように、翔平の背中を叩いた。
「晶さんって、智哉の言うとおり、ほんと、いい匂いがしますね。なんだろ、これ。フォロモンかなあ」
晶の頸に鼻を押しつけて、うっとりと翔平が言う。
「翔平!おまえ、なにしてんだよ!晶から離れろ!」
喜びの舞がいつのまにか終わったらしく、智哉に引き剥がされる。
「ケチ!いいだろ、おまえにはもう彼氏がいるんだから」
翔平が言う。
「か、か、か、彼氏?!」
「智哉、おまえ、いま、翔平にヤキモチ妬いたのか。それとも、晶さんにか」
裕は、なぜか、ムクれている。
「西園寺、妬くなよ。おまえがいない間は、智哉に手は出さないようにするし、変な虫がつかないように、オレが見張ってやるからさ。で、アメリカには何年行ってるんだ?高校3年間か?クリスマスには帰ってこれる?」
翔平が聞くと、裕は、解せない、という表情で首を傾げた。
「なに言ってんだ。オレは、留学なんかしない。夏休みの間だけホームステイして、語学学校に通う予定だ。新学期には間に合うように、帰る。そう言ったはずだが」
裕の言葉に、智哉と翔平は無言で顔を見合わせた。
どうやら翔平の早とちりだったらしい。
「おまえら、いったい、何をやってるんだ」
キャリーケースを引いた雅治が、その場に現れて呆れたように言った。
「雅治ー!」
晶は、少年たちを突き飛ばすようにかきわけて、夫のもとに走り寄ると、思い切り抱きついた。
「会いたかったよ~」
雅治は到着ロビーでずっと晶を待っていた。
晶に電話しても出ないので、一緒に来ると聞いていた覚に電話すると、「今、出発ロビーで青春恋物語を見てるんだ。胸キュンだよ」とわけのわからないことを言われて移動してくると、弟の智哉と幼馴染たちが、なにやら揉めていた。
事情は後でゆっくり聞けばいい。
とりあえず、雅治は晶を抱きしめた。
「オレも会いたかった。ただいま、晶」
少年たちは、熱烈抱擁を、ぽかーんと口を開けて見ていた。
「青山さん、雅兄ってずっと羊の国に行きっぱなしだったの?三か月ぶりの帰国?」
智哉が覚にそう聞いて、覚は冷ややかに答えた。
「違うよ、今回は上海だったかな。確か、三日ぶりくらいだよ」
「三日会わないだけで、あれってさ、大袈裟じゃね?恥ずかしいよ」
さっきまで自分も人目を気にせずイチャイチャしていたくせに、智哉は悔しそうに言った。
「いや、仲良きことは美しきかな、だ。素晴らしいじゃん」
翔平はそう言って、羨ましそうに、二人を見つめた。
「だな。あの二人は、お似合いだ。美しい」
と、裕も同意する。
愛する人がいること。
愛する人が、側にいること。
それ以上に、素晴らしいことはない。
「おい、西園寺、おまえ飛行機の時間大丈夫か」
「やばい、もう行かないと。じゃあな、智哉、翔平」
裕はあっさり言って、手を振って去っていった。
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