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第二章≪Kiss≫

4.May I kiss you?

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「お兄ちゃん。あの、ごめんね、わたし」
部屋のドアを開けて、わたしは兄に謝った。

「なんで謝るの。花音はなにも、悪いことしてないのに」
「だって、お兄ちゃん、なんか怒ってるでしょ」

兄は驚いたように目を見開いた。
「ごめん。花音に怒ってるんじゃない、オレは自分自身に怒ってるんだよ」
「えっ、なんで?」
「花音を守れなかったから」
「守るって、痴漢のこと?だって、お兄ちゃんはいなかったんだし、仕方ないよ」
「わかっている。だけど、長い間、花音の側にいてやれなかった。その間も、花音を守れなかったんだと思うと自分が情けなくて」
「お兄ちゃん…」

気が抜けたような、ほっとしたような気持ちになった。
よかった、怒ってなくて。

「ありがとう、お兄ちゃん。おやすみなさい」

いつもは兄からされているおやすみのキスを、わたしから、した。

思い切り背伸びして、兄の唇に自分の唇を掠めるように、一瞬、合わせた。

兄は驚いた顔をした。
その直後、真剣な表情で言った。

「May I hug you?」

あまりにネイティブな英語で、よく聞き取れなかったけど、返事をする前に、ぎゅって、抱きしめられた。
背中がしなるほど、強い力だった。

「お、お兄ちゃん?」

「May I kiss you?」

今度は耳元で、囁かれるように言われた。
もしかして、キス、って言った?

兄は、やっぱり返事を待たないで、唇を重ねてきた。

それはいつものおやすみのキスとは違った。

あごを持ち上げられて、顔を上向きにされた。
兄は首を傾けて、唇を、重ねてきた。
唇と唇が重なってすぐ、兄の舌が、わたしの口の中に入ってきた。

はじめてのことで、わたしはびっくりして、固まった。
何も、出来なかった。

ただ、口を少し開いて、兄の舌で口の中を舐められている。
兄の舌は熱くて、湿っていて、大きくて、そんなことをされても、少しも嫌な気持ちにはならなかった。
わたしの舌と兄の舌が絡まるように触れると、変だけど、その感触は気持ち良かった。

口の中が燃えるように熱い。
ぬるぬると濡れた舌と舌が、触れあう。
舌を吸われる。
気持ち、いい。
もっと、吸って欲しい。
押し付け合った唇と唇の弾力も、兄の熱い息も、なにもかもが、心地良くて、気が、遠くなりそう。
陶酔、って、こういうこと?
お酒は飲んだことないけど、ふわふわして、酔っているみたい。

いつもの優しいキスより、求められているような激しさに、頭がくらくらした。
それともそれは、息が出来なくて苦しいせいだろうか。

長い長いキスが終わって、兄の舌がわたしの口の中から出ていくと、力が抜けてしまった。
足元から崩れそう。
兄に、脇を支えられて、やっと立っている。

兄は、唾液で濡れていたわたしの唇を、指で拭った。

わたしの額に、自分の額を当てて、口許で笑う。

「おやすみ、花音」
そう言って、そっとわたしの身体から手を離して、自分の部屋に向かった。

兄の部屋のドアが閉まる音を聞いて、わたしはその場にへなへなと座り込んだ。

おやすみって…。
こんなすごいキスをされて、眠れないよ。




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