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朱に交われば赤くなる
14.狂気
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クラブを出ると、パトカーがサイレンを鳴らして近付いて来るのがわかった。
綾瀬は平然とそれを見送り、タクシーに乗る。
高谷のいる病院の名前を告げて、深くシートに沈んだ。
人を自分の手で撃ったのははじめてだった。
こんなものかと思った。
手応えなんか、なにもない。
やはり自分には常人と同じ血は流れていなかったらしい。
あの男たちが生きているのか死んだのかわからないが、死んだとしても、罪悪感も後悔も微塵も感じていなかった。
自分はしょせん、そういう人間なんだと思う。
他人と同じだと思っていたなんて、笑い話だ。
それなのに一体、なにを怖れていたのか。
人の命なんて儚い。自分の命も。他人の命も。
そんなものに縋っても仕方ない。
いつか失うなら、いっそ、今すぐに失ってしまえばいい。
もうこんな思いをするのは、たくさんだ。
「…ふっ。はははは」
低い声で笑いだした綾瀬を、タクシーの運転手が気味悪そうにバックミラーで覗いた。
客は上等の服を着た綺麗な青年だが、関わらない方がいい。
誰にでも今の綾瀬の危うさはわかる。
狂気の一歩手前、いやすでに狂気の中にいる。
***
面会時間は当に過ぎていた。
看護士の静止の声は耳に入らなかった。
高谷の意識はまだ戻っていない。
明かりもつけず、綾瀬はその枕元に立った。
人工呼吸器が規則的に立てる音が、水の中で空気を吸っているような音に聞える。
まるで海底に沈んでるみたいだな、おまえ。
そう思いながら、瞼を下ろす高谷を静かに見下ろす。
「……高谷」
一生歩けないと、言う。
自分なら堪えられない。
いっそ死んだ方がマシだと思うだろう。死んだ方が。
「高谷」
呼びかけても反応は、ない。
この手で今ここで、殺してやってもいい。
あいつらを傷つけた手で、おまえを。
そうすればもう、オレは、おまえを失うことに怯えなくてもすむだろう?
涙が、流れ落ちた。
どんなにそう思っても、自分から失うことなんか出来るはずがない。
高谷を殺して楽にしてやることも出来ない自分を、綾瀬は呪う。
祈るように、膝を折って、その夜一晩中ベッドの側を離れなかった。
綾瀬は平然とそれを見送り、タクシーに乗る。
高谷のいる病院の名前を告げて、深くシートに沈んだ。
人を自分の手で撃ったのははじめてだった。
こんなものかと思った。
手応えなんか、なにもない。
やはり自分には常人と同じ血は流れていなかったらしい。
あの男たちが生きているのか死んだのかわからないが、死んだとしても、罪悪感も後悔も微塵も感じていなかった。
自分はしょせん、そういう人間なんだと思う。
他人と同じだと思っていたなんて、笑い話だ。
それなのに一体、なにを怖れていたのか。
人の命なんて儚い。自分の命も。他人の命も。
そんなものに縋っても仕方ない。
いつか失うなら、いっそ、今すぐに失ってしまえばいい。
もうこんな思いをするのは、たくさんだ。
「…ふっ。はははは」
低い声で笑いだした綾瀬を、タクシーの運転手が気味悪そうにバックミラーで覗いた。
客は上等の服を着た綺麗な青年だが、関わらない方がいい。
誰にでも今の綾瀬の危うさはわかる。
狂気の一歩手前、いやすでに狂気の中にいる。
***
面会時間は当に過ぎていた。
看護士の静止の声は耳に入らなかった。
高谷の意識はまだ戻っていない。
明かりもつけず、綾瀬はその枕元に立った。
人工呼吸器が規則的に立てる音が、水の中で空気を吸っているような音に聞える。
まるで海底に沈んでるみたいだな、おまえ。
そう思いながら、瞼を下ろす高谷を静かに見下ろす。
「……高谷」
一生歩けないと、言う。
自分なら堪えられない。
いっそ死んだ方がマシだと思うだろう。死んだ方が。
「高谷」
呼びかけても反応は、ない。
この手で今ここで、殺してやってもいい。
あいつらを傷つけた手で、おまえを。
そうすればもう、オレは、おまえを失うことに怯えなくてもすむだろう?
涙が、流れ落ちた。
どんなにそう思っても、自分から失うことなんか出来るはずがない。
高谷を殺して楽にしてやることも出来ない自分を、綾瀬は呪う。
祈るように、膝を折って、その夜一晩中ベッドの側を離れなかった。
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