お妃さま誕生物語

すみれ

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番外編 ジェラルド

君だけが

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ジェラルドの剣はひるがえっただけのように見えた。
それほど速くきらめいた。
ジェラルドに続き、オリバー、リアムも次々と飛び込んできた。
ならず者達が次々と倒れる。

10人を超える男達の抵抗も無駄だった、血しぶきを受けてジェラルドは斬りつける。
すでに事切れている男にも手加減をしない。
遺体にさえ、さらに斬りつける。
孤児院から連れてくる時にレイラに触ったに違いない、許すことができない。

「ジェラルド、終わったんだ、止めるんだ。他にもいた暴漢は全て始末した。イライジャとアレンが向こうの部屋で子爵達を捕まえた。」
もう生きているならず者達はいない。
「ジェラルド。」
オリバーが制してもジェラルドの剣は止まらない。

「ジェラルド。」
レイラが名を呼ぶのと同時に前に飛び出してきた。
「レイラ!」
レイラに剣を向けそうになった手を止める為に身体が後ろにぶれる。
「レイラ、君を斬ってしまう、怖ろしいことをしないでくれ。」
「ジェラルド、もういいの、もういいのよ。」
「ダメだよ、君を傷つけようとした。僕から奪おうとしたんだ、絶対に許せない。」
レイラの手がジェラルドの頬をなでる。
「ジェラルドが助けてくれたわ。きっと助けてくれると信じてたわ。」
ならず者の遺体を見ていたジェラルドの瞳がゆっくりとレイラを見る。
「ありがとう、ジェラルド。」
「レイラ。」
ジェラルドの手から剣が音を立てて落ちる。
「大丈夫よ、私はここにいるから、心配しないでもいいのよ。」
「レイラがいなくなるかと、思って。」
ジェラルドの瞳から涙がつーっと落ちた。


あんなに恐いと思っていたジェラルドがはかげにみえる。
一方的な断罪を見たのに、ジェラルドが恐くない、とレイラは感じていた。
レイラはジェラルドを抱きしめた、今はジェラルドがちゃんと年下の男の子に見える。
なんて綺麗な男の子なんだろう。

「まるで猛獣使いだな。」
顔を覗かせたのはアレンだ。
「子爵と女はデュバル公爵家に委ねたよ。」
「ジェラルドは取りこみ中だ、僕達で始末してしまおう。」
気を利かせたオリバーがアレンに声かける。
「そうだな。」
リアムが笑っている、釣られるように残りのメンバーも笑いだす。
しかも部屋に入って来たばかりのロバーツ達デュバル家の人間まで追い出す始末。
子供達を連れてアレン達が部屋から出て行った、これからやって来る王国の兵やデュバル公爵の相手をせねばならない。
孤児院の再建も必要だろうが、リアム達が関与することではない。


落ち着いたジェラルドの顔が赤くなる。
「参ったな、こんなところを見られるなんて。」
「あら親しみを感じたわよ。」
レイラがフフフと笑う。
二人で目を合わせ笑い合う。
そこかしこに遺体が転がっている場所ですることじゃない。
ジェラルドがレイラを抱き上げると耳元にささやいた。
「お姫様ケガはないかい。」
「大丈夫よ、でもすごく怖かった。」
僕もだよ、ジェラルドが囁く。
「君がいなくなるかもと思うと怖くて震えた。」
ジェラルドはレイラを抱いたまま外に出ると、乗って来た馬にレイラを乗せ自分も後ろに乗った。
馬のひづめの音にオリバー達も気づいたが、追っても無駄だと諦めて、公爵家の説得にまわった。


ジェラルドは馬を街のはずれにあるグレネド伯爵邸に向かわせた。
今は誰も住んでいないが、警備兵が巡回しているし、掃除も月に1度はいる。
留学の為に使おうかと思ったが、結局は王都中心部にある屋敷を使った。

ジェラルドは2階の北側の部屋にレイラを抱いたまま入り、クローゼットの前で降ろした。
「ここに母のウェディングドレスがある。それは母の母から受け継いだものだ。
レイラに着て欲しい。」
「お祖母様の?」
「そうだ。1人で着れるかい?」
「後ろのボタンは無理だわ。」
「しばらく席をはずすよ、戻ったら1人でできないことを手伝う。」
「今すぐ着るの?」
「レイラ、愛してる。」
ジェラルドの唇が重なってきた。
レイラにもわかった、ジェラルドは結婚式を挙げようとしている。
逃げるなら、ジェラルドが席を外した時だ。
逃げきれるのか、ジェラルド・マクレンジーから。自問自答だ、無理だろう。


ジェラルドは庭の花を切って戻ってきた。
「レイラ綺麗だ。」
「後ろができないの。」
「後ろを向いてごらん。」
ウェディングドレスの後ろボタンをジェラルドが留めていく。
髪をゆるくあげ花を挿す。
レイラの頬が染まっていく。
「とても、とても綺麗だ。レイラ。」

ジェラルドに手をひかれ、広間に向かう。
ウェディングドレスは15歳のレイラには少し裾が長い。
ステンドグラス越しに光さす広間はかつてリヒトールとシーリアが式を挙げた広間。
今はジェラルドとレイラの二人きりだ。
レイラの手にはジェラルドが集めた庭の花の花束。


ジェラルドとレイラは向き合っている。
「私、ジェラルド・マクレンジーはレイラ・デ・デュバルを永遠に愛することを誓います。」
ジェラルドがレイラの指にキスをする。
「私、レイラ・デ・デュバルはジェラルド・マクレンジーに永遠に愛されることを誓います。」
ふふ、とほほ笑みながらレイラが小さな声で言う。
「まだ愛することがわからないの。」
「僕が教えるよ。」
ジェラルドにキスされる、それは深くなり、吐息が絡まる。

ジェラルドはレイラを抱き上げると2階の寝室に向かった。
ジェラルドが留めたボタンはジェラルドに外された。




朝の光の中でベッドに広がる銀の髪をもてあそびながら、ジェラルドは眠るレイラに告げる。
「君だけが、僕の光。僕の妃。」



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