55 / 96
本編
キース・リッチモンド
しおりを挟む
毎年のように氾濫するヤムズ大河、しかしその氾濫は豊かな土を運んでくる。
氾濫の毎に積もった堆肥は山のようになっているが、新たな氾濫を怖れて手付かずのままだ。
護岸工事で堤防を作成し灌漑工事をすれば豊かな農地へと代わる、これで歳入をふやし、軍隊の縮小で歳出を押さえる。
リッチモンド王国は小さな国でヤムズ大河の氾濫も知られており、侵略したいほどの領地では現在ない、軍に取られた男手を工事や農業や産業に回すことで国の活性化と軍費の削減になる。
キース・リッチモンドが作成した再建計画案には、この2本を柱とするための、氾濫の時期と堆肥の量の関係、栽培できる作物、現在の軍費、縮小することで削減できるであろう金額と保安計画、工事に必要な金額と機材や期間、融資資金に対する返済計画が書かれていた。
リヒトールはこの計画書と事務官に作成させた投資計画書を比べてみた、キースの提出した数値を元にしているので、それが間違いだったら投資自体成り立たない。
マクレンジー帝国も度重なる戦争で出費が嵩み、新しい領地で直ぐに収入に繋がるところは少ない、この投資金額はたやすい額ではない。
ハイリスクハイリターンは好きだ、ローリスクに近づける為に何が必要かと考える。
そして研究所からの書類を手に取る、そこには土壌に適する植物が書かれていた。
甘味成分の原料であるキビが目につく、成長も早く収穫まで時間がかからないが、栄養の高い土を必要としていた。上流から流れてくる栄養分の高い河岸沿いの河の土を適時に取り入れる事で、土の栄養分の補給と氾濫防止に繋がるとあった。
シーリアがリンゴのタルトを作ると言っていたな、菓子も作るのなら、工場を作り化学者を派遣して純度の高い砂糖を作ろう。工場は安定労働の場を提供するし、女子供でも労働力となりうる。
純度の高い砂糖は需要が高い、独占販売で価格安定と在庫調整の操作ができる。
甘味がそれなら塩分はどうする、砂漠に岩塩地帯があったな。
砂糖と塩の交易ルートがトーバで繋がる、さて塩の利権を得るのは極東のどの国だろうか。
今のところ極東首長国が最有力だな、手を打っておいた方がよかろう。
トーバは護岸工事で大型商船の入れる港を作ろう、ヤムズ大河に大きな港があれば船の運航を可能にし世界中に砂糖と塩を運ぶだろう。
リッチモンドは砂糖の供給とともに各国の目が集まるだろう、それまでに軍隊を再編成するかマクレンジー軍を駐屯させるかせねばなるまい。
「いいえ、軍隊は最低人数で編成します、ただし徴兵制度で男子全員に軍隊を体験させ、伏兵とします。普段は市民ですが、もしもの時は軍倉に武器を取りに行って兵士になるように管理すれば、軍費を圧縮できます。」
「なるほど、小国ならではのいい案だな。」
キースの説明にリヒトールがうなずいた。
キース・リッチモンドは兄を退け王位に着いた就任挨拶の為に、スーザン達を伴いマクレンジー帝国に来ていた。
「護岸工事の支援ありがとうございます、工事は順調で予定より早く堤防が完成する見込みです。派遣された化学者から説明を受けました。キビの加工工場をマクレンジーが造ると、想像もしてませんでした。」
「妃が菓子を作るので質のいい砂糖を所望している、貴殿にまかせよう。」
キーリエのリンゴタルトの話は噂に聞いた、キーリエの国民を救ったと。
我が国にも希望になるだろう、生物学者は氾濫地域の堆肥ならばキビを年2回収穫するよう改良できると言った。
皇帝の横の皇妃を仰ぎ見ると、はにかむように笑っていた。聖女と言われ、数多の男達を惑わせ命を奪った美貌。
「何を考えてるか解りますわ、噂は美化されるんですの、私は普通の人間ですのよ。
リッチモンド王国の復興は皆さんの努力があってのことですわ。でも、質のいいお砂糖なら金平糖が作れるかしら?
あれは持ち運びも楽なので、次回いらっしゃる時はお持ちくださいな。」
かわいいお菓子なの、と言う皇妃の言葉にリヒトール皇帝とキース・リッチモンド王が目を合わせた。
質のいい砂糖なら金平糖よりも大きな塊を作れる。純度が高い程保存がきく、それは航海や遠征、戦争時の栄養価の高い保存食になるのだ。
保管も運送も手間にならないし常備できる、今まで価格が高くて想像もできなかったが、価格が安定すれば下級兵士にまで支給できる。
「必ずお持ちします。色とりどりの小粒を楽しみにしてください。」
分かっているな、と皇帝の目が言っている、もちろんですと礼を取る。これがマクレンジー帝国皇妃。
まさしく聖女、これで国民が救われる。
1次産業の農業と2次産業の工場、3次産業の販売が揃うことになる。自国で立ち上がることができるのだ、これがマクレンジーの力か、何故に兄達は反発したのか、王という自尊心だろうか。
氾濫の毎に積もった堆肥は山のようになっているが、新たな氾濫を怖れて手付かずのままだ。
護岸工事で堤防を作成し灌漑工事をすれば豊かな農地へと代わる、これで歳入をふやし、軍隊の縮小で歳出を押さえる。
リッチモンド王国は小さな国でヤムズ大河の氾濫も知られており、侵略したいほどの領地では現在ない、軍に取られた男手を工事や農業や産業に回すことで国の活性化と軍費の削減になる。
キース・リッチモンドが作成した再建計画案には、この2本を柱とするための、氾濫の時期と堆肥の量の関係、栽培できる作物、現在の軍費、縮小することで削減できるであろう金額と保安計画、工事に必要な金額と機材や期間、融資資金に対する返済計画が書かれていた。
リヒトールはこの計画書と事務官に作成させた投資計画書を比べてみた、キースの提出した数値を元にしているので、それが間違いだったら投資自体成り立たない。
マクレンジー帝国も度重なる戦争で出費が嵩み、新しい領地で直ぐに収入に繋がるところは少ない、この投資金額はたやすい額ではない。
ハイリスクハイリターンは好きだ、ローリスクに近づける為に何が必要かと考える。
そして研究所からの書類を手に取る、そこには土壌に適する植物が書かれていた。
甘味成分の原料であるキビが目につく、成長も早く収穫まで時間がかからないが、栄養の高い土を必要としていた。上流から流れてくる栄養分の高い河岸沿いの河の土を適時に取り入れる事で、土の栄養分の補給と氾濫防止に繋がるとあった。
シーリアがリンゴのタルトを作ると言っていたな、菓子も作るのなら、工場を作り化学者を派遣して純度の高い砂糖を作ろう。工場は安定労働の場を提供するし、女子供でも労働力となりうる。
純度の高い砂糖は需要が高い、独占販売で価格安定と在庫調整の操作ができる。
甘味がそれなら塩分はどうする、砂漠に岩塩地帯があったな。
砂糖と塩の交易ルートがトーバで繋がる、さて塩の利権を得るのは極東のどの国だろうか。
今のところ極東首長国が最有力だな、手を打っておいた方がよかろう。
トーバは護岸工事で大型商船の入れる港を作ろう、ヤムズ大河に大きな港があれば船の運航を可能にし世界中に砂糖と塩を運ぶだろう。
リッチモンドは砂糖の供給とともに各国の目が集まるだろう、それまでに軍隊を再編成するかマクレンジー軍を駐屯させるかせねばなるまい。
「いいえ、軍隊は最低人数で編成します、ただし徴兵制度で男子全員に軍隊を体験させ、伏兵とします。普段は市民ですが、もしもの時は軍倉に武器を取りに行って兵士になるように管理すれば、軍費を圧縮できます。」
「なるほど、小国ならではのいい案だな。」
キースの説明にリヒトールがうなずいた。
キース・リッチモンドは兄を退け王位に着いた就任挨拶の為に、スーザン達を伴いマクレンジー帝国に来ていた。
「護岸工事の支援ありがとうございます、工事は順調で予定より早く堤防が完成する見込みです。派遣された化学者から説明を受けました。キビの加工工場をマクレンジーが造ると、想像もしてませんでした。」
「妃が菓子を作るので質のいい砂糖を所望している、貴殿にまかせよう。」
キーリエのリンゴタルトの話は噂に聞いた、キーリエの国民を救ったと。
我が国にも希望になるだろう、生物学者は氾濫地域の堆肥ならばキビを年2回収穫するよう改良できると言った。
皇帝の横の皇妃を仰ぎ見ると、はにかむように笑っていた。聖女と言われ、数多の男達を惑わせ命を奪った美貌。
「何を考えてるか解りますわ、噂は美化されるんですの、私は普通の人間ですのよ。
リッチモンド王国の復興は皆さんの努力があってのことですわ。でも、質のいいお砂糖なら金平糖が作れるかしら?
あれは持ち運びも楽なので、次回いらっしゃる時はお持ちくださいな。」
かわいいお菓子なの、と言う皇妃の言葉にリヒトール皇帝とキース・リッチモンド王が目を合わせた。
質のいい砂糖なら金平糖よりも大きな塊を作れる。純度が高い程保存がきく、それは航海や遠征、戦争時の栄養価の高い保存食になるのだ。
保管も運送も手間にならないし常備できる、今まで価格が高くて想像もできなかったが、価格が安定すれば下級兵士にまで支給できる。
「必ずお持ちします。色とりどりの小粒を楽しみにしてください。」
分かっているな、と皇帝の目が言っている、もちろんですと礼を取る。これがマクレンジー帝国皇妃。
まさしく聖女、これで国民が救われる。
1次産業の農業と2次産業の工場、3次産業の販売が揃うことになる。自国で立ち上がることができるのだ、これがマクレンジーの力か、何故に兄達は反発したのか、王という自尊心だろうか。
15
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!
宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。
女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。
なんと求人されているのは『王太子妃候補者』
見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。
だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。
学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。
王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。
求人広告の真意は?広告主は?
中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。
お陰様で完結いたしました。
外伝は書いていくつもりでおります。
これからもよろしくお願いします。
表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。
彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる