お妃さま誕生物語

すみれ

文字の大きさ
上 下
50 / 96
本編

あやまち

しおりを挟む
戴冠式が終わっても、バザールの視察などで、すぐに帰国する者ばかりではなかった。

シーリアは戴冠式後、部屋に閉じこもったために一部の賓客から不満が出てた。シーリアへのお茶の誘いが相次いだが、本人に届いてないので返事さえない。
シーリアと一緒のところを見ているためにリヒトールが変わって穏やかになったと思っているらしい、皇妃をしつこくお茶席に誘う事で不評を買っていると気づいてないようだった。



「それはどこの国だ。」
書類を見る手を止めてリヒトールがケインズに聞く。
「キーリエ王国とタッセル王国です。」
何度もシーリアに茶席の招待状を送っていたなと思い出す。
「連合の債務国だな、やはりいらんな。」
シーリアの部屋を探して、王宮住居部に侵入した他国の王族がいたのだ。抵抗したために警備に斬り捨てられた。
キーリエの第2王子とタッセルの第3王子だ、負傷はしたが死ぬほどではない、警備が手加減した。
「国に帰る途中で死ねばいいのにな。手加減する必要はなかったが、彼らの立場ではそうもいくまい。だがよくやった、報奨をだしておけ。」
リヒトールは立ち上がり、シーリアのいる部屋に向かう。


キーリエとタッセルの王子が皇妃の部屋に侵入しようとして警備に切られたというのは、すぐに広まり、アラン王太子が父国王に書状をしたためると同時に、両国に国交断絶を通達した。


帰国を延ばしたカミーユはリヒトールの執務室に来ていた。
「カミーユ知っていると思うが、キーリエ王国もタッセル王国も我が帝国と領土を接していない。選択肢をやろう。」
知ってるよ、接しているのはルクティリア帝国だよ、選択肢があっても正解は一つしかないくせにとカミーユは嘆いた。
大河が両国との国境である。
「小型爆弾と強化型病原菌、植物性神経毒どれだ。」
「どれも聞いたことないけど、マクレンジー研究所の新商品かい?」
きっと試験場として使うんだと思いながら聞いてみた。
「強化型病原菌はお勧めできないな、伝染病に国境はないからね、治癒薬は渡しておくけど。小型爆弾と神経毒は持ち運びが要注意だな、途中で安全装置が外れると辺りが死んでしまう。」
いやいやアラン王太子がまともな方法だろう。
国交断絶して相手の出方を見る、すぐに大量虐殺じゃない、とは思ったが、静かに怒っているリヒトールは怖ろしい、こんなの見たことない。
兄の時であれだ、皇妃を二人がかりで襲おうとしたのかもしれないんだ、王子の命で済むはずない。

「経済制裁は手を打ってあったんだよ、債権の返済期限が過ぎてるからね。3ヶ月後には国がマヒしてるはずだったんだ、私はあまかったな、すでに商会は退いているから全部壊してもいいんだよ。」
一刻も待てないんだね、リヒトールわかるよ、皇妃は何より大事だからね。
でも国民に罪はないんだ、と言えない自分は自国が大事だ。



キーリエ王国の大使館では騎士ジェファーソン・グラックが傷でうめいている第2王子に対面していた。
「何ゆえに皇妃の部屋に。」
侍従が王子の代わりに答えた。
「お茶会に誘った返事がないことにれたようです、国の債務の期限が過ぎておりますので何とかしようと思われたのでは。」
マクレンジー商会が手を引いた国元では、物流がとどこおり、食品不足が出てきた。
これから寒期に向かうのに暖房燃料も入ってこない、この戴冠式で謁見を申し込んだが時間がないと断られてる。
王は踏み倒せるとみていたが、マクレンジーに権力は通用しないというのがわかっていない。
例え債務が無くなっても取引が中止されれば国が壊滅状態になる。地方から都市部への農作物の搬送でさえ、マクレンジー商会の流通網を使っているのだ。
王子はあせっていたのだ、皇妃の力を借りるしかないのだ。
お茶をして債務の話をしたかった、それだけかもしれない。
だが、それだけ危険を犯して侵入まですると、周りはそうとは思わない。お茶は建前で、凶行に及ぶつもりであったと周りは見ている。

もうこの国に逗留とうりゅうはできない、すぐに国に向かうべきだが王子の傷は深く動かせない。
「申し訳ありませんでした。なにとぞ御面会を、国民に罪はないのです、お止できなかった私の命で。」
あれから毎日、ジェファーソンは王宮にきて責任者に面会を求め、王宮の門の前で膝をついていた。
警備が無理だと返答しても、衆人の目につく門の前でただ一人で膝をつき謝り続けたのだ。

門を開けて出てきたのは、側近のダーレンだった。
「貴殿の気骨きこつは好きだが、上がダメだと下が苦労する。それにもう手遅れだ、我が主は決して貴国を許しはしない。」
ジェファーソン・グラックはダーレンに礼をとると駆けだした、手遅れとはどういうことだ。
国元に戻らねば、その気持ちが先走る。
飛び出したジェファーソンを見送りながらダーレンはつぶやいた。
「我が主も貴殿のようなのが気に入るようです。」



部屋の外のことをリヒトールが規制しているのはわかっている。それでリヒトールが安心するならそれでいいと思っているが、牽制するのも自分の役目と知っている。
シーリアにとってもリヒトールが全てなのだから。
どうすれば、と思いつくままリヒトールに言った。
「キーリエ王国のリンゴはタルトにすると美味しいのよ、今度作ったら食べて欲しいわ。」
「リンゴですか。」
「ちょっとっぱくてお菓子にいいの。」
少し考えたようなリヒトールは言った。
「リンゴは輸送に強い果物だから、持ってこさせよう。」
よかった、わかってくれたとシーリアは安心した。
私のためにキーリエ王国が潰されようとしている。
王子二人が切られた後、部屋に来たリヒトールの怒りは深く、私を抱き締めて一時も離さないと言わんばかりだった。


「カミーユ、新型小型爆弾で王宮のみを壊すことにしたよ、ルクティリア帝国の通行許可がいる。」
王宮のみって随分譲歩した、地図から無くすかと思ってたよ。
「シーリアが、キーリエ王国のリンゴでタルトを作るらしい。」
皇妃よくやった、これで国民は救われた、他国のこととはいえ安心する。
病原菌などばら撒かれたらどうなっていたことか。
リンゴタルトを作るためには、リンゴ農家、つまり国民が必要だからな。
皇妃はリヒトールという巨大爆弾の安全装置でずっといてくれ、と真摯しんしに願うカミーユ皇帝であった。



カミーユも皇帝という地位のため国を長く空けるわけにいかず、帰国となった。そのカミーユの警備に紛れて小型爆弾を持ったマクレンジー帝国兵士の一団がいた。
リヒトールは戦線布告と同時に兵士を派遣したのだ。

「あーあ、これじゃマクレンジー帝国の属国のようだよ。」
誰に言うでもなく、言葉にでる。
あれでキーリエ王国とタッセル王国が潰されるのだと思って違和感を感じる、タッセル王国の話をリヒトールはしなかった、悪寒が走る。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。 女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。 なんと求人されているのは『王太子妃候補者』 見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。 だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。 学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。 王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。 求人広告の真意は?広告主は? 中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。 お陰様で完結いたしました。 外伝は書いていくつもりでおります。 これからもよろしくお願いします。 表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。 彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...