お妃さま誕生物語

すみれ

文字の大きさ
上 下
39 / 96
本編

機動

しおりを挟む
ケガをした兵士達の多くは、現場に復帰した。
時が流れて行く、たくさんの出来事が過去に変わりつつある。


リヒトールは北部地方の偵察から戻った報告を受けていた。
「水源地を中心に湿原が大きく広がっています。この地方特有の動植物も多く見かけられました。
ただ、蚊などの昆虫が多く、生活は不便な地域であると見受けられました。
現地ではリリーという植物が蚊などの昆虫よけに使われており、刺された時はプルンという植物をすり潰して患部に塗っておりました。」
調査にあたった要人警護2部隊が揃って報告をしていた。
「ほぉ、それは?」
リヒトは思いもしなかった結果に興味がわく。

「採取して持ち帰っております、鉢植えと乾燥した両方で。両方ともこの地域特有の植物です。」
「ダーレン、化学班はこちらに研究所の移動が終わっているか?」
「はい、すぐに成分調査にまわします、それと現地に生物学者を向かわせ、人工栽培が可能か調べさせます。」

「水源の方ですが、山脈それぞれの山にあるらしく、水量は安定していると言えます。
支流が合流しヤムズ大河になった後の下流近辺国で氾濫はんらんなどが起きるのも、現地の堤防設備と、中流近辺国での土砂混入などが大きな原因に見受けられます。水源の水量が不安定で起こるものではないようです。」
「大型商船の上流遡上そじょうは問題なさそうだな。」

「陛下、意見をよろしいでしょうか。」
調査隊の一人が声をあげた。
「もちろんだ、何があった?」
「湿原は類を見ない植物の花が咲き乱れ、空気は澄み、水は透き通ってました。
今は不便なところですが、交通が確保されれば、世界有数の保養地になりえると思われます。」
「世界有数のか?」
「私達全員が警護で行ったどの国よりも、ということです。」

リヒトールはしばらく考えて顔をあげた。
「ウィリアム、調査予算を立ててくれ、道路と宿泊施設と自然保護のだ。大規模プロジェクトになる。
要人警護第2はそのまま、プロジェクト担当となり、ウィリアムの指示下に入れ、必要人員を確保して開始せよ。」
要人警護部隊は、マクレンジー私兵隊で高い戦闘能力だけでなく、外国語、教育分野を終了したものだけが入れる特殊部隊で、私兵隊の精鋭部隊でもあった。
各国のマクレンジー商会に派遣され、幹部、要人達の警護で仕事を近くで見てきた。実務を体験してきたといえる経験者も多い。
要人警護部隊は、幹部への登竜門なのである。
この部隊出身の幹部は警護を知っているので警護しやすいし、本人に戦闘能力がある。

ヤムズ大河は、毎年のように氾濫を繰り返し、これをコントロールできれば、大河周辺国の、主権と大きな利益につながる。
ダムや、用水路などの大規模土木は必要なさそうだ、水源が安定してるなら他要因の除去と安全な水路確保だな。

大河の通行権の設定など、国だからこそできる、なかなか面白い。


湿原に連れて行ってやろう、虫の問題が片付いたならとの条件があるが。
観光に力を入れるには安全保障がいるな、戦争はほどほどにして、裏で操ろう。
今までと違って、シーリアという使う人間があるのは大きい、街の造成規模とイメージが一瞬でわかる。
富裕層が対象になるから、社交場と会議場としても使えるし、湿原と安全を守る為との名目で中立地帯と宣言すれば、極秘会合に使えそうだ。
城壁を張り巡らせ、湿原を中心とした要塞にすれば戦争回避地帯とできるであろう。

武器販売をその水面下に隠せばやりやすいそうだ。
新しい銃のテストを造成地帯ですれば、音も隠蔽いんぺいできる、まずは輸送経路を整備しよう。

他国同士で戦争し潰しあってもらおう。
シーリアに巨大帝国をプレゼントしてやろう。



マクレンジー帝国内部では、大規模な人事変更が行われた。
旧アルハン領に大量人員が増員された結果、各国からも諜報員が投入されたが、持ち帰るのは湿原の情報のみであった。
そんなタイミングを見計らったかのように、湿原地帯が属国としての独立と中立宣言がなされた。
リヒトールを主君とする属国であるので、領土と変わらないが、中立であるため戦争時も本国と違い、外国人の扱いを変えることはないことになる。


「皆さん、お気をつけて。」
シーリアは旧アルハン領に旅立つ、戦争未亡人や障害が残った兵士達の見送りに来ていた。
未亡人達は救護棟の手伝いをすることによって、生きる希望や意義を見つけ出すことができたものが多かった。
クーデターが落ち着いた頃に、彼らの生活の術をリヒトールに相談したのだ。
戦争を放棄した中立地帯を各国は、疑問視していたが、大量に送り込まれた、女性や障害者に納得せざるを得なかった。
彼らは、新しくできる宿泊施設や湿原の管理で働くことになるので準備段階から現地に投入され、工事進行の大きな力となった。




湿原から持ち帰ったプルンには、驚くべき効果が見受けられた。かゆみを緩和かんわするだけでなく、痛みも緩和するのだ、これは医療現場だけでなく、戦場で使えると報告があがっていた。
麻酔のように意識がなくなる訳ではないので、傷を負っても、痛感を無くすことで負傷したと気づかなく、死ぬまで戦場で戦い続けるということになる。
負傷しても戦力として残るということだ。

後に悪魔の薬と呼ばれる薬は、マクレンジー帝国のみで精製され、材料も製造方法も最高機密である。
かゆみ止めとして廉価れんかで販売され、貴族平民問わず重宝されている薬の材料が、湿原で大量栽培され美しい花を人々に楽しませてる植物というのは有名であるが、悪魔の薬の材料でもあるとは関係者以外誰も知らない。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

Crystal of Latir

ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ 人々は混迷に覆われてしまう。 夜間の内に23区周辺は封鎖。 都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前 3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶 アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。 街を解放するために協力を頼まれた。 だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。 人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、 呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。 太陽と月の交わりが訪れる暦までに。 今作品は2019年9月より執筆開始したものです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。 女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。 なんと求人されているのは『王太子妃候補者』 見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。 だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。 学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。 王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。 求人広告の真意は?広告主は? 中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。 お陰様で完結いたしました。 外伝は書いていくつもりでおります。 これからもよろしくお願いします。 表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。 彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...