6 / 96
本編
グレネド伯爵
しおりを挟む
「ダメだ。」
公爵の言葉が響く。
「お父様!」
「シーリア、わかっておくれ。
グレネド伯爵といることは、とても危険なことが多いんだ。
私は、そんなところに大事な娘をやれん。」
リヒトール様は父の言葉を黙って聞いている。
「グレネド伯爵、今回のことはとても感謝している。
あの建国記念披露会場で、シーリアを庇うために、すぐに動いたのはわずかな人間だけだった。」
父の後を引き継ぐように、兄がリヒトール様に語りかける。
「グレネド伯爵、貴方は我が公爵家をつぶそうとしたのでは、ありませんか?」
兄の言葉に思わず兄の顔を凝視した、言葉もでない。
リヒトール様は何も言わない、深い緑色の瞳がさらに深い色になる。
「ここ数年、うまい話が多すぎる。もちろん誘いは丁寧にお断りしましたが。」
「実家を傾かせて娘を得る、簡単な方法ですよ、例え一国の王太子の婚約者といえど、でも、公爵家は乗ってこなかった、わかってましたけどね。
本気ではありませんでした、こちらの公爵夫人には王というヒモがついてますから、本気になったら国ごと潰すかどうかということです。
国を潰す方法も考えましたが、時間がかかりすぎる、この国は手ごわい。
まぁ、王家が気づく前に潰せるかもとは思いましたが、期待はしてませんでした。
この国に来るのは、姫に会うためだけ、仕事は建前のものでしかない。
会うと言っても、姫に不名誉なことはしてません、大切な人ですから。
このグレネド伯爵の爵位も、王宮に出入りしやすくする為に手に入れました、つまりは仕事がなくても王宮に出入りできるようにということです。
王宮では頻繁に舞踏会がありますからね、情報収集でも、商談とでもなんとでも理由はつけられるからです。
いろいろな国で、様々な爵位を持ってますが、この国以外では、使うことはありません、私は商人ですから。」
父も兄も、驚きの表情をしている、潰そうとしたことを本人達に公言するリヒトール様。
私は、うれしくって、淡々と言葉を紡ぐリヒトール様を仰ぎ見る。
「私は、デュバル公爵家には敬意を持ってますよ。数多くの国に行ってますが、そんな家は王家も含め、そんなに多くない。そして、私を理解してくれる家も数少ない。
私は国を潰すより早い方法を選びました、私には姫を諦めるという選択はないんです。」
リヒトール様が楽しそうに眼を細める。
私の中で黒い気持ちが小躍りしてる。父も兄も母も犠牲にしてもこの人とありたい。
「シーリア姫、貴女を大事にしようと思ってました。たとえ、無理やり手に入れても。」
父が母にしたように、と、これが血というものなのかもしれないとリヒトールは思う。
父は母を大事にしていた、他人とは違う方法であったが。
私は、子供の頃でさえ、母との記憶が少ない、父が息子とはいえ、男との接触を許さなかったからだ。マクレンジー私兵隊に女性が受け入れられたのも、母の護衛のためだった。
母は年の離れた弟の出産で、母子ともに亡くなり、父の嘆きは深いものだった。
早々に私が仕事を手伝うこととなったが、その父も数年もせずに亡くなり商会を引き継いだ。
今ならわかる、私も父と同じだ。
「でも先程、貴女みずからの意志で私に答えてくれました。これが幸せというものだと初めて思いました。
デュバル公爵家も大事にしましょう、貴女の心が平穏でいられるように。
うまい話の中にはヒントもありましたよ、公爵家のことはかなり調べました。
土壌改良の話は乗るべきでしたね、領地で栽培されている葡萄の中には貴重な品種がありまして、最高級のワインが作れるはずです。ただ、その後に巨額融資付きの大規模工場造成の話が用意されてましたが。」
「シーリア、おまえはこんな男がいいのか? いろんなところで恨みを買っている男だ。」
兄がわかっているけど、手に負えるのかと聞いてくる。
「ありがとう、お兄様。」
「父上、心配なのはわかりますが、シーリアは未来の王太子妃として、我慢して耐えてきました。
国のために、アランをささえようとしてた。
でも、そのアランがアレです。
グレネド伯爵からは逃げれそうにありませんし、シーリアも望んでいるらしい。
マクレンジー商会に恩を売りましょう。」
「娘は売らない。
くれてやるから、大事にしてくれ。かわいい娘なんだ。
あんなに切望するから、幸せになれると思って婚約を許したんだ、ずっと近くで見守ってやれると思っていたんだ。」
父が睨むようにリヒトール様に言った。
「お父様、お兄様、ごめんなさい。」
シーリアは家族を捨てても、リヒトール様に付いていこうと思ってます、こんなに大事にしてくれてるのに。
リヒトール様に付いていくことは、家を捨てることに近い、王より危険な地位に居る人なんだ、もう家族に会えないかもしれない、何かあっても戻ってこれないかもしれない。
例え、リヒトール様に捨てられても、ここに戻ってこれないかもしれない、現実が落ちてくる、この人の横には好きという不安定なものしかない。
なのに、この好きを諦められない。
「いったい、グレネド伯はいつから。」
父がぽつりとつぶやいた。
「5年ほどになるでしょうか、マクレンジー商会が5年も準備をかけて手を引くことはありえません。」
リヒトール様の言葉に、自分と同じ想いの時を知る。
公爵の言葉が響く。
「お父様!」
「シーリア、わかっておくれ。
グレネド伯爵といることは、とても危険なことが多いんだ。
私は、そんなところに大事な娘をやれん。」
リヒトール様は父の言葉を黙って聞いている。
「グレネド伯爵、今回のことはとても感謝している。
あの建国記念披露会場で、シーリアを庇うために、すぐに動いたのはわずかな人間だけだった。」
父の後を引き継ぐように、兄がリヒトール様に語りかける。
「グレネド伯爵、貴方は我が公爵家をつぶそうとしたのでは、ありませんか?」
兄の言葉に思わず兄の顔を凝視した、言葉もでない。
リヒトール様は何も言わない、深い緑色の瞳がさらに深い色になる。
「ここ数年、うまい話が多すぎる。もちろん誘いは丁寧にお断りしましたが。」
「実家を傾かせて娘を得る、簡単な方法ですよ、例え一国の王太子の婚約者といえど、でも、公爵家は乗ってこなかった、わかってましたけどね。
本気ではありませんでした、こちらの公爵夫人には王というヒモがついてますから、本気になったら国ごと潰すかどうかということです。
国を潰す方法も考えましたが、時間がかかりすぎる、この国は手ごわい。
まぁ、王家が気づく前に潰せるかもとは思いましたが、期待はしてませんでした。
この国に来るのは、姫に会うためだけ、仕事は建前のものでしかない。
会うと言っても、姫に不名誉なことはしてません、大切な人ですから。
このグレネド伯爵の爵位も、王宮に出入りしやすくする為に手に入れました、つまりは仕事がなくても王宮に出入りできるようにということです。
王宮では頻繁に舞踏会がありますからね、情報収集でも、商談とでもなんとでも理由はつけられるからです。
いろいろな国で、様々な爵位を持ってますが、この国以外では、使うことはありません、私は商人ですから。」
父も兄も、驚きの表情をしている、潰そうとしたことを本人達に公言するリヒトール様。
私は、うれしくって、淡々と言葉を紡ぐリヒトール様を仰ぎ見る。
「私は、デュバル公爵家には敬意を持ってますよ。数多くの国に行ってますが、そんな家は王家も含め、そんなに多くない。そして、私を理解してくれる家も数少ない。
私は国を潰すより早い方法を選びました、私には姫を諦めるという選択はないんです。」
リヒトール様が楽しそうに眼を細める。
私の中で黒い気持ちが小躍りしてる。父も兄も母も犠牲にしてもこの人とありたい。
「シーリア姫、貴女を大事にしようと思ってました。たとえ、無理やり手に入れても。」
父が母にしたように、と、これが血というものなのかもしれないとリヒトールは思う。
父は母を大事にしていた、他人とは違う方法であったが。
私は、子供の頃でさえ、母との記憶が少ない、父が息子とはいえ、男との接触を許さなかったからだ。マクレンジー私兵隊に女性が受け入れられたのも、母の護衛のためだった。
母は年の離れた弟の出産で、母子ともに亡くなり、父の嘆きは深いものだった。
早々に私が仕事を手伝うこととなったが、その父も数年もせずに亡くなり商会を引き継いだ。
今ならわかる、私も父と同じだ。
「でも先程、貴女みずからの意志で私に答えてくれました。これが幸せというものだと初めて思いました。
デュバル公爵家も大事にしましょう、貴女の心が平穏でいられるように。
うまい話の中にはヒントもありましたよ、公爵家のことはかなり調べました。
土壌改良の話は乗るべきでしたね、領地で栽培されている葡萄の中には貴重な品種がありまして、最高級のワインが作れるはずです。ただ、その後に巨額融資付きの大規模工場造成の話が用意されてましたが。」
「シーリア、おまえはこんな男がいいのか? いろんなところで恨みを買っている男だ。」
兄がわかっているけど、手に負えるのかと聞いてくる。
「ありがとう、お兄様。」
「父上、心配なのはわかりますが、シーリアは未来の王太子妃として、我慢して耐えてきました。
国のために、アランをささえようとしてた。
でも、そのアランがアレです。
グレネド伯爵からは逃げれそうにありませんし、シーリアも望んでいるらしい。
マクレンジー商会に恩を売りましょう。」
「娘は売らない。
くれてやるから、大事にしてくれ。かわいい娘なんだ。
あんなに切望するから、幸せになれると思って婚約を許したんだ、ずっと近くで見守ってやれると思っていたんだ。」
父が睨むようにリヒトール様に言った。
「お父様、お兄様、ごめんなさい。」
シーリアは家族を捨てても、リヒトール様に付いていこうと思ってます、こんなに大事にしてくれてるのに。
リヒトール様に付いていくことは、家を捨てることに近い、王より危険な地位に居る人なんだ、もう家族に会えないかもしれない、何かあっても戻ってこれないかもしれない。
例え、リヒトール様に捨てられても、ここに戻ってこれないかもしれない、現実が落ちてくる、この人の横には好きという不安定なものしかない。
なのに、この好きを諦められない。
「いったい、グレネド伯はいつから。」
父がぽつりとつぶやいた。
「5年ほどになるでしょうか、マクレンジー商会が5年も準備をかけて手を引くことはありえません。」
リヒトール様の言葉に、自分と同じ想いの時を知る。
20
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!
宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。
女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。
なんと求人されているのは『王太子妃候補者』
見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。
だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。
学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。
王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。
求人広告の真意は?広告主は?
中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。
お陰様で完結いたしました。
外伝は書いていくつもりでおります。
これからもよろしくお願いします。
表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。
彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる