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失恋竜の恋煩い
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「キティって優しいよな。」
関脇が走りながら言う。
横を走っているジョシュアは、またかと思うしかない。
昨日は侍女のエメルダだった、一昨日は侍女のサリーだ。
こいつは天性の女好きらしいが、それでやる気がでるならと放置している。
女達も関脇のボッテリした幼児の身体が可愛いらしく、オヤツで餌付けしている。
確かに、肉で埋もれた小さな目はクリクリで可愛い。
「キティも番がいるぞ。」
「そっか。」
明らかにガックリした関脇が声を落とす。
どうせ明日になれば、違う女の名前が出てくる。
このバイタリティーには驚くばかりだ。
「ほら、もう少し走れば休憩だ。」
「はい、兄上。」
凄い汗を吹き出しながら関脇が応える。
「ジョシュア様、関脇様、こちらに冷たい物を置いておきます。」
休憩に入ると、侍女が飲み物を用意していた。
「優しい人だ。」
侍女に目を輝かせているのは関脇だ。
「兄上、あの人の名前はなんと言うのですか!」
「まず水分を取ってからだ。彼女はあまりいい噂を聞かないから止めた方がいい。」
「どのような?」
「男性遍歴だな。」
「美しい人ですから、仕方ないです。」
父上は母上限定のフィルターだが、こいつの点のような目には女性全部に美化フィルターがかかるらしい。
見ているとおもしろい、母上は猿山のボスのようなものらしく、シンシアは美しすぎて、父上と兄上は怖いらしい。
「少し痩せたわね、頑張って偉いわ。」
シンシアの言葉に顔が真っ赤だ。
「はい、もっと痩せるように僕頑張ります。」
シンシアには僕と言う、母上には俺だ、こいつの態度は分かり易い。
「今度、竜の姿も見せてね。」
「はい!!」
じゃあね、と去っていくシンシアをいつまでも見ている。
口にださなくとも、美しい姉上、と言葉がでている。
こいつはこの世で唯一の黒銀竜、黒い鱗は光を浴びると銀色に輝く。
石の卵で生まれ、異種と取り扱われたに違いないのだ。
古い竜だという、長い時を卵の中で眠っていたと言っていた。
兄上のように記憶を持って生まれるのではなく、本人が卵に戻るらしい。
父上は2000年以上、ただ一人の黄金竜として過ごしたが、周りには宰相を始め、たくさんの竜がいた。
こいつは一人だ、もっと長い年月を一人だ。
憐れだな、と思ったのは一瞬だ、こいつも規格外だった。
明日は兄上とシンシアが旅に戻るので、家族が集まった。
関脇はまだ飛べないので付いていけない。
僕が関脇を鍛えて兄上とシンシアが戻ってきたら交替に旅立つ事になった。
その時に関脇を連れて行くかはその時に考えようと思っている。
「見て、見て、関脇ずいぶん痩せたでしょ。頑張ったんだから。」
母が皆に関脇を見せびらかしている。
兄上が、最初はモンスター級で今は横綱級だ、関脇までは遠いと言っていた。
分からないでいると、シンシアと僕にイメージで見せてくれた。
身体のサイズの例えらしい。
ピチピチに張りきった服で皆に一回転して見せる幼児は確かに可愛い。
「俺、もういいかな?」
「何言っているの、今度、会うまでにもっと痩せるの見せなくっちゃ。」
こそこそと母上が関脇に身を寄せて囁いている。
「自分でお尻が拭けるように頑張るのよ。」
飲みかけのお茶を吹き出したのは父上と兄上だ、咽ている。
関脇の顔はこれ以上ないぐらい真っ赤で、気づいてないのは張本人の母上だけだ。
母上がこっそり言ったつもりでも、竜の耳はいいのだ、全部聞こえている。
関脇の幼児の短い手では、太い身体に手が届かないんだろう、可哀そうに暴露されてしまった。
「魔法があるから大丈夫よ。」
さらに鞭打ったのはシンシアだ、女は怖い。
兄上がシンシアの口を押さえた、正解だな、男はデリケートなんだ、聞こえない振りぐらいしてやれよ。
「ほらほら、おいで。」
呼ぶと泣きながら関脇が走って来た、ドスドス音がしそうだ。
「兄上ーー!」
しがみ付いて泣いている、可哀そうに。
翌朝、旅立つ兄上とシンシアを関脇と見送りに行った。
「関脇、お母様の事は気にしないで頑張ってね。」
シンシアが関脇の手を握って言うと、関脇は真っ赤になってウンウン頷いている。
昨日はそのシンシアに地獄に落とされただろうが、もう復活したのか、凄いな関脇。
兄上がシンシアを抱き上げて関脇から離した。
まるで、父上と母上を見ているようだ。
「兄上お気をつけて。」
そう言うと、
「ジョシュア、お前だけがこの家族でまともな感性をしている、頼んだぞ。」
兄上自覚していたんですね。
横では二人に一生懸命手を振っている幼児。
類まれな姿と力を持っていても失恋を繰り返しているんじゃ、卵に籠りたくなるよな。
こいつは繁殖の必要のない竜、番はいないのかもしれない。
いつか、番でなくとも恋心がかなうといいな、と思うよ。
関脇が走りながら言う。
横を走っているジョシュアは、またかと思うしかない。
昨日は侍女のエメルダだった、一昨日は侍女のサリーだ。
こいつは天性の女好きらしいが、それでやる気がでるならと放置している。
女達も関脇のボッテリした幼児の身体が可愛いらしく、オヤツで餌付けしている。
確かに、肉で埋もれた小さな目はクリクリで可愛い。
「キティも番がいるぞ。」
「そっか。」
明らかにガックリした関脇が声を落とす。
どうせ明日になれば、違う女の名前が出てくる。
このバイタリティーには驚くばかりだ。
「ほら、もう少し走れば休憩だ。」
「はい、兄上。」
凄い汗を吹き出しながら関脇が応える。
「ジョシュア様、関脇様、こちらに冷たい物を置いておきます。」
休憩に入ると、侍女が飲み物を用意していた。
「優しい人だ。」
侍女に目を輝かせているのは関脇だ。
「兄上、あの人の名前はなんと言うのですか!」
「まず水分を取ってからだ。彼女はあまりいい噂を聞かないから止めた方がいい。」
「どのような?」
「男性遍歴だな。」
「美しい人ですから、仕方ないです。」
父上は母上限定のフィルターだが、こいつの点のような目には女性全部に美化フィルターがかかるらしい。
見ているとおもしろい、母上は猿山のボスのようなものらしく、シンシアは美しすぎて、父上と兄上は怖いらしい。
「少し痩せたわね、頑張って偉いわ。」
シンシアの言葉に顔が真っ赤だ。
「はい、もっと痩せるように僕頑張ります。」
シンシアには僕と言う、母上には俺だ、こいつの態度は分かり易い。
「今度、竜の姿も見せてね。」
「はい!!」
じゃあね、と去っていくシンシアをいつまでも見ている。
口にださなくとも、美しい姉上、と言葉がでている。
こいつはこの世で唯一の黒銀竜、黒い鱗は光を浴びると銀色に輝く。
石の卵で生まれ、異種と取り扱われたに違いないのだ。
古い竜だという、長い時を卵の中で眠っていたと言っていた。
兄上のように記憶を持って生まれるのではなく、本人が卵に戻るらしい。
父上は2000年以上、ただ一人の黄金竜として過ごしたが、周りには宰相を始め、たくさんの竜がいた。
こいつは一人だ、もっと長い年月を一人だ。
憐れだな、と思ったのは一瞬だ、こいつも規格外だった。
明日は兄上とシンシアが旅に戻るので、家族が集まった。
関脇はまだ飛べないので付いていけない。
僕が関脇を鍛えて兄上とシンシアが戻ってきたら交替に旅立つ事になった。
その時に関脇を連れて行くかはその時に考えようと思っている。
「見て、見て、関脇ずいぶん痩せたでしょ。頑張ったんだから。」
母が皆に関脇を見せびらかしている。
兄上が、最初はモンスター級で今は横綱級だ、関脇までは遠いと言っていた。
分からないでいると、シンシアと僕にイメージで見せてくれた。
身体のサイズの例えらしい。
ピチピチに張りきった服で皆に一回転して見せる幼児は確かに可愛い。
「俺、もういいかな?」
「何言っているの、今度、会うまでにもっと痩せるの見せなくっちゃ。」
こそこそと母上が関脇に身を寄せて囁いている。
「自分でお尻が拭けるように頑張るのよ。」
飲みかけのお茶を吹き出したのは父上と兄上だ、咽ている。
関脇の顔はこれ以上ないぐらい真っ赤で、気づいてないのは張本人の母上だけだ。
母上がこっそり言ったつもりでも、竜の耳はいいのだ、全部聞こえている。
関脇の幼児の短い手では、太い身体に手が届かないんだろう、可哀そうに暴露されてしまった。
「魔法があるから大丈夫よ。」
さらに鞭打ったのはシンシアだ、女は怖い。
兄上がシンシアの口を押さえた、正解だな、男はデリケートなんだ、聞こえない振りぐらいしてやれよ。
「ほらほら、おいで。」
呼ぶと泣きながら関脇が走って来た、ドスドス音がしそうだ。
「兄上ーー!」
しがみ付いて泣いている、可哀そうに。
翌朝、旅立つ兄上とシンシアを関脇と見送りに行った。
「関脇、お母様の事は気にしないで頑張ってね。」
シンシアが関脇の手を握って言うと、関脇は真っ赤になってウンウン頷いている。
昨日はそのシンシアに地獄に落とされただろうが、もう復活したのか、凄いな関脇。
兄上がシンシアを抱き上げて関脇から離した。
まるで、父上と母上を見ているようだ。
「兄上お気をつけて。」
そう言うと、
「ジョシュア、お前だけがこの家族でまともな感性をしている、頼んだぞ。」
兄上自覚していたんですね。
横では二人に一生懸命手を振っている幼児。
類まれな姿と力を持っていても失恋を繰り返しているんじゃ、卵に籠りたくなるよな。
こいつは繁殖の必要のない竜、番はいないのかもしれない。
いつか、番でなくとも恋心がかなうといいな、と思うよ。
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