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世界、1

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 青空から照りつける太陽を反射して輝く、噴水。
その美しい造形の前で見た目の年齢と合ったとは言えない、黒色のキャンパスに少しの白色を足したような
色のスーツを何なりと着こなす少年がいた。
   
   その風貌はまるで若くして成功した実業家の様だ。 
その彼が自身の腕時計を見ながら、街一面の床である石畳を、それまたスーツと同じ色の靴でコツコツと軽快な音を響かせる様に鳴らしている。

     「焦らすとは…やはり素晴らしい女性だな」  

           そう少年は小さな笑みと共に呟いた。

          なるほど、焦らしプレイの最中であったか
   俗に言う待ち合わせとやらをしているのであろう。
であらば、アウトドアな天気にスーツを着てるのも、
 少しの風でも靡いたら崩れそうな髪型も頷ける。
 
          「すみません、お待たせしました?」
とその可愛らしい声に少年の笑みは確実なものとなり
背後から話しかけて、いや語りかけてきた焦らしプレイの張本人の方を振り返って、

「ティアール様、そんなことは滅相ございません。
今日は貴女がどのようなお召し物でいらっしゃるのか、私めは勝手ながら想像している所でございました。あぁしかし自分の無力な脳を呪ってしまいたい。
貴女がそのような可憐で気品に満ちた、いや、辞書の項目を一つ増やす事を願わなければならない程のドレスを身に纏い、来て頂けるとは…私めの低俗な想像力にどうぞ、お叱り頂きたい」
と、淀みなくそうスラスラと口にした少年ーブレイブは、女王ーティアール様の元へ近づき頭を垂れた。
 
「そんな、顔をお上げ下さい、騎士ブレイブ様。私こそお叱り頂きたいのです。待ち合わせの時間に遅れてしまって…ですからそのような事は仰らないで下さい。」となだめるように頭を垂れる者に言った。
その声は、風よりも心地よいものであった。

「いえいえ、待たされて(焦らされて)とても良い夢(妄想)が見れました」

「ふふ、父と同じ事を仰るのですね。男は待たされる方が好きなんだー、って力説してました。おかげで待たせてしまって…約束の時間を守らない方が好きって、私はよく分かりません」

ブレイブは内心、ティアール様の父である国王に一礼して、感謝を告げた。
(さすがでございます、国王。やはり貴方がこの国を引っ張っていく、素晴らしいお方です!)
すると、目の前のティアール様は恥ずかしそうに、

「それと…デートの日くらい敬語はやめて下さい…」
とはっきり呟いた。

少年はその王女様の羞恥に満ちた顔を見た興奮を隠すようにまた頭を垂れ、

「あ、また敬語になってました?申し訳ございません。ついいつもの癖が出てしまい…このような馬鹿騎士をどうぞ罵り…」

「ほら、またそのような事言って…私たちは恋人なんですからね、変な主従関係があると誤解されます」
(私…いや、俺は王国の騎士である。今では国王の側近として努めているのだが、普段は主従関係にあるのでこのような口調になってしまうのだ。うん、待て?実際に国王も主におられるのなら女王も同じ事。であらば主従関係は成り立つ訳で…変な主従関係って何だ?まさか…いやそんな訳ないよな。でも、焦らしプレイを知らずとはいえ実際やったし…)と誰かに自分を紹介する様な事と、純粋にはよく分からない事を考えているブレイブにティアール様は追い討ちをかけるように、

       「では、私の事を名前で呼んでください!」
と目を見てそう言った……にも関わらずブレイブから出た言葉は、

                         「えっ?」
と言う情けない声だった。そして二人はお互いに恥ずかしさMAXで俯く。仕方ない、こんなに積極的な王女様に、そしてそれに上手く返しが出来なかった少年。うん、青春とやらは意地悪である。

しかしその状況を打破すべくブレイブは口を開いた。

「んっ、分かったよ。じゃあ行こう、ティアール!」

 「~~~はいっっ!」

そしてブレイブが差し出した手を100点満点の笑顔で優しく、しっかりとティアールは取った。
((ああー、幸せ~))と二人は笑顔になる。
燦々と照っている太陽に勝利したと言っても過言ではない雰囲気を、その勝者の一人が打ち砕く。

「それで、どこへ行くのですか?」

ブレイブが情けない声をプレイバックした事は言うまでもない…

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