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告白

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 明日食べるための食材やアイス・飲み物、それに女性用(しかも幼女)の下着を買いに戻った俺は、ため息混じりに部屋に入る。時計を見ると出掛けてから40分ほど経っていた。まだ彼女は風呂に入っているようだ。シャワーの音はもちろん、その音の後ろに、微かだが鼻歌も聞こえてくる。
どうやらリラックスしているみたいだ。
「あー、疲れたー」と言い俺は床に腰を下ろす。
それもそのはずだ。もう夜の9時というのにまだ何も口にしていないのだ(お粥は一口食べたが…)。昼間はあんなに暑く体力も削り取られたというのに。
「しかし今日は色々あったな…」
たかがコンビニに行くだけのはずであったが、神社に女の子が倒れていてしかもその女の子は超絶可愛いし、その女の子を診察してもらうために行った病院のジジイは犯罪者予備軍であったし…それに、

       

       手に握られていた一万円札とあの子の表情。

 それが一番俺の心に引っかかっていた。一万円札を握り締めながら倒れるのも不可解であるのに、その場所が神社の賽銭箱の前となると事情を聞かずにはいられない。
そしてその表情は、いろんな感情が混じっていたようにも見えた。ただの俺の思い過ごしかもしれないがなんかこう、不安定で危ない感じがしたのだ。
「てか、まだ名前も知らないな…」
そうなのだ。俺の潔白を証明するのに時間が掛かってしまい、まだあの子の情報という情報は何も聞いていない。
(風呂からあがってきたら聞くか…)
疲れた脳でそう決め、レジ袋に入っている食糧等々を冷蔵庫に入れる。本当はこの風景はすぐ見れたはずなのに…と思い、最後にレジ袋の底にある物をとり冷蔵庫に入れ…
「そう言えばこれを置いてこなくちゃならないんだよな…」
手にとったのは決死の思いで買った、下着だった。
柄とかも見ずにとりあえず彼女の年齢や体躯にあったのを買ってきたのだ。俺はそれを机に置き、自分も床に座った(正座で)。
「では、失礼します」と丁寧に目の前の下着に挨拶申し上げ開けると…
「なっ…」
それはお尻側にデカデカとクマがプリントされていた。
いやあの、テキトーに選んできたんですよはいでもこれじゃなんか真剣に選んだ感がでるようなでないようなまぁでもあの子くらいに丁度いいかもしれないいやあの子が履いた姿なんて妄想してませんよ本当です信じてください…
「…置いてくるか」
俺は無地ではない事に罪悪感を感じたままお風呂場に向かった。

  半透明になった風呂場の仕切りから肌色が見える。
やはり鼻歌も聞こえ、リラックスしているのだろう。
彼女の脱いだ服は脱衣所にあった、と言うより風呂場の前にあった。そして上がったら着る服も。どちらとも綺麗に畳んであり、彼女の気遣いを感じられた。
「本当に素晴らしいな」と感心する俺。容姿も最高なのに性格も完璧とか、もう非の打ち所がないな!
俺は神様にお礼を告げ、その畳んである服の一山を空の洗濯機に入れた。
(てか、こんな事よりも早く下着を置いて出ていかなければ)
今のミッションはこのクマちゃんパンツを一山に置いて立ち去る、という事だ。
(洗濯は後ででいいや、今上がって来たら鉢合わせだし…)
そう思い、片手のブツをそーっと置く。
            
                               その瞬間
                             「ガチャ」
という音がした。なんか聞いたことある、いやもの凄~く聞き覚えのある音なんたけども。そう、お風呂場のドアが開いたのだ。
「ふぅー、さっぱりしまし…た…」
そう言い、風呂場から出てきた女の子。最後の『…』は機能停止した訳ではなく、この状況のせいだ。
片手にパンツを持って女の子がこれから着る服に忍びよる一人の青年。しかも彼女が畳んで置いた服も何処かへ消えている。そうなれば詰まるの当たり前で。
「す、すみません…」
こうなるのも必然、ではないよ?!
「えっ、何で謝るの?!」と純粋に。
「お、お楽しみの邪魔をしてしまっだと思い…」とこちらも純粋に。
「えっ、お楽しみって?」
「わ、私をその、の、覗いて、し、秀一さんのこ、興奮材料にす、するという行為をお、お邪魔し、してしまって…」
「いやいや、違うから?!覗いてないから!これは事故だから!」
「た、助けてくれたお、お礼に、み、見てもいいですよ、は、恥ずかしいですけど…」
「いや、だから誤解だってぇぇ~」
これまた説明するのに時間が掛かりそうだと、明確に俺は思ったのだった…

「す、すみません…」と申し訳なさそうに謝る女の子。
「い、いやこちらこそ、ハハハハ…」と笑いながらそう返す青年、ていうか俺。
この状況は彼女が目覚めた時よりも、ぎこちなかった。
(はぁ~、何でこうなるかな…)と心で溜息をつく俺。
(結構、良い感じだったのになぁ~…)
この良い感じとは、その打ち解けたという意味で。別に他意はなく、純粋に良い感じという意味で。いやいや、それよりこの感じ。目覚めた時と同じ、いやそれよりももっとぎこちないかもしれない。少なくともご飯の時までは、自分がそう勝手に思っているだけだったかもしれないが、まぁ良い感じだった。笑顔も見れたし、『あ~ん』なんかされちゃったし、お風呂場では鼻歌まで聞こえたし。ひっくるめてリラックスしていたと思う、思う思う思う思う思う思う…しかし、

         脱衣所での一件で全てがぶち壊しだ。
あの後、俺はその場で誤解を解こうとしたが
『や、やっぱりは、恥ずかしいので、み、見ないでください…』と言われ(当たり前か)
『あ、あれ私の脱いだ服は…ま、まさか、し、秀一さんが、ぬ、盗んだ…?!』と誤解され。
『ク、クマちゃんのパ、パンツ?!か、可愛いですけど…い、いや秀一さんがそういうの趣味であるならば、は、履かなきゃ…!!』と変態付けられた。

           まぁなんだ、事故が事故を呼んだ。
 かなり彼女の妄想も入り混じってはいるが、まぁあの状況でしかもまだそんなに時間が経っていない関係。
(仕方ないか…)
という以外なかった。でもきちんと誤解は解いたよ?!
下着を置こうとしたその時に丁度、出くわした事。
脱いだ服は洗濯機に入れた事。
下着がクマちゃんなのは、まぁ弁明の余地無し。
全部説明して、この状況なのである。
              それにしても…と俺は回想する。

お風呂から上がった彼女の裸体。
水滴が全身についており、それが『ぴたっ』ではなく、『ぴ…たっ…』という感じにゆっくり滴っていた。そしてその全身はもの凄く細い訳でもなく、かと言ってブヨブヨでもない、まぁなんだ、とても触りたい体型をしていた。そして上半身に存在する、ヤツはまだ発展途上といったところで…

「あ、あの?!な、なんか今思い出してませんか?!」
楽しい楽しい回想終了。
あぁ、君の裸体を思い出していた、とはもちろん言えず、
「い、いやア、アイスでも食べようかなぁと思ってね、ハハハハハ…」
明らかに怪しい返答しか出来なかった。しかし、
(いや、今の返答は良いぞ!アイスを食べてなんとかこの状況を打破する!)
「君も何か食べる?バニラ味とかチョコ味とか、チョコミント味とかもあるけど?」とやっと作戦が練れたおかげで詰まらずにそう提案できた俺。良くやった、良くやったぞ俺!!
「い、いや、大丈夫です…」
自己満足として終わった…
「それより…」
「それより?」
折角の案を『それより』呼ばわりされるのは悲しかったが、そんなの気にしてられない。
「か、髪をとかしてくれませんかっ!」と言い俯いてしまった女の子。
「か、髪?とかす?俺が?!」
「い、いやならいいんですけど…で、でもじ、自分でやるとどうしても上手くいかなくて…」
(まさか今までのぎこちない雰囲気はこれが言い出せなかったからなのか?!いや、そうだと俺もありがたいです…)と俺はそう解釈し安心した。
「いいよ、ドライヤーも持ってくるね」と言い洗面台に向かった。その後ろから、
「あ、ありがとうございます!!」と可愛いお礼。
「確かここに使ってないくしが…あったあった」
未使用のくしとドライヤーを持ってきた俺は女の子がベットにもたれ掛かっているのを見た。さっきまでは机を挟んで向かい同士に座っていたのに…
(もう準備して…可愛いなぁ)と俺は心でそう言い、いや実は声に出てたらしく、
「か、可愛い?!そ、そんなことな、ないです…」
と湯上がりでただでさえ紅くなっている顔がさらに紅くなるのを見て、俺は次は無意識じゃなく意識的に
「うん。とっても可愛いよ」とだけ言い、俺の脚が彼女を挟むようにしてベッドの上に座った。そして近くのコンセントにドライヤーの電源をさし、
「ひっく、ひっく…」
彼女が泣いていることに気がついた。
「えっ、どうしたの?また体調悪くなった?」
何がなんだか分からなくなって慌ててその場をウロウロする。本当に緊急事態だ。がしかし、
「ひっく、い、いえ違います…」と泣きじゃくりながらもそう言った儚い女の子。
「えっ、じゃあなんで?やっぱり見られたのが不愉快だった?てか不愉快に決まってるよねそんなの当たり…」だよねと言おうとしたその時、彼女は被せるように、

               「わたし、呪われてるんです」
そうはっきりと告白した…
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