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出会い

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ーある夏の日。蝉が少しの間もなく鳴き続け、アスファルトからは見ているだけで目眩が起きそうなほどの陽炎が出現したあの日。あまりに暑くて難しい話が嫌いな俺ですら、地球温暖化防止に何か努めようと思わされたあの日。空は青色のくせして、冷やしてくれねーじゃねえかと理解不能な事を考えてしまう程、思考回路がショートしたあの日。


               


                  神社に女の子が倒れていた。

 

 

今日は特に暑い日で、天気予報士が言っていたが
『猛暑日』、だそうだ。響きからして確かに強そうである。こんな溶けそうな日には家にこもって、アイスとか炭酸飲料でその猛暑日とやらにでも挑むか、などと考えていたが、もう古く明らかに変な音のする冷蔵庫を開けた瞬間、それは一蹴された。
      「うわっ、何も入ってねぇじゃん…」

昨日の俺は何をしてたんだ!と、戒めたくなったが仕方ない。今日ー猛暑日の前日は涼しかったのである。
風に揺れ、サワサワ~と木の葉が揺れる音。
風鈴が一定のリズムで音を立て、心を和ませる。
それが昨日であったのだが、全く一日でこんなに変わるものなのか…

地球温暖化よりリア充をなんとかしろ!一派であった俺であったが、今日起きてみたら、否、猛暑君に起こされたらそんなのはどうでもよくなった。リア充は俺に直接的に被害は与えてこないが、暑さは正直言って勘弁して欲しい。

今まで地球温暖化の事に目を向けてなくてゴメン。
これからは自分の住む星に目を向けよう!と反省・改善を行った俺であるが、冷蔵庫の壊滅的な状況はそれでは打破することが出来ないのである。
「…仕方ない、コンビニに行くか…」
地球温暖化の原因の一つともされる、それに頼る俺は罪深き人間だ…

当たり前だが、家の中で暑いのだから外もそれより暑いのは道理である。それにしても…
「暑すぎだろ!はぁ、地球温暖化とか言うレベルじゃねぇだろ!」
一大決心をして出てきた俺は、そう叫ばなければならなかった。蝉はどっからそんな元気出てくるの?って言う程の鳴き声だし、直射日光は俺の繊細な肌を焼き殺しにきてるし、何より、暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし暑いし……
「いいや、早くコンビニに行こう…」
そしてついでに漫画でも立ち読みさせてもらう、と図々しくも思った俺はようやく足を進め始めたのであった。

やはりこの暑さである、外には誰も居なかった。今頃、クーラーで涼しくした家の中で、アイスでも食べながら「今日は籠城だね」とか親指を立てて言っている頃であろう。
「そうですか、そうですか!いいですよ、俺だってこの暑すぎる旅を終えたら君達みたいに籠城するし?俺なんか一気に二本もアイス食べてやるからな!覚えとけよ!」叫ぶのは主観的にも客観的にも利口ではない行為だがしかし、昨日の内に猛暑対策をしてない俺はもう利口ではない、よって?…
「これから毎日天気予報見ます…」
今日二度目の反省をしていた。
とかなんとかやっているうちにコンビニ近くの神社まで来ていた。まぁこの為の愚痴であったし?作戦通りだし?
 「こんな暑い日に鳥居なんか見たくねぇよ」と俺はついつい口にしていた。ただでさえ暑いのである、暖色系の色は見たくない。足早に通り過ぎようとした。がしかし、何かが寝不足の目の端に映った。             「なんだ、あれ?」とその目を凝視してもよーく見ることが出来ない。陽炎が視界を邪魔するのである。俺は単なる好奇心でどんどん神社の中に入っていった。
お賽銭箱の前に恐らく白色、の何かがある。
大きさにして丁度、子供位であろうか?
んっ、子供?

   その白色の何かは正しく子供(女の子)であった。

 状況を整理してみよう。
今日は猛暑日であり、
俺は今からこの暑さに戦う装備を補充してくる途中で
いつもの神社の前を通って、
女の子が倒れているのを発見。
んっ、猛暑日?…ってことは

「熱中症か!」
暑さで蕩け、しかも混乱状態の脳をフル回転しその答えを導いた俺は女の子を近くの木の近くまで運んだ。
あんな自然の鉄板と化している石畳の上に居させるわけにはいかない。日陰で、冷たい土の上でならばそんな場所よりはマシだろうと考えた末の行動であった。

「はぁはぁはぁ…」と苦しそうに呼吸する女の子。
それは軽いものではないと、何の知識もなかったがそう判断した俺は、ポケットから携帯を取り出し何の躊躇もなく119を押していた。
「119番、消防署です。火事ですか、救急ですか」
と抑揚のない声で言われた。俺は何だが腹が立った。
「救急です、一人小さい女の子が倒れていて、あっ場所は定命市5条9丁目の神社です。とにかく速く来て下さい!苦しそうなんです!」
「分かりました。ちなみに今お使いの電話番号とあなたのお名前を教えて下さい。」
やはり落ち着き払った声に俺は、
「×××の××××、名前は遠藤 秀一!とにかく速く!」
とまくし立てた。
「分かり…」
俺は最後まで聞くのが嫌になって直ぐに切った。
俺にはまだこの子に出来ることがあるからだ。

自分でもびっくりする位の足の速さで、神社近くの自動販売機でスポーツドリンクを三本買った俺は、直ぐに女の子の元に戻り、一本は飲む用、残りの二本は体を冷やすための冷却剤として使った。これは何かの本で見たことのある知識だった。
「口、開けられるか?」
「んっ、…」
辛うじて動ける体力はあるようだ。少しではあるが口を開いてくれた。俺は直ぐにスポーツドリンクを静かに飲ませた。
「んっんっんっ…」
溢れてはいるが飲んでくれている。それに安心した俺は、女の子の様子、いや全体を見た。
歳は10歳くらい。小学4、5年と言ったところか。
服は見立て通り白色。ところどころ汚れてはいるが綺麗な白色だ。
髪はショートヘア。靴は雲色のサンダル。
                 しかし、それより何より…
                       (超可愛い…)
こんな状況でもあるにも関わらずそう思ってしまった、でも本当に可愛い。美人とか美少女とかそういうのじゃなくて、そんな言葉とかに秘められない何かがある。そんな風に見惚れていると、
「んっんっんっ?」と小さながらも何かを訴えってきた。俺は手元を見た。そこにはスポーツドリンクを飲ませていた途中という事を忘れていた為の被害が起こっていた。
 女の子の口から溢れたスポーツドリンクは、その白くて細い首を伝い、彼女の鎖骨まで行き渡っていた。そしてもちろん服も濡れていて、そこから雫がポタポタと土の上に染みをつけながら落ちる。それはもうなんというか……
 「ご、ごめん」と興奮を抑えて謝った。スポーツドリンクに蓋をして、近くの木の近くに置く。
(そうだ、今はこの子は苦しんでるんだぞ!それなのに俺は……男は馬鹿だな……)
そう自分を今日三度目に戒め、違う方に視線を動かした。すると、またもや何か目に入った。その場所は彼女の小さな手、というより握りしめている手の中にある何か。
                      (何だ、これ…)
と失礼とは分かっていても彼女の手を自分の方に持ってくる。腕には力が入ってなくて、さっきの罪悪感がまた押し上げてくる。しかしそれは俺の中に沸き起こった疑問の答えによって掻き消された。
 彼女の手に握りしめられていたのは…


               紛れもなく一万円札だった。
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