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魔王は犬に転生した

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ようやく真っ直ぐに歩けるようになってきた。

ご主人であるレイチェル嬢が、ふらふらと歩く俺を応援してくれる。

「ロイ! 頑張って! アンヨが上手! アンヨが上手!」

完璧になめられている。いや、無理もない。俺は今、犬なのだ。それも子犬である。生まれてから、一か月程が経っただろうか? 

時間の感覚も怪しい。

金髪碧眼の少女が、俺を抱き上げた。

「ロイ! 頑張ったね!」

なんだ? 尻尾が勝手に動く……俺は今、嬉しいのだろうか?

彼女に抱かれ、広い庭から屋敷へと向かう。

俺は今、犬だ。

今は……だ。

俺には前世の記憶がある。

魔王だった時のものだ。

記憶だけではない。

魔法を無尽蔵に使える魔力を有していることは、こんな小さな犬となってもわかる。

なぜ、犬になどなってしまったのか。

魔族のなかでも強い龍族として生を受けた俺は、自然と魔族を束ねる役をかって出ていた。そして魔族は人間から迫害されていたから、俺は全力で魔族全体を守る為に戦い続けたのだ。

圧倒的な身体能力と膨大な魔力を有した俺は、人間達から魔王と呼ばれるようになっていた。

それが原因で、人間に討伐隊を派遣され、殺されてしまったのである。

勇者。

この勇者というのは本当にムカつく。

勇者というだけで、神は奴に味方し、国々は勇者カスを中心に一致団結してしまった。そして、卑怯極まりない方法をとっても、勇者がしたことは正義になる。

眠る俺に、神が作った毒をふりかけ、力が弱まったところを襲ってきた。しかも勇者たちは、それまでの戦いで捕らえた魔族たちを盾にして俺に接近し、俺が攻撃できないでいるところを嘲笑うかのように武器と魔法で迫ってきたのだ。

神々の祝福を受けた神器と呼ばれる武器によって、俺は身体を引き裂かれた。

盾にされた魔族たちは、瀕死の俺の前で、次々と勇者たちによって倒されていく。

一部始終を見せられて、絶望の俺の前に勇者は立った。

「今、楽にしてやるから」

それが、奴が俺に放った最初で最後の言葉だったのである。

俺は死ぬ直前、転生を願い、最後の力をふりしぼって転生魔法を唱えた。

復讐の為だ。

勇者を倒す。

同胞の仇を討つ。

次こそは勝つ。

意識を高め、血液と共に流れ出す命とは逆に、俺の魔力はこれ程ないまでに高まっていた。

パン! という渇いた音がした瞬間、俺は生まれ変わる事に成功したのだ。

だが、喜んだのも束の間だった。

俺は今、犬だ。

どうして、犬なのか?

最強の龍族から、どこにでも多くいる犬? なんで?

ちなみに……ビーグル犬という犬種である。

ガラス窓に映った自分を見る度に、愛玩犬として生きるしかない容貌に情けなさを覚え苛立つ。

「ロイ! ミルク、飲もうね」

レイチェル嬢の弾んだ声に、俺はクークーと鼻を鳴らした。

悲しいかな、本能には抗えないのだ。

俺は今、犬だ。

ビーグル犬に転生している。
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