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追放と再会

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 アラギウス・ファウス。

 齢一五〇歳の人間だが、魔王を倒した際に呪いをかけられ、不老不死になってしまった大魔導士だ。彼の仲間であった勇者や戦士は皆、年老いて死んでいったが、彼だけはあの頃のまま、二十五歳の肉体を維持している。

(死ねたらどんなに楽か)

 彼は思う。

 この数十年はとくに、そう思う。というのも、彼は五英雄の一人であり、生存する唯一の勇者隊の一員だ。その彼がいつまでも元気なので、主席魔導士の役職は空かず、魔導士達からは嫌われてしまった。また、出世できないということで魔導士になりたい者が激減し、代わりに聖女が増えたことで、魔導士の肩身が狭い状況がずっと続いている。

 問題が起きてから解決するのが魔導士ならば、問題が起きるまえに対処するのが聖女なので、その性質の差もまた人気の差となり、国家から重宝されるのが聖女へとなっていった理由でもある。

 そしてついに、アラギウスは国王メフィス二世から、主席魔導士の役職廃止を言い渡され、魔法学院の閉鎖も通告された。さらに彼は、消沈したところを捕縛され投獄されている。

 アラギウスは一切の発言を許されないまま、聖女エリーネの魔封じの呪を受けて力を奪われている。

「エリーネさん、俺はどうなるんでしょう? クビはいいんですが、これはないと思うんですよね……」

 牢獄にいれられて、魔法を封じられた男を聖女は嘲笑う。

「自暴自棄になって暴れられたら困るもの……魔王も死んで一〇〇年以上もたつし、各地の魔物も弱い奴らばかりだから、あんたら魔導士は割高なのよ……研究だ実験だとバカスカお金を使うもの……それに図々しくあれやこれやと皆様に助言をしてたでしょ? あれ、うっとうしいって思われていたのわからなかった?」
「魔法は日ごろから使っておかないと腕が落ちますからね……それに、民の暮らしがよくなれば――」
「黙りなさい。平和な今に、魔導士の攻撃魔法は不要よ。処遇がきまるまで、そこでおとなしくしていなさい」

 聖女は去り、アラギウスは一人になる。

 冷たい牢獄。

 窓もない。

 薄暗いなかで、彼は溜息をついた。

 どうしてこうなってしまったのかと嘆く。

 よかれと思って、いろいろと王や諸侯に献策をしてきたが、それが疎まれる原因になっていたことを、聖女から言われるまで気づけなかったのかと思うと情けなかった。

 しばらく後、兵士達によって彼は牢獄から連れ出された。

 王宮の広場は、閲兵式などでも使う広い庭だ。そこの中央に立たされた彼は、自分を眺める者達の視線に悲しくなった。

 同僚だと思っていた騎士団の団長や、東方神聖教会の大司教、宰相、各大臣たち、そして国王と王妃もいた。

 皆、アラギウスを忌々しげに眺めている。

 国王メフィス二世が大きな声をあげる。

「アラギウス・ファウス! その功績を認めてやった我々に対しての裏切り、許すことはできぬ! 死罪を言い渡すところであるが、姫が助命を嘆願したゆえ、追放に処す」

(裏切り!?)

 アラギウスは叫ぶ。

「王よ! 私は裏切りなどしておりません! なにかの間違いでは!?」
「この後に及んで言い逃れする気か!? 証拠はそろっているのだ、愚か者が! エリーネよ!」
「はい」

 抗議するアラギウスの前で、王の指示を受けたエリーネが進み出た。その目は楽し気である。

「魔法が使いたいなら、好きなだけ使える場所に飛ばしてあげる」

 エリーネが転送魔法を発動させた。

 広間に描かれていた魔法陣が光り、その中心に断たされていたアラギウスの姿が足からゆっくりと頭にむかって消えていく。

「アラギウス!」

 彼は、自分の名を呼ぶ姫の声を聞いた。

 どこかで、見ていたようだ。

 彼女だけは、アラギウスの提言を真剣に聞き、国政に反映させようとしてくれていた。

 だが、視界は奪われていき、音も、聞こえなくなった。

 直後、彼はストンと着地する。

 追放された場所だ。

 アラギウスは周囲を眺めた。

 巨大な樹木に囲まれている。

 彼は少し歩き、森の中だと理解した。

(最高の聖女だけが使うことができる転送魔法……すばらしいな)

 自分を追放したエリーネに対し、彼は魔導士として感嘆した。

(さて、どうするべきか……)

 彼は聖女の魔封じの呪が解除されていることに気づく。聖女エリーネといえども、距離が離れると封じ込められないのかと理解した。

 とにかく、寝泊まりをする場所を得たいと歩く彼は、森の中に現れた廃墟を見た。

 思わず駆けた彼は、その場所を前に立つ。

「ここは!」

 忘れるわけがないと目を見開く。

 魔王がいた神々の墳墓、その地上部分だ。

 過去、彼は勇者たちと魔王を倒すべくここに来ている。

「ここはローデシアか」

 呟いた直後、彼は背後に気配を感じた。

 振り向くと、褐色の肌に金髪の美しい女が立っている。しかしその額には二本の角が生え、背には蝙蝠に似た羽根があった。身を隠す衣服はボロで、胸と腰回りだけを申し訳程度に隠しただけの格好だが、アラギウスを前にして肌を隠そうとせず、逆に歩み寄ってきた。

「アラギウスか!?」

 相手は彼を知っていた。

「だ! 誰だ!?」
「わからんか? あの時よりは若いからな。お前は変わらぬな! わらわの呪いのおかげだな」

 アラギウスは、女は魔王だと知った。

「お! お前はミューレゲイトか!?」
「そうだ! どうした? またわらわを倒しに来たのか!?」
「まて、待てまて、どうして生きている? 俺達はたしかにお前を倒したよな?」

 彼女は微笑み頷くと、彼の手をとり口を開いた。

「ああ、お前達に間違いなく殺されたぞ」

 ありえない会話だとアラギウスは思う。

 彼女は言う。

「でも、復活した。魔王だからな、わらわは……ちょうどいい。つくっておいた酒を飲もうかと思っていたところだ。つきあえ」

 こうしてアラギウスは、追放された先で、魔王と再会したのである。
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